28 紅月の眷属 黒狼の群れとの戦い
ダンジョンの入口から外に出ると、砦の中にあるダンジョンゲートが目に入る。
受付でダンジョンから出た事を記入し砦から出ようと思った所猛烈な怖気を感じた。このまま外に出るのはダメだと感じる、これは直観スキルが働いている?
取り合えず、自分とチナにアーツ『アステルリヴァイヴ』を発動。さらに、『星煉』,『星域結界』,『静星隠し』も発動し、スキルの気配希釈に気配察知それに魔力と気力の感知スキルも、直観と合わせてフルで使うように意識する。
「チナ、物凄く嫌な予感がするから注意してね」
「むむ! りょうかいなのじゃ!」
チナがビシッと敬礼の様なポーズをとる。
うむ、やっぱりチナは可愛いな癒されるわ。さて、癒しはともかく外に出る。
時間的にはまだ夕方のはずだが、曇り空の所為か辺りは暗くなっている。
早く戻るなら、空を飛んで帰った方が良いかと思うが、直観が待ったをかける。
直観には、めちゃくちゃ助けられているので当然従う。
森の中、遊歩道を移動していると、さっきから気配察知や気力,魔力両感知に、幾つかの反応が出たり消えたりする。ビンゴだ、確実に何か良くない者が潜んでいる。
先ほどよりも気を付けて、木や草の影に隠れるように意識しながら移動する。
すると、この森では初めて見る黒い狼、すなわち黒狼の群れと思われる物を見つけた。その狼の特徴を上げるなら黒い体毛もそうだが紅い爪,紅い牙。
そして、何よりも紅い満月を思わせる紅く輝く目だ。
なるほどね、いやな予感がする訳だ。間違いなく、エルナを封じた力を持つ者の眷属だ。奴らは何事かを喋っているかの様に口を動かしている。
ココ……イル……マチガイナイ ココ……ニオイ……スル マダ、アタラ……シイ
とこんな感じだ。ていうか匂いだと! これはやってしまったか!? アーツの静星隠しが匂いまでカバーしてるか分かんねぇ。奴らに見つからない様に町まで戻れるか微妙だ。他の黒狼よりも二回りは大きな黒狼が現れ何事か詠う。
『ヨルノヤミニカガヤクユイツノヒカリヨ……、コウゲツノカガヤキヨ……オロカナルワレラ、ケンゾクニ……カクサレシモノヲアバキ……、ワレラヲミチビキタマエ……
しまった! これは隠蔽を暴く魔法か!? じっくり、聞いてた所為で魔法が発動してしまった。
空が一瞬で紅い月が輝く夜になり、辺りを紅い月の光が照らす。
その瞬間、静星隠しと気配希釈が解除されたのを感じた。
ヤバい、星域結界はまだ効いてるが隠蔽系が強制解除された。
しかも、気配希釈を再び行おうとしてもできない。
おそらく、あの紅い月の光で隠蔽系の力が無効化されているのだろう。
それは、奴らも同じらしく。先ほどまで、上手く感知出来ていなかった奴らが、気配察知や気力,魔力の両感知に沢山反応がでる。
ニオイ……イッチ、……ミツケタ
「チナ敵に見つかったから戦うよ!」
「あい、わかったのじゃ!」
こうなったら先手必勝! 精霊魔法でこの森にいる黒狼達に全力で攻撃する。
「精霊さん、この森にいるあの狼達を切り裂いてお願い☆彡」
MPゲージがグンっ! と減り精霊魔法が発動する。すぐさま、不可視の刃が黒狼達を襲う。しかし、何か目に見えない力により、黒狼達は守られている様で、ダメージは入っている様だが致命傷には程遠い。
「『竜撃砲・水刃閃』じゃ!」
今の精霊魔法の効きを見て、チナがいつもとは明らかに違う、おそらくは神力を込めたであろう水のブレスを俺達が発見した群れに向かって放つ。
何時もの水のブレスと違う青いビームにしか見えないブレスは、触れた物全てをスパッと切り裂いて行き、見事に森を伐採した。
これを避けられなかった、黒狼達も真っ二つになり絶命した。
カミ……ノ……チカラ カミ? ブンレイ……? ナゼ……? ナゼカミノブンレイガイル……!?
何やら敵さんにはチナがいた事が予想外の様で動揺している見たいだ。
それにチナの神力を込めたと思われる攻撃は、ちゃんとあの黒狼達に通った様だ。
なので、エルナの攻撃も神器を使った直接攻撃なら問題なく通りそうだ。
しかし、あの黒狼の紅い爪と牙には気をつけた方が良いと直観が告げている。
エルナから見ても格下なのにな?
