209 〈呪霊灰山 7合目〉道塞大鬼熊 大日金剛太郎6

「エナ!」


 そう。大日金剛太郎クマの拳の一振りで核爆発を引き起こすと言う。非常識かつ、凶悪な攻撃からエルナ達を守ってくれたのは、エナだったのだ。


「うむ。エルナよ、14日振りと言った所かのぅ。元気じゃったか?」

「見ての通りだよ。エナが来てくれなかったらちょっと危なかったね。助かったよエナ」

「ふむ。やはりタイミングはバッチリだったわけじゃな? 流石はヒロイックアーツと言った所じゃのぅ」


 多分、ヒロイックアーツは権能【英雄伝承ヒロイック・ロア】から派生した技なんだろう。権能なのに、アビリティじゃない見たいだけどな。


「ヒロイックアーツは気になるけど、どうしてここ?」

「それはもちろん。わしの分霊に、ブエナの神域を任せる事が出来る様になったからじゃのぅ」


 なるほど! さっきチナが覚醒して神力を自由に扱える様になった見たいに、エナの他の分霊もそうなったって事か!

 なら、ブエナの町の神域に何かあっても、エナ分霊が神としてきちんと対応できる様に為ったって訳だよな。


「それって……」

「うむ。これからは、わしもエルナについて行きたいのじゃが、良いかのぅ?」

「もちろんだよ! エナ、よろしくね!」

「うむ! エルナよ、これからよろしく頼むのじゃ!」


 おお! エナがパーティに加わったぞ!

 これで正式な?六人パーティだ。


「大姉様が仲間に! 心強いのです!」

「あれがエナさんですかぁ~。チナちゃんを美人さんした感じなんですねぇ~」

「うん。戦力が増えるのは助かるな」

「うにゅ。わちも本体が居れば安心あんちんなのじゃ!」


 うんうん。皆の言う通りだ。

 あと俺も、チナとエナの二人を改めて見て思ったのだが。チナは、幼女ぽっさが若干強く丸っこくて、エナは美少女っぽさが強くてシュッとしてるんだな。


「うむ。わしの名はエナ、この世界で水神をやって居る者じゃ。わしを信仰する人々は、わしを水竜神ブエナと呼ぶが。まあ、わしの事は気軽にエナと呼んで欲しいのじゃ」

「はい! エナさん、私は桜と言います。サレスさんの眷属で、高次元宇宙精霊をやってます! よろしくお願いしますね!」

「むぅ、こうじげんうちゅうせいれい……? うむ……あまり聞いた事の無い精霊じゃのぅ? まあ良い、わしからもよろしく頼むのじゃ!」


「『私はサレス。我が王と、友誼と盟約を結んだエルナ殿に協力する召喚騎士だ』とまあ、俺はこんな感じだ。よろしく頼む」

「ふむ。お主がエルナが召喚した騎士か。よろしく頼むのじゃ!」


 そう言ってエナは、何やら目を閉じ匂いを嗅ぐ。


 ちなみに、チナはエナの分霊だから当然自己紹介はしない。そして、チエは俺がログアウトしている間に、エナと交流して居たりするので当然自己紹介は無しだ。


「くんくん。ふうむ。エルナからも少し香るが、サレスと桜からはテラの者達に近い匂いがするのぅ?」

「ああそれは、二人は私が呼ばれる異世界の住人だからだね」

「ふむ。すると、エルナが呼ばれておる異世界は、テラに近しい世界という事かの?」

「そうだね。テラとは隣り合う世界、見たいな所だね」

「ほむほむ。分かったのじゃ。皆、これからよろしく頼むのじゃ!」


 グゥガァアアアアアアッ!!!!💢

 ボス戦中に仲良く自己紹介なんてした所為で、大日金剛太郎クマが「おい! 無視すんなっ!!」って感じでお怒りのご様子だ。


「おっとそうであった。今はこの熊との戦闘中じゃったのぅ」


 グゥラァアアアアアアアアアッッ!!!!! 『金剛煉爪』

 大日金剛太郎が唯一水の鱗に守られて居ないエナに爪を振るう!


「む。せっかちなクマさんじゃのぅ!」


 ボクッ!! エナは何でもない様に大日金剛太郎の爪を避け、その前脚に掌底を打ち込む!


