19 ダンジョンで水遊び

 ダンジョンと言えば数ある異世界物はもちろんの事、ファンタジー物のゲームにTRPGなどでお馴染みの、冒険者の夢と欲望と死の危険が隣り合わせのロマン溢れる場所。それが、ダンジョンだ!


 ダンジョンの入口にはゲート設置されて折り、二人の見張りの他にダンジョン入場の手続きをする小屋が立っていた。ここは管理されているダンジョンなのでこういう物が有るのだろう。

 ゲートの向こう側には本来あるであろう街並みは見えず、空間の歪みが暗い水面を思わせるようにゆっくりと波打っていた。


「ここのダンジョンはわしが支配下に置いているダンジョンなのじゃ! だから安心して遊べるのじゃ!」


 エナ曰く、この町の中には二つの管理ダンジョンが有り、両方ともエナの支配下にある、その為エナと居るなら本当に安全で危険も無いらしい。

 ちなみに、ここはダンジョンストリートの二番街にある〈常春の水林〉と呼ばれるダンジョンだそうだ。

 あれ~? ダンジョン行くっていうから遊びと言ってもモンスターとの戦闘とかあるのかな? と思っていたのだが。どうやら本当に遊ぶだけの様だ。


「このダンジョンは水が豊富な森のフィール型ダンジョンでのぅ。所々森の木々が、中にある湖に水没している所があって、それがなかなか綺麗なのじゃ。それにこのダンジョンの中は年中春見たいに暖かくて過ごしやすいのじゃ」


 実はエルナの装備には、環境適応の効果も有るのであんまり寒さを感じていなかったのだが。やっぱり、みんな寒いと思っているのは確かな様で、このダンジョンは今が一番賑わうらしい。


「春のぽかぽか陽気の中で水遊びするのじゃ!」


「エナ、私水着持ってないけど?」


「濡れてもすぐ乾くから大丈夫なのじゃ! それにわしが見た所、エルナの装備なら何の問題も無そうに見えるのじゃ」


 ふむ。君らどうなのよ? エルナの装備達に意識を向けて見ると、水なんて何の問題もないと返って来る。むしろ、空を飛ぶように動けると伝わってくる。


「エナの言う通り大丈夫みたいだね」


 ダンジョンに入る手続きは簡単に済んだ。普通ならエナの様な幼女が、ダンジョンに入ろうとしたら止められそうだが。この町の人もここで活動している冒険者達も、エナの事を分かって居る為エナは顔パスだった。

 始めてこのダンジョンに入るエルナの方がかなり時間がかかったと言えるだろう。


 設置されたゲートを潜り、ダンジョンの入口である空間の歪みに手を入れてみる。ぬるっとする様な感触と共に波紋が広がる。ぬるっとする感触は、ちょっと気持ちのいい物では無かったが、後から来る人の迷惑になるので、そのままダンジョンに入る事にした。


 最初ぬるっとした感触だったそれは、全身を通すとまるで水のに入ったような感触に変わり、直ぐにその感触からも解放された。

 そうダンジョンの中に入ったのだ。ダンジョンの中は青い空と暖かな太陽? の光が目の前の森にキラキラと降り注ぎ、水の流れる音が何処かから聞こえてくる。

 それに、ダンジョンの中には普通の動物達も居るようで小鳥が仲良く飛んでいた。


「すごく綺麗な所だね!」


 本当に綺麗所だった。このダンジョン観光ツアーが組まれて居ても可笑しくないのでは? そう思えるほどきれいで心地良い場所だ。


「ここはわしのエネルギーが溜って出来たダンジョンなのじゃ」


 そうか! エナの神としての力が溜って出来たダンジョンで、それをエナが支配しているって事は実質ここは聖域って事か!

 なるほどね。すると、入る時にちょっと嫌な感じなのは、ダンジョンに入る時特有の物なのかな?


