183 〈呪霊灰山 7合目〉覚大猩々僧鬼 朱厭狒緋童子

 ゴウッ!! アナウンスが流れるとボスとエルナ達を囲む様に炎のドームが築かれる。そう言えば、ギドュニがこれと似た様な物を使って来たな。


『貴様らはぁぁ、【呪鬼】様の贄に為って貰うぞぉぉぉっ!!』


 炎に照らされ、エルナ達を贄にすると吠えるボスの正確な姿が見える様に為る。覚大猩々僧鬼 朱厭狒緋童子と言う名前が示す様に、錫杖を持った法衣姿で露出部分は緋色の毛皮で覆われており、申し訳程度の角が二本額に生えている。

 うん。5mじゃなくて6m半はあるな。それと、こいつの体格的に、金色千手阿修羅に乗っているサレスが相手をするのに丁度良さそうだ。


『比比々、そこの派手なのにぃ俺の相手をさせ様ってかぁぁ?』


 む? 考えを読まれたのか? 


『それじゃあぁぁ、嬢ちゃん達の相手が居ねぇじゃねぇのぉぉ? 相手は俺が呼んでやるよぉぉっ!!』


 朱厭狒緋童子が錫杖を構え力を高める。


「させません! 『影心縛鎖シャドウバインド』!!」

『比比々、『炎輝光身』!』


 お馴染みに為りつつある桜の初手『影心縛鎖シャドウバインド』だが、それを読んでいたかの様に朱厭狒緋童子が、その身を眩く輝く炎に変える。その眩さが、一瞬とは云え朱厭狒緋童子の影を消し、影鎖の発生と動きが阻害する。


「なっ!?」

『比比々、それはさっきも見せて貰ったよなぁぁっ!』


 数が減り動きが鈍った影鎖を、炎の化身と成った猿鬼はそれをあっさりと躱す。


『我に付き従う眷属共よぉっ! 参集せよぉぉっ!! 『僧戦厭鬼招来』!!』


 ボス周辺の地面から八つの緋色の炎が立ち昇り、大きく急激に丸く為る様に膨らみ一気にボンっ!! と爆ぜる。

 爆ぜた緋色の炎の中から、体長4mは有りそうな緋色の毛が法衣から覗く猿鬼達が姿を現す。その手には、自身の身長の半分程度の金棒を持っておりかなり強そうだ。


『眷属共よぉぉっ! そいつ等を【呪鬼】様に捧げろぉぉぉっ!!』

『『『『『『『『ウォヴォオオオオオオオオオオッ!!!!』』』』』』』』


 目を赤く輝かせ雄叫びを上げながら、猿鬼達がこちらに突っ込んで来る!

 猿鬼達の様子は、まさに狂乱その物。うん、これはバーサークしてますわ。


宝印金環捕縛陣ダルマユダンナ!』


 捕縛効果の有る必殺アーツを発動しながら、金色千手阿修羅がフッと音を立てずエルナ達の前に出る。前に出て放たれた六つの宝印金環羂索の金環が、向かって来る猿鬼達を纏めて捕らえる様に大きく一気に広がる。


『比比々、おおっとぉぉ、それには捕まりたくねぇなぁぁっ! 『猿歩瞬身』!』


 大きく広がった金環は、猿鬼達をキュッと締上げる様に拘束するが、ボスの朱厭狒緋童子は金環が締まる前にその場から姿を消す。


 ギュゥゥゥゥン!! ギャリギャリギャリィッ!!!! 金環が高速回転し捕らえた猿鬼達を削り切る様に締上げる!


『『『『『『『『ウボォガァアアアアアアアアアッ!!!!』』』』』』』』


 狂乱状態の猿鬼達が削り切り締上げられながらも、金環を破壊しようと金棒を振り回し暴れまくる。そんな様子を、朱厭狒緋童子が何食わぬ顔でこちら側に立って見ていた。


『おおぅおぅ、俺の眷属共に酷い事するじゃねぇかぁぁぁ』

「ええっ!?」

「なにっ!?」


 そう朱厭狒緋童子は、ただ『宝印金環捕縛陣ダルマユダンナ』を躱すだけでなく、丁度こちらのメンバー配置の真ん中に移動していたのだ。


『比比々、俺がお返ししてやらにゃあなぁぁっ! 『猿舞・炎厭災禍』!!』


 朱厭狒緋童子の力が膨れ上がりドゴウッ!! と緋色の炎を巻き上げる!!


『サファイアアクアトルネード』

「『氷結晶壁』なのじゃ!」


 チエがクマさん装備の力を使い、緋色の炎を相殺する様にサファイアの深い青を宿した水の竜巻をぶつけ。更にチナが、水と炎が生み出す水蒸気爆発からパーティーを守るため、氷の壁を朱厭狒緋童子を囲う様に作り出す!


 ジュワァァァッ!! ドゴォ――――――――――ン!!!!!

