88 パープシャル村の危機とエルナの眷属

 エルナの使い魔的な存在と成ったウサギ達は、『コネクト・アバタースピリット』でコネクトして居なくとも、主であるエルナにテレパスを飛ばす事が可能だ。と言っても、ニュアンスだけしか伝わらないのだが。

 ウサギ達から伝わってくるのは、『村に良くない物が現れた』と云う事だ。

もしかして、念のため、ウサギ達を村に残して行ったのは、大正解だったと云うヤツだろうか?

 『コネクト・アバタースピリット』を使って、取り合えずウサギ達の一羽とコネクトして、村の状況を把握しますか。


 『コネクト・アバタースピリット』を使用すると、光のコードがエルナから飛び出す。光のコードが伸びた先には、『ラビットボム』で呼び出し、村に置いてきたウサギが見える。ウサギに光のコードが繋がり、「コネクトしました」とログに表示され、ステータスにもコネクトアイコンが表示される。コネクトしたウサギの名前が、生贄1号なのはご愛敬だ。


 ウサギ達を通して見た物は、ちょっと信じられない様なホラーな光景で、およそ3mは在る一本角と長い手足が特徴的な痩身の鬼が、人間の口を抉じ開け、ぬるりと出て来ると言う物だった。

 出て来た鬼は灰色の長い髪の毛に、細身ではあるが筋肉質な身体は、灰色がかった青色をしており、申し訳程度の腰巻をしている。髪から覗く目は大きく、金に赤の虹彩を持つ目で、ぎょろりと辺りを見回している。

 あ~これは、〈腐灰水源〉の水を一度でも飲んだ人達は、やっぱり大丈夫じゃ無かったって事だろうな。ボスを倒して、直ぐにこんな事に為る何て、そうとしか思えないよなぁ。

 ちなみに、鬼はウサギ達に気が付いていない。

 たぶん、この子らの元に成ったウサギが、そう云うのが得意だったからだろうね。


¶緊急クエストが発生しました。

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緊急クエスト:パープシャル村の廃村の危機を救え!

異変前、現在の〈腐灰水源〉の水を飲んだ村人達の体には、村人達が気付かぬうちに鬼が巣くっていた。〈腐灰水源〉のBOSSの討伐により、その鬼が目を覚ましたのだ。一刻も早く鬼達から村を守らなければならない。


クエスト達成条件:全ての灰水鬼の討伐

クエスト失敗条件:『水球天浄星域』の要石の破壊


   クエストを受注しますか?   YES/NO

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また村に灰水鬼が出現した為パープシャル村はクエスト達成までBFに成ります。


 緊急クエストときましたか。しかも、失敗条件が、エルナ達が張った結界の要石の破壊とはな。しかも、しっかりとBFに成ってるし。

 もちろん、YESでクエストを受ける。

 ウサギ達に、村の結界の要石の破壊が、鬼達の目的だと伝える。そして、エルナ達が村に戻るまでの間、如何にか持ち堪え要石を守る様に指示を出す。


 さて、此処に来るまでの間に、既に〈腐灰水源〉のマップが完成しているので、パープシャル村へ戻る最短ルートも当然把握できている。

 チナには一旦、神具に戻って貰い。極光の虹翼を展開し、『煌気』で翼を覆い星輝を翼に可能な限り流し込む。バリバリと音を立てながら虹翼が大きくなる。

 ティアーズクロワの専用アーツ『アクセル』に、フロマエルアステリアの専用アーツ、『アステルブースト』と『メテオアクセル』を使用。

 スキル『魔力変換・属性』と生活魔法を駆使し、これまで行って来たプラズマの制御法を参考に、ジェットエンジンの様に星輝の噴流を生成する。

 超音速低空飛行で、迷宮化領域を一気に抜ける為に。


『ジェットアクセルスターライト!!』


 夜空を駆ける流星の様に、超高速で村に向かって飛び出す。

 ウサギ達が持ち堪える事を祈って。




 彼等は、人々からサンクエネム草原と呼ばれる場所に、古くから住んでいた。

 草原の暗殺者の異名を持ち、草原に生きる多くの生き物達に、畏れらたものだ。

 そう、彼等こそがこの草原の覇者であった。

 しかし、そんな彼らに未知の恐怖が現れる。それは、人と呼ばれる物の形をして居るだけで、彼等にとって空に輝く太陽と変わらない、自分達の手が決して届く事の無い絶対者だった。

