83 〈腐灰水源〉で呪われた龍蛇を救う
相変わらずの視界不良の中、足取り軽くウキウキ気分で、迷宮化領域〈腐灰水源〉の水源目指して歩みを進める。腐敗臭も、鼻が馬鹿に為ったのか気にならない。
それに、今は新しいアクセを手に入れて、ご機嫌なエルナの気分に引っ張られている。だって俺自身、こんな腐った水に浸水された森の中だと言うのに、まるでピクニックに来た様な気分に成っているからな。
歩みを進めると、これまでと様子が変わって来た様で、認識できる範囲の全ての木々が浸水しており、スキルにより水深も増している事が分かる。視界が効く距離まで、木に近づいて見ると。木の樹皮に真っ白な灰が、長い年月を掛け厚く積もったかの様に成っていた。
不意に気配を感じ、木の樹冠に視線を向けると、霧の中から何かが飛んでくる。
また蜘蛛の糸かと思い、常時展開中の、『星燐』,『浄星燐』,『星浄煌炎』のアーツの、光と炎が一緒になった光炎を飛ばして迎撃する。
迎撃に放った光炎命中すると、キラキラエフェクトと遊色効果で虹色に煌めく白い炎が発生し、粘液が絡みついた触手を思わせる飛来物を燃やし、更にその先にいる本体まで燃やす。
グワァ! と燃やされた物が、カエルっぽい鳴き声を上げ、木から落ちると同時に、エルナ達の上下左右360°至る所から、先程同じ物が飛んで来る。
脅威は感じないが気持ち悪いし、触手プレイとか勘弁願いたいと思うと。
『氷結凍陣なのじゃ!』
と言う声と共に、チナがアーツを発動する。ゾクッとする様な冷気が発生し、エルナ達に飛んで来た、触手らしき物は皆凍り付き、触手を伝い本体も凍結する。
「さっすが、チナ! 攻防一体の一手だったね!」
「ふにゅ! わちに掛かれば当然なのじゃ!」
ナイスアーツで、敵を一網打尽にしたチナを、「偉いねぇ~♪」褒めて撫で撫ですると、チナもご満悦な様子だ。
ドヤ顔をしながら、尻尾を嬉しそうに揺らしているのが、とっても可愛い。
襲撃して来たのは、体長50cmはあろうかと言うカエルのエネミーで、あの触手見たいなのは、カエルの舌だった様だ。恐らく、リンクして襲い掛かって来たカエル達が、大量のドロップアイテムへと変わって往く。隠密性が高くて、アクティブなエネミーの癖に、リンクして襲い掛かって来るとは、嫌なカエルだな。
そんなカエル達を、一度に大量に倒したのがいけなかったのか、凄く大きなサイズのエネミーの反応が、結構な速さで近づいて来る。
「にゅ? デッカイ蛇が来るのじゃ!」
チナがいち早く、近づいて来るエネミーが、大きな蛇だと言う事に気が付いた。
エルナのスキルも、チナの言う蛇の情報を伝えて来る。
そいつは、最大横幅2m,体長30mの巨大蛇で、本当に蛇かと疑いたくなるその巨体を、水中でくねらせながら、泳いで此方に向かって来ているようだ。
この蛇現実世界に於いて、史上最大の蛇として知られるティタノボア、その最大とされる物の二倍以上のサイズである。
あ~、でもまあ納得だね! このカエル達は蛇君のご飯だったって事だろう。
だから、ご飯であるカエル達を食べ様と、こっちに向かって来てると言う訳だ。
蛇君、君のご飯はもう消えちゃったから、こっちに来ても意味ないよ?
そんな思いは通じず……
¶変異
え? 変異? 何それ聞いた事無いよ?
『シズル様。これは、野生のBOSSモンスターや魔物見たいな物です。他にも、特殊個体とか特異個体とか色々いますので、アナウンスが流れる様な物は、BOSS的な何かだと思っていれば大丈夫ですよ』
素早くソフィーちゃんが、フォローを入れてくれる。
蛇は巨体に白い灰をオーラの様に纏い、その隙間から見える濁った白い龍鱗が、ぬらりとした光沢を見せ、霧の中から姿を現す。
濁った水から見ても龍鱗を得ているのが分かり、角は無いく目は赤いアルビノの巨大な蛇だ。本来は真っ白な体をしているのだろう。
蛇の怒りを掻き立て狂わそうと、呪詛が全身を蝕み蠢いている。
それが苦しいのか、今もとぐろを巻きながら体をくねらせる。
迷宮化と呪詛の影響で変異しながらも、エルナに助けを求め姿を現した様に見えた。だが、呪詛は蛇の魂にまで及んでおり、蛇を操り大きく鎌首をもたげさせ、攻撃態勢に入る。
如何見ても、カエル狙ってきた訳じゃ無いよね。
「このへびは龍のしぇいしちゅを得た龍蛇なのじゃ。おしょらくこの地で神格を得ようと、修行しゅてたに違いないのじゃ……苦ししょうで、かわいそうなのじゃ……」
ほほぅ、神格を得ようと修行していた龍蛇ねぇ。智慧を持った霊獣とかそういう感じの物なのかな?
