41 吸精鬼はロマンある種族
創天神殿の敷地内と思われる、森に囲まれヘリポートのマークの様な物が、地面に描かれた大きな広場に、エナは降りた。ここは、エナ同様空から直接神殿に来るような存在の為にある広場なのだろう。
エナの来訪を知っていたのか、神殿に仕える聖職者の人達が出迎えに来ていた。
「水竜神ブエナ様、それに巫女様。此度のご降臨感謝致します」
ここには五人の聖職者の代表が来ており、その代表と思われる巫女服姿の美少女が、エナが神殿に来てくれた事への感謝を述べた。
ちなみに、その代表の娘の容姿と服装は光を映す水色の瞳に、綺麗な銀髪を左側に纏めおさげにし手前に流している。
肌は白く尖った耳をしており、喋ると牙がちらりと見える。
服装は今のエルナが着ている物から、刺繍や装飾に服の作りその物を、シンプルにしたデザインで色も似ている。
それに、スタイルも良く胸もかなり大きいし、職業的にも多分あの種族だろう。
如何やら、ソフィーちゃんの言う通りの服装で良かった見たいだ。
代表の娘以外は、フード付きの法衣に顔下半分を隠し、更にベールもしているため顔は分からなかった。
『うむ。良きに計らえ』
チナと一緒に竜の姿のエナから降り、エナはいつもの見慣れた美幼女の姿になる。
「それでブエナ様、今日は神殿にどの様な御用でしょうか?」
普段エナとしか呼ばないので、ブエナと呼ばれるエナを見ると違和感を感じるな。
「うむ。わしの巫女エルナが、創天神殿に用があってのぅ。しかも、エルナは創天神殿に行くのは始めてじゃと言うのでのぅ。ならばと、わしが連れて来たのじゃよ」
「左様で御座いましたか。創天神殿は、何処にでもある神殿と云う訳ではないので、始めて創天神殿にお越しになる聖職者の方も、少なくないですからね」
エナと話していた美少女巫女さんがエルナの方に向き直る。
「では、エルナ様。創天神殿のご案内は、私ルセリア・セールシルトにお任せいただけますか?」
ルセリアさんが、物凄い色気と共にエルナにお願いして来るのは気になるが。
それはともかく、美少女が案内してくれると言うのだから、もちろんYESだ!
「はい。よろしくお願いします」
う~む。牙と尖った耳に白い肌、スタイル抜群の美少女然とした姿に聖職者でこの色気。おそらく、吸精鬼に違いないだろう。
え? 吸血鬼じゃないのかって? 吸血鬼はエルアクシアに現在存在しない。
吸血鬼は、エルアクシアに侵略して来た大神の眷属種族だ。
もしエルアクシアに居たら、その性質上直ぐに数が増えて大変な事になる。
なので吸血鬼はエルアクシアに居ないのだ。
しかし、エルアクシアには吸血鬼に似た存在が居た。
れが吸精鬼と呼ばれる種族だ。何となく分かると思うが、吸精鬼なのかを聞くのは迫害問題ともう一つの事から結構アレなのだが。
エルナの事は、現状直ぐに忘れられてしまうし、気になるので聞いてしまおう。
「もしかしたら、何ですけど。ルセリアさんは、吸精鬼なんでしょうか? 違っていたらすみません」
「? はい、そうですよ。エルナ様は私達の様なマイナーな種族を知っておられるのですね。という事は、私達がどの様な種族であるか知っていると?」
「えっと、そうですね……」
な~るほど。と言う感じでルセリアさんは、艶やかな笑みを浮かべエルナを見る。
マジか~、吸精鬼と云えば吸血鬼の仲間だと迫害された歴史がある。
第四次大神大戦のおり、吸血鬼は【感染変容する血霧の吸血鬼】の別名持つ大神ベルネエクセローゼの眷属として、このエルアクシア世界に現れた。
しかし、戦場は宇宙空間であり、吸血鬼たちはそもそも地上に降りて来ていなかった。人々は、戦いに参加した英雄達や若き神々の話から、実際に見た事もない吸血鬼の話を恐ろし気に語り広めていった。
人々の間にその話が広まる中、実際に吸血鬼を見たと言う物が現れた事で、自体が変わる。吸血鬼の恐ろしさを話に聞いていた人々は、吸血鬼狩りを始めたのだ。
そうして人々は、吸精鬼と云う元々エルアクシアに住んでいた種族を見つけた。
直ぐに吸血鬼とは違う種族であると分かったが、吸精鬼が吸血鬼と同じように血を吸うと云う事が、そのまま迫害に繋がる事になる。
さて、ここで何故聖職者である事が吸精鬼に繋がるのかというと。
エルアクシアの神々が、全ての人々にこれ以上の迫害をやめる様にと、神託を出したからだ。それでも、迫害を続ける様な者には、神罰を下すと云う神々の強い姿勢と、実際に神罰が下された事で、迫害は速やかに終息した。
この神々の迅速な対応とその行いに、深い感謝の念を抱いた吸精鬼達は、以前よりも深くエルアクシアの神々を信仰する様になり、その多くが聖職者の職に就くようになったと云う話だ。吸精鬼は、寿命がほぼない様な種族だから、この事はとても大きかったのは間違いない。
で、なんで俺がマジか~と思うのかというと。
種族名からも分かると思うが、吸精鬼とは所謂淫魔なのである!
