252 〈呪霊灰山 8,9合目 灰影庭園〉38 岩鬼兵

 宝物庫を出てると、雲に覆われた空が白んで来ており朝が近いと感じさせる。

 エングレイブドの使ったリターンは、あくまで戦闘中のフィールドの時間を巻き戻していただけで、BTフィールドの外の時間は普通に時間経過していたようだ。

 それと、お宝チェックが丁度良い休憩に為った様で、気持ちも新たに再び山頂を目指して登頂を再開した。と言っても、枯山水の様な景色なので登山感は薄いけどな。


 ちなみに、エルナの分を除いて昇輝石は皆使用したよ。もちろん、チエの分の昇輝石はニュイを呼び出して使ったので、エナ同様普通に使った場合の二倍の効果だ。


「む。どうやらフィールドの境界が見えて来た様じゃな」


 登頂を再開して直ぐに、エナは灰影庭園と山頂の境界を視認したようだ。

 俺には視認できなかったので、エルナの『星覚』の感覚を進行方向に大きく広げる。すると、城や砦などの侵入者を阻む壁と思しき物が行く手を遮っており、その壁がこの灰影庭園と山頂との境界に為っている分かった。


「うん。私も『星覚』確認したよ」

「私も確認しました。これは城塞でしょうか? 中には僧兵達が居る見たいですね」


 城壁がそのまま城塞と為っているらしく。桜の『次元感知』のスキルがメビウスクラインで強化された影響か、城壁の中に居る敵兵の存在まで感知したようだ。


 そのまま歩を進めると、直ぐに石積みの壁が肉眼でも確認できる様になる。

 だがまあそれは、敵の僧兵にとっても同じ事だった様で。


『侵入者だ! 我らの領域を荒らしている奴らが等々ここまで来たぞぉっ! 警鐘を鳴らせぇーっ!!』


 カンカン!! とエルナ達に気が付いた僧兵が警鐘を鳴らす。

 俄かに城塞の中が騒がしくなり、ワラワラと僧兵達が城壁の上に姿を現す。


『岩鬼兵共を起動せよ!』

『『『『『はっ!』』』』』


 指揮官らしき僧兵の指示を受け、僧兵達が一斉に呪文を詠唱開始する。


『灰灰の呪界に繋がれし、意思なき岩石の兵士達よ! 鬼面鬼気の力を持って我らが怨敵の骸を晒せ! 岩鬼兵共起立せよ!』


 ドン! 城壁の手前の砂地から砂煙を巻き上げ、様々な武装した鬼面の岩石兵達が次々と砂の中から姿を現す!


「ほう、これはまた大量じゃのぅ」

「大量のMOBか。でも、こいつ等程度なら簡単に蹴散らせそうだな」

「そうですねぇ。私達かなりパワーUPしましたからね」


 うん。これはサレスと桜の言う通りだ思う。正直、宝物庫の専用の宝箱でパワーUPした今の内の面々なら、あれくらい鎧袖一触で相手に為らないだろう。

 正直エルナなんて、あの宝箱でステータスの合計値倍以上に為ってると思うし、今更あのレベルの大量MOBなんて楽勝だろう!


『支援開始!』

『『『『『はっ! 怨魔禍 説早走駆 鬼気怪力乱舞 怨敵撃滅 蘇灰禍!!』』』』』


 僧兵達が岩鬼兵にバフを掛ける。

 どうやらバフを掛けた様だが、やはり簡単に蹴散らせそうだ感じる。


『岩鬼兵共よ! 掛かれぇー!!』


 ゴッ! 岩鬼兵の鬼面に空いた目の空洞に灰色の炎が灯り、岩鬼兵達が砂煙を上げながらエルナ達に向かって一斉に駆け出す!


「良し! 皆、一気に蹴散らすよ!」

「うむ!」

「りょなのじゃ!」

「主様、承知しました!」

「頑張りますよ!」

「おう!」


 僧兵達のバフを受けた岩鬼兵の軍団に、遠距離攻撃で先制攻撃を仕掛ける。


『メテオシャワーショット!』


 ステラレインから放たれた無数の矢が、質量と熱エネルギーを増し岩鬼兵達に流星の雨となって降り注ぐ。ドゴン! と鈍い音を立て岩鬼兵の身体が穿たれ次々と倒れて往く!


