第33話「とうきょうソラツリー駅前、攻防戦」

第三十三話「とうきょうソラツリー駅前、攻防戦」





「ソラツリーに来てから走ってばっかじゃん。エイリアンが脇腹食い破って出てくるんじゃないか? ってくらいチョー横っ腹痛いんですけど! だいたい何でアイツらも全力疾走なのよ! ちっともゾンビっぽく無いじゃん」


 とうきょうソラツリー駅北交差点からゾンビと呀王を避けて、流星号を置いてきたソラツリー方面にダッシュで逃げてきたA子とB子。


 普通に考えてゾンビが走って追い掛けてくるわけ無いと思っていたのに、ヤクザ&警察官ゾンビはめちゃめちゃなスピードで走って追い掛けてくる。

 しかも日本刀振り回すわ拳銃撃ちまくるわで、危なくて仕方がない。


 リリーラが造っておいて放ったらかしにして捨てられた【マスターゾンビ】たちだが、彼らは健気にもリリーラを追ってここまで来ていたのだ。そしてまた捨て駒にされている。


「走るゾンビは『バイオハルマゲドン3』から定番になったわよ。前作の1・2まではおどろおどろしい世界だったけど、3でゾンビが走る様になってからおどろおどろしさはすっかり無くなったわね」


 走りながらも冷静に『走るゾンビ』について解説を入れるB子。


「それと、脇腹が痛いのはあんたが不摂生ばっかりしてるからよ。どうせ昨日も寝っ転がって『インスタキログラム』をザッピングしながらポテチをツマミにビール飲みまくってたんでしょ?」


「え? いや、まぁ・・・そんな事より! 追っかけてくるアレを何とかしないとじゃん? 浅草行く前に、上空からゾンビが炎に弱いの見てたじゃん? ほら、セーラー服マーズが炎ぶわぁぁってやってたヤツ」


「炎の鳥っっっ!」

 A子とB子が走っている正面に、長い黒髪をたなびかせて赤いスカートの少女が降り立ち、同時に巨大な火の鳥が二人を掠めて飛んで行き、ゾンビどもを紅蓮の火炎が包み込む。


「そうそう、炎の鳥! って本人来たじゃん!」


「火の星、火星を守護に持つ戦いの戦士。セーラー服JK美少女戦士、セーラー服マーズ、参上! ハイヒールで折檻よ!」


「マーズの決めゼリフ決まったァァ。マーズかっけ〜!」

 マーズに向かって両手をヒラヒラと振るA子。

「セーラー服マーズ。炎の戦士だけあって、彼女はとても情熱的なの。好きな食べ物はフグ、嫌いな食べ物は缶詰のアスパラ。そして彼女自身はアニヲタよ」

 

 

 続いてマーズの横に緑色のスカートを履いた大柄な女子が舞い降りる。

「シュークリーム・サンダー・ドラゴン」

 大柄な美少女戦士の手から放たれた光は雷の龍と化してゾンビを襲う。

 雷の龍はゾンビ集団に当たると、バチーンと音を立てて弾け、数万ボルトの電流が一気に駆け巡り、その衝撃で手足が爆ぜるゾンビもたくさん居た。


「雷の星、木星を守護に持つ保護の戦士。セーラー服ジュピター参上! 痺れるくらい後悔させるよ!」


「セーラー服ジュピターのグラマラスボディに大きなお友達はメロメロじゃん」

「ジュピターはヤンキーのような男言葉で喋るけど、誰よりも家庭的で乙女チックな性格だから、人並み外れた怪力と高い身長にコンプレックスを持っている娘よ。お弁当がラクダナルドだったりするマーズと違って、料理・裁縫・掃除などの家業全般が得意。将来はお嫁さん・ケーキ屋さん・花屋さんになりたいと思っているわ」



