130 そうだ!天壌の楽園アルケシオンに行こう!

 動物達を送還してから家屋の外に出ると、星覚の情報通り集落の修行者達が魔法の明かりを幾つも浮かべ、武器を持ってエルナ達を待ち構えていた。あれだけ音を立てて戦闘して、その上ヤバい儀式呪法が発動しそうだったのだから、修行のためにこの山に来てる人達なら流石に気が付くよなぁ。


「巫女様方! これは何が有ったのですか!? ここは確かギドュニ殿の住まいだった筈です! 一体何故こちらに居られるのですか!?」

「私達がセーフティハウスで休息を取って居たら、侵略者達の襲撃を受けたんです。そして、この家屋には私達を襲撃した侵略者達の残党が隠れて居たんですよ」


 修行者達がエルナの言葉にざわつく。


「襲撃!? 侵略者!?」

「そんな馬鹿な!? あのお美しい人が!?」

「ギドュニ殿が侵略者だったと言うのですか!?」

「一党ですか……我々の知らぬ間にギドュニ殿が引き入れたと?」

「信じられんな……」


 修行者達の言葉を聞くと、ギドュニは美女に皆には相当な美女に見えていたらしく、とても侵略者だとは思え無かった様だ。

 自信の理想の姿を他者に見せる、ギドュニの幻覚能力の使い道はこれかぁ~。


「しかし、如何してギドュニ殿が、侵略者だと分かったのですか?」

「それは、私に創天の意思様から神託が降ったからですね」

「創天様から……、と言う事はエルナ殿は創天様の恩恵を受けてらっしゃるのですか?」

「はい。私、創天の巫女らしいので」

「なんと! しかし、エルナ殿なら確かに在り得そうだが……?」

「創天の巫女はエルアクシア様だけの筈だそ? 信じ難いな……」


 まあ、いきなり創天の巫女だと言われて信じられるわけもないか。

 普通に、恵持ってるだけって言えばよかったかな?


「エルナは創天の巫女に相違ないのじゃ! わちが保証しゅるのじゃ!」

「おお! この世界の神の分霊たるチナ殿が言うなら間違いない!」

「と云う事は、エルアクシア様に続いて、二人目の創天の巫女が現れたと言うのか!?」

「なんと! 我々が山に籠り修行している間に創天の巫女様が!? 儂、その場に立ち会いたかった! 悔しい!!」

「おお! これも幼女神の奇跡に違いない!!」

「ならば、ギドュニ殿が侵略者の手先だったと言うのは、疑う余地も無いですな!」


 チナの言葉で手のひらクルー、あっさり信じる修行者達。

 う~む、皆さんそれで良いのか?

 もう、これ完全に幼女教ですよね。幼女神とか言ってる奴いるし。

 この後、何が有ったのかを修行者達に話して聞かせ解散と為った。

 時刻は夜中の3時半と言った所だ。雪は降って無いとは言え、1月はこの星でもまだまだ冬の季節、夜は長く眠りの時間だからね。


「まだ真っ暗だよねぇ~、どうしようかな?」

「流石に、もう一度寝る気にはなれませんよね~」

「うにゅ、もう眠くないのじゃ!」

「フム。そもそも俺は、元々夜狩りに行こうとして訳だし。当然、全く眠くないぞ?」


 さて、今の時間は流石に迷惑になるので、行方不明の村人達の情報収集をする気は全く無い。するなら、少なくとも夜が明けてからだ。

 それに、皆言ってる様にガッツリ戦闘をして、目もバッチリ覚めた家のパーティーの面々は、基本的には睡眠を必要としない種族しかいない。要は二度寝をする気が起きないのだ。まあ、リアルなら二度寝してるだろうけどな。

 じゃあ、自分達が如何するのかと云うと。ここに、さっき手に入れたイベント報酬、拡張型セーフティエリア&ハウス 天壌の楽園アルケシオンの島主証章と云うアイテムが有る。これは、天壌の楽園アルケシオンと言う小世界の管理者となり、そこへ自由に行き来が出来る様になるアイテムだって言うじゃないか。うん。これは時間を有効活用するのに最適ではなかろうか?


「皆、さっき報酬で手に入れた手に入れた、小世界に行って見ようと思うんだけど。どうかな?」

「確か、天壌の楽園アルケシオンでしたっけ?」

「そそ、良いと思わない?」

「でも、今の時間行っても、そこも夜なんじゃないですか?」

「それはそうかも知れないけど、セーフティエリア何だし、夜だとしても安全でしょ?」

「ふにゅ! 新しいなわばりの確認はしゃんしぇいなのじゃ!」

「まあ、今更夜狩りの気分じゃ無いし良いと思うぜ」


 では早速、島主証章を使ってゲートを開いて見るか。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

島主証章よりゲート開門要請を受けました。

アルケシオン島への接続時刻を設定する事が出来ます。

島主が現在居る場所の時刻と同期する事も可能です。

設定を行ってください。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 お? なんか表示されたぞ? 向こうの時間帯を設定できるのか。一度決めたら変えられない、と云う様な設定では無い様だ。なら、昼間の時刻にして置くかな。

 俺の中では勝手に、楽園=南国ビーチのイメージだからな!

