154 万霊水窟

 『ライト』の明かりを頼りに、足場の悪い洞窟の下り坂を降りて行く。

 足場が悪いと言っても、エルナは装備のお陰で難なく降りて行けるけどな。


「うぉっ!?」


 サレスがバランスを崩して倒れそうになる。

 PTの中でサレスだけ足場の悪さに苦戦しているのだ。なので俺達は、サレスがバランスを崩した拍子に巻き込まれないよう、注意して降りなければならない。

 まあ、これは重量系キャラのサガってヤツで、しょうがないんだけどな。

 ちなみに、『コスモバーニア』で浮くのは却下された。

 『コスモバーニア』で舞い上げられた砂埃の所為で、とても酷い事に為るからだ。


 洞窟の下り坂を、サレスのみが苦戦して漸く降り切った。

 洞窟は、横にまだまだ続いている見たいで、天井は思ったよりも高い。

 と言っても、巨骸甲冑を出す事が出来ない5m未満の高さなんだけどな。


「ふにゅ~、全く水気が無いのじゃ。たぶんこの砂のが原因だと思うのじゃ」

「確かに乾燥してるのです。わたしの雷気で爆発したりしないか心配なのです」


 確かに、ここまで降りて来たのに全く湿り気が無い。それ所か、酷く乾燥している様に感じる。サレスの『コスモバーニア』で、砂埃が舞い上がって視界が塞がれてしまう位だし、チエの言う通り粉塵爆発の可能性も十分在り得る。

 ちょっと試して見るか。


『ウォータ』


 生活魔法の『ウォータ』で出した水玉が、空中に静止させた状態でみるみる小さく為って行く。物凄い勢いで水分が失われているのだ。

 水玉が無くなる前に『星覚』で探ると。失われた水分は、このパッサパサに乾燥した灰混じりの砂に、直接触れていないのにも関わらず、ドンドン吸われてしまっているのだと分かる。

 水気が無いのは完全にこの砂が原因か。すると此処のボスが、この砂を生み出したって事になるのかな?


「ここの乾燥、チナとチエは平気?」

「うにゅ。たぶん大丈夫なのじゃ!」

「いけるのです!」


 ふむ。水属性をメインに持つ二人が、一応大丈夫だと言うのだから、取り合えず先に進もうか。


「そっか。なら奥に進んでみようか」

「おう!」

「行きましょう!」


 『ライト』の明かりを先行させ、洞窟の奥に向かって歩み出す。

 奥に進んで行くと、何かが腐敗した様な臭いと線香の香りが混ざった、何とも言えない不快な香りが漂い出す。


 ミツケタ……ミツケタ…… カミ……チカラ……ウツワ…… ホシイ……ホシイ…… ダレニモ……ワタサナイ……

 囁く様な声が聞こえ出すと、白い煙の様な物がゆらゆらと姿を現す。


 ワタシノモノ…… ワタシガ……エラバレタ…… ワタシノ……ヨコセ!! ワタシノジンキ!!

 白い煙が幾つのも人の顔を模り叫び声を上げる!!


 神器を求めたが得られず未練を残して死んだ、そんな感じの幽霊のエネミーかな?

 この白い煙の様な幽霊、スペルアーツの『クリアソウル・ピュリフィケイション』や、『クリアソウルバニッシュメント』で簡単に倒せそうだが、もうちょっとお手軽に使える霊体攻撃が有った方が良いだろう。

 それに、『星輝』のスキルを修得するのに、『霊力』や『霊光』のスキルが必須で有るため、元々星輝は霊体に効くのだ。だから今なら霊体に効果抜群で、物理影響を及ぼさない強力なオリジナルアーツ攻撃も簡単に作れる筈だ。


『星輝霊滅!』


 カッ! パァァァ――――ッ!! エルナの手の平から、霊体への攻撃性を高めた星輝の光が、白い煙の様な幽霊共に照射される。


 ギャァアアアアアアアアアアアアア!!!! 白い煙に浮かび上がる無数の顔から悲鳴が上がり、シュゥゥゥ!! っと音を立て消滅して行く。うむ、瞬殺だな。

 こいつ等はほぼ俺の予想通りの存在の様で、生前神器クラスの装備では無く、正真正銘神の力が宿った神器を探し求め、色々やらかした愚者の魂の成れの果てと云う事らしい。今も神器を探し求めているらしく、神器を持って居ない桜以外を執拗に狙って来る。ほんと良い迷惑だな。


 そんな幽霊共を、『星輝霊滅』で瞬殺しながら洞窟を余裕で進んで行くと。

 急にエルナの足を何かが掴んで来る。


「Σえっ! わわっ!?」


 思わずビックリして、『浄星燐』の白い炎を足元に撒いてしまう。

 チュドン!! 灰混じりの砂がまるで火薬の様に爆発する。


「!!?!?」


 なんだ!? 何が起こった!? 砂が爆発したのか!?