 グガァア!? エナの掌打を受けて大日金剛太郎が体勢を崩す。


「皆苦戦しておる様じゃし、エルナよ。この熊わしが相手をしても良いかのぅ? 『漣華 水火花』」


 グゴォオオオオッ!!? エナがこちらと話をしながら、大日金剛太郎に花火の様にキラキラと水が弾ける連続打撃攻撃を決める!


「えっと……。それじゃエナ、お願いできる?」

「うむ! わしに任せるのじゃ!!」


 グロォオオオオオオオッッッ!!!!!! ブオン!!!

 大日金剛太郎が雄叫びを上げ、エナを切り裂こうとブンブン爪を振り回す!!

 50mも有る巨体が爪を振り回すだけで猛烈な突風と土煙が上がるが、120㎝と小さい上に素早く軽やかに動き回るエナを捉える事が出来ない!


「きっついのをお見舞いしてやるのじゃ!」


 エナがそう言うと、エナの小さな掌から水が溢れ出す。

 エナの掌から溢れる水からは、何故か深き水底を思わせる深淵の闇を感じさせ背筋に悪寒が走る。


 うわ、ゾワっとしたよ!? あの水、物凄く危険な感じがするんですけどっ!?


 グオッ!? 如何やらヤバさを感じたのは、大日金剛太郎も俺と同じの様で直ぐに動く。


 グルゥゥッ!! 『涅槃寂静シャンティ ニルヴァーナ

 この戦闘で大日金剛太郎が、何度もこちらの必殺アーツを強制終了させた力がエナに向けられ、エナの掌から流れ出る水の勢いが急に弱まる。


「む? これは行動阻害の力かのぅ? ならば、これでキャンセルなのじゃ。『流水流転』!」


 グォガッ!? 『涅槃寂静シャンティ ニルヴァーナ』で止まりかけた、エナの掌の水の勢いが戻り大日金剛太郎クマも驚きの声を上げる。


「では、喰らうと良いのじゃ!」


 エナの掌に生じた水底から、チカチカと星の瞬きを思わせる光が走り、掌から流れ出る水が勢いを増し激しく渦巻いて行く。エナの掌で渦巻く水流の中で、まるで闇と光が鬩ぎ合っている見たいだ。

 それが成されると同時に、エナが大日金剛太郎の懐に一気に飛び込む!!


『掌水深底 昇耀竜渦!!!!』


 グォラアアアアアアアッッ!!!!! 『日輪金剛不壊』

 エナの下から撃ち抜く様な掌底が突き出される瞬間、大日金剛太郎が『日輪金剛不壊』を発動する!


 何時の間にか大日金剛太郎は、『金剛不壊』系アーツを再び使用できる状態になっていたようだ。多分、エナと色々話している間にアーツの冬眠状態を、『諸法無我サルヴァ・ダルマー アナートマナッハ』使って解除していたんだろう。


 ドッッッッ!!!!!!! ゴゴォ――――――――「グガァァッ!!?!」――――――――ッッッッッ!!!!!!!!!!!!

 物凄い轟音を立て大日金剛太郎の巨体が、天高く錐揉み回転しながら打ち上げられる! 撃ち込まれたエナの掌底からは、光と闇の龍が喰い合う様に鬩ぎ合う、水流渦巻く竜巻が放たれ、大日金剛太郎を飲み込んで行く!!

 しかも今の感じ、大日金剛太郎の『日輪金剛不壊』を貫通したんじゃないか?


「うむ! 見事にすっ飛んだのう!」


 ドゴォオオオオオオオオオオォォォォォォォオオオオオオオオオオオオォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!!!!!!!!!!!

 のんきにエナは自身の放った攻撃の感想を言っているが、エナの放った技の効果はまだ終わらない見たいだ。


 うん、これ。例え『日輪金剛不壊』を貫通してなくても、無敵時間は短いはずだし、大日金剛太郎に確実にダメージが入ってるな!


 キュピーン!! なんと、エナの水竜巻が治まらないこんな状況でも、大日金剛太郎のカットインが発生する!


 う~ん。これが所謂ボス補正って奴なのだろうか?


