ガンライフ・オンライン

蒼乃 夜空

第1話

「か~っ! 折角自衛隊何てよくわからん仕事やめたんじゃない。もう良い歳してんだから、いい加減に忘れて、男でも捕まえに行こうよ! 桐花とうかさぁ、それでも結構美人なんだから、男なんてホイホイ寄って来るよ。何なら私が抱いてやっても……うぇへへっ」


「そんな簡単に、キッパリ忘れられるものじゃないよ。あと、変な声出さないで」


 私は先月、自衛隊学校を辞めた。

 原因は私に対するグループ内での嫌がらせ行為。同僚の女子たちは、どうやら私のことが気に入らなかったようで。まあ平たく言えばイジメだ。

 自衛隊見習いという規律一番な身分であっても、そいうことはあるらしいと身をもって体験してきた。


 勿論、我慢という選択肢もあったのだろうけれど、入隊当初のような青い気持ちは当の昔に捨てられていたらしく、今更見る夢なんて無かった。

 そして今、唯一心の許せる友達の三船みふね美来みらいに、一年ぶりに会いに来た次第だ。


「桐花ってさ、今いくつだっけ。20? 21?」

「20……」

「はー、まだ若いんだからさ、今からでも大学に入ったら? 根が賢いんだから、授業も大して遅れないでしょ」

「んー、大学かぁ……あんまり調べてなかったからよくわからないんだよねぇ」

「自衛隊直球だったもんね……。じゃあさじゃあさ、最近のゲームとか知らないでしょ! ゲームしてたら案外、スッキリするかもよ?」

「え、ゲーム?」

「そ。VRゲームってやつ。今じゃ五感全てが再現される時代になったんだよ。凄いでしょ」

「まあ凄いけど……なんで美来が威張ってるの……」

「どうせ今どきのゲームとかは、向こうではできなかったんでしょ?」

「そりゃ当然」

「よしっ、そうと決まれば早速ロードオンザプレイ!」

「何言ってんの……」






・Fantasia Land Online

・Enjoy Sports

・ユリユリ学園!

・四月の香りは百合の花

・五感で脳トレ!

  …

  …

  …



 棚からゲームカセットを取り出し、適当に広げる美来。

 それらの中に見えてはいけない物があったような気がして、思わず質問する。


「ねぇ、美来。この『ユリユリ学園!』と『四月の香りは百合の花』って、じゅうはち――」

「なんだなんだ! べっつに良いじゃないかっ! あたしだってもう、成人してるんだぞ!」

「……あ、そっか。私たち、もう成人してるんだよね……」

「……そうだよ。桐花が青春を謳歌してなかっただけ。お、これなんかどう?」

「――ん? ガンライフ・オンライン? これ、こっちに帰って来てからよく広告とかで見掛けるやつだ」


 気になって、手に取ってみた。

 白黒灰ばかりの眼に悪そうな色合い。

 煤で汚れた男たちが、銃を構え合いながら撃ち合っている。


 迫力大のイラストのパッケージに、思わずおおと声を漏らす。


「まあねぇ。最近サービス開始して、今売れに売れてる一押しゲームです! どう? やる?」

「んー、ぱっと見FPSみたいな感じかぁ。まあ、銃の扱い(リアルの)には慣れてるし……じゃあこれで」

「物騒な……。ま、いっか」

「あ、でも、私機械とか持ってないよ? 二人でやるんでしょ?」

「それは大丈夫。弟用に買ったやつがあったんだけど――」

「弟って、祐真ゆうまくん?」

「そうそう。祐真ってさ、桐花以上にゲームとか興味ないんだよ。だから機械が一つ余ってたんだ。二つ持っててもしょうがないし、これはあげるよ」


 そう言って、ヘルメット型のVR機械をほいっと投げ渡してくる。

 落とさまいと慌てて手を伸ばしてキャッチ。


「えぇ!? それは悪いよ……」

「別に良いって~。どうせこのまま置いておいても埃被るだけだしさ」

「で、でも、こういう機械って高いんじゃ……?」

「まぁどうしてもって言うなら? 体で支払ってくれても――」

「ありがとう美来、ありがたく受け取っておくね」

「むぅ」


 まったく。

 美来は昔と全く変わってないね。

 ……そんなところが好きなんだけど。


「起動のさせ方は、ここをポチって、ゲームを選んで――っと、これで良いよ。被ってみて」

「うん」


 言われたままに、VRのヘルメットを頭に被る。

 

「これで五感が再現されるのかぁ……なんか実感湧かないなぁ」

「誰だって最初はそうだよ。でも慣れたら意外と楽しいよ! ――ふっふっふ、元自衛隊のお手並み拝見と行きましょうか」

「いいよっ、私の実力を見せてあげる」

「フフフ、これでもあたしは上級者! ぽっと出の女には負けねえぜっ!」


 ぽっと出って……勧めたのは美来なんだけど……まぁいっか。

 

 顔を合わせ、私たちは息を合わせ、目を瞑って、


「「ゲームスタート」」

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