「いたあっつぅ!?」


 爆発の熱と痛みが後から来る。


「つ、何で『浄星燐』で爆発?」


 星燐系の炎は、燃焼と言う現象だけを引き起こし、炎は生まれるがそこに熱は生まれない。だから、火薬を燃やしたって爆発しないのだが……。


「主様! 大丈夫ですか!?」


 さっきの爆発で砂埃が舞う中、チエが心配して駆け寄って来る。

 チエに大丈夫だと、返事を返そうとしたのだが砂がサァーっと動き出し、夥しい数の砂の手が地面から生え襲い掛かって来る! ド〇ク〇のマッドハンドかよ!?

 エルナの足を、いきなり掴んできたのはこいつか!


『コスモフリーズ!!』


 サレスが未だ砂埃が舞う中、粉塵爆発に気を遣い『コスモフリーズ』の凍結攻撃を試みる。

 カッ!! チュド――――ン!! またもや爆発、それも先よりも大きな爆発だ。


「ふみゅ!?」

「わわっ!?」

「うおおっ!?」


 またもや爆発し、今度はエルナだけではなくPT皆が巻き込まれる。


「くぅっ!?! 何でまた爆発してるのっ!?!?」


 『星覚』で探って見ると、如何やら『コスモフリーズ』に反応して、あの夥しい数の手が一斉に爆発した様だ。

 凍結攻撃なのに爆発するって……、これはそう言うカウンター能力って事か!?


 爆発でまたもや砂埃が舞う中、さっきの爆発で纏めて吹き飛んだ筈の砂の手が、再び地面から夥しい数を生やし、エルナ達に襲い掛かって来る!


「桜! 『ディメンションエクスターミネイト』を!」


「は、はい、分かりました! 『ディメンションエクスターミネイト』!!」


 桜のアーツによって開らかれた大穴が、ギュオォンと音を立て夥しい数の砂の手と宙に舞う砂埃を、纏めて一気に吸い上げ次元の彼方へと放逐する!

 砂の手を吸い尽し視界が晴れた後も、暫く地面の砂を吸い続け漸く穴が閉じた。

 『ディメンションエクスターミネイト』は、洞窟の灰混じりの砂を沢山吸ったのだが、全く減る事無く大量に残って居た。

 この砂が何処からか供給されているのは確定の様だ。

 そして、多分この砂を供給しているのはボスだろうけどな。


「ふぅ~、今のは危なかったね」

「うにゅ、危ない敵なのじゃ」


 あのマッドハンドならぬサンドハンドは、かなり厄介なエネミーだ。

 倒し方を考えないといけないな。


 あれから移動中何度も、サンドハンドの群れ? と遭遇し、倒し方を探ったのだが。サンドハンドは、水に濡れると爆発しなくなると云う事が分かり、それからは問題なく処理出来る様に為った。そう、サンドハンドは水濡れ状態なら、どんな攻撃でも普通に倒せるのだ。良かったよ。

 ちなみに、何で気が付いたのかと云うと、いい加減サンドハンドが鬱陶うっとおしくなり、チナがダメもとで水で押し流してしまおうとしたからだな。

 この洞窟では、灰混じりの砂の乾燥力で水属性はめっちゃ不利なのに、その水が使えないと倒すのが困難なエネミーが出て来るとか、中々嫌らしい仕様だよなぁ。


 分かれ道などの分岐の先を探索しながら進んで行くと。何と宝箱を見つけた。

 宝箱は神樹の宝箱で間違いない。高レアリティ確定だ。

 チナがお宝に反応していなかったのだが。その理由は簡単で、宝箱とその中身に邪念が染みつき、その影響でお宝と認識出来ていなかったらしい。


「うにゅ。わちのお宝センサーもまだまだ未熟なのじゃ」


 チナが腕を組み、うんうんと物思いに耽ってるっている姿が可愛らしい。


「主様、その宝箱はどうするのです?」

「もちろん開けるよ。呪われているなら、浄化すれば良いだけだしね!」


 チエさん、そりゃあ開けますよ。

 幽霊共じゃなくても、お宝欲しいのは俺も同じだからな!

 それにこの宝箱、後から回収するのすっごく面倒くさそうなんだよな。

 だから、今回収して置きたいぞ。


「呪われているって言うが、所謂ミミックとかの可能性も在るんじゃないのか?」

「ん~。私の『次元感知』のスキルには、宝箱にも中身にもエネミーの反応は無いですね。次元感知を誤魔化せるほど、強力なエネミーだと流石に分かりませんが」

「まあ、それはしょうがないよね。取り合えず浄化して見ようか」


 サレスの懸念も最もだが、桜の次元感知を信じよう

 場所が場所出し、非常に中身が気になるんだよね。

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