 で。カットインの内容は、座禅を組む大日金剛太郎が、神々しい光を発して宙に浮かび上がり世界を照らして行く。と云う物だった。


 グルウガルッハァッ!!! グルゥラァガァアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!! 『我は天を行く無敵の太陽なり!!! 天道日輪金剛不壊!!!!!!』


 上空で座禅を組んだ大日金剛太郎の放つ太陽の如き光が、エナの水竜巻を吹き払いフィールドを完全に昼間に変える!


 えっ!? 『金剛不壊』系の必殺アーツ!?

 もしかして、無敵状態の大日金剛太郎に耐久戦しろって事なのか!?

 だとしたら、かなり鬼畜なんだが!?


「エナ! これって何とかなるのっ!?」

「うむ。大丈夫じゃ。わしは、こう云う敵もそれなりに狩っておる。心配する必要は無いのじゃ」


 ふむ。エナの反応から見て、如何やら大丈夫そうだ。

 口ぶりからすると。倒す手段も複数有りそうだし、安心して良さそうだな。


 と、ここで更なるカットインが入る!

 空で座禅を組む大日金剛太郎が、自らの頭上に太陽を作り出し、天に掌を向け前脚を掲げる!!


 グガグガルゥッ!! グゥオゥガァラッハァッ!!! グガッ グルゥグルガァアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!

 『天地を焼く浄化の炎よ!! 世に灰灰の救世を齎し給え!!! 灰救世 煉獄天壌!!!!!!!』


 大日金剛太郎の作り出した太陽が、天地を飲み込まんと急激に膨張して行く!!


「ふむ。太陽に対するなら、やはり月じゃな! 『水底の月に宙の理を齎し、天地の悉く凍て付かせよ!! 『絶冰水月』!!!!』」


 空間に水の波紋の様な物が広がり、世界と云うスクリーンに水底の月が浮かび上がる。次の瞬間、世界に広がる波紋共に全てが凍て付き、膨張する太陽『灰救世 煉獄天壌』すらも凍て付かせる!!


 ゴガッ……!? それは、空に座していた大日金剛太郎も例外ではない。

 大日金剛太郎の全身に霜が降り一気に凍り付く!


「うむ。これで止めじゃな! 『水は全てを廻る。それが水の理。故に水理の及ばぬ物は無し! 『透龍真水波』!!』」


 水と云うには透明過ぎる、空気の様に透き通った透明な龍が、周囲の空間を波立たせながら光が駆け抜ける様に、大日金剛太郎をあっさりと貫き突き抜ける!!


 ゴハッッッ!!!!!! 大日金剛太郎は吐血しズドンと地面に落下する!

 同時に、真夜中の太陽と為っていた大日金剛太郎が落ちた事で、辺り一面に夜の静寂が戻る。


¶フィールドBOSS 道塞大熊鬼 大日金剛太郎の討伐に成功しました。

塞大熊鬼 大日金剛太郎の討伐成功により、〈呪霊灰山 8,9合目 灰影庭園〉の侵入が可能となりました。

ギフトボックスに通常の討伐報酬と、特殊条件達成討伐報酬が送られます。

後でご確認ください。


 お。エナの宣言通り、さっきのアレが止めになった見たいだ。

 すると、落下した大日金剛太郎からは光が立ち昇る。

 光は、大日金剛太郎の身体から完全に抜け出し灰と黄金が混ざった色の球体になる。如何もこの光は大日金剛太郎の魂の様だ。

 よく見ると灰色の部分は余計な物なのか、何か大いなるものに力が働き蹴散らされて行く。そうして、魂から灰色が消え黄金一色になると、そのまま姿が見えなくなる。


「あれ? あのクマさんの魂、勝手に浄化されて消えちゃった」

「ふむ。やはりあの熊さん、【煉爪】様の眷属だったようじゃのぅ。敵性体として倒された事で侵略者の力が弱まり、そこを【煉爪】様の加護が打ち払ったのじゃな」

「でもエナ、魂が消えちゃったのは大丈夫なの?」

「多分大丈夫じゃろ。きっと【煉爪】様が魂を回収したのじゃろう。恐らく今頃は【煉爪】様に「情けない!」と怒られておるじゃないかのぅ?」

「へぇ~、そうなんだ」

「うむ。ボスも倒したし、これでゆっくり話せるじゃろ?」

「そうだね、エナ。ちょっと疲れたし、ゆっくり話そうか」


 と云う訳で、リザルト確認がてらエナの話でも聞きますか。

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