25 interlude-1 紅月の眷属達
星々無き夜の帳に、巨大な紅い月だけが唯一輝き続ける永遠の夜。
ここは【支配の呪縛の帳下りし夜紅月】の別名を持つ、大神カリスヴァルツエクリプスの分霊が、エルアクシアの世界の内側に作りだした異相の空間。
この空間には、巨大な赤い月である【支配呪縛の帳下りし夜紅月】の分霊と、その月明かりに照らされる只々深く広い森。
そして、唯一の建造物である巨城サーザベルスのみが存在していた。
その巨城にある閣議室に紅月の眷属のトップが集まっていた。
白い髭を蓄えた白い長髪をオールバックにした厳めしい老人。
四本の角が付いた顔の見えない兜を着けた全身鎧の偉丈夫。
鎌とも杖ともとれる物を持った仮面をつけたフードローブの男。
紫の長髪に妖艶な魅力を醸し出す抜群のプロポーションの女性。
人型をした紅い鉱物の集合体。
紅月で紅く染まる銀髪に褐色の肌をした少女。
赤茶色の髪に全ての指に指輪を着けた傲岸不遜な態度な男。
彼らには一つ共通点が在る、それは皆あの紅い月を思わせる紅輝く瞳していると云う事だ。
「
白髪の老人が集まった面々を見まわしながら言葉を発する。この老人がまとめ役の様だ。至月七紅とは紅月の眷属達の頂点に位置する、最高位の神格を有する七柱の眷属神の事だ。
「いったい何用があって招集をかけたのだ? ツェザール老、我らが集まるなど久方振りの事だぞ?」
仮面の男がツェザール老と呼んだ白髪の老人に問う。
「そうね。確か私達が全員が集まるのは、800年振り位じゃないかしらね? ストラム?」
紫の髪の女が仮面の男ストラムに蠱惑的に話しかける。
「む? うむ。クラエスそれで間違ない。前回我々の今後の予定を話し合う物だったが?」
仮面の男ストラムは紫髪の女クラエス答えつつも白髪の老人ツェザールに話を促す。
「そうじゃなぁ。我々が集まるのも800年振りであったか。まあ、それは良いじゃろう……、ストラムそう睨むな直ぐに要件を話すからのう」
「相変わらず、爺の話はトロぇんだよなぁ」
赤茶色の髪をした態度の悪い男が閣議室の椅子に雑に座り、テーブルの上にドカッと足を乗せて口悪く曰う。
「そう言うなよ、ヴァリズ。ツェザールの爺さんは、紅月様が星界の大神だった頃からの最古参だろ? 若者で在る僕らはお年寄りは大切にしないとね?」
紅に輝く銀髪褐色肌の少女が、ヴァリズと呼んだ赤茶色の髪した男の顔を覗き込みながら言う。ヴァリズは彼女の自分と同じ紅く輝く瞳を見て、何か動揺する様な事でもあったのか、チッと舌打ちをすると不貞腐れた様に小さな声で言う。
「アルムの奴、お前が一番頭がおかしいのに真面目ちゃん発言かよ。チッ」
アルムと呼ばれた、紅に輝く銀髪に褐色の肌の少女は、ヴァリズが大人しくなった事に満足して頷いている。
『アルム殿の言う通りですね。紅月様が星界の大神であったからこそ、我々はこの世界の者共に気付かれる事無く、この世界に潜伏できているのですから』
「うんうん。そうだよね! 流石! トゥルムは分かってるね!」
トゥルムと呼ばれた人型をした、紅い鉱物の集合体にしか見えない彼は、したり顔で言ったらしいのだが、そんな事は親しい者でもなかな分からないだろう。そんな彼に自身の発言を肯定され嬉しそうなアルムを見てヴァリズが言う。
「いや、俺は爺の話がトロいって言っただけで、紅月様の事はなんも言ってねぇからな?」
「静かにせよ! ツェザール殿が話を続けられんだろう! ……ツェザール殿、話の続きをどうぞお願いします」
「おお、すまんな。ザナハト、若いもんはよう喋りおるからのう」
ザナハトと呼ばれた、全身鎧に四本角が特徴の偉丈夫が喝を入れた為、皆が大人しくなり漸くツェザールが話せる様になった。
「なに、他でもない我々……否、紅月様がお考えになられた。この世界の主導権を我らが握り、この世界に満ち溢れるエネルギーを奪い支配する。そのエネルギーを、我らの力へと永続的に変換し搾取し続ける為の計画の事じゃよ」
!! 一気に空気がざわつく。そう皆待っていたのだ。彼らがこの世界に来て3000年と少し、陰に潜みながらこの世界の者達に気付かれぬ様に動いてきたのだ。進展があるのかと期待するのも仕方ないだろう。
「おいおい爺! もしかして大きく動くってのか!?」
ヴァリズが思わず体を乗り出し、声を上げながらツェザールに詰め寄る。しかし、ツェザールな反応は芳しくない。
「そうじゃのう……、むしろ後退と言えるのう」
「なんだと……」
後退とざわついていた空気も収まる。それを聞いて、明らかにやる気をなくした様子のヴァリズはチッ! と舌打ちしながら乱暴に椅子に座り直す。
「それで、ツェザール公。私達の計画が後退したと言うけれど、どういう事なのかしら?」
クラエスが優雅にツェザールに話の続きを促す。うおっほん! と咳払いしツェザールが話を続ける。
