59 ネームドダンジョンコア〈見えざる浮遊山林・スペシネイト〉戦 後

『どうじゃ? わちの水玉凄いじゃろう!』


 チナの言う通り『水輪の聖域』は凄く、大きな水玉の内と外では完全に別空間となっており、外の音も聞こえないし安全が確保されている様だ。


「チナ凄いよ! 偉い!」


 そう言って、竜の姿をしたチナを撫で回すと、満足そうな声を出すのだった。


 さて、水玉の外ではスペシネイトが作り変形させた、ガンガゼの姿を思わせる棘々した空間の歪みに、たっぷり溜めた込んだ力を発揮しようとしていた。


 空間の歪みの内側から、膨大なエネルギーと共に赤く波打つ光が、ガンガゼの棘の様に見える杭の先端に向かって往く。光が先端に届くと、瞬間的に杭の大きさと空間の歪みが増大し、ダンジョンを構成する空間が貫かれ砕け散る。

 一瞬、何もない空間の挟間とも云える闇が垣間見えた。そう思ったら聖域と化した水玉が、まるで瞬間移動した見たいに、スペシネイトの方へ一気に移動していた。

 恐らく、スペシネイトの空間の歪みで出来た杭が、ダンジョンを構成する空間を穿ち、崩壊消滅させたのだろう。

 しかも、次の杭打ちのエネルギーを、既にチャージし始めている様だ。もしかして、空間が崩壊した時に発生したエネルギーでも、取り込んでいるのか?


 取り合えず、『ディストーション・パイルズマウントクラッシャー』って攻撃は、空間を穿つ範囲内に居ると、直撃して無くとも空間崩壊の大ダメージ与え、『ダンジョンコンプレッション・バーンディストーション』の制限時間を短縮して、最終ダメージも上げるって感じかね?

 こうなると、こちらの時間的猶予も一気になくなる。

 何とかして、スペシネイトに大ダメージを与え倒す必要があるな。

 にしても、きっと水玉の外は物凄い不快な音が鳴り響いていたに違いない。

 ま、水玉の中は別空間の所為か、外の音聞え無いから実際の所は分からんけどな。


『みゅう。あのウニの棘、わちらを攻撃するたびに、壊した空間のエネルギーを吸って、威力が上がるようじゃな』


 俺の考えを肯定する様にチナが話す。チナ曰く、折角『水輪の聖域』を張ったけど、間違いなく最後の爆発は耐えられないとの事。

 やはり、スペシネイトをとっとと倒すしかない。


 さて、スペシネイトを倒すにあたって、あの空間の歪みを何とかする必要がある。

 【星法】を使って、空間破壊攻撃のアーツや魔法でも作ろうかと考えもしたが、ダンジョンコアなんて空間操作に長けた存在に、同じ様な空間攻撃を未熟なエルナが使用して、有効なのかと思ったため別のアプローチをする事にした。

 別のアプローチとは、覚えたアビリティ全部が、使えば自分も只では済まないと感じる、【閃星】の権能だ。

 この権能には、星々のエネルギーと運行を操る力がある訳だが、運行を操れると云うなら当然重力も操れる訳だ。

 そして、重力が空間に影響を与えると云う事は、宇宙を好きな人なら皆知っている事だろう。ブラックホールの重力レンズとかね。

 おっと! アビリティに『ブラックホール』が勝手に追加された様だ。

 この勝手に登録されるアビリティって、威力的に自分も危ないって云うのも有るだろうけど。多分、父親であるシュライン神が、そのまんま使っているアビリティなんじゃないかと思う。それに、惑星の天候を操ったり、他の星の自然現象を引き起こしたりも出来そうで、やっぱりこれチートだよなぁと思う。

 まあ、それは兎も角、【閃星】の権能を使ってスペシネイトの空間の歪みをぶち抜き、その穴が塞がらない様にできたら良い訳だ。

 当然、参考にするのは現実の世界のブラックホールなのだが、ブラックホールは超巨大質量と猛烈な超高速スピンをしている事で、超重力を発生させ時間と空間に影響を与えるヤバい天体だ。