「ふっふっふっ、どうじゃ、良い場所じゃろう。ここは遊ぶのに最適な場所なのじゃ!」


 どや~っ! って顔をしたエナが、胸を張ってわしってば凄いんじゃよとアピールし、尻尾も自慢げに揺れている。

 そんなエナをはいはい偉いね~って感じで頭を撫でるのだった。


 まず、ダンジョンの中に入って向かったのが森の中にある沢であった。川岸には細かな石が沢山あり、川幅はそんなに広くなく川底は浅く綺麗に底まで見える、キャンプとかバーベキューなんかでよく見かける沢遊びに最適な場所だった。


「魚やカニにエビを沢山捕まえた方が勝ちなのじゃ!」


 むむ! いきなり勝負ですか。そうですか、受けて立とうじゃないか! ちなみに、何で捕るのが魚やカニにエビなのかと言うと食べるからだそうだ。


「ふふふ、いいでしょう! 発見のスキルを持つ私に勝負を挑むとは後悔させてあげますよエナ!」


「Σなぬ、わしだってその……水竜としての嗅覚とかそう言うのあるんじゃし……ぅ、負けないのじゃ!」


 ノリノリな感じで勝負を受け、勝負開始と共に川の中に入る。水の中を、素早く動く魚の動きを見極め水を切る様に手を振るう。手に当たった魚を掬い上げる様に素早く打ち上げる、そう北海道のヒグマが産卵のために川を遡る鮭を獲る様にだ。魚放物線を描き川岸にあるエナが魔法で出した水の球に落ちる。

 うむ、完璧に再現できたのではなかろうか。エナは水の中に顔を突っ込んで、バシャバシャやっている所為で、一匹も捕れていない様だった。

 可愛いなぁと思いつつも。

 ふっ、アレでは魚が逃げてしまう。この勝負勝ったなそう思うのだった。


「むぅ、何でエルナはそんなに捕れたんじゃ?」


 エナが頬を膨らませむくれ顔をしているのがとても可愛いが。結果はエルナの圧勝だ。エナはカニやエビを見つけて捕まえるのは結構できたが、如何せん魚を捕まえるのが下手過ぎた。魚の数がそのまま勝負の勝ちにに繋がったと言える。


「まあまあ、エナに魚の捕まえ方をちゃんと教えてあげるから」


「Σなにっ! それは本当かの!? 是非ともわしに教えて欲しいのじゃ!」


 エナが何故か土下座しながらお願いして来る。

 いや、そんなに教えて欲しいのかよ!

 でも、なんか気になったのでちょっと聞いてみる。


「うむ……、実はのぅ。わし水竜なのに、沢遊びで魚を捕まえるのが下手じゃと、子供たちに馬鹿にされるのじゃ! それが悔しくて悔しくてしょうがないのじゃ!」


 エナは石だらけの地面をバンバン叩いて悔しそうにしていた。石をそんなに叩いたら痛そうだけど竜だから平気なんだろうなぁ。

 なんて関係ない事を思いながら生暖かい目で見ていた。


「えっと……それは悔しいね?」


「そうじゃろう!」


 まあ、そんな残念のじゃロリなエナにヒグマの鮭の捕り方を真似した方法を教えてあげるのだった。


 次の遊びをするためそのまま川の上流を目指して行く。今度は何をするのかと言うとキャニオニングの様だ。まるで滑り台の様になった滝が三段くらいの段になって居て結構危なそうに見える。

 何か特別な道具を持ってきた訳でもないし、エルナの装備達? は大丈夫と言うがこの格好でする物では無いよなあと思う。まあ、やるけどね!