チナは、この龍蛇が苦しんでいるのが分かる様で、少し悲しそうだ。
それにしても、白蛇なんて現代日本にでも、神の使いとか神の化身とか言われて珍重される物だし、神に成ろうと修行しているのが白蛇って言うのは、日本人としては思う所があるよね。
まあ、何にしても今のエルナでは、一度この龍蛇を倒してからでないと、助けるなんて事出来無さそうだ。
「チナ! 取り合えず、この子は倒してからじゃないと助け様がないよ! だから戦うよ!」
「ふにゅ、大丈夫なのじゃ。わちもしょこはちゃんと分かってるのじゃ!」
龍蛇の全身を蝕む呪詛が、大きくうねる様に膨らみ、怨嗟の念を撒き散らす。さあ、戦闘開始だ!
『氷棺凍結なのじゃ!』
チナが先制攻撃攻撃を仕掛ける。『氷棺凍結』は氷の棺桶に敵を閉じ込め凍らせると言う分かり易い効果のアーツだ。相手の動きを封じダメも入る何より、あの龍蛇の巨体で暴れられたら堪った物では無い、まさにベストな選択だ。
チナが動きを封じてくれたので、やり過ぎない様丁度良いダメージで倒したい所だ。オーバーキルでボディ消滅した上、一気に魂が昇天してしまったら、流石に蘇生できるか分からんしな。
『極光虹翼爆裂閃煌』は、如何やってもオーバーキルに為りそうなので、『煌気重爆撃』のアーツに、既に発動している『星燐』系三つのアーツを乗せれば、威力の加減も含め呪いにも効いて倒せる筈だ。
ちなみに、氷に炎をぶつけて大丈夫か、と思うかもしれないが、星輝の炎は炎の様に見えるけど、星輝が炎の燃焼現象を得て変化した、高エネルギー体なだけから問題ないのだ。
『煌炎浄化重爆撃!!』
ゴッ! ドオオオオォォォ――――ン!! 質量を持った超加重の煌炎が、氷棺で動けない龍蛇だけを押し潰し、暴力的なまでの浄化の力を持った爆炎で龍蛇を焼く。
爆発で氷棺が吹き飛んでしまったが大丈夫だろう。
「わち、ちってたのじゃ。エルナは爆発しゃしぇるって」
くぅ、開き直ったとは言え、チナの言葉がなんだか痛いなぁ。
でも仕方ないんだ、爆発させるのが得意だからね!
爆発が収まった後、龍蛇は原形を保って倒れていた。
良かったちゃんと加減できた様だ。
だがまだ、龍蛇を操ろうと呪詛が生きており、ここに来てから戦ったBOSSと同じ様に再生して往く。
蛇だからなのか、再生も早い気がするな。
再生した龍蛇は呪詛により黒く染まった雷を纏い、起き上がる。
¶変異
荒れ狂う水流と嵐が吹き荒れ、その中を黒い稲妻が幾筋にも分かれ、轟音を響かせ宙を駆け巡る。
パッと見思ったのは、この攻撃呪詛の所為で、本来の物よりかなり弱体化してるんだろうなぁ、と云う事だ。まあ、何となくだけどな。
『水天凪払いなのじゃ!』
龍蛇が再生する前から、力を高めていたチナがアーツを放つと。美しいキラキラとした水が、風の様にフィールドを駆け抜け、『呪雷水嵐』により引き起こされていた現象が、ピタリと治まる。まさに凪ぎの様に。
龍蛇に加減をしながら、止めを刺すのに丁度良いのは何かと考え、【神山槍天ヴァジュラ・ブラフマシラス】の専用アーツ、『
『プラネットバースト』で良いかなと考えもしたけど、『
ヴァジュラを、元の大きさに戻してアーツを発動する。
『
現実世界で語られる神話や仏教にある通りの、黄金の炎がヴァジュラから噴き出し、自らの攻撃が無力化された事で驚き、動きが止まっている龍蛇を襲う。
『
更に暫く経つと、龍蛇の身体から呪詛で汚れ弱った魂が、抜け出て来たので、それをキャッチする。魂にまだ
『クリアソウル・ピュリフィケイション!』
優しい光が龍蛇の魂を包み、魂に張り付いた呪詛を溶かす様に消し去り、同様に魂が受けたダメージも消し去る。
綺麗に成った龍蛇の魂は、嬉しそうにキラキラ光る。
さて、これで『パーフェクトボディ・リザレクション』を掛ければ十分なのだが、此処には水竜神の分霊がいるんだよねぇ。