当人達も、淫魔である事を否定はしないので、淫魔と言っても問題ないのだ。
まあ、生き物の精気を吸うのに一番良いのが性的興奮状態と云うだけなんだがな。
しかし、考えても見ろよ。淫魔な聖職者が、この世界には当たり前にいるんだぞ!
しかも合法だぞ! 男のロマンを感じるな!
ちなみに、牙がある理由は、生物の血に多く含まれている精気を効率的に摂取ためである。別に血を吸ったりする必要は無く、精気だけを吸うことができるらしい。
それに、圧倒的に女性が多く男は少ない。
さて、何故こんなに吸精鬼の事を知っているのかと云うと、これも例の公開設定資料の神話に於ける小話として載っていたのだ。
俺は、それ何てエロゲ? と言いたくなる。
この淫魔な聖職者と云う、ロマン種族がIFOにはいる! と覚えていたのだ。
「エルナ様って美味しそうですよねぇ」
おおぅ! 頬を赤らめて、エルナにだけ聞こえる様に、ルセリアさんが話しかけて来た。物凄い色香を、ルセリアさんが放つ。チャームとまでは行かないが、間違いなく誘われてるよなこれは。
しかし、エルナは俺のキャラだが、エルナに人格が在る時点で、俺だけの物ではないからな。非常に遺憾ながら誘いを受ける訳にはいかんのだ。
すると、その誘惑を断ち切る様にエルナから星輝が溢れる。
まるでエルナが「シズル偉い!」と俺に言っている様に感じた。
「わわっ! 流石は巫女様ですね、驚いちゃいました。でも残念です。エルナ様本当に美味しそうですし」
ルセリアさんは、エルナから溢れた星輝を感じて驚いた顔をしたが。直ぐに、とろけてしまいそうな蠱惑的な笑みを浮かべ、本当に残念そうに言うのだった。
「あはは、そんなに私美味しそうですか?」
「ええ、凄く! 私の
なるほど、如何やらルセリアさん、勝手に自分の操を奉げれば、エルナから精気を貰えると思っていた見たいだな。うん、やっぱり吸精鬼は淫魔だわ。
「黙って聞いておれば……、何を言っておるのじゃ、ルセリアよ! エルナはわしの巫女じゃぞ、お主にはやらんのじゃ!」
「そうなのじゃ! やらんのじゃ!」
エナとチナが、エルナとルセリアさんの間に立ちはだかり、両手を広げ幼女バリアでブロックする。いやぁ~、幼女二人がわちゃわちゃしながら、美少女であるルセリアさんと、戯れている姿は見ていて和むなぁ。
それにしても、エナとルセリアさんは、様子を見る限り普通に仲の良い知り合いに見えるので、最初の真面目な挨拶は形式的な物だったのだろう。
「エナもチナも、そろそろ落ち着いてね? ルセリアさんも、まずは神殿の方へ案内をお願いできますか?」
「ふむ。それもそうじゃな。ルセリアよ案内するのじゃ!」
「のじゃ!」
エルナの言葉で落ち着きを取り戻したのか、エナが早速ルセリアさんに神殿への案内を頼む。エナの真似をするチナが可愛い。
「そうですね。少々取り乱してしまいました。それでは、まずは神殿へご案内いたしますね」
ルセリアさんが俺達を神殿の方へ誘導する。
ルセリアさん以外の四人の神殿関係者は、先はどのやり取りに全く動揺してないのか思ったが、めっさ動揺していたらしくほっとした雰囲気が漂っていた。
元は俺が、ロマン種族なのか確認したいが為に、ルセリアさんの種族を聞いた所為なので悪いと思う。すまん。
神殿へは意外とまだ距離がある。
そして、今向かっているのは神や神殿関係者だけが使う裏門なのだろう。
空から見た一般の人達が訪れる神殿の表玄関。
大きな柱が立ち並ぶ大参道とは、全く違う雰囲気の裏参道を歩いて行く。
裏の参道は大きくは無いが、澄んだ空気と静かな森が心を癒す。
参道と森を分ける柱が、そこに神秘を感じさせる。
神殿の裏門に到着すると門が何もせずに開いて行く。
ルセリアさんが改めて「創天神殿にようこそおいでくださいました」と挨拶をし。
「「「「水竜神ブエナ様一行ご降臨!」」」」
と一緒に来ていた四人の人達が声を上げた。
ルセリアさん以外の四人の役目は、神の来訪をここで神殿に向かって、大声で伝える為かぁ。なるほどねぇ~。
「それではエルナ様、神殿の中をご案内させてもらいますね」
おっ、いよいよ神殿内に入れそうだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます