1章

2 寝落ち?

¶IFO運営システム創天よりシステムメッセージです。

『ユーザー名、結城静流さんの作成したキャラクターが、システムにより3人目ユニークキャラクターに認定されました。

これにより、IFO内のタイムラインに大規模事象干渉を行い改変を実行します。

なお、結城静流さんが作成したキャラクターは、ユニークキャラクターに認定により、強制的にロールアシストシステムがLV3で適用されます。

ロールアシストシステムの詳しい説明はメニューから確認することができます。

ご容赦ください』


『それでは、   さん良き旅を』


 え? なんだって??






 暗い、何も見えない。体も動かないし、声も出ない。

 どこなんだ此処は? 確か、俺はイメージクリエイトをするために扉の中に入ってそれから……だめだ思い出せない!


 よし、思い出せないのはとりあえず仕方ない。

 これはあれだ、絶対に寝落ちしないと思っていたが、どうやらこれは寝落ちしてしまったという事なんだろう。


 はぁ……それにしても寝落ちしちゃったかぁ、イメージクリエイトは1回しかできないのに失敗かぁ。とりあえず気持ちを切り替えよう。

 うん、それにしてもこの真っ暗な夢いつ終わるのだろうか? 所謂これって明晰夢ってやつだよな。LDバイザー装着してるはずだし?


 う~む。これが明晰夢だとするなら、暗くて何も見えないのも、体が動かせなくて、声が出ないのも何とかなるはずだ。

 兎にも角にも、俺の体よ動けぇぇ――!!! とにかく暴れようと体に力を入れる。そう体はあるんだよ、だって体に力が入るんだからさ!

 そうやって俺は暴れようと体に力を籠め、声を出そうと叫んだ心の中でだが。


 ピシッ! ピシピシッ! と何かに小さな亀裂が入るような音が聞こえてくる。はっ! となった俺は渾身の力込める。


 うっ、ごぉ、けええええええええええええええええええ!!!


 ビシッ! バキッ! ビシビシバキンッ!! という音と共に何かが崩れ暗闇に光が差した。その瞬間ガッシャーンッ!! とガラスが割れるような音が響いた。その音を聞きながら、あ、これはきっと目が覚めるんだなと思いながら意識が遠のいた。






 なんだろう、風が木々の枝葉を揺らす音を感じる……、それに僅かに届く太陽の光が体に熱を刺すのも……外だ!


 目を開けるとそこに広がっていたのは、生い茂る木々の枝葉が風でかすかに音を立て、葉の隙間からキラキラと太陽の光が射す光景だった。

 そして、自分のいる場所を確認しようと周りをよく見ると、実は太陽の光は僅か届いてるだけで、空は木々の枝葉に覆われ薄暗い。自分の立っている地面の方は、不自然に開けた広場の様になっている場所だった。


 ふむ、なんか薄暗いし、自分の足元に真っ黒なガラスの破片の様なものが散らばっている。それに生き物の気配が全く感じられないし、さっきからこの場所にいたくないという感情が沸き起こって来る。

 それにさあ、俺は寝落ちしたんじゃなかったのか? 此処はIFOの中なのか? IFOの中なら今ここにいるのは俺が作り上げた美少女キャラということになる。


 そうだ! 寝落ちして夢だと思っていたあれが、夢でないならメニューを開けば……。


¶システムメッセージ

現在ネームロスト状態のためメニュー機能が使用できません。


 はい? ネームロスト? あれが夢じゃないなら、あのシステムメッセージのメニュー確認しろってなんなん。確認できねえじゃん!

 それにだよ、俺が夢だと思ってた時に自分がどんなキャラを作ったか、思い出そうとしたのに思い出せないこの状況は何?


 記憶喪失ってやつ? でもリアルの自分の名前も出るし、ある程度暗記できてるIFO公式設定資料も思い出せる。

 でも、俺が今日までイメージクリエイトのために考えてきたはずの自分のキャラの事が全く分からないぞ?


 そう、あのシステムメッセージ確か、ユニークキャラクターがどうとか……、事象改変がどうとか言ってたな。それにロールアシストシステムだったか? 何故、なにも思い出せないのだろう。

 あっ! そうだよ、これもしかしてDDSのせいか? と言うか此れしか無いじゃん!


