75 霧の中へ
アーツを発動すると、エルナを中心に地面から様々な色の光の粒子が、円を描く様に立ち昇る。光が一瞬ぎゅっとエルナに向け圧縮された後、外側に向け弾ける様に一気に広がる。円を描く様に立ち昇る光が、押し迫る壁の様に白い霧に向かって広がり、勢い良く衝突する。
バリバリィッ!! と嫌な音を立て、あっと言う間に白い霧を消し去って往く。
アーツの光がかなりの広範囲を駆け抜け、白い霧も大分消えたのだが。
『星浄』のアーツ効果が終了した後。直ぐに、白い霧が蟲の幼虫がうぞうぞと蠢いているかの様に動き、直ぐ様元の位置まで白い霧に覆われた。
非常に気色悪い動きで元に戻った白い霧は、如何やら浄化される様なモノで在るらしい。やっぱり、呪いかな?
あの白い霧、蟲の幼虫見たいに動き周って気持ち悪いし、あの中を進みたくないなぁと、思うけど……。まあ、行くしかないよなぁ。
チナもウサギを抱きかかえながら、非常に嫌そうな顔をしている。
「うわぁ……、アレはちょっと生理的に無理と言うか……」
「アレはわちも気持ち悪いと思うのじゃ……」
しかし、あの霧の中を進まないと。流石に、今回の依頼兼クエストを達成する事は出来ないだろう。
取り合えず、非常に気色悪いあの霧に触れて移動したくないので、簡単に出来そうなオリジナルアーツを考えた。
スペルアーツの『星域結界』に、『星浄』合わせたオリジナルアーツを作れば、移動可能な星浄結界になって、安全に白い霧の中を進めるアーツに為ると思う。
と言う訳で、『星浄星域結界』発動!
何時もの『星域結界』の中に『星浄』の光が立ち昇り、結界内をその光で満たしそのまま外に広がる。白い霧に、結界から出る光が当たる様に移動して見ると。
バリバリィッ!! と白い霧を打ち消す。これは成功かな?
ちなみに、『星浄星域結界』はスペルアーツに登録されていた。エルアクシア神が、既にこのスペルアーツを編み出していたのかな?
「それじゃあチナ、行って見ようか?」
「了解なのじゃ!」
チナの元気な返事を聞き、一緒に白い霧の領域へ、バリバリと音を立て侵入する。
¶迷宮化領域〈霧中白思の山道〉へ侵入しました。
おおっと、アナウンスが来たぞ。〈霧中白思の山道〉と言う名前からして、あの白い霧は人の思考力を奪いそうな感じだな。
もしかしたら、村の人達が異変を感じても、直ぐに冒険者ギルドに依頼を出さなかったのって、これの影響が有ったりして?
とにかく、『星浄星域結界』はちゃんと機能している様で、今も元気にバリバリと音を立てている。視界は全く効かないが、直観と星覚のスキルが明確に働いている様で、パープシャル村にはどう進んで行けば良いのか理解できた。
ちなみに、直観と星覚のスキルが、やはりこの霧は思考能力を奪う物だと、エルナに知らせて来た。
それにしても、何だか何時もよりエルナの放出する星輝以外の、自然の星輝が多い気がするな。まあ、お陰で星覚のスキルが、何時もよりハッキリ働いているのが分かるんだけどさ。
『シズル様。この地は大地を流れる星脈が、地表面近くに浮上してきている場所の様です。シズル様の世界の知識で言うと、龍脈と呼ばれる概念に近いモノですね』
俺の疑問に、ソフィーちゃんが直ぐに答えてくれる。
ほほぅ、龍脈ねぇ。確かに、白い霧で視界が全く効かないにも拘らず、大きな星輝の流れが、光の道と成って伸びているのが、何故かハッキリと見て感じられる。
なるほどね。だから、自らの霊性や能力を高める為に、修行者達が訪れる修行霊場として有名なのかもね。
ちなみに、現在直観と星覚のスキルにより、脳内に3Dマップレーダー見たいな感じで、自身の向きと目的地のパープシャル村への道。そして、村の場所その物が分かる様になっている。
移動速度は、流石に視界が効いていないので、ゆっくりにならざる負えないけど。
「にゅ、敵なのじゃ!」
