5 天使とアプリンの果実

 真っ暗な森の中、不思議な光をキラキラと放つ、幻想的な雰囲気の美少女。

 鏡の中に映る自身の現身に、好き勝手にポーズを取らせたり。

 装備を外してみたりして、ニマニマするそんな美少女は~♪

 はい、俺です。


 これが、傍から見た今の俺の姿だろう。端的に言って、やべー奴だろうな~。まあ、誰も見てないし、美少女だからセーフだろ! あ、それと、真っ暗なのに何で平気なのかって言うと。自分が光ってるからだね。


 さてさて、エルナが天使なのではないか。そう言う疑惑が出て来たので、サックと検証だ! 

 とりあえず、ドレスの背中にスリットがあるんだから、何かしらここから出るはず。背中に意識を集中する。でも、何も変わらない。

 ふ~む。そうだ、エルナの体から出てるこのキラキラの光。これが、背中からたくさん出て来るイメージをしてみよう。

 IFOのIは、イマジネーションのIだからな! ステにもIMAが有るしやってみよう!


 目を閉じ集中し、イメージする。今も、エルナの体から出て来るキラキラの光が、体の中で背中に集まるのを。ドクンッ! 心臓が大きく鼓動を打つ。心臓から溢れ出た暖かい光の流れが、体を駆け巡り背中に集まって行く。


「だいじょうぶ。わたしはてんし、きっとそうにちがいない……!」


 先と違い手応えがある。確かに、何かエネルギーを感じる! 続けてイメージする。限界まで背中に集まったキラキラの光が、大きな翼となって背中に出るのを!


 ふと、背中に感じる解放感。それと、同時にキィィ――ンッ! という音が響き渡る。


 慌てて目を開け、背後ろを見ようとすると。虹色に輝く光で出来た大きな翼が、暗い森をこれでもかと照らしていた。


「おお、ほんとにでた! つまり、わたしはてんし! ふんすっ!」


どや~。ふふん、これは確定でしょ!


¶システムメッセージ

プレイヤーエルナの、種族特性『極光の虹翼』が解放されました。おめでとうございます。ですが、エルナさんは天使ではありません。ご容赦ください。


 ああああああああああああああああああああああ!! はっずかしぃ~いっ!!!


「あう~っ」俺は恥ずかしさのあまり、地面をゴロゴロと転げ回った。うわ! はず! あんな自身満々でドヤ顔して、自分は天使とか言って置きながら違うとか。恥ずかしすぎる~! 


 ふぅ~、落ち着いた。幸い誰にも見られてないし。傷は浅いぞ!! っていうかシステムメッセージにまた弄られてるの何でだよ!

 あ、装備品には自動清浄の効果があるから、直ぐに綺麗になるんだよ。これで何時でも転げ回れるな。

 まあ、残念美少女になる気はないから、しないけどな!


 はぁ~、それにしても、天使じゃないのか。極光とあるからオーロラか。エルナの種族はまだ分からないと。

 それにしても、この翼めっちゃ目立つな。しまっとこう。辺りが再び暗くなり、エルナだけがキラキラと光を放つ。

 あれ、この光エルナ以外には見えてないのでは? 先の翼が出た時の光には、動物が驚いて離れていくのを気配で感じていた。

 でも、このキラキラの光はずっと出てる。幾ら、気配希釈があると言っても、こんな光が出てたら目立つはずだ。

 これは、エルナだから見えている。そういう事になるな。


 きゅ~ぅっ、という音がお腹からした。


「おなかすいた……」


 そういえば、ログインしてからエルナとして何も食べてない。これだけリアル重視なのだから、お腹がすくのは当然か。


 食べ物か、確かアプリンの果実と牙猪の肉、それと岩塩と胡椒に油もあったな。問題は何処にあるのかだが。ステータスを見ていた時に、一応当たりは付けてある。それは、クロスジュエルリング、エルナの左手の中指に填まっている指輪だ。


 指輪に意識を集中、アイテム覧出ろ! すると、ステータスの時に見た。持ち物の一覧が、指輪からホログラムのように表示された。おっしゃ! とりあえず、直ぐに食べられそうなアプリンの果実を出そうと思う。まずは、1個出そう。


「あぷりん……、いっこ……」


 Σはっ、あれ……俺はアプリンを1個取り出したはずだ。だが、アプリンはどこにもない。なんか口の中が、ちょっとすっきりした様な気がするが。気のせいだろう。気を取り直して、もう一回アプリンを出す。今度は2個だ。


「あぷりん……、にこ……」


 Σはっ、またか……またもや取り出したはずのアプリンが消えている。あと心なしか、お腹が少し満たされた様な気がする。いやいや、違うよな? だが、俺はこの様な事を、あと三回も繰り返すことになるのだった。


 まさか、エルナがアプリンを好き過ぎて、出した端から瞬殺してたとはな。

 おかげで、アプリンを既に9個も消費してしまった。なんか記憶も飛んでるし。

 Σはっ、て記憶喪失はもともとかぁ、はははっ。

 ふう、では気を取り直して、そう俺はまだアプリンを食べてないと言ってもいいだろう。だが、ようやくアプリン瞬殺は止まった。

 これで、俺もアプリンがどんな果物なのか分かる。

 見た目は小ぶりのリンゴの様で、まんまリンゴかと思ったのだが! サクッと口の中入れた瞬間、果肉が一気に溶け出し口の中にあふれる! それだけではない、噛んだ所からも果肉が一気に溶け出したのだ。

 急激な変化に慌てつつも、すでに一度かじった所に口を付けアプリンを一気に飲みほす。


 結論から言うと、アプリンめっちゃうま~♪ エルナの大好物というのも有るんだろうけど。それを、差し引いてもうまかった。

 これは、食べるジュースまたは飲む果実といったところか。


 む? 何だ? 何か思い出しそうだぞ? 頭の中に、ある果物の様々な品種とその味、利用法などが映像付きの知識として次々と浮かび上がる。

 そう、それはアプリンの映像付きの知識だった。うん。だと思ったよ。


 どうも、アプリンの事を語りたくて仕方がない。

 そういう感じになって来たので語ろうと思う。

 アプリンの果実とは先ほど俺も思った通り、食べるジュースと呼ばれ親しまれている。この小さなリンゴに似た果実は、切っても熱しても冷やしても果汁が垂れる事はない。

 ただ唯一、生物の唾液に含まれる酵素と反応して、果肉が一気に液体になるのだ。この様な性質のため、腐り難く。そのままでも保存食として使える。

 もちろん、乾燥湿気にも強く。船乗りとか砂漠のキャラバンの人達御用達の果物である。

 しかも、このアプリン天然の物でも数多くの種類があり。当然味も良い。おまけに品種改良もされており、調味液代わりになる物。そのままスープとして飲める物まである。

 当然、色々な味があるため。そのままジュースとして飲むのも。そして、スウィーツにも、大変よく活用されるフルーツ界の万能選手である!


 ふう、アプリン最高だな!!


 さてと、朝までどうするかな?

 このまま起きてるのも、ログアウトも微妙な感じだし。かといって寝るのはないよな~。それとも、MMOらしく狩りでもするか?


 いや、牙猪の肉を焼いて食べる。すなわち、ファンタジー肉を楽しむという、異世界あるあるが。あるじゃないか!


「おにくたべたい……、ごくりっ」


 アプリンを10個も食べたのにまだまだいける様だ。

 ふ~む。相当長いこと封じられていたようだし、エネルギーが足りないのだろうか? そういえばまだ、運動機能低下の状態異常。全ステ70%低下のままで、全く直ってないもんな。


 まあ、それはともかく肉だ! 

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