214 interlude-2 紅月の眷属達2

 巨城サーザベルス至月七紅しげつななこう専用閣議室至天の間


 【支配呪縛の帳下りし夜紅月カリスヴァルツエクリプス】の最高位の神格を有する七柱の眷属神達、至月七紅しげつななこうが約二週間ぶりに《至天の間》へに揃っていた。


 ファー付きの革ジャンに、ジャラジャラと貴金属のアクセサリーを身に着け、特に全ての指に指輪して居るのが目立つ傲岸不遜な男。呪歴神グルンカーズヴァリズが口を開く。


「この短期間で俺達至月七紅しげつななこうが再びの招集かぁ。まあ、思ったよりも早かったなぁ、アルム?」

「そうだね、ヴァリズ。次は早いと思ってたけど、まさか二週間足らずとはね」


 ヴァリズの問いかけに、「僕もこんなに早いとは思ってなかったよ」と。褐色の肌に銀の髪を煌めかせ、狂獣神ヴァイズアルムがヴァリズに笑みを返す。


「お、おう。……でだ。今回の招集は例の娘の事だろ?」


 ヴァリズが、アルムの笑みに動揺しつつも今回の招集について他の至月七紅しげつななこうに話を振る。


「うむ。皆も知っておるように、例の娘を見つける事は出来たが、確保に失敗して逃してしもうた。しかもその後、我々の捜査網に引っ掛かりもせん。かと言って、この世界の神々が動いたという話は聞かん」


 白髪に白い髭を蓄えた厳めしい老人。月賢神ツェザールクオルムは「ま、神々以外は騒いだようじゃが。妙な話よなぁ」と訝しむ。


「ふむ。見つからないと云う事は、我々の力が及ばない他の大神の縄張りにでも入ったか?」

「あら、ストラム? それだけだと、その大神の縄張りに入るまでの痕跡が追えないのは可笑しいんじゃない? 一度は見付けたのでしょう?」


 フードローブの仮面の男。月編神トゥイードストラムの言葉に、美しき紫の魔女禁忌神アルカルドクラエスが口を挟む。


「む。それはそうだが、クラエス。あの娘が、外世界の存在から加護を受けていると考えるのならば、別に無くは有るまいよ?」

「そうかしら? その娘、私達の目的の成否に関わるくらい、この世界の星脈に深く関わっているのでしょ? そんなの、この世界の化身である世界神エルアクシアが許すかしら?」

「う、確かにそうなのだが……。しかしそうなると、我々が娘の痕跡すら碌に見付けられない理由が、ますます分からんぞ? まさかこれも創天の意思の介入か?」


『まあまあ、お二人共そこまでにしましょう。もし創天の意思の介入で、痕跡を追えないのならば我々には如何にも出来ませんし。そうでなくとも、その娘が他の大神の縄張りの中にいる場合、我々が手出しするの難しいでしょう。そうなれば、我々に出来る事は限られてきます』


 人型の紅い鉱物集合体。紅鉱神アシェントゥルムが、ストラムとクラエスの話に割って入る。


「む、では如何すると言うのだ。トゥルム?」

『我々は【紅月】様の御力で、その気になれば幾らでもこの世界の者達の目を欺けるのですから。今まで以上に我々の目を各都市に置き、我々が知る限りの大神達の縄張りにも、監視の目を付けるしかないでしょう』


「つまり、今まで通りと言う事ね……」


 トゥルムの実質今まで通りという言葉に、クラエスがむぅっと頬を膨らませる。


「はぁ~~。結局ナイト級なんぞに任せるから、失敗して俺達は動けず仕舞いって訳だろ? チッやってらんねぇな!」

「すまんな。私の配下の失態で皆に迷惑をかける」


 悪態をつくヴァリズに、全身鎧に身を包んだ偉丈夫、鮮血神ザナハトサルトゥスが深々頭を下げる。


「お……い、いや、やめてくれ! ザナハトの旦那が頭を下げる必要はねぇよ!」

「そ、そうだぞザナハト殿! それに奴を推薦したのは拙僧だ! 拙僧にも責は有る!」

「しかし、奴に指揮を任せると決めたのは私だ。すまん」

「ほんとにやめてくれ、ザナハトの旦那!」

「そうです! ザナハト殿! 顔を上げてください!」


 頭を下げるザナハトに、悪態をついていたヴァリズは思っても見なかった事に逆に慌ててしまい。エジェマを推薦したストラムも自身にも非が有ると、頭を下げるザナハトに顔を上げる様に言う。


「ほっほっ、ザナハトよ。お主が生真面目なのは知って居るが、お主に謝られては二人が困ってしまうじゃろう。それに、ザナハトの配下がミスを犯した訳では無いし仕方なかろう」

「しかし、ツェザール殿。幾ら神格を持ちえないナイト級の者と言えど、【紅月】様から直接力を授けられながら敗北というのは……」

「為ればこそよ。最後は竜神に撃たれた様じゃが、竜神の介入が無くとも失敗していた可能性の方が高いと当人が言っておったわ」

「当人が……なるほど、エジェマの奴は【紅月】様から復活の奇跡を賜りましたか」


 如何やらエナに止めを刺された神与騎士エジェマ・バルグストスは、副官のクインス共々【支配呪縛の帳下りし夜紅月カリスヴァルツエクリプス】から復活の奇跡を賜り蘇ったようだ。


「ほっほっ、それはそうじゃ。あやつはあの任務を受ける前から【超越の器】を発現し、既に【神格の器】へと昇華の可能性を見せておったのじゃぞ? 【超越の器】に至る者はそこそこおるが、【神格の器】に至る者はそうはおらん。しかも、あの若さとあの格でじゃ」


