215 〈呪霊灰山 8,9合目 灰影庭園〉1 領域の仕様にドロップを掠め取られる

 報酬の確認とエナの話も聞いたので、そろそろ先に進もうと思う。

 日が昇るには、まだまだ早い暗闇の中岩壁を見ると。丁度、大日金剛太郎が出て来た金色の岩壁部分の岩壁が消滅し、深い谷底を思わせる様な道が姿を現していた。


「この道を行けば、次の領域に進めるのかな?」

「うむ。そうであろうな」

「ふにゅ! 先に進むのじゃ!」

「他に道は無い見たいですしね」


 桜の言う通り他に道は無いし、反対意見も無いので壁の中に出来た道を進んで行く。


¶〈呪霊灰山 7合目〉から〈呪霊灰山 8,9合目 灰影庭園〉に侵入しました。


 アナウンスが流れ、ちゃんと先に進めた事にちょっとホッとする。


「ふむ。庭園などと言うからどんな場所かと思ったら、岩と灰の混じった砂しかないのぅ?」


 灰影庭園に足を踏み入れて、周囲を見たエナの感想がこれだ。

 まあ、でもエナの感想も仕方がないのかも知れない。

 しかし、日本人の俺から見るとこれは枯山水だと分かる。

 灰混じりの砂が枯山水に見られる特徴的な箒目を作り所々に岩が点在する。

 それが、この8,9合目のフィールド遠くまでずーっと続いているようだ。

 ちなみに、忘れてるかもしれないから言って置くけど、夜の暗さは皆『ナイトビジョン』の魔法で対処済みだ。


「これは、枯山水と呼ばれる庭園だね。砂は流水を表現していて、石や岩は山や自然それと縁起物を現しているらしいよ」

「ほほぅ、なるほどのぅ。砂で水を表現するとは面白いのぅ。エルナが枯山水とやらを知っておるのは、エルナが召喚される異世界に同じものが有るからかの?」

「うん。そうだね。枯山水だけじゃ無くて、他にも異世界で見たものと同じ様な物をこの山では見たよ」

「ふむ。やはり召喚されるだけあって、何かしらこちらとの繋がりが有るものなのじゃのぅ」


 目の前に広がる景色の話をして居ると。

 突然、エナがバッ!と手を突き出し何かを掴み取る。


『ぎょえぇっ!?』

「ふむ? シャドーストーカー? いや、ここの敵戦力を考えると影鬼かのぅ?」


 エナが掴んだものは、地面に出来た影からひょろりとした上半身だけを見せており、エナの手は丁度そいつの首を掴んでいた。

 シャードストーカーがどんな姿をして居るのか知らないが、まあこれではないと分かる。エナの言葉通り、影鬼と言う奴だろう。角も有るしね。


「ふん!」

『ぐげぇっ!!』


 ゴキッ!! エナが手に力を入れ、影鬼の首をあっさり圧し折る。

 直ぐに死体が消えドロップが出現するのだが、そのドロップもこちらが回収する間もなく死体同様消えて行く。


「えっ!? ドロップアイテムが消えたんだけど!?」

「む? 死体が消えるのは、異界化領域であればそう珍しくなのじゃが。発生したドロップが消えるのは珍しいのぅ」

「珍しいって事は、ドロップアイテムが勝手に消える事ってあるんだ……」

「うむ。恐らく領域の主が、世界からの恩恵を掠めっ取っておるのじゃろう」

「う~、何かそれってずるくない?」

「そうじゃのぅ。主がけち臭いのか、何かの理由で強引にエネルギーを集めているのか知らんが、面白くはないのぅ」


 いやいや、ここに来てドロップ無しとか無いわ~。

 普通は、こう云うイベントやシナリオの終盤は、ドロップアイテムが豪華になってウハウハになる筈だろう!?

