42 神殿内でのちょっとした話

 裏門から神殿に入り、関係者用の通路を進みながらルセリアさんから、ここドーンライズ創天神殿の説明を受ける。

 この創天神殿では、ジュナ皇国で信仰される国を豊かにすると云われる精霊達や、ジュナ皇国に住まうエナを含む八柱の神,エルアクシアの原初から最古の主な神々,エルアクシアに住まう三十柱の大神達、最後に創天の意思を祀るジュナ皇国の総合宗教施設であると教えられた。


 通路を抜けると、一般の参拝者達も来る精霊達が祭られている区画に出る。

 神殿内に立ち並ぶ柱と、信仰対象と思われる精霊達の像に、吹き抜けの天井から光が射し込み、沢山の参拝者がいるにも関わらず、幻想的な雰囲気を作り出していた。


「この区画で祀られている精霊達は、一般的に良く知られているエルアクシアの精霊達が殆どですね。他と違うと云うと、浮遊島や浮遊大陸特有の精霊フルフロウルくらいでしょうか?」


 とルセリアさんが大まかに、この区画の事を教えてくれる。

 そう云えば、精霊知識と精霊魔法のスキル有るけど、その割には精霊の事は余り知らないなぁ。ちゃんと調べたりした方が良いのだろうか?

 でも、精霊魔法よりも権能【星法】を使うのがメインになりそうだし、今までも問題なかったから別に知らないままでも平気か。

 ちなみに、フルフロウルは浮遊島や浮遊大陸を空に浮かび上がらせ、浮遊島はそれだけでなく島の移動にも関わっているとされる精霊だ。

 まあ、このプティサルーン浮遊大陸が浮いたのは別の理由だが、浮かび続けているのはこの精霊のお陰との事。

 いきなり墜ちたら困るし、そりゃ信仰の対象にもなるわな。


 この精霊達が祀られる一画には、神に成る前の星霊女王あるいは、星霊王としてのエルアクシアも祀られていた。その隣には、不自然なスペースが有り、何かしらの像が在ったのではないかと思わせる。

 あのスペース、実はエルナが祀られてたんじゃないのか……まさかね?


『今、シズル様が考えていると通りだと思いますよ』


 いきなりソフィーちゃんに話しかけられて驚いたが。ソフィーちゃん曰く、むしろエルナが信仰の対象にならない方が可笑しいとの事。

 エナにも小声で聞いて見ると「わしもそう思うのじゃ」と答えられる。


「恐らくは、エルナに掛けられておる大神の呪いの所為で間違いないのじゃ。エルナの呪いが解けたら、ここに像が現れるかもしれんのぅ」


 なるほど。大神なら世界からも、エルナを忘却させる事が出来るって訳ね。

 ちなみに、エルアクシア像は、キリっとした凛々しい姿をしているが。

 エルナ的には、このエルアクシア像は全く似てないと感じている見たいだ。


 精霊信仰の区画を抜けると、ジュナ皇国に住まう八柱の神の神像が祀られている区画にくる。神像の後ろには、その神に合わせたであろう、色ガラスが填め込まれた大きな窓がある。これにより参拝者から見ると、神像が神のオーラで光輝いている様に見えると云う、工夫がなされているのだと分かる。


「ブエナ様が神殿にご降臨されたのを知って、参拝の人達がブエナ様の神像の前に沢山集まってますねぇ」


 先ほど、エナが降臨したのを知った神殿の参拝客で、水竜神ブエナの神像の前は人でごった返していた。これを見て、ふと疑問に思ったのでエナに聞いて見る。


「ねぇ、エナ。ああ云う、エナへのお祈りやお願いってどうなっているの?」


「む。それはわしに、どんな風に祈りや願いが届いておるのか。そして、それにわしがどうやって応えておるのか。とかそう云う事かのぅ?」


「そうそれ! 気になる!」


「流石はエルナ様、それ私も気になっていた事ですよ! それに司祭程度では、神様にそういうの聞いちゃっていいのかなぁって思ってしまって、なかなか聞けないんですよねぇ。流石は巫女様グッジョブですよぉ~!」