 予想通りの爆発が起き、『氷結晶壁』が皆を守る。


『比比々、あぶねぇあぶねぇ、身体が濡れちまう所だったじゃねぇか』


 直ぐには視界が晴れない中、朱厭狒緋童子の声が響く。

 もしかして無傷なのか? それに、水に濡れるのを嫌がってる?

 取り合えず、追撃を仕掛けて置くか!


『砂槍降天!!』


 シュドドドドドドドドドォオオオオオオオオオッ!!

 空中で作られた砂の槍が、炎のドーム内に雨の如く降り注ぐ!

 これなら少しは、ダメージ与えられるだろ。


『ぐぉおおおっ!? 厄介な攻撃してくれるじゃねぇか!!』


 砂槍の雨が、水蒸気から水分を奪い視界が晴れ周囲が見える様に為る。

 何時の間にかこちらの懐から離脱していた朱厭狒緋童子が、濡れた砂まみれの顔でエルナ達を睨んでいた。この感じ、如何やら水分を含んだ砂槍が効いている様だ。


「念動金輪,機動操手! いけっ!!」


 『宝印金環捕縛陣ダルマユダンナ』で猿鬼達を倒し終えたサレスが、朱厭狒緋童子を攻撃するために念動金輪と機動操手を起動する。

 カシュカシュカシュッ!! サレス念に従い三つの金輪が金色千手阿修羅の背面から飛び出し、更に金輪から計三十八の機動操手が分離する!


『比比々、物騒なもん出して来るじゃねぇか! ま、俺には当たらんけどよぉぉっ!!』


 何を言ってんだと思ったが、朱厭狒緋童子の言葉通り金輪の攻撃は全て避けられ、機動操手の直接攻撃や射撃もいなされ躱される。


「おいおい、マジかよ!?」


 サレスの驚きは無理もない。エルナの『砂槍降天』は当たったのに、今のサレスの攻撃は一つもクリーンHIT無しなんだから。


『比比々、反撃させて貰おうかぁぁっ!!』


 朱厭狒緋童子は、こちらを『猿歩瞬身』の神出鬼没な動きで翻弄し、更に巧みな体術と杖術でいなし躱され、金色千手阿修羅は投げ飛ばされ皆一方的にダメージを受ける。シャン!シャン! と鳴り響く錫杖の音がなかなか癇に障る。


 おいおい、こいつ強すぎるだろっ!?

 『砂槍降天』以外、こっちはクリーンHIT無しだぞ!?

 僧侶で悟りを開いているにしてもこれは……って、もしかして覚って妖怪のサトリの事なのか!? 何か心を読まれている様な感じだし、サルの妖怪はサトリ見たいな力を持つ奴もいるらしいから、これが正解か?

 しかし、悟りと覚りは、同じ意味だから余り気にしてなかったなぁ。

 これはミスった。


『比比々、俺の力に気付いたかぁぁ、気付いた褒美だぁそおら受け取れぇっ! 『猩々大餓鬼玉』!!』


 それは確か、7合目に来て遭遇サレスが瞬殺した徘徊ボスの名前でわっ!?

 そう思って居ると、朱厭狒緋童子の頭上に二つの猩々大餓鬼玉が出現し、朱厭狒緋童子が剛腕を持って投擲する!


 ブオウッ!! 醜い餓鬼の塊が飛んで来る!

 ぎゃあああっ!! 気持ち悪るっ!! 当然皆躱ける!


『比比々! 当然躱けるよなぁぁっ! 『狒緋餓鬼玉大爆厭』!!』


 瞬時に猩々大餓鬼玉が緋色に染まり大爆発を引き起こす!

 ドドゴゴゴォ――――――――――――ン!!!!!


「Σきゃあああああっ!?」

「うにょわっ!?」

「くっ!?」


 餓鬼に死骸と言う汚い爆弾が炸裂し、少なくないダメージと共に悪臭と瘴気が炎のドームを満たす。

 うん。これは思わず悲鳴を上げてしまうのもやむなしだろう?

 ちなみに、桜は『アセンション』で避け、サレスはまあロボの中だし機体ダメージだけで済んでいるよ。何かずるいわぁ。


「くちゃいち汚いのじゃ!」

「……」

「うっく、臭いですぅ~!」


 糞尿や腐敗臭、かび臭さ死臭そう云った様々な悪臭の混合物の様な臭いが瘴気と共に漂い、チエは無言で耐え戻ってきた桜も苦しむ。

 あ、エルナはその気になれば、悪臭カット位自然に出来るので、臭いはもう平気だ。まあ、汚物の不快感は無理だがな!


『比比々! 良いざまだなぁぁっ!』


 くっそっ! このクソザル汚物爆弾マジ許せん!!

 サルはう〇こ投げて来るって言うけど、餓鬼玉爆弾の方が酷いぞ!!

 ネタはもう割れてるんだ速攻潰す!!

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