「マーズ、ジュピターと来て、もう一人降りてくるあれはやはり?」

 A子の実況に熱が籠り、いよいよ主役の登場を期待してしまう。


 降り立ったのはライトピンク色のスカートを履いた小さなJK美少女戦士だった。魔法少女のようなピンクのロッドを手にしている。


「ピンクパウダーシュガー・ハート・アタック」


 彼女が持っているピンクのロッドからピンク色でハート型のビームがポポポポポポポポンと打ち出され、ゾンビに届く前に失速して地面に落ちた。


「愛と正義のセーラー服JK美少女戦士見習い、セーラーちびムーン!  未来の月に代わって、お見知り置きを!」

 ちびムーンはペコりとお辞儀をした。


「『お仕置きよ』の所を『お見知り置きを』と言ってるセーラー服ちびムーン。うっかりさんじゃん! でも最前線に出て来て大丈夫? ハートビーム届いてなかったし」

「セーラー服ちびムーンはヒーリング能力が高いから、ここ一番で役に立つ大事な戦士よ。好きな物はプリン・嫌いな物はニンジン。趣味はうさぎグッズ集めよ」


 セーラー服JK美少女戦士が現れるところには、『チーム・ミヤノ』も現れる。

 彼らは列記とした地球防衛軍のエージェントであるが、皆セーラー服戦士好きだから彼女たちが現れる現場にしか出動しないと言う、公私混同の甚だしいチームだ。

 だがその溢れるセーラー服JK美少女戦士愛による画像編集でとても人気のあるチームなので、収益の35%を配信サービス関係で補っている民間会社である地球防衛軍としては、かなり目をつぶって好き勝手やらせている状態である。


『チーム・ミヤノ』は3人の美少女戦士が決めゼリフを言っている時、後ろからぐるっと前まで回り込んで、彼女たちをカメラに収める。

 もちろん全てがローアングルだ。

 チーム・ミヤノのカメラマンによる執拗なまでのローアングルには、一部のファンから絶大な定評があるのだ。

 しかし最近になって、彼のカメラマンが撮るローアングルの絵面が『エロカッコイイ』と評判になり、今までのファン層とは違う系統のファン層が増えている、今旬な売れっ子チームなのだ。


 ちなみにセーラー服戦士たちがそれぞれ長い決めゼリフを言っている間、ゾンビは必殺技を食らいつつ、大人しく待ってくれているぞ。大事なお約束だからな。

 さぁ、再開だ!



 チーム・ミヤノの4人が熱心にセーラー服戦士を撮っている時、チームの一番外縁に居た音声さんに異変が起きていた。

 その事態はあまりにも静かに起きたので、チーム内の誰にも気付かれ無かった。


 何処からとも無く現れた十数羽のコウモリが、チーム・ミヤノの紅一点である音声さんの後ろに音も無く集まり出し、人型を成した。

 死霊軍団長【始祖ヴァンパイア種 リリーラ】だ。


 見た目が金髪ツインテールの幼女に見えるリリーラは、実は30000歳オーバーの超絶ロリババアである。

 人型に成ったリリーラの顔や身体には、先程光線銃で撃たれた焼け焦げた穴が幾つも開いている。見ていてかなり痛々しい状態だ。


 ロリババアはコウモリから人型に変身すると、背中の羽で音声さんの頭と同じ高さにまで浮き上がり、帽子で長い髪を引っ詰めている音声さんの横顔にそっと手を添えて振り向かせると、リリーラの眼を見てしまった彼女は即座にチャームに掛かり、目をトロンとさせてヴァンパイア幼女の肩に顔を預けた。


 カミソリの様な前歯でスパッと頸動脈を切られた音声さんは、首から大量の血がドパッと吹き出した。

 大動脈を切ると血圧で血が2メートルくらい噴き上がるのだ。

 その後も血をドクドク流しながら、でも幸せそうな笑みを浮かべている音声さん。

 集音マイクを持つ彼女は既に顔面蒼白だ。


 その首から溢れ出る血を、チロチロと長い舌で舐めとるリリーラ。

 するとリリーラの身体に開いている穴はみるみる塞がっていった。

 同時に一体のマスターゾンビが出来上がった。


 音声さんは持っているマイクをかなぐり捨てて、JK美少女戦士に光を集めているレフ板くんに抱きついた。


「おい、どうした音声? 今日は珍しく積極的じゃないか。でもまだ仕事ちゅウギャーー!!」

 抱きついてきた音声さんが、レフ板くんの首に噛み付き、首の肉の一部を食いちぎったのだ。


 レフ板くんの悲鳴で、初めて事態を知ったチーム・ミヤノ。

 ちなみに、音声さんとレフ板くんは付き合っている。

 ま、それはどうでも良い情報だが。

 

「極炎曼荼羅っ! はっっ!」

 セーラー服マーズが反時計回りに左手で大きな炎の円陣を描くと、八つの火の玉で囲まれたマンダラが中空に現れた。その八つの火の玉に気合いを込めると炎の曼荼羅に変化した。