 そして、その重力の所為で光すら抜け出す事ができない、ヤバい天体のブラックホールだが、自身も他の天体の影響で、その重力の重心がぶれる為、ブラックホールの自転がぶれて、小さく複雑な軌道を描く事になる。さながら、ブラックホールが周囲の空間を削るかの如く、ぶれて回転するのだ。このイメージで、自分が巻き込まれない様に力を制限して、『水輪の聖域』の外に右手だけ出す。


『グラビティ・スパイラルスピンホール!!』


 超高速螺旋回転する超重力の渦が、横に伸びる黒い竜巻の様に進み、スペシネイトの空間の歪みの杭に接触する。音は聞こえないが、まるでガンガゼの棘の様に伸びた、空間の歪みで出来た杭がへし折れ、ダンジョンコアであるスペシネイト本体が覗ける穴が開く。

 スペシネイトが自身に繋がる穴を、空間の歪みを集めて塞ごうと力を入れるが、エルナの作った重力の渦が、その空間の歪みを引き込み穴を塞げない様だ。

 良し! 上手くいったぞっ! 

 開けた穴も塞がらない様に、上手くできた見たいだし、バッチリだな!

 アレ? 『グラビティ・スパイラルスピンホール』、アビリティになるかなぁ、と思って作ったのだが、オリジナルアーツの方に登録されてるな。まあ、良いけどね!


『おおっ! エルナ凄いのじゃ! あれならダンジョンコアに接近できるのじゃ!』


 という訳で、チナに『水輪の聖域』を動かして貰い、スペシネイトを守る空間の歪みに開いた穴に向かい、水玉を移動させる。

 それじゃあ、今度はあの島サイズのダンジョンコアを、可能な限り一撃で仕留めるアーツを組み立てるぞ!


 まず、使う武器はエレアロードヴェインで、今回使うアーツ専用の形状変化させる。変化させた形状は、槍の穂先を十文字槍の穂先の様に変化させ、その上穂先が回転する機構を持たせた。

 アーツは『星撃』に『プラズマブレード』,『流星撃』を中心に組み上げる。

 権能【閃星】のアビリティから『コロナプラズマ』は……範囲攻撃になってしまうから無しで、『スターフレア』は威力と範囲をを絞れば単体でも行けるな。

 スペルアーツの『アクアプラズマ・ジェットブラスト』で制御して見ようと思う。

 なんで、プラズマで制御しようとしているのかと云うと。恒星のフレアは、コロナプラズマの加熱と衝撃波にプラズマ噴出を発生させる。つまり、恒星のフレアはプラズマを多分に含んでいるので、そこを手掛かりに制御しようって訳だ。

 で、実際に使うのは、星輝をありったけ込めてやる本番一発勝負になる。

 ちなみに、イメージは超広範囲巨大プラズマドリルだ。

 上手く行く事を信じて『螺旋焔滅流星煌』と名前を付けて置く。


 攻撃はこれで良いとして、自分の攻撃含む色んな物から身を守る為に、極光の虹翼から『超煌気』を作ったやり方にプラスして、『スピリットオーラ』,『スピリットバリア』のアーツに、スキル魔力変換・属性で、魔力を自分が知っている属性エネルギーに変換して翼に流し込む。それらを完全に自分を守るバリアーとかシールドになる様に、バトミントンのシャトルの形に近い物をイメージして発動する。

 エルナの翼から、エルナに似た虹の翼を持った女神が現れ、その翼と腕でエルナを抱擁すると云うエフェクトが起こり、エルナ周りにロケット思わせる様に、半透明の虹色の翼が展開され、バリアシールドとして機能する。

