21 エナと契約した
〈水神の寝床〉宿の自身の部屋にログイン。すると何だか俺の……いや、違うな、これはエルナの心がもやもやしている様だ。
お~い、エルナさんどうしたのかな~? そんな感じで呼び掛けてみると、あの子は誰なのよ、と云うような趣旨の意思が伝わって来る。
おおぅ、もしかして、現実の俺の記憶がエルナにもある程度伝わっている?
でも、可笑しくはないか。現実に戻っても、俺がエルナをどんなイメージで作ったのか思い出せなかったしなぁ。DDSはやっぱ、ヤバいシステムだよ。
それにしても、エルナのこの反応何なんだろうね? 嫉妬かな? 直ぐに嫉妬じゃないし! と云うような意思が返って来る。
とりあえず、あの子は桜と言ってメイドさん見たいなものだと、エルナに伝えると、侍女の事? という反応が返って来たのでそうそれ!
と俺はお答える。如何やらそれでエルナは納得したらしく、もやもやしていた物がスッと無くなるのだった。
いや~、まさか待機ルームの事がエルナに伝わっているとは思わんかったなあ。驚いたが、これは桜の言っていた通り、エルナとは近い内に待機ルームで話をする事が出来そうだな。
サービス開始二日目、IFO内では五日経過している。
もう既にお昼の時間帯なので、冒険者ギルドの依頼も恒常依頼しかないだろう。
さて、何をしようかな? そう思いながら宿を出ようとすると。
やはり、としか言いようがないのだが、完全に宿の人はエルナの事を覚えていない様で、宿の人にちゃんと宿泊者名簿に書いてある事を伝えなければいけなかった。
あー、マジか。この【忘却されし者】間違いなく現在進行形だわぁ。
これさ、かなり面倒臭い事になるやつじゃん!
しかもこの状態だと、現地民,プレイヤー問わず、美少女と仲良く為るのが難しくなるって事じゃねぇかよ! オマケに現地民や他のプレイヤーと、パーティーを組むのも難しくなるじゃねぇか!
只でさえ、フレンド機能が使えない上に、現実にも影響のあるDDSの事を考えると、どうなるのか分からんよなぁ。はあ、ため息しか出ないわ。
本気でDDSがヤバ過ぎるだろ、その気になれば一個人を社会的に抹殺するのなんて簡単なのでは?
それにしても、どうしたものかなと考えながら、外に出るとリバーブローを貰ったかの様な衝撃が横っ腹に走る。
「ふぎゅっ」
悶絶した俺はしばらく動けなかったが。まあ、何が起こったのかは大体把握している。エナの危険タックルを横っ腹に貰ったのだろうと、案の定エルナの右脇腹にエナが引っ付いていた。
「エナ……、本当に痛いからタックルは止めて……、お願いだから」
エナがビクッ! と反応して顔を上げる。顔を上げたエナは涙目になっており、タックルを食らった俺の方が悪い事をしてしまった気になる。
クッ! この罪悪感これが美幼女マジックなのか!
「しょ……しょうがなかったのじゃ。急にお主の事を忘れてしまいそうで、不安で仕方なかったのじゃ。そうしたらエルナが異世界から戻ってきた事が分かったのじゃ。それで、ついつい、お主に飛びついてしまうのは、わし仕方ないと思うんじゃ」
だめ? という感じでエナは俺を見る。エルナの事を忘れてしまうと言う事に、心当たりのある俺としては何だから怒れ無くなってしまった。
「あ~、それは私に付いてる変な称号の所為もあるから。しょうがないか~」
はあ~っとため息を出して、エナが危険タックルをした事を不問にした。
でも、知り合って数日のエルナに対してする様な事ではないと思う。
これはやはり、エナがエルナと元々知り合いだった。
そう考えるのが正解じゃないだろうか。
「称号じゃと?」
「うん。【忘却されし者】って言うのが付いてるんだよね。それに、私自身も記憶喪失だから、エナと私は本当は覚えて無いだけで知り合いだったのかも知れないね?」
俺は自分の事を、何でもない事の様にさらりと言ってエナの反応を見る。
「むむむ。確かにわしとエルナは知り合いっだったのかも知れぬ。わしはここ1000年以上ずーっと何かを忘れている様な気がしてならんじゃ。それにエルナと居ると何だがとても懐かしい感じがするのじゃ」
あー、これでエナがエルナと知り合いは確定かな?