チナが、白い霧の中に居るエネミーに一早く気が付き、敵の居る場所を指し示す。
チナが指し示す場所から、感じた事のないタイプのエネルギーの波長を感じる。
だが、ハッキリと分かる。これは、この世界のモノでは無く、その上間違いなくこの世界に害を為すモノだと。
結界の内から外へ出る『星浄』の光を、敵がいる方へ仕向けると、バリバリィッ!! と光が霧を払うと、敵が姿を表す。
十七体程いるそいつらは、身長70cm程度の人型で、その体は白くのっぺりとしており、粘土か石膏で出来ている人形の様に見えた。
頭が大きくて手足は短い、ドワーフ等と同じ系統の、ずんぐりとした体形をしている。頭には、申し訳程度の三つの穴が開いており、顔の体を成している。
そして、全体にソフトクリームを絞る機械で絞った様な筋が付いていた。
日本が世界に誇るアニメーション映画、もの〇け〇に出て来る木霊を中途半端にデカくして、気持ち悪く存在感を強くしたモノ、と云うのが一番近いイメージだ。
奴らはカクカクと動きながら、こちらに近づいてきており、口? から何かささやく様に音を出している。
狂禍狂禍狂禍…… 苦呪苦呪苦呪…… 刻哭刻哭刻哭…… 怨死怨死怨……
うむ。碌でもない感じなのが良く分かった。
如何にも、自分たち呪いますよって感じの奴らには、アーツ『星燐』と『星浄』を合わせて浄化の炎へ変え。更に、呪いってとてもしつこそうなので、『煌気』のアーツを加えて、念入りに焼き尽くす。そんなイメージで、新たなアーツを創り出す。
『星浄煌炎!』
虹色に輝く星の炎が、出来損ないの泥人形にしか見えない奴らを襲い、一気に燃やす。奴らは怨嗟の声を上げる間もなく、激しく燃え上がる虹色の炎に跡形もなく、燃やし尽くされるのだった。
ちなみに、『星燐』を基準にしたアーツなので、止めようとしなければ炎が出続け、燃やすモノを選べる仕様だ。
ありゃ、これはオーバーキルだったか? 跡形も残らないとは……ん?
何も残らなかった様に見えたが、奴らの居た場所には魔石とは違う、綺麗な石が落ちていた。
モンスターじゃないのにドロップアイテムを残したのか?
そんな事を考えていると、チナがトテトテ歩いて行き綺麗な石を拾ってくる。
「エルナ、これは浄霊石なのじゃ、色々使える便利な石なのじゃ!」
チナがニッコリ笑顔で、両手に乗せた浄霊石とやらを見せてくれる。
うむ。チナめちゃ可愛い。浄霊石をティアーズクロワに入れて、チアを偉い偉いと撫で回す。
浄霊石についてだが。この石は、霊場や霊峰等と呼ばれる様な場所で、それなりの量が産出される鉱物の一種で、対霊,対呪や浄化アイテムの素材に成ったり、結界の要石等に利用できたりと、色々と便利な石であるらしい。
霊場,霊峰で採れると言っても、別に星脈の近くでなくとも採れる鉱物であり、珍しくは有るが希少では無いとの事。
そして、恐らく浄霊石がドロップした理由は、奴らが浄霊石を穢し核にして生み出されたからではないか、と言う事らしい。
所謂、呪物とかそういった類のモノという事だ。解説はソフィーちゃんでした。
その後もパープシャル村に向け山道を進んで行く最中、呪物と思わしきエネミーと何度も遭遇する。
鹿の胴体の前後に、牡鹿の頭が生えたエネミーに、どう見てもアンデットにしか見えない腐ったリスの群れ、白い霧に完全に同化して、奇襲を仕掛けて来る白馬。
馬は結界が有ったので、奇襲を受けても何も問題なかったけど。とまあ、こんな感じでエネミーと遭遇しては撃退し。
エルナのスキル的に、もう直ぐ村に着くという所で、周囲の空気が変わる。
吐き気と共に、泣きたくなる様な重く苦しい空気が、霧の中から漂ってくる。
更に進むと霧の中にゆらっと、小山を思わせる大きな影が見えた。
¶フィールドBOSS 灰霧獣・屍呪哭のBFに侵入しました。
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