 う~む、成功かな? なんか、防御以外の効果も色々ある様な気がするけど。

 名前はストレートに『虹の女神の抱擁イリスエンブレイス』で良いかな。


 スペシネイトに接近すると、空間の歪みに開けた穴から再び、『バーンフォレストジャベリン』の木のミサイルが穴から飛び出して来る。木のミサイルは更にパワーUPしており、葉が燃えているだけでは無く、暗く赤い空間の歪みを纏っていた。

 撃ち落とし難くなった、それらを排除しながら接近し、木のミサイルの一掃と穴が途中で塞がらない様に、同じ場所に『グラビティ・スパイラルスピンホール』放つ。

 横に伸びる黒い渦が、木のミサイルを吸い込み砕き飲み込んで往く。

 その後を追いかける様にチナが素早く水玉を動かし、エルナが開け重力を制御する穴を通り、スペシネイト守りの内側に、無事侵入する事ができた。


 スペシネイトが、巨大な首長竜の顔をこちら向け何か喚いているが、水玉の内と外では別空間の為、聞こえないし無視して攻撃の準備をする。

 まずは、『超星身』を始めとしたバフの掛け直し、そして『アステルシールド,『オーロラシールド』,『オーロラプロテクション』,『オーロラリフレクションベール』最後に『虹の女神の抱擁イリスエンブレイス』を掛け守りを固める。

 『グラビティ・スパイラルスピンホール』で、スペシネイトが量産する木のミサイルを、再び撃ち落とし露払いする。

 エレアロードヴェインの穂先を水玉の外に出し、『オーロラチャージ』と自ら意識して溜めていた星輝を使い、『螺旋焔滅流星煌』発動する!


 『螺旋流星焔滅煌』を発動させると、十文字槍の形に成った穂先から、極僅かな恒星の火炎が放出される。僅かと云っても、その火炎は恒星の活発な活動が引き起こす、大爆発の一部である。当然威力は半端ない物になる。槍の穂先が高速で回転し、恒星のフレアによる超高熱の光円が描かれる。光円が完成すると同時に水玉から飛び出し、流星の如くスペシネイトに向かって超高速で落ちる!


『何だそれはぁっ!!』


 スペシネイトがやはり何か言っていた様だが、高速回転する超高熱の光柱と成った俺はスペシネイトの身体に着弾。スペシネイトの島サイズの巨体を、超高速で物質を消し飛ばす様に削って行く!


 消し飛ばす音は静かだが、消し飛ばすに至らなかった、スペシネイトの熱せられた身体が爆音を響かせる。


 ドッゴオゴゴオオォォオオオオッ!! ゴゴオオオォォォオオオオオオッ!!!!


 そして、その巨体に大穴を開けられたスペシネイトが、身体から溶岩を噴出しながら断末魔の声を上げる!!


『グガアアアアアァァアアアアゴガアァァァアアアアアアアアッ!!!!』


 一気に貫通してスペシネイトの下に居た俺は、慌ててスペシネイト上空に移動する。移動する最中も、溶岩を噴出しガラガラと崩れ、スペシネイトの身体は崩壊して往く。


¶ネームドダンジョンコア〈見えざる浮遊山林・スペシネイト〉の完全討伐に成功しました。

〈見えざる浮遊山林・スペシネイト〉の完全討伐成功によりラスト・ドロップを獲得しました。

〈見えざる浮遊山林・スペシネイト〉の各種ドロップアイテムと、討伐報酬はギフトボックスに送られます。

プレイヤーエルナが称号【ネームドダンジョン完全討伐者】を獲得しました。


※このダンジョンは直ちに消滅し通常空間に戻ります。お気を付けください。


 グッと世界が狭まり、何も無くなったと思った瞬間。

 俺は元のグランサルーン大分断帯、理崩領域の上空に居た。


「ようやく終わったぁ~。そう言えば、海の上だったね。チナは……」


 見上げると、チナが作った『水輪の聖域』を示す巨大な水玉と、空高く昇った太陽が見えた。もう、お昼くらいの時間かなぁ? と思いながらも色々と整理する為に、『水輪の聖域』の中に戻る事にしたのだった。

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