48 夜間飛行してたらダンジョンに突撃してた

 眼下には、月明かりに照らされた浮遊大陸の大地。

 視線を前に向ければ、夜とは言え水平線が見えた。

 視線を上に向ければ三つの月と、それに負けない位明るい星々の輝きが目に映る。

 俺は、コスモプレイヤーのスタート地点の一つ、聖ステルシェリア王国王都アステリズムに行くため、現在西に向かって空を飛んでいる。

 空を飛ぶのは心地よく、思わず鼻歌を口ずさんでしまう。


 ふふふ~ん♪ ふふふー♭♩ ふ~ん♮♫ ふふふー♪


 途中、見かけた町の神殿によってポータルを解放しようかと思ったが。

 こんな真夜中に、勝手に町に入るのも神殿に行くのも、いかがな物かと思いやめて置く事にした。まして、ジュナ皇国とは違う国に入ったら猶更だ。

 ちなみに、ポータルを使って一度ブエナの町の近くに転移してから空を飛んでいる。さっき皇都ドーンライズの空に上がった後、聖ステルシェリア王国の王都アステリズムに往くなら、ブエナに一度転移してから空を飛んで行った方が早いって、後から気が付いたんだよね。


 空を飛んで行くと魔物やモンスターらしき物が、エルナよりも低い高度を飛んでいるのを見かけた。何時もの様に、スキルやアーツを駆使して戦闘に為らない様に空を飛んで来たが、BALVを上げる事を考えたらそんな事する必要なかったかな?

 そう思いながら空を西に向かい飛び続け、ジュナ皇国の西の隣国アルギラ聖帝国を抜け、大陸の西側一帯を治めるオルゴン連合王国に入り、いよいよプティサルーン浮遊大陸の西の端が見えた。

 さて、二時間も経たずに大陸の端まで飛んで来れたが、このプティサルーン浮遊大陸。この星の大陸の中では一番小さいが、現実世界の大陸と比べれば南極大陸よりもやや大きい、面積約1460万平方キロメートルもある大陸で、地球を知る俺らから見れば決して小さくは無いのだ。

 つまり、何が言いたいのかと云うと、空を飛ぶエルナはめっちゃ早いし、まるで制限を受けない。明らかに音速何て余裕で越えている、優にマッハ3は超えていると思う。どんなにスピードを上げても、空気の摩擦抵抗を感じ無いし、ソニックブームも全く起こらない。

 それどころか、空気や風の抵抗と云ったモノがまるで無く、むしろエルナに道を譲っているとすら感じる。慣性の法則や重力も、エルナに都合の良い様に作用しているとしか思えない。それだけエルナは自由に空を飛べるのだ。

 多分これは、エルナが星霊と云う特別な存在だから起こる不思議現象だと思う。


 第三次大神大戦の時に、現在のサルーン大陸から分断された事により、プティサルーン浮遊大陸が出来た。その分断の跡が、浮遊大陸の西端沿い一帯から、分断海域の日の当たる一部の海域を挟んで、サルーン大陸の東海岸沿い一帯まで広がる。

 その海を挟んだ広い地域を、グランサルーン大分断帯と言う。

 ちなみに、分断海域で日が当たるのは、サルーン大陸からプティサルーン浮遊大陸の間の146海里、即ち270㎞程度である。日が殆ど当たらない分断海域は、プティサルーン浮遊大陸の下に有り、分断海域の全体水深は大体3000m~5000mと成っている。さらに云うと、プティサルーン浮遊大陸は、分断海域の海面から3000m程の空中に浮いている。