 その曼荼羅をマーズが敵に投げつける。

 すると曼荼羅は燃え上がる輪となって、ゾンビを焼きながら切り刻んでいった。


 マーズが曼荼羅を投げ終わったその時、横の崩れたビルから狼に乗ったゴブリンライダー隊が5セット飛びかかってきたのだが、彼女はすぐさま反応して迎撃する。


「バーニング・ヒール・ドロップ」

「百裂往復ビンタ!」


 ゲームでしか使われていない珍しい技で、飛び掛るオオカミの頭上に燃え上がるハイヒールでかかと落としを食らわせ、乗っているゴブリンの胸ぐらを掴んで往復ビンタを張る。


 モンスター語はよく解らないが、ゴブリンライダーが死の直前、「女王様もっとぉぉ」と叫んで絶命して逝ったのは空耳であろうか?


 私もぜひ踏み付けられて、汚い言葉を浴びせ掛けられたいものです。っておい!


 圧倒的な数を誇る魔王軍は、おそらくギャオレンジャーの包囲網を突破したのだろう。ゾンビ以外の敵も徐々に増え始めた。

  

 とうきょうソラツリー駅北交差点を、月光戦士ツインコーンガンダムーンがくの字に曲がったまま吹き飛んでいった。

 A子B子が立っていたすぐ真後ろを、隣に建っている白い7階建てのビルと同じサイズのロボットが飛んでいったのだ。


 異様なモノを感じて二人が振り返ると、『ゴガァァァァン!』と、サイコフレームを閉じてぐったりとしているツインコーンが、とうきょうソラツリー駅に掛かっている陸橋に足を取られてそのまま倒れ、豪快な音と瓦礫にまみれて道路にめり込んだシーンを見てしまった。

 

 DO! DO! DO! DO! DO! DO! DO! DO! 


 道路に脚をめり込ませつつ呀王が追いすがってきて、手にはめている黄金の爪でツインコーンの胸をいともたやすく切り裂いた。

 

 黒の太陽の効果と魔界の生き物たちから出る真っ黒い瘴気によって、この辺一帯は一層暗くなってきており、月からマイクロ波に乗せて送られてくる『ムーンプリズムパワー』で動いている月光戦士ガンダムーンシリーズは、活動できなくなっていたのだ。


 一方貪る者は、行きがけの駄賃に交差点にかたまっていたゾンビ集団を左手で一纏めにしてすくい取り、まるでスナックでも食うかのように口に放り込んでボリボリ食った!

 するとガンダムーンとの戦闘で傷付いた身体がみるみる治って行くではないか!


 コレが『貪る者』の名前の由来である。彼は食うことによって、他のオルグ・ハイよりも更に早く身体を再生できるのだ。


 月光戦士ガンダムーンの首をバスタードソードの剣先に刺したまま、また下ほどの高さのとうきょうソラツリー駅を踏み抜き、おもむろに東京ソラツリーのアミアミに手を掛け、登り始めた魔獣軍団長の貪る者。


「こ、これは!? さっきあーしらをのピンチを救ってくれたガンダムーンとツインコーンガンダムーンがやられてるじゃん!」


「A子っっっ、そっちもヤバいけど、チーム・ミヤノもヤバいわ! さっきのコスプレっ娘が向こうに現れて、音声の娘が首から血しぶきを噴いてるわ!」


「え? あのコスプレっ娘あーしらを抜いて前に居るの? アレは見るからにヤバいじゃん! どうする?」


「どうしよー? ゾンビは居なくなったけど他のモンスターも続々こっちに来ているし。とりあえずセーラー服JK美少女戦士を援護しつつ、チーム・ミヤノを助けよう!」


「おっけー」


 A子とB子はチーム・ミヤノを救出すべく、一路セーラー服JK美少女戦士の元に走った。





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


〈あとがき〉

今まで『トラン〇フォーマー』をイメージして『魔王軍サイド』『地球防衛軍サイド』として話しが入れ替わるみたいな書き方を実験的にしていたこの物語ですが、次回からは両軍ごちゃ混ぜになって分けにくくなるので、最終章として『決戦の章』となります。


『決戦の章』と言いつつ魔王軍は神を含めて7人中1人しか倒して無いので、先は長いっすw

 

よろしくお付き合いのほどを。



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 応援してくださいました方、さらに重ねて御礼申し上げあげます。


 誠にありがとうございます。


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