第32話「3軍団長、現る」
第三十二話「3軍団長、現る」
「君たち、大丈夫か?」
ガンダムーンのパイロットが話し掛けてきた。
彼は伝説のエースパイロットだ。ちょっと卑屈な性格をしているが、腕は確かだ。
小梅通りを全高19,7メートルのツインコーンガンダムーンと一緒に全高18メートルのガンダムーンが走ってきた。高さ18メートルと言うと、丁度6階建てのマンションくらいだ。
「助かったよ。ガンダムーン! ありがとう!」
A子は大きく手を振った。
「そこだ!」
ヴゥゥゥゥゥゥゥガンガンガンガン
ガンダムーンのパイロットが何かを感じ、後のビルに向かって頭部バルカンを撃つ。
ツインコーンガンダムーンのパイロットも何かを感じたのだろう。
ツインコーンの機体の各部が展開し、外装が開いて露わになったサイコフレームが赤色に輝き始めた。
全高も2メートル伸びて21,7メートルになった。デストロイモードだ。
ガンダムーンの60ミリカートレス3砲身短バルカンの一掃射が終わると、蜂の巣になって土煙をもうもうと立ち上げるビルの陰から、先ほどハンマーで弾き飛ばしたワータイガーの親分のようなやつが現れた。
全高20メートル。ほぼガンダムーンと同じ身長だ。
トラの様な顔をしていて、身体も全身虎柄の毛で覆われている。上半身はこれでもかと言うくらい逆三角形を誇張していて、下半身はアンバランスに小さい。モロ漫画の様な、強いて言うならケ〇ッグの箱に描かれているトラのキャラクターの様な体型だ。
て言うかそれだ。
彼の名は魔獣軍団・軍団長【ウガルルム種 呀王】。
巨大な逆三角形の胸板には滑らかな輝きを放つ漆黒のブレストプレートを着け、左肩には丸いショルダーガード・両腕には敵の剣を受けたり弾いたりする為のブレーカーを装備している。
呀王の武器は両拳にはめている金色に輝くクロー系武器、その名も【黄金の爪】だ。
この爪を装備すると飛躍的に攻撃力とスピードが上がるが、エンカウント率も飛躍的に上がって、数歩歩く毎に敵と出会いまくってしまうと言う呪われた武器だ。
「なんと! 見るからに恐ろしげなモンスターが現れたじゃん。何あれ? ガンダムーンと同じ大きさの生き物って存在して良いの?」
まさに生物学を根本から覆す存在だ。
呀王はニタッと凶悪な笑顔を浮かべ、襲ってきた。
20メートルの巨体からは想像も付かないスピードだ。
しかし、デストロイモードになっているツインコーンガンダムーンも同じくらい早い。
GAKIIIIIIIIIINNNNNNN!
拳と拳がぶつかり合う。
どちらもスピードには自信があったので、お互いに驚いているようだ。
バチン! と音を立てて飛び離れる。
「赤くなってるツインコーンガンダムーンとタメ張る怪物って何? どう言う事?」
目の前で繰り広げられる異様な戦闘に、唖然としながらも20メートル前後と言う遥か上を見るため、首を曲げて実況を続けるA子。
そのA子とガンダムーンを画面に収めるために、しゃがんで上向きにカメラを回すB子。
呀王とツインコーンガンダムーンの一騎打ちに目がいっている時、彼らの背後から近付く者が居た。
全身を金属の鎧で包み込む、フルプレートアーマーを着た(首・手首・足首のパーツは外している)全高23メートルの亜人軍団長【オルグ・ハイ種 貪る者】だ。
貪る者は、『指輪を捨てに行く物語』で語られている悪の魔法使い【サウロン】が、トロールに魔法を掛けて創り出した新品種『オルグ・ハイ』種である。
トロールは強靭な肉体と金属のように硬い皮膚と圧倒的な再生能力を持つ、凶悪な怪物であるが、欠点として致命的に知能が低い上に、傲慢で獰猛な性格をしているので、およそ集団行動とは縁遠い種族なのだ。
言うことを聞かせられればこの上の無い戦力に成る筈なのだが、宝の持ち腐れとはこの事だ。
そこで古の魔術師サウロンが、今では失われてしまった秘術を使ってトロールを改造し、トロールの無類の戦闘力を残したまま、命令を聞き、理解をする程度にまで知能を引き上げられた『オルグ・ハイ』種を誕生させたのだった。
元々が好戦的で手が付けられないほど凶暴なトロールなだけに、知能を得たオルグ・ハイ種は総じてずる賢く残忍な性格になった。
オルグ・ハイはサウロンの思惑通り、その知力で元来持っている強力な戦闘力を存分に・効果的に使い、旧来のトロール種の王として君臨することになったのだった。
貪る者はビルの影に隠れ、呀王の闘いに集中しているシュショックーどもの後ろに回り込んでいた。