 そして、グランサルーン大分断帯は下は水深5000m、上はプティサルーン浮遊大陸地表面の高度7000mまでが、理崩領域と呼ばれる特殊な空間と為っている。

 理崩領域とは、世界の理を崩壊させる程の力を大神が振るい、その力が未だに影響を残しており、異常な現象が度々起こる非常に危険な領域の事だ。

 理崩領域内で、崩壊した世界の理の修復は現在も行われている。

 しかし、大神の力によって生じたエネルギーの除去は、非常に難しく完全修復できるか分からないとの事。


 ちなみに、高度7000m以上とは、現実世界では間違いなく人が日常生活をして暮らして往くのは不可能な高度だ。

 現実世界でそんな事ができるのは精々高度5000mまでの話だろう。

 しかし、この世界の人達の身体スペックはかなり高く、エルナから出ている星界の根幹エネルギー星輝を始め、この世界が得て来た様々な力やエネルギーが相互作用して、浮遊島や浮遊大陸に地上と殆ど変わる事のない、気圧等を含む適切な環境を作りだし、多少厳しくとも人が普通に暮らして往ける様に為っているのだそうだ。

 グランサルーン大分断帯の事や、浮遊島に浮遊大陸で人々が暮らして往ける理由については、ソフィーちゃんが移動中に教えてくれた事だ。


 グランサルーン大分断帯の理崩領域の高度は7000mまで、このまま浮遊大陸上空を飛行して来た高度を維持して進めば安全な筈だ。


 そんな事を考えていたのがフラグだったのだろう。

 突如、先ほどまで全く感じなかった空気抵抗を受け、それと同時に以前にも感じた事のある、ダンジョン特有のぬるっとする感触がした様な気がした。

 しかし、その空気抵抗もぬるっとした感触も、エルナが猛スピードで飛んでいた所為か直ぐに感じ無くなる。


¶プレイヤーエルナが空中移動型フィールドダンジョン

〈見えざる浮遊山林・スペシネイト〉のダンジョンエリアに侵入しました。


 何! ダンジョンだって!? 確かに先それっぽい感じがしたけど、ダンジョンに入るにはゲートを通る必要がある筈では? ゲートを通った覚えはないのに何でダンジョンに入ったんだ??


『シズル様、ダンジョンは必ずゲートを通るモノではありませんよ。シズル様の知っているダンジョンは、どれもエナ様が管理していた物でしょう? だから、ダンジョンへの侵入方法も脱出方法も、キッチリと決まっていたのですよ。管理されて居ないなら、ダンジョンへの侵入方法や脱出方法も個性が出るのです。何せダンジョンは、モンスターなのですから』


 すると先のぬるっとした感触は、ダンジョンに入った時に感じる奴で良かったようだ。それにしても、このダンジョンは特にゲートの様な物を用意する事も無く、何処からでも入れる様にしていると云う事か?

 あ、そう言えば、早速アナウンスが仕事をした様だ、有効化アクティベートして良かったな。

 ダンジョンに入ったのに気が付かなかったら、時間を無駄にした可能性大だしな。

 にしても、こんな所にダンジョンが有るとはなぁ。

 でもまあ、ダンジョンの発生理由とかを考えれば、理崩領域の近くにダンジョンができるのも不思議ではないし、このダンジョン何かは移動できる見たいだからな。

 もしかしたら、歪みのエネルギーを求めて、移動して来たのかも知れないなぁ。


 ダンジョンの中は、現在の時刻とは関係のない、夕焼けの空が広がっており、前方には木々が生い茂った小高い山を持つ、それなりの大きさの浮遊島が見えた。

 ダンジョンに入ってしまったので、折角だからLV上げでもしようと思う。

 でも、ソフィーちゃんが言うダンジョンは入るだけでなく、出るのにも違いがあると言っていたので、念のため引き返して出られないか試しておこう。

 俺は、Uターンしてダンジョンから出ようとするが、ダンジョンから出る時にも感じる、あのぬるっとした感触を受ける事も無く、振り向くと浮遊島は遠ざかる事も無くそこに在った。つまり、出るにはあの浮遊島に行けって事か、確認しておいて良かったな。後から出れないと分かったら、これめっちゃ焦る奴だよな。

 しかもこれ、攻略しないと出れない可能性あるじゃん。


 何はともあれ、BALVを上げる必要があるし、モンスターを狩りながら浮遊島に行きますかね。

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