111 〈呪霊灰山 3合目〉分かれ道の先

 2合目の環境を整えた後。登山道が分からなかったので、星覚のスキルにより3合目に通じる空間の切れ目を探した。発見した切れ目に向かって移動していると、それが正解と言わんばかりに登山道に出た。


¶迷宮化領域〈呪霊灰山 2合目〉から〈呪霊灰山 3合目〉に侵入しました。


 登山道を進み、切れ目を超えるとアナウンスが流れる。迷宮化しているとは言え、登山道を進んだ方が良いのは、自明の理ってヤツだ。

 今後も為るべく登山道を進みたいね。

 さて、肝心の3合目は、雪の代わりに灰が積もった森と言った様子だ。スキルにチラホラと、大小の呪物系エネミーの反応が感じられる。大きいと言っても、ムカデほどの物はおらず、サレスの巨骸甲冑よりも少し大きい位だ。


「ようやく霧がハレたのに、こんどは灰が積もって真っちろなのじゃ!」


 そう言いつつも、チナは何だか楽しそうだ。時折り積もった灰を蹴って遊んでいるし、見た目が雪みたいで面白のだろう。

 それにしても、この積もった灰、装備効果が無ければ足を取られそうな感じだな。


 シカやクマ,キツネの、呪物エネミーと化した生物達と戦いつつ、歩みを進めると流石に暗くなって来た。

 そろそろ何処かで、簡易セーフティハウスを使って休むべきかな?

 そう考えていると、行く手に分かれ道が現れる。登頂ルートが、複数あるのかと思ったのだが、如何やら違うようだ。


 分かれ道には看板が立って居て、看板には右に進むと4合目、左に進むと修行者達の集落が有ると書かれていた。


「あー、これは集落に行かないと駄目だね」


「うみゅ、しょうじゃのう。修行者ちゅぎょうしゃたちの安否かくにんが必要なのじゃ」


「集落で、村を飛び出して行った人達の事も、何か分かるかも知れませんよね」


 チナと桜の意見は最もだ。この山で修行者していた人達が、如何なったのか知っておいた方が良いだろうし、村を飛び出した人達が如何なったのか、情報を得られる可能性が無いとは言えない。


「今夜の宿を提供して貰えるかもしれません。行くべきでしょう」


 もう一人の俺が賛成した所で、全員一致で修行者の集落に向かう事に為った。

 狸のエネミー等を倒して先に進むと、次第に積もった灰の量が多くなり、本来なら確実に足を取られる程深くなる。装備のお陰で、沈み込まなくて済んでいるけどな。

 日が完全に落ちた事も有り、辺りが完全に暗く為ると。


¶エリアBOSS 贄求める灰群狼 レギオングレイのテリトリーに侵入しました。

テリトリー内では、何時BOSSに遭遇するか分かりません。お気を付けください。


 お? 何時もと違うアナウンスだ。BFじゃなくてテリトリー、縄張りって事ね。となると、ボスは名前通り、贄を求めこのエリアを徘徊しているって事に為るな。


 戦闘に備えバフ盛り、スキルによる感知網を広げ、『ステルス・パーセプション』を使う。『ステルス・パーセプション』は、認識阻害みたいな効果だから、多分オオカミの嗅覚も誤魔化せるだろう。


 栗鼠や鳥,鹿のエネミーの反応は感じるのだが、スキルによる感知網にオオカミらしき物は引っ掛からない。ボスは何処に居るんだ?


 移動を続けると、星覚のスキルに建物らしき物の反応が現れる。

 建物が有る付近には、結界が張られているのが分かった。

 結界が有るのなら、集落は無事だろう。流石は、修行者達の集落と言った所か。


「集落が近い見たいだよ。結界が張られてるから、集落の人達は多分無事だろうね」


「うみゅ、わちも人の生命力を感知したのじゃ!」


 チナが人の生命力を感知したと言うのなら、集落の無事は確実だろう。

 安全地帯で休めるのならその方が良い。ボスを警戒しながら集落に急ぐ。

 集落に近づくと、雪が降る代わりに灰が降って来た。

 結構な量の灰が降って来て、一気に視界が悪くなる。


 バサッ! 地面に積もった灰が舞い上がり、灰の中から複数のオオカミが現れる。

 その内の一匹に、桜が一瞬で食べられ、他のオオカミはチナに群がる。

 如何見ても、小さくて襲い易い相手を、最初に狙った奇襲だ。

 直ぐに、地面に積もった灰の中らから、新たなオオカミが次々が現れ、エルナとサレスにも襲い掛かって来る。

 『ステルス・パーセプション』を使っているから、気付かれないと思っていたけど。これは、敵を踏んでしまった所為で、流石に気付かれたって感じだな。


「うにゅ!? 鬱陶しいのじゃ!!」


 バンッ! チナが、自分に襲い掛かって来たオオカミを殴り飛ばすと、固まった砂や土が砕ける様に崩れ去る。食べられらてしまった桜も、オオカミの内側から武器を出現させ砕く。