 それは、自然の化身であると言われる竜を従え、何故か彼等を捕まえに来たのだ。

 当然、彼等は逃げ身を隠し、厄災が去るのを待った。

 だが、この草原で最高の隠密能力を持つ彼らは、何処に隠れて居ても何故かあっさりと見つかり、次々と捕まって往った。

 この草原で栄華を誇った彼等は、滅亡するかに思えたが。彼らを捕まえに来た者達は、種族を滅亡させる気は無かった様で、彼等の一族の152羽を捕らえ、終わりを告げるのだった。


 種は滅亡しなかったが、捕まった彼らは恐怖に慄く事に為る。

 一族の者が、竜を従える者に触れられた瞬間、光と成って消えてしまったのだ!

 しかも、ただ消えたのではない。皆幸せの絶頂の最中、最高の幸福を感じながら、光と成って消えて逝くのだ! まさに、恐怖でしかない!

 これを見た物は、助けを求める声を上げるが、それが天に通じる事は無く。

 その者も、他の一族の者と同じ様に、幸せそうに光と成って消えて逝くのだ。

 だが、これを見せ続けられた者達は気が付いたのだ。我々は選ばれたのだ、竜を従える者の生贄に成る事を。そして、一族の者は光と成って消える瞬間、竜を従える者の正体を知り、幸福の中で消えて逝くのだと……。

 こうして152羽のウサギ達は、光と成ってこの世から消え去ったのだ。


 光と成って消え去り、終わりだと思っていた彼等は、大いなる光の奔流の中に居た。光の流れる先には数多の世界が垣間見え、そこに飛び込めば新たな生を得る事が出来る事を、彼らは本能的に悟った。

 そして、本来なら自分達が此処に留まる事など、決して出来る筈がないと云う事も、同時に理解する。

 光の奔流の源泉の方を見ると、暖かな光りと輝きで、この光の奔流を起こす大きな星が見えた。この光の奔流は、あの星の持つエネルギーの余波でしかなく。その余波だけで、先程垣間見た数多の世界を、存続させ続ける事が可能な程だった。

 その時彼等に、大いなる畏敬の念と信仰心が芽生え、あの星が竜を従える者である事を理解し、自分達が大いなる存在の生贄と成り、眷属と成る栄誉を得た事悟ったのだった。


¶あなた達、エルナちゃんの眷属に成るのね。あの子は私の大切な曽孫だから、あの子の言う事をよく聞いて、誠心誠意仕えるのよ?


 彼等も知っていた。この声が、全ての存在の起源たる創天の意思の声であると。

 こうして彼等は、『ラビットボム』として、エルナの眷属に成ったのだ。




「きゅっ、きゅきゅぅ~?(リーダー、姫との連絡は取れたのですか?)」


「きゅ、きゅきゅう。きゅきゅぅ、きゅうーきゅっ!(ああ、取れたぞ。姫はこの村の防衛を、俺達にお任せに成られたぞ!)」


「きゅきゅっ。きゅきゅぅ~きゅきゅっ、きゅー!(漸く実戦ですか。姫やチナ殿にモフられる任務以外は、初めてですね!)」


「きゅっ、きゅっきゅ、きゅーっ!(ふふっ、私達の力が見せられるとは、腕が鳴るわね!)」


 ウサギ達は、初の戦闘任務と来て気合十分、やる気に満ちている。姫のオーダー通り、村の結界の要石を守り抜く。ウサギ達の気持は既に一つに纏っているのだ。


「きゅう~、きゅきゅう。きゅうっ、きゅきゅう?(そう言えば、姫が新しい眷属を迎えたそうじゃないですか。皆さんは、その方がどんな方か知ってます?)」


「きゅ~、きゅっ、きゅきゅぅきゅ。きゅ、きゅきゅ~きゅう、きゅっきゅきゅ?(あ~、あの方は、直ぐに眷属神に成るだろう逸材だよ。多分、筆頭眷属であるソフィーちゃん様と同じ様に、私達の上役になるんじゃないかな?)」


「きゅっ? きゅきゅ!? きゅっきゅきゅう~!!(えっ? そうなんですか!? それは凄い方が来ましたね~!!)」


 『姫の眷属に成って、俺達の初の戦闘任務だ。皆の気合は十分、新しい力を得て生まれ変わった、俺達ラビットボムの力を、あの青鬼に見せてやろうじゃないか!』

 眷属と成ったウサギ達の戦いが始まる。

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