「チナあの狼達の紅い爪と牙、なんだか良くない気がするから気をつけて」
「りょうかいなのじゃ!」
まずは、弓に武器を矢の代わりにして、射撃攻撃するよく使うやり方だ。
シュパッ! と打ち出された双剣の矢が、黒狼に突き刺さり燃え上がらせ、別の黒狼は凍りつく。
当りどころが良ければ一撃で倒せそうだが、現状の腕前では無理そうなので、凍らせるのをメインに矢を放つ。
チナも腕を竜の腕に変えて黒狼達を倒していく。
しかし、数が多い。エルナの先の気配察知と感知に反応した、ほとんどの黒狼がこちらに向かって来ている。特にほとんどと云うのが宜しくない気がする。
だが、こちらも集まってくる黒狼に対処するので手一杯でどうする事も出来ない。
それに黒狼も大きな個体が増えてきているのもな。
双剣を使った凍結矢攻撃は非常に有効に働いている。
当たれば黒狼達は声を上げる間もなく凍り付いてくれるからだ。
チナに関しては流石としか言いようがなく、まるで円舞を舞っているかの様に、竜爪で黒狼達を肉塊に変えてい往く。黒狼達は引き裂かれたり頭を潰されたり、内臓ぶち撒けられたリ、水のブレスでバラバラにされたりと、多彩な死に様を晒している。
う~む、正直かなりグロイ。
こいつら、モンスターじゃないから、死体が残るのが何とも言い難いんだよなぁ。
「うみゅ、こやつらの攻撃わちにとおるようじゃ」
ダメージを受けたチナを回復しつつ、完全に後衛として弓での援護射撃とチナと自分にバフを掛ける。やはり、黒狼達の紅い爪と牙は正確な効果は不明だが、少なくとも近接戦闘をしているチナの防御を抜いて来ると言うの確定だ。
「こやつら、いずれかの大神のかごをまちがいなく受けとるのじゃ」
そうだよね~。エルナから見ても、間違いなく格下と感じる黒狼が、分霊とはいえチナにダメージを通すのだから、それ以外は考えられないよな。
どうせ碌な大神じゃないだろうよ。
別に油断していたつもりは無いが、やはり油断していたのだろう。
気付かなかったからだ。いつの間にか紅い月が消えていた事に。
ガアアアッ! ガアゥッ! グアフッ!
なに! しまった! 背後から黒狼三匹の奇襲!
一匹目の爪による攻撃は右肩を掠め、二匹目の左足首を狙った攻撃は、咄嗟に足上げてそのまま星輝を込めた踵落としで迎撃し黒狼の首をゴキッ! っと折る。
踵落としなんてやってしまった所為で、動作終わりを狙った三匹目が右腕に噛みついてついて来る。
僅かに痛みを感じながらも、最初に奇襲を仕掛けてきた一匹目が再度こちらを狙ってくる前に、弓を持った左手に星輝を込め、右腕に噛みつた黒狼を、『打撃』,『遠当て』のアーツを合わせて、弓で思いっきりぶん殴る。
メギャキッ! と言う、ちょっと聞いたこと無い音を立て、腕に噛みついていた黒狼が吹っ飛んでいった。
直ぐに双剣の片割れを手元に呼び出し、首を狙いに定め飛びかかって来た最初の黒狼に、星輝を込めて『スラッシュ』をお見舞いする。
敢え無くエルナの首を狙った黒狼は真一文字切り裂かれ死体を晒す。
エルナが殴ってぶっ飛んだ黒狼も、激突したと思われる樹と一緒にお陀仏だ。
「あーっ、もう! 痛いわね!」 『ヒール!』
痛覚カット出来ないから痛いヒール掛けたけどさ。今ので敵が一旦引いた様だな。
にしても、エルナの血を見たがなんか赤く光ってるな?
これは種族の特徴なのかね?
それに予想通り、何らかの大神の加護。まあ、アイツのだろうけど。
その加護を受け、普通の攻撃が通り難い黒狼を、割と簡単に倒せているのは、やはり神器のお陰だろう。
あ、でも星輝のお陰もあるのかな?
なんか星輝って神力に近い物をを感じるから多分そうだと思う。
漸く、黒狼達が群がって来るのが落ち着いたが、まだまだ何かやって来そうである。するとチナがしょんぼりした顔で近づいて来た。
「ごめんなのじゃ……、わちはエルナの守護神としてここにいるのに……」
どうやら、エルナがダメージを受けてしまったのを気にしている様だ。愛いやつめ、と言った感じでチナの頭をグリグリしてやる。
「気にしない、気にしない。私も狼達が、隠蔽系能力の使用が可能になっていたのに、気が付かなかったからね」
のじゃ~、って感じで落ち込んでいるチナに声を掛けながら察知と感知を強く意識する。如何やら次の敵が近づいてきたようだ。
「チナ、しょぼくれるのは後、次が来るよ!」
「みゅぅ、そうじゃな! はんせいは後にしゅるのじゃ!」
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