「ぺっぺっ! いきなり食べられるなんて、思いもしませんでしたよ。灰が口に入っちゃって、じゃりじゃりしますぅ」


 灰塗れに為った桜を見て、大丈夫そうだ思い安心する。

 自分に襲い掛かって来た最初のオオカミを、抜き放ったセレスティアラインで斬り、追加で群がって来たオオカミを蹴りつける。


 斬ったのも蹴られたのも、キャイン! と鳴き声を上げ、他と同じ様に砕けるオオカミ達。サレスも、オオカミ達を豪快に大剣で薙ぎ払い、金棒で叩き潰す。


「みゅぅ、こやつら傀儡のようなのじゃ」


 今も次々と、積もった灰から湧いて来る狼達は、如何やらエリアボスでは無いようだ。


『おまけに何の手ごたえもないのじゃ。おしょらく経験値0なのじゃ!」


 ええ!? こいつら確かにすっごい弱いけど、経験値0なの!?


『その様ですね』


 ソフィーちゃんが肯定して来たから、マジで経験値0か。

 こんな経験値0のエネミーを相手にするのは無駄だし、如何せこれを仕掛けているのはエリアボスだろう。さっさとエリアボスを見つけて終わらせたいぞ。


「ならこれの出番ですね!」


 桜がマザーの討伐報酬、暴風鞭打ギガヴァインウイップを『ディメンションストレージ』から取り出す。権能【次元干渉】により取り、『ディメンションストレージ』から出した後も、ギガヴァインウイップは空中に保持される。

 桜は次に『ディメンションバリア』を飛ばし、集落の結界の周りに展開する。


『ギガサイクロンウィップ!!』


 ええ!? いきなりフィールド攻撃とか、大丈夫なのか!?


¶高次元宇宙精霊、道案 桜がフィールド全域範囲攻撃『ギガサイクロンウィップ』を発動しました。


 マザーに使われた時は、チナの全力の『竜撃砲・爆流氷河』で、効果を発揮しきる前に潰した範囲攻撃が、本来の力を発揮する!

 鞭ボディが、巨大化しながら幾重にも枝分かれし、それぞれ意思を持った様に独自に動き出す。

 幾つかは、旋回運動を開始し暴風を生み出し、残りはエルナ達を避け縦横無尽に動き回り、次々と湧き出るオオカミ達を打ち据える。

 狼達が打ち据えられる度に風は強く為り、空に雲が沸き立ち稲光が走る。このサイクロン雷も伴う様だ。


「桜は、いきなり思い切った事をしゅるのう」

「うん、そうだね。私も驚いたよ」


 益々強く吹き荒れる暴風が、積もった灰を吹き飛ばし、森の木々を切り裂く。

 ドン! 雷が落ちると共に、豪雨が降り注ぐ。

 積もった灰から湧き出ていたオオカミ達は、豪雨の所為でその出現速度とオオカミ達自身の動きを鈍らせて行く。


 アオオォ――――――――ン!! 何度目かの雷が落ちた後、風雨と雷の音で五月蠅うるさいにも関わらず、狼の遠吠えが大きく聞こえた。


「この遠吠えは、エリアボスの物でしょうかね?」


 サレスの疑問に答える可く、こちらに向かって体高1m50cm程の灰色の狼が、一匹だけ駆けて来る。堪らずあぶり出されたって感じだな。


 その灰色の狼が、こちらに向かって一歩踏み出す度、背後に付き従うかの様に灰色の狼が姿を現す。更に、新たに現れた灰色の狼が、一歩踏み出す度にも、同じ様に灰色の狼が背後から、次々と姿を現す。


 Σええ、何こいつ!? なんか無限増殖してるんですけど!?


¶エリアBOSS 贄求める灰群狼 レギオングレイに戦闘遭遇しました。


 はあ~、なるほど。無限増殖するこいつらがボスで、これからがほんとのボス戦って訳だな。

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