チナに協力して貰えば、龍蛇なんて中途半端な身体じゃなく、ちゃんとした龍にして上げられると思うんだよね~。
竜と龍は、実質同じ物だと前に聞いたしね。
「ねぇねぇ、チナ」
「ふにゅ?」
チナに呼びかけると、チナはこちらに振り向き小首をかしげる。
やっぱ、家の子は可愛いな! って、そうじゃなくて要件を言わないとな。
「この子とチナが、良いって言うなら何だけど。この子の身体、龍にしちゃって良いかな?」
「Σみゅっ!? しょ、しょんな事できるのじゃ? ……できるのなら、別にわちは構わんのじゃ!」
龍蛇の魂にも聞いて見ると、OKって感じに明滅する。むしろ、嬉しい位と言わんばかりにキラキラする。
では、お互いに了承が得られたので、チナから髪の毛を一本と残った龍蛇の身体を星輝還元する。星輝の成ったチナの髪の毛と龍蛇の身体を使って、新しい身体を構築するつもりだ。
その為に、龍蛇の魂から元の身体の情報を引き出し、チナの髪の毛から得た龍に必要な情報と掛け合わせ、完全な龍に成る様に情報の置き換えをする。
さあ、これで準備は整った。後は龍としての身体を構築して紐づけ、『パーフェクトボディ・リザレクション』を掛けるだけなのだが……これって、実質転生じゃね?
そうなると、使うのは『リーンカーネイト』って事に成るけど。
それだと、転生先を選べないから、新しいアーツとしてやるしかないな!
場所が場所なので、空中で体を構築開始する。
まず、龍としての新しい身体を構築する。そして、その身体に龍蛇の魂を紐づけ、魂と新しい身体がきちんと馴染む様にして……。
おっとそうだった! この子はチナが言っていた通り、神に成ろうと修行してたんだっけ。星輝からもその事は伝わって来ていたからな。それも、ちゃんと考慮しないと可哀想だしな。後メスだったな。
『ディサイド オブ リーンカーネイト!』
アーツが発動する手応えがあり、エルナが構築した新しい体に龍蛇の魂が入り、光がエルナが創った龍の身体を覆う。
ん? あれ? 光が小さく成って往くのに、龍の身体が見えて来ないな?
光は小さく成りながら、エルナが抱えられる位の大きさに成って降りて来た。
エルナの腕の中で、光が消えると一個の大きな卵が姿を見せた。
ありゃ? 卵に成っちゃったぞ? やっぱり別の種族に成る様に、身体を作り変えたのがいけなかったか?
「おお~! エルナ大成功なのじゃ!」
「えっ? これ成功で良いの? 卵に成っちゃったから、失敗したのかと思ったよ」
「うみゅ、成功なのじゃ! おしょらく、完全な龍の体に適応しゅるために、一時的に卵に戻っただけなのじゃ!」
なるほど、失敗じゃなかった様である。しかし、この卵どうしようか?
ティアーズクロワに収納して置く?
それは、やっても大丈夫そうだけど、何か育児放棄した見たいで、人としてやってはダメな気がするな。
「卵はわちが預かるのじゃ、この子はわちの妹見たいな物なのじゃ!」
如何やら、チナが預かってくれるらしい。
エルナには、ティアーズクロワに収納する位しか、持ち運ぶ方法が無いし、チナが預かると言うなら大丈夫だろう。
それに、チナの髪の毛も使用して身体を創った訳だし、妹見たいな物と云うのは分からなくも無い。
チナは卵を受け取ると、ブエナの神域らしき場所に空間を繋げ、そこに卵を仕舞う。もうこれで、あの龍蛇は大丈夫だろう。
「わち、お姉ちゃんに成ったのじゃ! えっへん!」
思わぬ形では有るが、妹が出来た事は、チナにとって凄く嬉しい事の様だ。
姉の威厳を見せる練習かな? まあ、何時もドヤ顔なんですけどね!
ちなみに、自身の領域に空間を繋げる能力は、領域を持つ神やその分霊にとっては基本能力との事。
¶変異
特別討伐報酬がギフトボックスに送られます。後ほどご確認ください。
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