 まあ、今の所ドロップアイテムの使い道が殆ど無いから換金するだけなんだけど。


「でも、エルナさんエナさん。話の通じる敵は皆、生贄がどうのと言ってましたし、これ位の仕掛け不思議ではないと思いますよ?」


 桜が、エルナとエナの周りをくるっと飛び回りながら意見を言う。


「あ~、そうだね。ギドュニはハッキリ言ってたし、朱厭狒緋童子もそれを匂わせる様な言ってたかも」

「エルナよ。それは本当かのぅ?」

「うん。それにそれだけじゃ無くて、何かとこの山からエネルギーを吸い上げようって仕掛けが、結構沢山あったよね」

「そうですね。3合目に入ってからは、必ずそんな感じのものがありましたね~」


 ギドュニは修行者達の集落をまるまる生贄にしようとしてたし、山の中腹に有るパワースポットは洩れなく汚染&エネルギーを吸い上げられてた。7合目はエネルギーを送る祭壇見たいな物があったし、餓鬼高速生成陣なんて吸い上げたエネルギーで、生贄用の餓鬼を大量に生み出していたもんな。


「ふむ。侵略者共がエネルギーを集めるなんぞ、どうせ碌な事に使われんじゃろう」


 エナの予想では、最低でも灰呪教の大神【呪鬼】の眷属神の召喚か、あるいは【呪鬼】の下位分霊の召喚を狙いエネルギーを集めているのではないかとの事。

 ちなみに、大神の分霊は下位,中位,上位,高位,最高位と段階が存在する。

 この大神の分霊は、ランクが一つ違うと大体BALV500分能力が違うらしい。

 まあ、LVが低かろと大神か神の庇護下に無ければ、真面に相対する事も出来ないのは変わらないので、どちらにせよヤバいんだけどな。


 先程の影鬼の事があって、十分に警戒して桜が敵の接近に気が付く。


「先程の鬼と同種の鬼が5体、近づいて来てます!」

「ふむ。ゆっくり話過ぎた様じゃな」


 暗闇の中で影を見分けると云うのは、『ナイトビジョン』の効果が有ってもなかなか難しい。闇の中で影と云うのもアレだが。

 灰混じりの砂に出来た幾筋もの畝に出来た影を伝い、何かがこちらに向かって移動して来るのが辛うじて分かる。これは『星覚』に頼った方が良さそうだ。


「影に潜むなんて、縛霊影鎖スキュンレスツェカリアこの子敵じゃないですね! 『影心縛鎖シャドウバインド』!!」


 ジャラララララララララァァッ!! 影鬼達の影移動? とは違ってスキュンレスツェカリアは、闇その物を影として至る所から影鎖を出現させる。

 当然、影鬼自身の潜る影からも影鎖が現れ影鬼達を吊り上げる!


『げぎゃあっ!?』

『ぎぎっ!?』

『へぎゃっ!?!』


 釣り上げられた5体の影鬼を、影鎖が強烈に締め付けそのままゴキッ!バキッ!と圧し折る。


「まだまだ来るみたいですね!」


 敵を倒したばかりの桜の言葉の通り、次々とこちらに向かって影鬼達が接近して来るのが、『星覚』を通してエルナに伝えらる。


 そう云えば霊伐魂葬アルシュマには、『シャドウデスサイズ』と言う幾つも内部アーツを持つ専用アーツがあったよな。『告死魂葬大鎌術』と『深山幽谷・大熊斧術』のお陰で、振り回す位は問題なく出来るし、使って見るか!


『シャドウデスサイズ・シャドウブレードラン!!』


 グオン!! 影に覆われたアルシュマを一振りすると、幾つもの影の刃が地を空を駆け抜ける!


『ぐぎゃああああっ!?!』


 遠くから影鬼達の悲鳴が聞こえて来る。今の一振りで一網打尽に出来た様だ。

 流石は大神神器と言った所か。どうせドロップは、消えてしまうので取りに行く必要は無い。なので暫く待つ。


「ふぅ~、どうやら追加の影鬼は来ない見たいだね」

「ふむ。力の制限が掛かっておるが、やはりエルナのそれは大神神器かのぅ? 凄まじい力を感じるのじゃ」

「うん。チナやチエには分かる見たいだし、どうもそう見たいなんだよね」

「うにゅ! 【死呪の御主】様の大神神器で間違いないのじゃ!」

「うむ。確かにこれ程の死の気配、【死呪の御主】様のモノで間違いないじゃろうな」


 灰影庭園の初戦を終えた後、アルシュマを手に入れた経緯をエナに聞かれたりしつつ、灰影庭園の探索の開始するのだった。

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