第2話

『キャラクター設定を行ってください』


 うおっ、誰!? ……って、あぁ、ガイドさんの声か。

 もぅ~……驚かさないでよ。

 というかいきなり設定ですか。


 半透明のパネルが私の目の前を浮かんでいる。

 それに触れると、指先にひんやりした感覚が伝わる。


「おお、確かに凄い……」


 五感、本当に再現されているんだと感動しつつも、パネルに触れてみる。

 これで色々と設定できるみたい。


 まずは外見。うーん、身長と体型はあんまり変えられないようだし、これはそのままでいっか。

 次に顔……一つもいじらなかったらまんま私の顔なんだよね……うん、自分の顔はいじりたくないし、これもこのままで。

 あーでも、メイクとかあるんだ。へー。

 傷跡とかペイントとか、ちょっと厨二心をくすぐられるけど……これも無しでいっか。


 最後はプレイヤーネーム……。

 そのまんまは流石に良くないだろうし……。

 本名の蒼李あおい桐花とうかをちょっよもじるくらいがちょうど良いよね。

 んー……。


 う~ん、じゃあ、名字と名前の頭文字を取って……トア……とあ……toa!


 うん、これだね。

 ちょっと捻り過ぎた感も否めないけど、可愛いから大丈夫。

 それじゃあ決定――っと!






『ようこそ、ガンライフ・オンラインの世界へ!』


 そこは近未来の工場地帯みたいな、暗いけど賑やかな世界だった。

 プレイヤーたちの雑談、どこからかガシャコンと鳴り響いている機械らしき音。

 空かどうかも分からないような真っ暗な天井に、SFチックな世界観。

 キャラ設定を終え、気付くと私は、そんな世界を目の前にしていた。

 危なくも優しそうな……こんな雰囲気、私は好きだ。


「さてと。まずは美来と合流を……あ」


 そう言えば、待ち合わせ場所とか聞いてなかった!

 どどど、どうしよう、一旦ログアウトする?

 でも、もし美来が探してくれていたらどうしよう。

 ログイン中に他人の機械を外すのは危険行為だって言ってたし、これじゃあどうしようもないよ!


 んー、まぁ、その辺をブラブラしてたら見つけてくれそうだし。

 見つからないなら見つからないで、一人でプレイしておこう。

 基本、私たちはお互いにマイペースな関係だったからね。


 さてと、まずは操作を覚えよう。

 うん、コントローラーとかは当然ないね。

 歩けば普通に歩いて、止まれば普通に止まる。何の違和感が無いことが、一番の違和感だった。


「これは……現実とゲームの区別が曖昧になりそう……」






 度々よろめきながらも、右上に表示されたマップを頼りに、この世界(街?)を回ってみた。

 喫茶店、衣装屋、出店、アクセサリーショップ等々。銃が基本のこの世界には、あまりに不釣り合いな店が多かったけど、ちゃんとイメージ通りの場所もあった。


――武器屋。


 このゲームの初期武器はハンドガンだけのようで、これだけだとあまりに心許ない。

 初めから持ってる資金も中々に少ないので、気になった銃は買えずじまい。

 手っ取り早くお金を稼ぐ方法は無いかなぁと彷徨っていたところ、カジノっぽい場所を見つけた。

 中は、トランプやスロットマシン、ミニゲーム的なものまである。やらないけどね? 


 こういうのに手を出してしまったが最後、依存して離れられなくなるのが人間という生き物なんだ。やめておこう、うん。

 となれば、資金稼ぎは戦場へ行くくらいかな……。


 美来を探すのも面倒になってきたし(そもそも探してない)、お金は大切。

 だからちょっとくらい、良いよね?


 逸る気持ちを抑えつつ、カジノ内にあるバーのような場所。そこのカウンターで退屈そうにグラスを傾けている女性に声を掛ける。


「あの」

「んぁ。あ、もしかして私?」

「はい、いきなりですみません。初心者なので、一つ教えてもらいたいことがあって。……その、戦うにはどうすれば良いでしょうか?」

「あぁ、初心者さんね。それなら、このカジノの近くにおっきな建物……というより、バスがあるから。その積み荷に乗れば、数分後にバトルスタートよ」

「バス?」

「そ。私も最初見た時はビックリしたわぁ。だから一目見たらわかると思う」

「そうですか、ありがとうございます」

「いえいえ。頑張ってね」


 私は頭を下げて、その場を去った。

 優しい人で助かった。

 





「おお……本当にバスだ……」


 さっきの女性に言われた通りに進んでみると、言われた通りのバス型の建物がそびえ立っていた。

 感極まって溜息を吐く。


 それは現代のものよりも、装甲車っぽいゴツッとした見た目だけど、正真正銘バスだった。

 海外のスクールバスが近いかな。あの黄色いやつ。

 そしてめちゃくちゃ大きい。通常のバスの十個分くらいはありそう。

 で、その積み荷部分は、建物の扉みたいになっていて、ここに入れば良いらしいから、取り敢えず中を覗く。


 プレイヤーたちの喧噪。

 おそらく、間もなく戦場に出発する人たちが、ここで準備をしているんだと思う。

 緊張しながら足を踏み入れると、ふと気が付く。ここ、女性しかいない。

 もしや、性別によって部屋が違うとか、そんな感じかな。

 まあ下着姿になってる人もいるわけで、それは当然と言えば当然なのかも。

 因みに、このゲームは性別を偽装できないらしい。よくは知らない。



 バスの中とは思えない、ロビー程の広さに驚きを隠しつつも、部屋の奥で光るモニターの前までやってくる。

 


《バトルロワイヤル》

《ソロ》

〈黒……80秒後〉

〈金……100秒後〉

〈紫……70秒後〉

〈赤……20秒後〉

〈青……70秒後〉

〈緑……50秒後〉

〈白……50秒後〉



 モニターに表示されているのは――色。これは多分、ランクの一種だと思う。

 色の並び順からして、白が最弱、黒が最強、と言った具合かな。

 当然、始めたての私は白だろう。

 どうせなら強い人たちと競い合いたい、なんて考えてしまう。

 まあ、仕方ない。

 沢山勝っていけば、まあいずれは金だの黒だのなれるでしょ。

 気長に、だね。


 っと、残り50秒を切っちゃってる。なるべく早く戦いたいから、急がないと。

 

 モニターの下、大きめの黒いテーブルがあって、表面には、ザ・近未来みたいな風に、情報が飛び出している。

 


《バトル形式》

〈バトルロワイヤル〉

〈ワールドスコア〉

〈チュートリアル〉



 お、このボタンを押せば良いみたい。

 それじゃあ、今回はバトルロワイヤルで。



《バトルロワイヤル》

〈ソロ〉

〈デュエット〉

〈パーティー〉



 フレンドはいないし、見知らぬプレイヤーの足引っ張るのも嫌だし、ソロで良いかな。



〈バトルロワイヤル〉

〈ソロ〉

〈白〉

《エントリーしますか?》



 浮き出た文字。

 YesとNoの項目。

 勿論Yesに触れる。



《エントリーしました》

《出撃まで残り10秒》



 ふう、間に合った。

 

 9秒、8秒、とカウントダウンの数字が減るたびに、緊張と期待が混じり合う。

 7秒、6秒――ゲームなんていつぶりだろう。

 5秒、4秒――自衛隊の知識も大して活躍しなさそうだなぁ……。

 3秒、2秒――最初はどうせ死ぬだろうし、生き残ることに集中しよう。


 1秒、0秒、となり数字が消える。直後、視界の片端に《ゲームスタート》の文字。



――リアルなんか忘れて、楽しんじゃおう。

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