第20話 7月19日ー夜中
「どうされました?」
夜更けにも関わらず突然本陣に呼び出された秋月種実は、訝かしむような顔で島津忠長に問う。今日は夕方に既に一度集まって、明日の方針について確認していたからだ。
最もここ数日の間、攻めて手は地道に城兵を討ち取ってはいたものの、その数は島津軍の総数から考えれば余りにも少なく、大手門や曲輪を攻め落とした訳でもないために、その進捗は滞っているとしか言えなかった。その原因はいくつもあったのだが・・
「先程我らに内応しておる、大友の者から知らせが参った」
島津忠長はそこで一泊置いた。秋月種実と伊集院忠棟はその真剣な顔に耳をこらす。
「7月10日に羽柴秀吉が九州への兵の派遣を決めたそうじゃ」
そう言った島津忠長は、焦りからか、歯を噛みしめている。
「つまり、大友に援軍が来ると」
伊集院忠棟は忌々しげに言い放つ。
「そうじゃ。そして羽柴軍が総出で来るとなれば、大軍ゆえ時間がかかる。そのために、まずは毛利の先遣隊がくるそうじゃ」
「毛利か・・今だ戦った事は無いが・・。秋月殿、毛利は大国じゃが、戦は強いのか?」
伊集院忠棟に尋ねられた秋月種実は少し考えて返答する。
「兵の強さであれば島津兵には及びますまい。また火縄銃の数もそう多くはありませぬ。しかし毛利兵を率いるのが小早川隆景と吉川元春であれば、戦上手で名が通っております」
「うむ。その名は儂も聞いた事がある」
島津忠長は頷く。
「どう致します、忠長殿。先遣隊だけなら、早ければ来月には九州に渡ってきますぞ」
秋月種実が問い返す。既に7月を半ばを過ぎている。これではとても先遣隊が来る前に九州統一をすることは不可能だ。
「そんなに早くこれるのか?」
「数千であれば可能でしょう。まずは赤間関(下関)を確保して、後にやって来る数万の本体の九州到着に備えるかと」
「つまり、援軍といっても直ぐに来るのは一万未満じゃな」
「ええ。数万となれば、兵を呼ぶのも兵糧を用意するのも時間がかかります」
その返答を聞いて、島津忠長ははっきりと今からの戦略を告げる。
「であれば、毛利の本体が来る前にこちらが赤間関(下関)を確保出来れば、まだ九州統一の可能性は残る。援軍とはいえ、数千なら物の数では無い」
「しかし、もう猶予はありませんぞ」
「わかっておる。故にここからは力攻めじゃ。2人とも、これまでのような戦い方は許されませんぞ」
島津忠長はそう言って2人を睨む。
秋月種実は、無理をしないように言ったのは総大将たる島津忠長だったではないかと言いたかったが、自身、敢えて積極的に攻めないように部下に告げていたため何も言わずに頷いた。
また伊集院忠棟は、いい加減この状況を打破したいと思っていた為、島津忠長の言葉に大きく頷く。
「では明日は夜明けと共に三方より攻めかかる。何としても岩屋城を落とすのじゃ。よいな!」
「「ははっ」」
こうして岩屋城の攻防戦は、援軍の存在によって最終局面へと足を進めるのだった。
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