 時刻設定を終えると。神殿の門扉を思わせる真っ白な門扉が出現し、ゆっくりと扉が開いて往く。開いて往く扉の向こう側がチラッと見える。絵に描いた様な青い空に白い砂浜、南国の花々にエメラルドグリーンの海が見えた。

 テンション上がって来たー! やっぱ楽園と言ったら南国ビーチだよな!

 丁度リアルでは夏休みだし、IFO内でサマーバケーションと行こうじゃないか!


「うみゅ、良しゃげな島なのじゃ」

「ほぇ~、向こうは昼間なんですね~」

「時間帯を選べたから昼間にしたんだ」

「ほぅ、夏の海か……期待できるな!」


 いや、サレス! 今エルナの中身は俺なんだよ?

 自分自身の事とは言え、ジロジロ見られるのは勘弁して貰いたいんですけど!

 サレスに義眼が入った所為なのか、視線を余計に感じるんだよなぁ。

 まあ、あの風景とエルナのこのナイスバディを見たら、水着姿を連想して仕方ないかも知れんけどさあ……。

 そんな俺の思いとは関係なく。エルナの頬が熱くなる。

 エルナさん、めっちゃ恥ずかしがってるじゃん!

 まあ良い、兎に角ゲートを潜ろう!


「///……じゃ、皆行こうか!」

「行くのじゃ!」

「はい!」

「おう!」


 ゲート潜ると、扉の向こうに見た光景が……広がって無かった。


「あれ? 島じゃない!?」

「島主様、長らくお待ちしていました」


 声がする方を咄嗟に振り向く。そこに居たのは天使だった。比喩では無く文字通りの天使だ。頭上に輝く白い二重の天使の輪に、ゆるふわミディアムボブの光の加減で赤味がかる金髪。目は優しげな瞳で、右は深い青色左が明るい青色のちょっと地味なオッドアイだ。服はゆったりとしたフリルの付きの白いドレスで彼女にとても良く似合っている。足元には白い編み上げブーツが見える。

 そして、何より目立つのは三対六翼の真っ白な翼だ。

 もちろん美少女、それも正統派天使系美少女と言っても良いだろう!

 あと、多分スタイルは良いと思う。天使系美少女いいねぇ~♪


 Σあっ、ちょっとなんか自分が、天使だと勘違いした事がフラシュバックして、急に恥ずかしくなって来たんだけど!? これって、さっきサレスに見られて恥ずかしくなったのに続いて、多分これもエルナの感情だよね?


「あの~、島主様。よろしいでしょうか?」

「Σあっはい、すみません。いいですよ!」


 六翼の天使さんが、エルナに向かって優雅にお辞儀をする。


「では、改めまして島主様、ワタクシは小世界〈天壌の楽園アルケシオン〉の島主代行主席管理者、エイル・シオンと申します」

「えっと、私はエルナです。よろしくお願いします?」

「はい。島主様はエルナ様と仰られるのですね。末永くよろしくお願い致します」

「あのぅ、それでエイルさん。ここは何処なんですか? パーティーメンバーも居無いですし?」

「此処はバブルホール。所謂小世界の溜まり場です。エルナ様のお連れの方々は、先にアルケシオン島に移動していますよ」


 白く輝く空間に煌めく泡が無数に漂う。

 泡の中には、一つ一つ違う風景が広がり、この空間に有る泡全てが小世界の様だ。


「それで、なんでは私だけここに?」

「小世界の主と成られた方にこの光景を見せ、これから行くご自身の世界を外から見ていただく為ですね。そしてこちらが、ワタクシ共が島主代行を務める〈天壌の楽園アルケシオン〉です」


 エイルさん一つの泡を掬い上げ、エルナに見せてくれる。

 泡の中には、先程ゲートの扉が開いた時に見えた南国のビーチが広がっていた。


「今映っている場所は、南国のビーチをテーマにした島の一部ですね」

「えっ? この島全体が南国の島じゃないの?」

「はい。楽園は人それぞれですから」

「な、なるほど」


 確かに、楽園の定義は人によって違うか。


「さあ、それではエルナ様。ワタクシ以外の代行管理者や島民が、首を長くしてお待ちしております。早速行きましょう!」


 エイルさんがエルナの手を取り、そのまま手のひらサイズの泡の中に飛び込む。

 小さな泡なんて、簡単に突き抜けてしまう。

 そう思った瞬間、エイルと一緒に雲の中に放り出される。いきなりのスカイダイビングだ。雲を抜けると眼下に島と海が見える。

 あれがアルケシオン島か。そう思っていると、エイルがこちらに向き直る。

 

「エルナ様、長らくお待ちしておりました。ようこそ! 天壌の楽園アルケシオンへ!!」


 そう言って、本当に嬉しそうに微笑むエイルの笑顔がとっても眩しかった。

 これが本物の天使の笑顔かぁ~、感無量である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る