「1200年前、星脈に関わる力を持つ娘をヴァリズ。お主が紅月様の神器の力を使って捕らえたじゃろう。覚えておるよな?」
「ああ、覚えてるぜ。神でもねぇのにやけに力が強くてよ~。殺さねぇ様に捕まえるのに使い捨てとは言え、紅月様から頂いた神器の力を使っちまった奴の事だよなぁ?」
あいつの事は覚えている。白く輝く金髪に、星々を詰め込んだかの様な時折紫にも見える青い瞳に華奢で儚そうな見た目。
間違いなく神にも至っていないにも拘らず、やけに力が強くやむを得ず紅月様の神器を使う事になった。
容姿がひと際優れていた事も在るが、力が尽きる様な素振りすら見せなかったあの力。紅月様の神器が無ければ逃げられ俺たちの事が露見していただろうぜ。
ヴァリズは、神でもない相手に手間取った事を思い出して、思わずしかめっ面になっていた。
「で、そいつが如何したってんだよ。紅月様の神器の力を使って、この俺。呪歴神グルンカーズヴァリズ様が封呪を掛けたんだぜ。まさか、1200年ぽっちで封呪が解けるなんてことぁねぇはずだろ」
「そのまさか、が起こったようでのう? あの娘を、時が来るまで隠し封じていた場所に、封縛結晶の残骸だけ残っていたそうじゃ。定期的に封縛結晶の確認していたから、気付けた訳だが困ったもんじゃよ」
ツェザールが自分の髭を撫で付けながら困り顔で言う。ヴァリズは「あり得ねぇ」と口にしながらも如何してそうなったのかを考え口に出す。
「何で急に敗れた? 今までの報告でも問題なかったはずだぞ? 考えられんのはこの世界の変化位かぁ? この世界の変化と言えば、創天の意思が来訪者とか云う奴らを異次元から招いたとか言うのを聞いた気がすんなぁ? 考えられるとすんなら其れかぁ?」
「ほっほっ、ヴァリズよ。おそらく、それじゃろうな娘が居なくなったのはのう。来訪者が、この世界に姿を現したのは60年程前と云われておるようだが、そうでは無かったと考えるべきじゃろうな。異次元から来た者に、創天の意思が融通を働かせておるのは、ここ数日大量に現れた来訪者達の様子を見れば明らかじゃしのう」
「ふ~ん。つまり、紅月様の神器の力を使った、ヴァリズの封呪が破られたのって創天の意思の所為ってこと? まあ、それなら仕方がないと言えるよねぇ、創天の力は絶対だからねぇ。幾ら紅月様の力を借りても、僕らじゃ如何にも為らなかったと言う事になるのかな?」
アルムがウィンクをして、ヴァリズの失態ではないとフォローしてくれたのがヴァリズには嬉しかった。
「しかし、そうなるとようあの娘。来訪者の奴らと関わりがあるのかぁ? そうは見えなかったがなぁ?」
「ほっほっ、わしの推測じゃがのう。来訪者と呼ばれる奴らは確かについ最近、この世界に本格的に現れたようじゃが、奴らの世界から元々魂だけは、随分と昔からこちらの世界に流れて来ておったのではないのかと、儂は思うておる。おそらく来訪者どもが、本格的にこの世界に来るようになって、魂だけで既に来ておった者も、創天の意思の恩恵を受けたのじゃろうな。儂の考え良い線行っとると思うが、如何じゃ?」
『状況から判断して、ツェザール公の考えが妥当でしょう』
トゥルムがツェザールの考えを支持すると他の者達もそれを支持した。原因が創天の意思の力だとして、肝心の娘居場所が分かるのかストラムが聞く。
「それで、居なくなった娘。何処に居るのか見当はついて要るのか? ツェザール老?」
「ふむ。1200年封呪の力受けながら、封縛結晶に封印されて居た訳じゃからのう、そう遠くまで行けはしまい」
「つまり、見当はついていると」
「そうじゃな」
ならばと、ストラムが追手の提案をする。
「ならば、この世界の神々に気取られ難い強さの者で、捜索し追手にするべきであろうな」
「あん? ストラムそんな弱くて大丈夫なのかよ?」
「ヴァリズ、それならば問題ない。ナイト級で在るにも関わらず、紅月様に認められ神器を貸与された者が居る」
「あら? ストラムそんな有望株が居たの? 私に教えてくれても良かったんじゃないのかしら?」
「クラエス、お前に教えるとその将来有望な者が、実験台にされ使い物にならなく為るだろうに、それにそいつはザナハト殿の配下だぞ?」
「あら、そうなの? それなら仕方ないわね。諦めてあげるわ」
「そういう訳で、ザナハト殿いかがか?」
「承った。奴に指揮権を与え、娘の捜索と追手に出そう」
ザナハトは配下に指示を出すため閣議室を出ていった。
「ねぇ、次に僕らが集まるのは速くなりそうじゃない?」
「まあ、そうだろうなぁ」
失敗するにせよ、成功するにせよ。アルムの言う通り、今度集まるのは早いのは間違いないだろうとヴァリズ思うのだった。
閣議は終わりを告げ、他の至月七紅も去り閣議室は静寂を取り戻すのだった。
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