167 〈呪霊灰山 6合目〉お堂を目指して

 水汲み場で暗くなるまで神水を汲み。暗く水音のする渓流を抜け、登山道まで戻りそのまま6合目まで移動して来た。

 再び巨大ライチョウの徘徊する6合目に来たのだが、流石に夜ともなるとライチョウ達が徘徊している様子はない。


 さて、6合目のパワースポットは霊脈の上に建てられたお堂だったな。

 お堂の場所も大体の場所は聞いているし、霊系の上位スキルにも相当する星輝系のスキルが有るので、霊脈の事も把握出来ている。

 元々星輝が見えるのだから、その気に為れば霊脈を目視する事も当然出来る。

 星明りと霊脈から立ち昇る霊気と星輝の輝きを見ながら登山道を進んで行くと、夜陰に紛れて類人猿を想起させる獣の鳴き声と血と獣の臭いが風に乗って漂って来る。


 カッ! ドドン!! ゴロゴロッ!! パッと前方が明るくなり落雷が発生する。

 それからハチの巣を突いた様に、ライチョウ達の喧ましい鳴き声と共に夜陰を切り裂き雷の雨が乱舞する。


 流石に気になるので『星覚』のスキルの感覚を広げ前方を探る。

 直ぐに、ライチョウの群れと大型のサルの群れが戦っているのが分かった。

 ライチョウはの数は十二羽でサルは三十匹、既にライチョウは三羽が死に致命傷が一羽、サルは落雷で五匹が焼け焦げているのが確認できた。

 どれもドロップに為っていないな。

 

 大方、就寝中のライチョウ達を暗殺者の如く寝首を掻いていたサル達が、ライチョウの一羽を殺し損ねて今の状態になったと云う所だろう。多分、現実世界でも起こって居る、サルがライチョウを捕食するってヤツなんだろうな。

 夜になると敵の構成が変わって苦戦すると云うのが、リアルタイム系のゲームに良く有るのだがIFOも例外ではない見たいだ。


「皆、仕掛けるよ」

「りょ、なのじゃ」

「なのです」

「はい」

「応」


 チエが音も無く闇夜を駆けそれにチナが追従する。


『イリスフェザーダンス』

「『ブレイクシード・スチームバースト』『モーダーアタック』」

『ウィルオウィスプ』


 闇属性を意図的に増して、『イリスフェザーダンス』を放つ。闇夜に同化する様な無数の黒い羽が、黒い帯を引きながら先行したチエとチナを追い抜き、戦いに夢中なサルとライチョウの群れに殺到する!


『キィイイイイイイイイイ!??』

『クァアアアアアアアアアアアア!?!』


 ドババァ――――――ン!! 山なりに放たれたスチームシードシェルランチャーの種子砲弾が、クラスター爆弾の如く上空で炸裂し悲鳴を上げるサルとライチョウを蹂躙する!


 そこにチエとチナが、混乱するサルとライチョウに襲い掛かり息の根を止めて行く。更にダメ押しの『ウィルオウィスプ』の青白く光る鬼火が、後追いで残りのサルとライチョウを焼き殺して行く。


 うん。迷宮化している中で、生態系の様な物がまだ維持されている事に少々驚いたが、エネミーをあっさり片付ける事が出来て良かった。


 ちなみに、巨大ライチョウを襲っていたサルは2~4m程度の大きさで黒い体毛に赤い瞳が特徴的だ。赤い瞳をしているが、【紅月】は関係ない感じだな。


 その後も、サルの群れに何度か遭遇したが、全てこちらが先に発見して先制攻撃を入れたので苦戦する事無く殲滅した。




 お堂に向かう為、登山道のルートから外れ霊脈の光を頼りに進んで行くと、急に霊脈から立ち昇る霊気と星輝が見えなくなる。霊脈が不自然に途切れているのだ。


 恐らくお堂のある場所は、その霊脈の途切れた場所だろう。途切れた理由も、今までのパワースポットのボスの事を考えれば、自ずと予想が付く。

 霊脈のエネルギーを丸々吸い上げているのだろう。


 はぁ~、ここのボスも厄介な可能性大だよなぁ。

 取り合えず、お堂が見えて来る前にバフを掛けて置くか。




 さて、別に夜目が効く訳では無いので、お堂が見えて来ると云う事は無かったのだが、代わりに念仏の様な物がエルナに耳に聞こえて来る。


 改めて、『星覚』のスキルで念仏が聞えて来る方へ感覚を広げる。

 頭の中に3Dマップが展開され、お堂と思われる建物の周りを六体の僧侶姿の骸骨達が囲っているのが見えた。


 この骸骨僧侶がボスなのか中ボスなのか分からないが、【呪鬼】の力の気配を感じる事から敵である事は間違い。

 なので、当然の如く先制攻撃をさせて貰う。


 PTでチャットでエルナの『星覚』で得た情報を共有し、目線で皆に攻撃の合図を送る。


『アステルイリスシャワーダンス』

「『ブレイクシード・スチームバースト』『モーダーアタック』」

『レギオンスウォーム』


 『イリスフェザーダンス』の時の要領で闇属性が増され、黒く染まった『アステルイリスシャワーダンス』の矢が放たれる!