 ツェザールが、たっぷりと蓄えらた自慢の髭を触りながらエジェマの事を楽しそうに語る。


「それにのう。任務に失敗して死にはしたが、あやつは【紅月】様から魂に直接力を与えられ、それに耐えたのじゃ。まず間違いなく【神格の器】は成ったと見て良いじゃろう。復活の奇跡を賜るのも当然じゃなぁ」


 コスモプレイヤーには関係ない事だが。IFOの現地民が神種=神へと進化するには、星壇での試練を受ける前に【神格の器】を目覚めさせる必要がある。

 そう【神格の器とは】試練の資格兼力の器の事だ。そして、この【器】と呼ばれる物は時間さえあれば必ず開花&昇華する。それは、創天の意思が定めた事だ。しかしながら、寿命のうちに開花し昇華するとは限らないのだが。


 それで、【超越の器】は割と開花し易く、この【器】を持つ者はそれなり居るのだが。【神格の器】と為ると、竜種や一部の聖霊獣の様に最初から【神格の器】を持つ様な例外を除き、【器】を持つ者が一気に減るのだ。何故減るのかと言うと、【神格の器】は例外を除き【超越の器】が昇華して為るのだが、超越種の数千年~数万年の寿命を以てしても、なかなか昇華する事が無い代物だからだ。

 故に【神格の器】持ちは、当然【紅月】の眷属達にとっても重視される存在だ。リソ-スを割き、エジェマを蘇生させる位の事当然するという訳だ。

 配下の蘇生は、エジェマにやる気を出させるためのオマケだろう。


 ちなみに、修行やOEXPの発生、更には進化無しの限界突破のBALVUPなどで【器】の開花と昇華が早まるとされる。どれくらい早まるか明言されてはいないが、これも創天の意思が定めた確かなルールだ。


「へぇ~、本当に有望株だったのね。至月七紅しげつななこうが八紅になる日も近いのかしら?」

「クラエス。幾ら才能が有るとは言え、既に神格を得ている他の眷属神達を抜いて、いきなり僕達の仲間入りは流石に無いんじゃない?」


 紫の魔女の軽口に、銀の獣アルムからムッとする様な狂気を孕む怒気を発せられ空間がメキメキと歪み至天の間に緊張が走る。

 しかし、そんなアルムの怒気を気にした様子も見せずクラエスは言葉を紡ぐ。


「ふふふっ♪ 冗談よアルム。別に本気で言ってる訳じゃないわ。ただ、期待したくはなるでしょ? だって、あなたやヴァリズが至月となって随分経つわ。このかわり映えしない面子にも、新しい顔が欲しいじゃない? そう怒らないでよ」

「まあ……そうだね。確かに、僕とヴァリズが至月に加わってから随分と経つものね。うん。僕も別に新しい仲間が欲しくない訳じゃ無いからね」

 

 嘘の様に怒気と空間の歪み消えさえり、銀の獣に笑みが浮かぶ。

 緊張が解けホっとした空気が流れる。


「ヒュ~~♪ クラエス姉さん、アルムは至月である事に誇りを持ってるんだぜ。簡単になれる見たいに言って、あんまりアルムを揶揄わないでくれよぉ? アルムの奴は切れるおっかないんだからよぉ」


『そうですよ。アルムに暴れられると困ります! どうせ彼女が暴れた後の処理は私がやるんですよ? 部屋の修理のリソースも重なれば馬鹿になりませんし、他の皆さんも注意して貰いたいですね!』


「あら、ごめんなさいね? うちの眷属に【神格の器】持ちが出るなんて久しぶりじゃない? ついね?」


 紫の魔女クラエスは謝りながらも思う。

 『それにしても、アルムは何時もニコニコしてるけど。ちょっとした事で直ぐに怒り狂うし、しかもそのポイントが分かり難いのよねぇ。何故かヴァリズはそれが分かる見たいだけど、私も含め他の至月も分からないから困ったものよね。あとトゥルム、何時もアルムの暴れた後の片付けさせてごめんなさいね』


「それで、例の娘事は如何するのかしら? トゥルムの言う通り、娘の動き待ちのままかしら?」


「ほっほっ、それじゃが。待ちは待ちでも漁夫の利を狙うのがよかろう。娘と戦った神与騎士も、そして【紅月】様も、あの娘こそが我々の求めるものだと言っておる。なれば、あの娘が動けばこの世界を狙う我々以外の勢力に狙われるのは必定じゃ。我々は横からかっさらえば良い」


「ほう。となると監視の目も、今の者達では不足であるな。多少リスクは有るが、拙僧の配下の眷属神を任に就かせようか?」

「ふふふっ♪ ストラムの配下の眷属神なら、大きく動いてもこの世界の神々にそう簡単に気取られはしないでしょうね」

「適任であろう。それに、漁夫の利を狙う、私も大いに結構だ。なれば、他勢力との接触は避けられん。優秀な目を置いておくに越した事は無い」


 ストラムの配下の眷属神の分霊を各地に放ち、標的の発見とその監視を別の勢力との接触まで継続、別勢力と戦闘に為り次第、消耗した娘を狙う。シンプルな作戦だ。

 それに、監視だけならば、創天の意思もきっと動きはしないだろう。そして、そんな受け身の策は彼等にとっては慣れたものなのだ。

 ザナハトも大いに認め、他の面々もそれで良いと頷く。


「ほっほっ、決まりじゃのう」


 この時、エルナに取ってとても厄介な場面で、彼等が介入する事が決まったのだ。

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