 DDS、人が夢を見るメカニズムを解明して作られた技術。これなら納得できる。つーか、DDSって記憶までいじれるのかよ。マジ引くわー、ガチでやばい技術じゃん! これよく許可が出たな。これって現実に戻ったら思い出せるのか?


 まあ、とにかく名前だ。名前が分からないとメニューが使えない。つまりログアウトもできない。


「う~ん、なまえ……おもいだせない……」


 ザッ、ザザッ、ピーッ! 『あ n た 、 mえ エ、る……ナ d え、s hm』


 え! 今の俺の声? めっちゃ可愛いじゃん! ……ってそうじゃない。今のノイズの後に聞こえた声? 俺のキャラの名前がエルナだって言ってなかったか?


¶システムメッセージ

該当キャラクターのネームロストが、一部解除されました。

これよりメニューの使用が可能になります。頑張ってください。


 おお! メニューが使えるようになったぞ! あと頑張ってくださいってなんだよ! 俺システムにいじられてるのかよ。


 はあ~、とりあえずメニューが使えるようになって一安心だ。早速メニューを見てステータスの確認と。俺の作った美少女キャラのエルナが、どんなビジュアルをしているのかじっくりと確認したいのだが。

 なんだろう……? エルナという自分のキャラの名前が分かったからなのか、今すぐこの場から離れたいという気持ちが湧き上がってくる。


「む~、おちつかないよ、すぐここからはなれたいな~」


 なんか喋りずらいし、俺の言った言葉が変換されてる? それに、口に出した所為か。ちょっと、体が勝手に此処から離れようとしてるのを感じる。

 ええい! もうしょうがない! 落ち着かないし、とにかくここから離れるぞ!!


 此処を離れる。そう決めると体が若干ふらつくにも関わらず、木の根や下草で足場の悪い薄暗い森の中をスルスルと進んで行く。

 まるで森の中を歩きなれているかの様に進んでいける。

 これはあれか、スキルか何かの効果か? でも、これはこの体が、こういう事に慣れてる様なそんな動きだ。

 実に自然にこの森をどう歩けば、スムーズに進めるのか分かり体が動いて行く。


 それにしても、結構移動したと思うが、虫の一匹も出てこない。やっぱりこの森は、あまりよろしくない場所のようだ。

 とりあえず、生き物が居る様な所まで移動したいが。

 こんなに動いているのに全く疲れてこないな? SPっていうスタミナが設定されてるから疲れるはずなのに、いや、少し疲れる様な感じがあるけどすぐに消えてる?  

 なんかステータス見るのが怖くなる様な。


 すると、急に森の気配が変わった。無数の生き物たちの気配と心地よい風、太陽の光? なんかキラキラしたものがそこら中に見えるな?

 あと、俺はいつから気配なんて分かる様になったんだよ?

 そうか、これこそスキルだな。

 しかしだ、生き物達の気配を感じる場所に来たのに、もっと遠くにとあの場所から離れたがっている。どれだけ離れれば落ち着くんだろうか?

 途中、狂暴そうな生き物の気配が近くに寄って来たが。

 うわ、まずい! と思うと。自分の気配? が急に薄くなり気付かれることなく抜けられた。それからは、生き物が近くに寄って来ることもなく、問題なく移動を続けられた。


 どれだけ移動したのだろう、日が傾いてきたころようやく俺の中にあった、あの場所から離れたいという感情? というか気持ち? が収まった。


 しかし、もう夜になるのか、ログインしたと思われる時間からどれだけったのか? IFOは午後2時からのサービス開始だったはず。

 メニューから現実の時刻を見ると午後2時50分となっており、まだ現実では50分しか経過していないことが分かる。

 この世界の時刻で正午にログインしたというログと、現在のこの世界の現在の時刻を見ると、現実の10分がこちらの世界の1時間という計算になる。

 いや、5時間も移動してたのかよ!


 まあ、ようやく落ち着いたし。やっとステータスと自キャラであるエルナが、どんなビジュアルなのか確認できるのだが。

 もう直ぐ夜になるし、今まで5時間移動してきて、人の気配らしきものは全く感じなかった。それに此処が何処なのかも全く分からない。

 いろいろ、あったしログアウトでもするか?

 でも、今ログアウトしても掲示板とかに情報が出るには早過ぎるよなぁ。

 このまま確認始める? でも、そうすると初日から野宿確定かぁ、まさか初日から宿に泊まれないとはなぁ。

 さあて、どうするかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る