159 万霊水窟6 熱砂半裂ギブシンサラマンダー

 有りっ丈のバフを盛ってから、洞窟の最奥に広がる空間に入る。

 まず最初に感じたのは熱だ。そう、鍛冶場や溶鉱炉などで感じる鉄火場の熱をだ。

 そして、目の前に広がる洞窟最奥の空間は、洞窟壁面の特に天井部分が『ライト』の明かりなど不要な程明るい。

 高さ15m程の広いホールを思わせる空間は、これぞボス部屋と言った感じだ。


¶フィールドBOSS 熱砂半裂ギブシンサラマンダーのBFに侵入しました。


 ズズズゥゥッとホールの中央で、地面に溜まった大量の砂が盛り上がり、何か巨大な物が砂の中ら浮上して来る。


 ドン! 地面の砂が弾け、ザァ――ッと大量の砂が流れ落ち音が響く。

 砂煙が晴れて来ると、漸く砂の中から姿を現した物の正体が見えて来る。


 パッと見の姿は、平べったくて大きな頭と、手足が短くて尻尾の長い体型が特徴的な、体長15mを超えるオオサンショウウオと言った所だ。

 砂に同化する様な色合いをしており、内側から発せられる高熱の所為か、熱を帯びたオレンジ色の光が浮かび上がる。


 その姿を見て直ぐに、『天の雫』を使うのはやめた方が良いと感じる。

 多分これは、『直感』と『直観』がWで仕事をしているな。


「チナ『天の雫』は無しで、先ずは『凍風衝波 竜気氷晶』を使って、それから『氷天零下水域』お願い!」

「にゅ! 分かったのじゃ!」

「それとサレスは、巨骸甲冑を装備してね!」

「応!」


 チナが、小さな体を大きく使い円を描く様に体を動かすと、冷気がチナに集まり周囲に冷たい風が吹く。『凍風衝波 竜気氷晶』を使うための予備動作だ。


『グルルゥゥッ!?』


 ボスのギブシンサラマンダーは、チナの動きに危険な物を感じたのだろう。体表面に浮かび上がるオレンジ色の光の面積が増え、ホールに溜まる熱量が増す。


「『凍風衝波 竜気氷晶』なのじゃ!!」

『ブォオオオオゥッ!! 『ヒートサンドストーム』』


 チナの『凍風衝波 竜気氷晶』と、ギブシンサラマンダーの『ヒートサンドストーム』が発動したのは同時だった。

 ズドドォ――――ン!! 極冷の突風を纏った氷霧の竜と、高熱でオレンジ色に光る灼熱の砂嵐が、バチバチと激しく競り合う様に激突する!

 一瞬拮抗したが、力も勢いもチナの氷霧の竜の方が勝り、洞窟最奥のホールを極寒の冷気が支配し全てを凍て付かせる!


「ふにゅ! わちのアーツの方がつよいのじゃ!」


 全てが氷で覆われ、ギブシンサラマンダーも白く染まる。

 それを見てドヤ顔をしたチナは、直ぐに『氷天零下水域』の準備に入る。


 シュボォ――――ッ!! 氷で覆われ真っ白になったギブシンサラマンダーが、猛烈な熱気を放ち蒸気を噴き上げる!


『ギガランパートセンチビート!!』


 巨骸甲冑を装備し終えたサレスが、ボスから蒸気が噴き上がったのを見て直ぐに防御アーツを発動する。


『グルブォオオオオゥッ!! 『熱砂爆裂ヒートサンドバースト』』


 ボスから噴き上がる蒸気が膨張し、蒸気の中から真っ赤な光が見えた瞬間……。


 ドゴォォ――――――――――ン!!!! 爆熱と共にオレンジを通り越して真っ赤に灼熱した砂が弾け飛ぶ!!

 それを遮る様に、『ギガランパートセンチビート』のムカデを彷彿とさせる壁が、砂の地面から迫上がり爆発の直撃を防ぐ!!


