30 紅月の眷属 神与騎士エジェマ・バルグストス戦

 馬の蹄の音が聞こえる。こちらの攻撃で、かなり酷い惨状が辺り一面に広がっている。そんな場所に、装甲を装着した巨躯の騎馬に跨った、紅一色の大剣と大楯に全身鎧に身を包んだ大柄の騎士が、月明かりに照らされながら姿を現す。

 何時の間にか再び紅い月が出ていた。


 こいつがフードの男が言っていたエジェマって奴か?

 奴を見て思うのは、素のステータスが如何程か分らないが、奴が身に着けている装備は、大盾を除けば全てヤバい代物だと分かる。

 何にせ奴の装備からは、神力に似た別の何かの力が、目に見える程に濃く纏わり付いているのだから。多分あれは、さっき戦った奴らにも薄っすらと在った、大神の加護の力がはっきりと見えている物なのだと思う。


「おいおい、全滅じゃねぇかよ。簡単な仕事だったはずなんだがなあ。クインスの奴も死んじまったか……。だが、クインスお前さんは役目を果たしたな。標的の星脈の娘はまだ此処に居る訳だしなあ。しかし、弱体化しているはず何にこれとはな。お前さん、実は俺達にとって大当たりなんじゃねぇか?」


 クインスと言うのがフードの男の名前の様だ知りたくは無かったが。しかし、大当たりとは?


「それを加味して考えてみりゃ、此処で手柄を上げれば間違いなく褒賞が出るな。そしたら、禁忌神様の力か紅月様の奇跡で、こいつらの復活くらい簡単にして貰えるだろうよ……」


 え? こいつら復活できるの? あっ、そっか、エルナだって復活の効果のあるアーツ持ってるもんな! ってか何なんだよ! 俺、罪悪感抱いたの損した気分だよ! でもまあ、これでこっちも気にせずに戦えるな。


「おっ、なんだヤル気になったのか? こっちとしても、部下の落とし前は、きっちり付けさせて貰いてぇから歓迎だぜ!」


 如何やらこいつは俺が先の戦いで、ちょっとモチベが下がっていたのを察していた様だ。うん。アレかな? 空気の読める上司って奴なのかな? 部下も上司もさり気なくできる奴アピールして来るな?


「一応名乗っておこうか。俺の名前はエジェマ・バルグストス。偉大なる大神、紅月様にお仕えする神与騎士だ。お前たちは?」


「Σこやつ、大神のしゅんよきしゅじゃと!」


 何やらチナが神与騎士であることに反応しているが。エジェマが名乗りを上げ、こちらに名前を聞いて来る。こちらも礼儀として答えておこうか。


「私はエルナ。それ以外は知らない」


「わちはチナじゃ。水竜神ブエナの分霊じゃ」


 エルナが名乗ったからかチナも続けて名乗った。それを聞いたエジェマは非常に面白そうに言う。


「はっはっはっ! なるほど! 神の分霊か! しかも、竜となれば更なる手柄に成るなあ!」


 なんかめっちゃ喜んでるぞ? やっぱりIFOでも、数あるファンタジーあるあるのお題目とも云える、竜殺しは名誉とかそう云うのでも或るのかね?

 ん? チナがスカート引っ張るので見ると。


「やつは分霊のわちと、かくはそう変わらんのに、大神にみとめられ神器をさずかっておるのじゃ。アレは、まちがいなく化け物のたぐいじゃろう。わちは最初からぜんりょくでいくのじゃ。エルナよ、よいな?」


 うぇ! 神与騎士ってそういう意味かよ! 大神から神器が与えられるなんて、普通は高位神クラスにでも成らなきゃ貰えない筈だろうに。つまり、それだけの高い評価を大神から受けてるって事になるぞ。

 ヤバいな、って俺そう言えばチナの格の事知らないぞ。

 たぶん、BALVの事何だろうけど後で聞いて見るかな?

 まあ、エジェマのBALVはチナと同じ位って分かったから良いか。


「チナ、分かったよ」


 エルナが了承すると。チナの姿が、金色の角と三対の翼を持つ美しい水色の鱗をした、体長16mは在ろうかと云う四肢ある竜の姿に変わる。

 おお! これがリアルドラゴンか! デッカイな~、それに結構な圧があるなぁ。

 しかもだよ、チナの竜化した姿始めて見るんだよな。 


「おうおう! やる気満々じゃねぇか! お前を狩れば俺も竜殺しって訳か! いいねぇ!」


 エジェマさん如何やら馬を逃がして待ってた様である。騎士だからなのかは分からんが、律儀と言うか何と云うか憎めない感じだ。

 この惨状と全力の竜と戦う事を考慮して、さり気なく自分の馬も逃がしてるしな。

 だからと言って、チナを狩らせる気は無いけどな!