『岩鬼兵に援護砲撃と龍脈のエネルギーを送れぇ!』

『『『『『はっ! 怨魔禍 呪哭黒昂 蛇渇嫉念 炎魔灰灰 辛苦業滅 蘇灰禍!!』』』』』

『『『『『はっ! 灰灰の呪界の頸木は切れぬ、その存在が摩耗し切り消え果るまで幾度となく立ち上がり、我らが大いなる御神おんかみのため戦い続けよ! 『呪禍龍流!!』』』』』』


 僧兵達が援護射撃とばかりに、蛇の様な尾を引く黒い炎弾城壁の上から射ち、更には『メテオシャワーショット』で砕かれた岩鬼兵を復活させて行く。


「『壊濫洪龍』じゃ!」

「『幻水氷流波』なのじゃ!」


 だが、そんな援護を見越したエナの水の暴威の顕現、『壊濫洪龍』が炎弾も復活した岩鬼兵も、無傷の岩鬼兵も諸共飲み込んで往き、チナが続けてはなった『幻水氷流波』がそれらを纏めて凍らせる!


『なんだと!? 岩鬼兵共を続けて出し続けよ! それと城塞巨兵を起動せよ!!』

『『『『『はっ!『灰灰の呪界に繋がれし、意思なき岩石の兵士達よ! 鬼面鬼気の力を持って我らが怨敵の骸を晒せ! 岩鬼兵共絶えず沸き立ち前進せよ!!』』』』』』


 敵指揮官僧兵が指示を出し、新たな岩鬼兵が砂の中から次々と湧き出し、凍り付いた同胞を踏み付け戦列に加わる!


火雷ほのいかづち

『メガロックシャワーフォール!』


 それを見たチエが、手にした扇が開き次々と湧き出る岩鬼兵達に雷を落とし、サレスの魔法がその上から巨岩の雨を降らせ、岩鬼兵を復活出来ない様に押し潰して往く。


『ええいっ! 岩鬼兵をもっと呼び出せ! 城塞巨兵の起動はまだか!!』

『はっ! 岩鬼兵の追加は全力で行っております! 城塞巨兵の起動はもう間もなく完了します!』

『おのれぇ! ギドュニ様がおれば、この城塞はこんなものでは無いと言うのにぃ!!』


 やはりこちらが圧倒的に有利だ。

 それに何か、敵さんの会話を『星覚』で読み取ると。本当はここには、3合目の集落で倒した尼僧ギドュニがいる筈だったようなのだ。

 もしかしてここの攻略難易度、相当下がってるのでわ?


「もう追加は出させませんよ! 広がれ『影鎖次元縛縄シャドウディメンションバインド』!」


 次々と湧き出る岩鬼兵を断つため桜は、空が白んで来ているとは言えまだ夜陰が残るフィールドの状態を活かし、『影操作』のスキルと『影鎖次元縛縄シャドウディメンションバインド』のアビリティの力で地面を影に染め上げ、新たに湧き出る岩鬼兵ごと影鎖で全て拘束して往く!


「『次元変換出力機構エクスチェンジエミットドライブ爆炎エクスプロード』!!」


 ズドドォ――――――――――ン!!!! 文字通り地面が吹き飛んだ!!

 これは、『影鎖次元縛縄シャドウディメンションバインド』に含まれる次元エネルギーが爆炎に変換された所為だ。


 うん。これって、『影鎖次元貫刺シャドウディメンションスティング』で身体の内部に突き刺して、『次元変換出力機構エクスチェンジエミットドライブ爆炎エクスプロード』で内部から敵を爆散できるな! エグイわぁ~。


 ゴゴゴゴゴゴォォオオオッ!!!! フィールド一面を吹き飛ばした所為で、砂煙が酷く肉眼では確認できないが。砂煙の向こう側では、城塞が地面から迫上がり次第に形を変えて行く事が『星覚』から伝わって来る。

 これがさっきから、指揮官の僧兵が言ってた城塞巨兵って奴か?


¶フィールドBOSS 城塞巨兵サンガラーマのBTフィールドが展開されました。


 あっ! そう言えばまだ、フィールドボスってアナウンス出て無かったわ!

 何か既にボス戦の気分に為ってたなぁ。

 って事は、これからが本当の灰影庭園のボス戦か!

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