「ぐおおお!?」

「ふにゅぅ!」

「くっ!」


 壁のお陰で爆発の直撃は免れたのだが、爆発の影響でホール内を爆風が吹き荒れ、灰混じりの砂を巻き上げPTを襲う。

 うん。ミキサーに掛けられるって、こんな感じじゃなかろうか。


「わぷっ――!?」


 ホールを吹き荒れる爆風は、完全に砂嵐と変わりなく。その風に耐えられなくなった桜がヒュンと飛ばされ、あっと言う間に砂嵐の向こうに消えて行った。


「なぁっ!?」


 なんと。このBFで、桜がまさかの行方不明である。

 桜のアバターは小さいし、砂に埋もれてる居そうだなぁ。


『触れる物を全て凍て付かせる零下の水流、天より降り注ぎ全てを氷に閉ざす氷雨の空、氷点を越えて尚水の在り様を失う事無し。今此処に凍て付く水が支配する零下の水域を為せ!『氷天零下水域』!!』


 桜が行方不明になる中、チナが詠唱を成功させ『氷天零下水域』スペルアーツを発動させる。


¶水竜神ブエナの分霊チナが、領域『氷天零下水域』を展開しました。


 洞窟内に凍て付く雨が降り、ミキサー状態だったホール内の砂嵐を静めて行く。

 流石に水を吸収する砂の地面から、いきなり零下の水流が湧き出す事は無かったが、洞窟に乾燥を齎す地面の砂を徐々に湿らせ凍り付かせて行く。


 氷雨がギブシンサラマンダーの体に当たると、蒸気が発生して分かり難いのだが。

 グロォオオオゥッ! と苦しそうな声が蒸気の中から聞こえて来るため、『氷天零下水域』は間違いなくこちらに有利に働いていると確信できる。


「チナ、ナイスだよ!」

「うにゅ!」


 チナが自慢げな顔を見て、『チナは可愛いなぁ』と思いながら、サッとアステルエルアクシアを構る。

 さて、この優位を活かしてエルナも攻撃開始だ!

 

「凍て付けっ! 『次元氷結新星爆裂ディメンションフロストノヴァ』!!」


 紫の光の軌跡を描く矢が、ギブシンサラマンダーに向かって飛翔する。


『砂中潜行』


 凍り付いて居ても、砂である事には変わりがないのだろう。

 ズズッとギブシンサラマンダーが地面に沈み込み姿を隠す。


「逃がさないよ!」


 元々ホーミング性能の有る矢の軌道を、『PKサイコキネシス』で大きく曲げ地面に突っ込ませる。

 矢がそのままスッと地面を擦り抜け、砂の中に潜むギブシンサラマンダーを追撃する!


 バキバキッ!! 紫色の美しい氷晶が砂の地面を突き破り、砂上にその宝石の様な姿を見せる。


 グルォオオオゥ!? とギブシンサラマンダーが、砂の中で苦悶の声を上げている隙に、チエとサレスは氷晶に向かって移動し、チナは地面に樹根神棍ロマディアルヴルを突き立てる。


「『樹根打突』釣り上げるのじゃ!」


 砂の中を駆ける様に神鋼製の樹根が張り巡らされ、砂中で凍り付いたギブシンサラマンダーを一気に突き上げる!

 ドゴォ――ン!! 氷晶を生やしたギブシンサラマンダーが、見事砂上に打ち上げられる。


『神鳴雷牙』

『凍砕衝破!』


 ドゴゴォ――ン!! 吊り上げられたギブシンサラマンダーの頭にチエが斬り掛かり、グラディオリギュムから雷光が爆ぜ雷の龍が駆け昇る。

 続けて『コスモバーニア』で跳躍したサレスが、冷気を纏った金棒でギブシンサラマンダーの胴を真上から叩き付ける!


 ドガッ!バキャン!! サレスが金棒を叩き込んだ、ギブシンサラマンダーの胴が中折れする様に砕ける。


『グルォオオオオオオオオオッ!!!!』『私は砂であるエルソアレイア』『熱砂放熱ハジャソンジカロラレイア


 ジュワァ――――ッ!! チエに切り裂かれた頭とサレスに砕かれた胴の、ダメージを与えたその場所から砂に変わり、その砂から猛烈な熱が放射される!


「くぅっ!」

「なにっ!?」


 なんだ!? 二人が攻撃した所から高熱が放出された!?

 二人にダメージが入り、チエには火傷の状態異常が付いている。

 『熱砂放熱ハジャソンジカロラレイア』って言うのはカウンター攻撃か!

 とにかく、まずは二人を回復だな。


「『ステラリフレッシュ』『アステルセラフィア』! それと『コスモアバター・レストレーション』!」


 二人に回復を飛ばしていると、砂へ変わったギブシンサラマンダーが再び砂の中から姿を現す。再び姿を現したギブシンサラマンダーの体には、チエとサレスの二人が与えた筈の傷が何処にも見られない。

 もしかして、『私は砂であるエルソアレイア』って言う砂に変わるヤツ、回復効果でもあるのか?

 はぁ~、カウンター能力に回復持ちって、また厄介そうな奴じゃん!

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