「部下はいねぇし、盾はいらんなあ」


 エジェマはそう言って大盾を投げ捨てる、あの大楯仲間を守るようだったのか。

 なんか、ますます良い上司見たいじゃねぇか言葉使い悪いけど。


「さあ、行かせて貰おうか!」


 エジェマは全身に闘気を漲らせ大剣を構える。それが合図となって、大剣を構えたエジェマにチナが先制のブレスを放つ、いつもの人の姿で放つ物じゃない、本物のドラゴンブレスだ! もちろん、俺も只見ていたのではなくアーツましましで星弓で雷槍の矢を射る。


「ぬうううぅぅん! かあああっ!」


 気合一閃。エジェマはチナの放ったブレスを、大剣で叩き割り返す剣で雷槍を弾く。雷槍の纏う電撃は食らっている筈なのだが、気にした風も無くそのままチナに突っ込み近接戦になる。


 チナの爪と容易に打ち合う、あの大剣とエジェマが普通では無いのは明らかで、チナの繰り出すテイルアタックに至っては、逆にチナの尻尾が傷つく位だ。

 竜化したチナとエジェマが近接戦をすると、ちょっと今の俺では手が出せない、精々回復とバフの援護をするか後は、精霊魔法で動きを止めるくらいだ。


「精霊さん! あの紅い奴の動きを止めて!」


 速やかに効果が発揮され、地面が生き物の様に動きだし、エジェマに絡みつきまるで石の様に変化して拘束する。

 その隙を逃さずにチナが連続で、竜爪,竜脚,テイルアタックと攻撃を命中させ更には近距離でブレスを浴びせる。


「はーっはっはっはっ! 流石は竜だ! それに星脈の娘の支援、特に精霊魔法が厄介と来たか! 面白い!」


 うへぇ、ドラゴンのあんな連続攻撃を貰って置いてピンピンしてるじゃん!

 エジェマが再び闘気を漲らせ大剣を構える、その大剣を裂帛の気合と共に剣を突き立てる。


「キエエエエェェェイ!『グラウンドスマッシュ!!』」


 突き立てられた大剣から地面に光が走り、チナの居る地面が爆発するかの様に鋭く隆起する! 16mは在ろうかと云う竜化したチナの巨体が吹っ飛ぶ。

 おわっ! マジか! アニメとかでしかこんな光景見た事ないぞ!

 そして、同時に気付く、チナと引き離されたと云う事に。エジェマが来る!

 咄嗟に双剣を手元に呼び出し構える。


 ギギギイイイィィィンッ!! と言う耳障りな音共に体に衝撃が走り、まるで体が後ろに引っ張られるかの様に吹っ飛ばされる。

 何とか樹にぶつからず、倒れもせずに踏み留まる。手がめっちゃ痺れてるですが。


「おお? 今のは仕留められたと思ったんだがなあ? お前さん近接もいけるのかあ!」


 チナのHPゲージは大丈夫だが、気絶しているというアイコンが出ている。チナが復帰するまで、エジェマと一対一で戦う必要がありそうだ。


 手に痺れが残っている為、あっさり先手を取られる。エジェマの袈裟切りの仕掛けから始まり、右切り上げ,逆胴,突きと、そこから更に踏み込んで胴切りと、途切れる事無く斬撃を繰り出してくる。これに合わせて俺は、『ソードパリィ』,『マルチソードパリィ』,『受け流し』,『いなし』を軸に『ステップ』などの回避系アーツを組み合わせ、アーツを五重発動を駆使してエジェマの連撃を凌ぐ。


「おいおい、竜の嬢ちゃんが凌げるのは分かるがよ。お前さんがここまで凌げるとはなあ! しかも、アーツの多重発動どんだけ重ねてんだあ!」


 そう言いつつもエジェマは攻撃の手を緩めない。攻撃をいなし切れていない所為で双剣からビシッ! と嫌な音がする。

 エルナの装備は、基本不壊により壊れない筈なのに、何故自動再生能力を持つのかその理由が今分かった。不壊同士が打つかれば普通の物と同じ様に壊れるからだ!


 とうとう限界がきてバキンッ! と言う音共に右手に持つ双剣の片割れが折れる。それを逃さない、エジェマが闘気を漲らせ一閃。折れた双剣の片割れを咄嗟に雷槍に持ち替え受ける。ビシビシッ!! と嫌な音を立てつつも何とか受けきる。しかし、エジェマは止まらず『アーマーチャージ』を繰り出す、ここで、今まで使わなかった体術系のアーツかっ!