ハラスメントガードが効かなかったのも、エナと元々かなり仲が良いからという事で間違いないだろう。それに、エナが話している内に、エルナの名前を思い出したのか。俺の呼び方がお主からエルナになってるな。
そして、何かを考えていたエナが神妙な面持ちで言う。
「エルナよ。わしはお主の事を覚えていたいのじゃ。それに、お主の事を忘れてはいけないと、竜の本能が訴えてくるのじゃ。」
竜の本能か、それの意味するところは結構デカい。
何せ竜は大神達の頂点にして全ての世界と星界の祖たる大神、【虚無に来りて星界の種を蒔く者】ユクスノールと同じ種族とされる、竜なのだからこの意味は大きい。
ユクスノールが竜である事から竜は世界に非常に密接に関わった存在である。
その竜の本能が訴えかけて来ると言うのは世界に関わることに他ならない。
ちなみに、IFOには龍も居るが竜と龍の違いは、蛇の様な胴体をして居るのか、して居ないのか。後は、龍が後衛能力に特化し易いと言う事位しか違いは無い。
結局の所、同じ種族の個体差見たいな物だ。
「なので、エルナよ! わしと契約するのじゃ!」
「ん? 契約?」
いきなり契約? 思わず首をかしげる。
「エルナに、わしの分霊を守護神として憑ける契約をすれば、わしの分霊が常に一緒に居る事になるのじゃ。そうすれば、ここ数日の間に段々と記憶が薄れてい行く様な、その称号の効果も何とか成ると思うのじゃ」
おお! 確かにこの称号の効果は、エルナとある程度会わないでいると、徐々にその人達の記憶から忘れられて行く。そんな風に感じていたから納得できるな!
それに分霊を付けるってパーティを組む様な物なのか?
それとも召喚獣見たいな物なのか?
「それにのぅ、エルナよ。絶対わしが居た方が良いと思うのじゃ。何せお主が異世界に行っておる間、お主が忘れられてしまう可能性は高いじゃろう? じゃが、わしが居れば、わしを記憶の取っ掛りとして、思い出して貰えるんじゃないのかのぅ?」
「確かに、それはあり得ますね! 是非契約しましょう!」
「そうか! 流石エルナじゃ、決断が速いのじゃ! ならば契約実行じゃ! 分霊の契約に必要な対価はお主のその有り余っとる星輝を貰えば十二分じゃろ!」
Σしまった、勢いで契約すると言ってしまった。いやまあ、エナだから大丈夫だと思うが、俺こんな感じで契約してたら詐欺に引っ掛からないか?
今回はしょうがない。良し! 今度からは気を付けよう! ん? 星輝? なんかスキルとかアーツにあった様な?
そんなアホなことを考えていたら、エナから物凄いエネルギーが解放される。おそらくは神気とか神力とか言った物だろう。
エナの持つ力が自身とエルナの周りにエネルギーの力場を作り上げていく。力を開放してエナが美幼女から美少女に、見たいな事には為ったりしなかった。残念。
『水竜神ブエナたる我が御名に於いて、我が友たり得る者エルナに我が加護与え、さらに我が半身たる分霊を汝の守護に遣わす為の契約を行う。契約するに於いて、汝が持つ星輝の一部を対価に守護分霊を授ける事とする』
すると何時もエルナの体から出ているけど、他の人には見えていないであろうキラキラの光が、エナ方にどんどん流れて行く。流れていくキラキラの光の一部は、エナの中に流れて行き、残りはエナが翳す手の前に集まって行く。
もしかして、星輝ってこのキラキラの光の事なのだろうか?
エナが徐に自身の尻尾から鱗を一枚剥がすと、おそらく星輝であろうキラキラの光の集まりに投げ入れる。
『我が半身を持って器と成し、我が魂の分魂を持って命を吹き込み、我が力と星輝を持って生命と成す』
投げ入れられたエナの鱗は今のエナよりも幼いエナそっくりの姿に変わって行く。身長は一回りくらい小さく、色合いも本来のエナよりも明るめの色になる。集まっていた光が弾けて、小さなエナが目を開ける。
今生まれたばかりの小さなエナが、エルナに付く守護分霊に為るのだろう。
すると、エナはまだ何か作るつもりの様で再び力を高める。
『神の分霊を宿せし宝珠を神具と成す』
エナが懐から取り出した、大粒の水色の宝石のチャームが付いたチェ-ンストラップと、分霊の小さなエナが光のラインで繋がり、パァッと光ると小さなエナは消えてしまった。
「エルナよ。この分霊神具に触るのじゃ」
エナに言われた通りに分霊神具だと言われたチェ-ンストラップに触る。その瞬間エルナと分霊神具に繋がりが出来たのを感じた。
「うむ。これで守護分霊の契約完了なのじゃ」
¶システムメッセージ
プレイヤーエルナが称号【水竜神ブエナの加護】,【守護分霊憑き・水竜神ブエナ】を獲得しました。
エルナさんお友達と仲間が出来てよかったですね。
おおっと! 称号ゲット! って、あれ? また弄られてる? 確かにフレンド機能が使えないってのもあるけどさぁ、酷くない?
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