「ここでするのは滝下りじゃ! まずはわしが手本を見せるのじゃ!」


 そう言ったエナが「にょわ~!」と叫びながら結構な勢いで滝をウォータスライダーの様に下って行く。滝壺にから顔を出したエナがとっても楽しそうに手を振る。

 ゲームの中だし装備のお蔭でステも高いから平気だろうと俺も滝を下る。


「わわっ! キャー!!」


 かなりの勢いで滑り落ち段差の所でで振り回されまるで女の子の様な悲鳴を上げてしまった。いや、今女の子だったわ。


 その後も何度かここで滑った後に、エナと一緒に別の滝でも滝下りをした。


 クゥ~っとエナのお腹ら可愛らしい音がしたので屋台の料理と沢で捕った生き物を軽く調理して食べる。エナは竜と言うだけあって沢山食べるため、屋台で買った物も沢で捕っと物もみんな食べてしまった。食後にアプリンを食べる、というか飲んでのどを潤した。


「この後は一緒に泳ぐのじゃ!」


 今度は水中に森が沈んで居る所に行って一緒に泳ごうとの事。


 ついた場所は木々が半ば水に浸かっていて水の中は青々とした草や花が咲いておりとても綺麗だった。何でも水に浸かっているのは、何時もという訳ではなく時間や場所も定期的に変わるらしい。

 これってダンジョンのギミックとしては結構厄介なやつだよな。


「早速泳ぐのじゃ!」


 そう言うとエナは水に飛び込んで気持ちよさそうに泳ぎ始める。服を着たままなのは違和感を覚えるが泳いでみるとするか。


 ゆっくりと水に入るとダンジョンの中の春の陽気と相俟って非常に心地よい。水は澄んでいて水面からでも分かるくらい青々と草が茂り、色とりどりの花が水の中だと言うのに綺麗に咲誇っている不思議な光景だった。


 こちらに近づいてきたエナが背中に羽かヒレ? の様な物を出して「あそこまで競争じゃ!」と結構遠くにある大きな木を指差し、あそこまで泳いで競争しようと言ってきた。

 ちなみに、背中から生えた羽だかヒレだか分からない物は、左右に三枚づつあり所謂ペンギンのフリッパーと同じような物、つまりヒレ状の翼という事らしい。

 水中だけでなく水を纏う事で空も飛べるとか。


 いくら人の姿をしているとは云え、水竜な上に神でもあるエナと泳ぎで競争するのはかなり無謀でしかないが。とりあえず、やってみる事にした。


「すたーとなのじゃ!」


 エナが余裕な感じで泳いで行く。翼と尻尾を巧みに使って潜水しスーッと水中を泳ぐ。それを見て、エルナの翼でも似たような事が出来そうだと思いやってみた。


 水中で極光の虹翼が輝き空を飛ぶ様に翼で水を切り、翼から出る光の粒子で加速する。水泳のスキルとか持ってないがこれなら問題なさそうだ。

 これにはエナも驚いて水の中でモガモガと何か言いている様だった。多分、なんじゃと! とか言ってたんだろう。

 それに【流翼翔駆リブエールクリール】の持つ、陸海空の力が移動を助けてくれる効果も働いて、物凄いスピードが出てしまい。勢いよくゴールの木に激突したので気にしていられなかったと言うのも有る。


「くぅ~っ、まだ痛いよ」


「そりゃ、お主あれだけの勢いでぶつかれば、誰だってそうなるに決まっているのじゃ」


 エナに頭を撫でられるというちょっと新鮮な感じを受けつつも、痛みが引いたらまたエナと一緒に泳いだり、水を掛け合ったりして遊んで過ごすのだった。

 水の掛け合いでエナの尻尾で物凄い波が起こったりしたが、屋台で買ったおやつやまだ買って於いて食べてなかった水竜饅頭を食べたりして、概ね平和にダンジョンでの水遊びを終えるのだった。


「エルナよ、また今度も遊ぶのじゃ!」


「エナも、また一緒に遊ぼうね~!」


 ダンジョンから出た後に、エナとこんな感じで別れた後。俺はログアウトするのだった。いや~、本当に只エナと遊んでいただけだったな。

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