 雷槍も耐え切れずにバキャンッ! と砕け折れ吹き飛ばされる。

 ここで吹き飛ばされた事で、距離が出来たのを利用して、『スラッシュ』,『クロススラッシュ』,『気力切り』,『乱刃』,『連刃』のアーツ五重発動し、残った双剣の片われを持つ左手一本で発動。この瞬間に込められる最大の星輝を込めて斬る!

 予想通り、追いかけ踏み込んできたエジェマを連続で叩き切る!

 ガツンッ! ガツンッ! と鈍いを音を立て攻撃が当たる。


 大剣もそうだが、この鎧もたぶん神器だ硬すぎるだろ!

 漸く反撃できたが、これではエジェマの動きを止められない!

 止まらないエジェマが一気に加速する、移動系のアーツを使ってきたか!

 俺はここで初めて翼を出す事を決める、直観が此処だと言っているからだ。


「おおおおおっ!!『紅断斬月!!』」


 出した翼の加速で相手のアーツによる致命傷を避ける。エジェマが渾身のアーツを避けられた事に驚きながらも。技終わりの無理な体制から、無理やり移動系アーツで追撃を掛けて来る。流石にこれは躱せなかった。

 右腕に熱を感じると、キラキラと光るエルナの紅い血と共に、クルクルと回転しながら腕が飛んで行った。まずい、頭が痛みを感じる前に此奴の動きを止める!

 展開済みの翼にありったけの星輝を込めて!


「はああああっ!!『虹翼爆裂!!』」


 極彩色の高熱の光を纏い巨大化した極光の虹翼が、エジェマに向かって振り下ろされる!


 ズガガガッゴギッガガアアアアアァァァン!!!!

 膨大な熱量を持った、極彩色の光がエジェマに大爆裂する。

 俺はその爆発の突風に乗り、わざと飛ばされる。


「くふうぅっ、んんっ」


 めちゃくちゃ痛いんですけど! 声を出してのた打ち回りたくなるのを我慢する。

 装備とエルナ自身の自動回復能力で、徐々に傷が塞がって来るが、塞がりきらずに出血が止まらない。そのまま、キラキラと光る紅い血が流れ続ける。

 ゲージバーの下に出血と四肢欠損のアイコンが表示されていて、そのアイコンには鎖が巻き付いておりLOCKと表示されていた。

 装備の効果を考えると本来は、状態異常やダメージデバフも直るはずだが、どうやら例の鎖の力によって状態異常などが、未だにアーツなどを使わなければ自然回復しない様である。


 如何すれば良いか分かっているので、スターリジェネを掛けてから、ステラリフレッシュを連発してLOCKを解除。

 すると体から大量の星輝が湧き起り、右腕があった場所に流れ込むとみるみる腕が形作られ元通りに直る。

 しかも、腕と一緒に切り飛ばされた装備も、いつの間にか身に着けていた。

 ついでに、破壊された双剣の片割れと雷槍も、いつの間にか元通りに直っていた。


 エジェマがまだ生きており、こちらに向かって来ているのを気配察知が教えてくれる。折角こちらに来てくれるんだ、奴が来るまで翼に星輝を込め続けるか!


 エジェマが姿を現す、流石に虹翼爆裂は効いたのか、奴の体から煙がくすぶっており、鎧が一部熱で変形した様になっていた。

 奴の鎧も神器のはず、しかも大神の神器なのだから不壊の効果も在る筈だし、奴の鎧を双剣でぶっ叩いた感じからしてもそうだろう。

 なのに、星輝の攻撃で変形したと云う事は、星輝は不壊の神器を破壊できる力が在るのか? ますます、星輝すげぇってなるな。


「かは~、参ったな。今の攻撃もヤバいがよお。お前さん何だよその力は、明らかにさっきの比じゃねぇだろ。はーっはっはっはっはっ!」


 俺はずっとエルナの翼に星輝を込めていた。

 普通こんなにエネルギーを込めてたら、自分から出るエネルギーである星輝の量に限界が来たりとか、星輝を込め溜めるのに限界が来たりするのがお約束だが、全くそんなことを感じる事無く今も力がため込まれ続ける。


 エジェマも驚愕し自棄になって笑うそれを俺は。あっ、ちょっと溜め過ぎたかなと思うだけでエジェマに向かってアーツとして放つ!


『双翼虹波爆裂煌!!』


 エルナの超巨大化した極光の虹翼の双翼がエジェマに叩き付けられる。その瞬間極彩色の超高熱の光の柱がこの星に突き立った。

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