254 〈呪霊灰山 山頂 呪界儀式門〉1 灰呪行僧 天牙地

¶〈呪霊灰山 8,9合目 灰影庭園〉から〈呪霊灰山 山頂 呪界儀式門〉に侵入しました。


 城塞の場所を超えるとアナウンスが流れる。

 そう、山頂に着いたというアナウンスだ。


「あれ? 真っ暗?」

「む? どうやら建物の中の様じゃのぅ」


 空が白んで来ていた筈なのに、山頂は真っ暗で視界が効かない。

 『ナイトビジョン』の効果が発揮されているのにだ。

 なので。エナの言葉を受け、自身で確認しようと『星覚』の感覚を広げると、確かに円形の建物の中だと分かる。

 『星覚』から得られる情報から、この建物は広く中心部には天井が無いと分かる。

 何と言うかイメージ的には、野球場とかスタジアムを思わせる様な形だ。


 ちなみに、天井部がある天井の高さはとても高く、金色千手阿修羅では入っても余裕だ。それどころか、大日金剛太郎マグナ・アウルムウルサスEXで入って来ても問題なさそうな位だ。


 ゆらぁっと、エルナ達の足元から灰色の炎が灯り周囲を照らす。

 灰色の炎が一つ灯ったのが契機に為ったのか、暗闇の中次々と灰色の炎が灯り辺り一面を足元から照らし出す。落語の死神に出て来る、人の寿命を示す蝋燭が並んでいる光景を何故か連想してしまう。

 でもまあ、足元が照らされたお陰で先に安全に進めそうだ。

 一つを除いて、エネミーの存在も感知出来なかったしな。


「行こう」

「うむ」

「うにゅ」

「ですね」

「はい、なのです」

「そうだな」


 無数の灰色の炎が蝋燭代わりに暗闇の中ボウッと辺りを照らす光景が暫く続く。

 歩みを向ける先に、天井から光が射し込んでいるのが見える。丁度天井が無い部分だ。だがまだ太陽は、天井から光が射し込むほど高い位置に無い筈だ。


 天井から差し込む光に近づくいて往くと。

 その光が、月明かりにも似た灰色の光であると気が付く。


 完全に屋根の無い場所に出ると。空には薄暗い灰色の太陽が輝き、完全に本来の山の景色とは違うのだと分かる。灰色の太陽の下には、砂地の中庭の様な空間が広がっており、中心には護摩を焚く様な祭壇が有り一人の僧侶が護摩行らしき物を行っているのが見えた。ちなみに、祭壇の炎もやはり灰色だ。


 祭壇に近づくと、僧侶がこちらを見ずに話し掛けて来る。


「ふぅー、どうやらもうお客様が来てしまったようだね。ようこそ、我らが御神おんかみと灰灰の呪界に繋がる呪霊灰山の山頂へ。歓迎しようじゃないか」


 僧侶は首を少しこちら側に向けニヤリと笑う。

 ん? 僧侶の姿がダブって見える。

 一つは、これと言って特徴の無い頭を剃った僧侶の姿。

 もう一つは、法衣姿では有るが全身に包帯を巻いた姿だ。

 なんか、志〇雄〇実みたいだな。


 恐らく、特徴の無い方の姿を表向きの姿として使っていて、志〇雄〇実みたいな姿が本当の姿なのだろう。


「ふぅむ? この世界の竜神にその分霊、それに何所か気配に見覚えのある龍神に、異界の者と異界の精霊……だが、君は何だ? 【呪鬼】様の御力にも匹敵する、封印の呪いを受けていると言うのに、何故普通に動けている? それに種族も分からないし、その上力の程度を測る事も出来ない。君は一体何者なんだい?」


 一人で何かを納得しながら話。そして、エルナを見て不可解だと首を傾げる。

 いや、志〇雄〇実みたいな包帯グルグル巻きの怪しい奴に、そんな反応されるの甚だ遺憾なのだが?


「それにしても、【神格の器】を為す実績作りのため、この先見部隊の将を買って出たと言うのに。まさか、もうこの世界の神に見つかってしまうとは、私もほとほと運が無い。おまけに碌なリソースも稼げていない上に、ここまで攻め込まれてしまうとは……。これでは、他に拠点を構える皆さんの足を引っ張ってしまいますねぇ」


 僧が「困りましたねぇ」と尚もブツブツと喋り続ける。

 そんな僧侶を、チエがギロリと睨みつけ怒りを露わにする。


「いい加減溜まりなさい! どうやら、わたしの事を少しは覚えている様ですね……! わたしを呪い操った事決して許しませんよ!!」


「ほう? これはこれは……なるほど。君はあの時の白蛇ですか! はっはっはっ! これは本当に羨ましいですねぇ! 君、私に呪われたお陰で神格を得たんですから、良かったじゃあないですか! 寧ろ私に感謝して貰いたい位ですよ!」

「なぁっ! お前、絶対許しませんよ……!」

「おお、怖い怖い。蛇は執念深いと言いますし、本当に怖いですねぇ~。はっはっはっ!」


 おうおう、こいつめっちゃ煽って来るじゃん!

 チエがめっちゃブチ切れてるよこれは。


 それにしても、なかなかボス戦アナウンス来ないな。此奴がボスだよね?

 もしかしてクエストボスは、アナウンスが流れない仕様とか? そんな訳ないか。

 なら、アナウンス着て無いけど先制攻撃仕掛けちゃおうか?

 だって、此奴なんかムカつくし?


「ふむ。もう御託はお主良いのじゃ! 行くぞ!」

「ですね! 行きます!」

「ほう? 来るのですか? まあ、予定外では有りますが。丁度リソースも足りてないですし、【呪鬼】様と我らの呪界の贄に為って貰うとしますかぁ!」


 僧の長話に、しびれを切らした桜とエナが動く!


自影自縛リストレイントシャドウ!!』


¶エピッククエストBOSS 灰呪行僧 天牙地あまがちとの戦闘が開始されました。


「ほほう!? 私の影から鎖が……これは興味深いですねぇ!」


 桜が先制を仕掛け、アナウンスが流れる!

 ジャラジャラと、天牙地の影から影鎖が出現し天牙地を拘束する!


 此奴がボスで、どうやら間違いないみたいだ。

 だけど何なんだろう。此奴やけに余裕があるな?


「まずは小手調べじゃ! 『壊濫爆龍渦』!!」

『怨 灰紙瞬転 蘇灰禍』


 エナの放った激流渦巻く濁った水球と、それに追随する水の龍が命中する前に、影鎖で拘束されていた筈の天牙地が形代へ姿を変える!


 ボゴゴォッ!! と凄まじい激流の渦が祭壇を飲み込むが、肝心の天牙地には形代を身代わりに躱されてしまった。


「はっはぁーっ! 危ない危ない! 凄まじい威力ですねぇ! 流石は神と言った所ですか! これは巻き込まれた我が御神おんかみ祭壇が心配に為りますねぇ!」


 なるほど。此奴はトリッキーなタイプのボスなのか。

 厄介そうだけど。でも何か、こいつ相手に苦戦する気がしないんだよなぁ。

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