「ルセリア、お主少し砕け過ぎじゃぞ。まだ仕事中じゃろうに……」


「Σはっ、これは失礼いたしました。それでエナ様先ほどの話どうなんでしょうか?」


 エナにジト目で注意されたルセリアさんは、直ぐにかしこまった態度を取りながらも、先ほどの話の続きをエナ聞く。


「やれやれ、エルナも知りたい様じゃから話すがのぅ」


 エナが話してくれた事によると。

 神格を得た個人への祈りや願いは、神と成った本人の性格や性質に合わせて無意識下で処理される。祈りや願いに応えるか応えないのかが此処で決まる。

 そして、祈りや願いに応える場合も、ほぼ無意識下で処理が進む。

 祈りや願いの強さと、その神の性格性質から見ての正当性などに応じ、可能な範囲でその神の力が効果を発揮する。

 要はほぼオートで処理されるのだが。

 これだと、神殿に来て神像の前で祈ったりお願いしたりするのは、意味が無さそうに思える。しかし、ちゃんと意味は合って、神殿や神像の前で祈りや願いを奉げると、神殿や神像がその思いを増幅しより強く神に届く事になる。

 そうなると、神の力である神力もより強く効果を発揮する為、祈りや願いの成就などにも影響する。そして何よりも神殿や神像は、その神が祈りや願いに応える神であると云う意思表示だ。

 ちなみに、波長が合ったり特別強い思いの祈りや願いは、直接応える事も在るらしいので完全オートではないとの事。もちろん、祈りや願いに応える気が無いの神は、神殿も神像も用意しないのだそうだ。


「ちなみに、わしの神としてのご利益は水関連全般と商売繁盛,金運じゃな」


「つまりブエナ様は、ほとんど只の幼女って事ですね」


「ルセリア、お主わしの話聞いてないじゃろ……」


 ルセリアさんがなかなか酷い感じだが、俺はエナに気になる事を聞いてる。


「エナが水竜である事とブエナの町を見れば、水関連と商売繁盛は分かるけど、金運は何処から来てるの?」


「この世界には分霊ではあるが、【流光招福金銀結びし金蘭の祝竜】と呼ばれる、金運招福の力を持った大神が長く住んでおるのじゃが。大神は存在するだけで世界の法則概念に影響を与えるのじゃ。故に、かの大神と同じ竜種は強く影響を受け、いつの間にか金運の力を持つようになったのじゃ。当然、水竜であるわしもじゃ」


 【流光招福金銀結びし金蘭の祝竜】と云えば、真名はリシャリルクーリスと言う。

 第三次大神大戦後、この世界にやって来て大戦の復興に力を貸してくれた大神だ。

 【祝福齎す全界廻る運気の大煌流】の別名を持つ最高位の大神ルミルティルトウィンに仕える側近級高位大神の一柱である事も知られている。

 しかし、てっきり良くあるファンタジーに出て来るドラゴンの様に、金銀財宝を集める習性があるからとか、そう云う理由なのかと思ったら如何やら違ったらしい。


「ブエナ様は只の幼女では無く、招き猫ならぬ招き竜って事ですね。分かります」


「ルセリアよ! お主、いつもいつも会う度に、わしの事を幼女幼女と連呼しおって、わしは幼女では無いのじゃ! わしはまだちょっとだけ、人化の術が上手く出来てないだけなのじゃ!」


 ルセリアさんが、神殿に祀られている神を幼女呼ばわりして弄ると云う、司祭としては問題ありそうな行動をしているが。

 どうやらこれは、いつも通りの事らしく問題ない様だ。

 チナも気にする様子は無くエルナに抱っこされて寝てるしな。

 しかしだ、エナはルセリアさんの幼女弄りに、ちょっとウンザリしている様だ。

 エナと初めて会った時に、幼女呼ばわりしなくて良かったと俺は思うのだった。

 なんせ、エナとの関係が築けなかったら詰んでたからな。

 もちろん、エナの事は心の中では美幼女だと思ってるけどな!

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