 同時にサレスの砲撃と、チナのレギオンナイフの必殺アーツも放たれる。


 ヒュン! と放たれた黒矢が黒い尾を引きながら無数に分裂し、印を結びながら念仏を唱える骸骨僧侶達を最初に急襲する!


『ぎゃあああっ!?』

『なに、敵襲だと!? ぐはっ!?!』

『おのれ! 奉納の邪魔をすると……がっ!?』


 『星覚』のスキルが音声も拾う。

 おおっ、こいつ等普通に喋れる敵か。

 となると。ただのアンデットでは無く、ギドュニ達と同じ灰呪教の信徒って所か?


 ドババァ――――――ン!! 『アステルイリスシャワーダンス』で混乱する骸骨僧侶達に、サレスがここに来るまで何度も行った追撃の迫撃砲が炸裂する!


『ぐぁあああっ!? 敵は何処から攻撃して来ているのだ!?』


 骸骨僧侶達が騒ぐ最中、霊山之燈火ネヴィヤエルフォスが桜の権能【次元干渉】と【次元移動】の力で出現する。


『アエルブレス』

『なにぃ!?』


 ゴゴォオオオオオオオオオッ!! ネヴィヤエルフォスに燈る青白い炎が激しく燃え上がり一気に溢れ出す!


『あがばぁあああああ!?!』


 霊気高ぶる鬼火の息が骸骨僧侶達を薙ぎ払い、最初に直撃した骸骨僧侶を火葬送りにした。

 ブブブブブブッ!! ここでチナの放ったレギオンスウォームが、蜂の羽音の様な不気味な音を立て骸骨僧侶達に喰らい付く。


『がぁあああっ!! 離れろぉっ!!』

『く、喰われるぅっ!!』


 増殖したレギオンナイフが、ガリガリと骨を削り噛み砕いて行き、骸骨僧侶達を恐怖させる。


 そして、チエが何時の間にか移動しており、グラディオリギュムの必殺アーツの圏内に、骸骨僧侶達を捉えていた。


『飛閃神霊光波刃』


 ヒィィィ――――――ン!! と、未確認飛行物体の如く光るグラディオリギュムが旋回軌道を取り、『レギオンスウォーム』に群がられボロボロの骸骨僧侶達を断ち切って行く。


『ぐぁっ!? お、おのれ……! このまま云い様にやられっぱなしなど許せん!! せめて……一矢報いてくれるぅっ!!』


 『レギオンスウォーム』に齧られ、『飛閃神霊光波刃』で下半身と泣き別れした骸骨僧侶達が、最後の悪足掻きを繰り出す。


『灰灰の化身たる我らが大いなる神よ! 我ら信徒の身を捧げ最後に希う! 怨敵に死を!! 『代償呪殺儀式 ラストアッシュ』!!』


 一斉に骸骨僧侶達が灰になり、その灰を乗せた不吉な風が吹き荒れる。

 その風は、比較的エルナ達よりも骸骨僧侶達の近くに居たチエはもちろん、まだ結構な距離が有るにも関わらずエルナ達の居る場所にまで届く。


「う、うにゅ……」

「むぅ……」

「はぅ……」


 怖気が走るとチナとサレスが膝を付き、桜がふらっと力なく地面に落ちて行く。

 慌てて桜をキャッチして、直ぐにPTの状態をチェックすると、エルナとチエ以外の自動復活が消費されていた。


 うぇ、即死効果の呪いか。三人は抵抗に失敗した感じか?

 取り合ず、エルナには効かないし、チエは抵抗したんだろうな。

 そう言えば、レギオングレイの即死攻撃の時も似た様な感じがしたなぁ。


 それにしても、即死攻撃を割として来る奴、割と多いよな。

 まあ、ちょっとビックリしたけど、念のためバフを掛けて置いて良かったよ。

 改めて思うけど、『アステルリヴァイブ』が使えてほんと良かったな。

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