常に抜き身で持っているバスタードソードを両手持ちに構え、ガンダムーンの背後から斬り掛かる。
しかしその動きはパイロットがネオタイプ能力を使うまでもなく、ガンダムーンのレーダーに丸映しになっていてバレバレだった。
ガンダムーンは即座に反応した。
ガンダムーンハンマーをその場に捨て、振り向きざまにガンダムーンシールドで剣を受け、そのままシールドで貪る者を押し戻しつつ右足で貪る者の腹を蹴り上げ、相手に尻餅をつかせる。
全高23メートルの貪る者は、角に建っている『四菱』マークのビルにズシーーーーンと音を立てて体を沈めていく。
送電線が千切れ、辺りを縦横無尽に鞭のごとく打ちつける。緊急事態のためか送電はカットされているようで、火花が散ったりはしていない。
「黒い太陽」で空が暗いのも相まって東京は普段とは打って変わって暗い世界だ。
「うぎゃぁ! あっっぶな!」
ヒュンヒュンと唸りを上げて暴れまくる送電線と、薄暗闇の空から降ってくる瓦礫から二人はダッシュで逃げた。
ビルを倒しながら吹き飛ぶ貪る者に、ガンダムーンは背中のランドセルからビームサーベルを引き抜き、そのまま上段袈裟斬りに四菱のビルごと斬り付ける。
「ぐぎゃぁぁぁ」
貪る者の悲鳴がとどろき、肉の焼け焦げる臭いが辺り一面に立ちこめた。貪る者が着込んでいるフルプレートアーマーなど、ビームサーベル相手では紙切れ同然だ。
貪る者の体は左肩から右脇腹までザックリと一文字に斬られている。肉を灼きながら斬るので、傷口からの出血は少ない。
「なんか急にデカいのが襲ってきたじゃん。怖すぎるんだけど」
「でも流石は『一年戦争』の伝説の英雄ね。リーダー格らしいあの敵もあっと言う間に倒してしまったわ」
実況解説をしながらも必死で逃げる二人。
ギャオレンジャーの中継に行きたいのは山々だが、目の前に一際デカい怪物が2体も現れてしまったために、道が塞がれてしまっている。
ツインコーンガンダムーンとガッツリ四つに組んでいる呀王は、一瞬の隙を突いて前蹴りをツインコーンに放ち、赤く光っているヤツを蹴りで突き放す。
「熱血バーニング」
A子たちには「ぎゃっぎゃぁぁぁ」としか聞こえなかったが、呀王はそう言っているのだ。
敵がよろめいている間に毛むくじゃらの魔獣軍団長は、両足で四股を踏み、両手は腹の横に持っていき、『力溜め』のポーズを取った。
すると全身が炎に包まれ力が漲ってくる。
燃えさかる炎は呀王にパワーを与え、同時に触れた相手に火傷ダメージを与えるスキルが発動した。
黄金の爪も同じく燃え上がり、攻撃力を倍加させた。
「身体能力超アップ」「ゴッッギャオギャーオ」
先程の『熱血バーニング』で攻撃力を上げ、『身体能力超アップ』でステータスを爆上げするスキルコンボだ。
呀王がスキルを発動させた。彼のスキルは全て身体強化系なのだ。
更に速く強くなった呀王の燃える爪が、ツインコーンを強襲する。
B子のカメラワークはおろか、人間の目ですらも追うのに難しい程のスピードで、ツインコーンは防戦一方だ。
既にサイコミュシールドも展開しており、両腕ガードとは別に、独立して動いて毛むくじゃらの攻撃をしのいでいる状態だ。
呀王は縦横無尽に動き回り、往と復を繰り返す度に周囲のビルも崩れて粉々になっていく。
20mメートルの大怪獣がこのスピードで動くとは、誰が想定したであろうか?
ガンダムーンのパイロットのほとんどはネオタイプ能力を持っており、第六感とも言える超感覚を備えているので辛うじて対応できているのだが、俗に言う『オールドタイプ』と呼ばれる、一般ピーポーなパイロットだったら瞬殺されていたであろう。
ガンダムーンがビームサーベルをランドセルに収め、もう一体の敵に向かおうと振り返ったその時、ガンダムーンのパイロットは『ピキーン!』と何かを感じてスウェーバックをした。
仰け反った上半身があった場所を、大きな剣が掠め過ぎていった。
「何だ? ガンダムーンが振り返った先に、さっき斬ったハズの鎧モンスターが無傷で居るじゃん?」
B子がカメラをパンして四菱ビルを映した。
「どう言う事? さっきモンスターが倒れて半壊したビルは何とも無くて、でもビームサーベルでビルは斬られているわ」
B子は暫く考え、はたと気が付いた。
「ちょっと待って。カメラを巻き戻して、一体何があったのか確認してみるわ」
カメラの時間を巻き戻し、映像を二人して覗き込むと、鎧モンスターの攻撃を盾で受け止め、蹴りでよろめかせた所までは一緒だったが、そこからはさっき見ていたハズの記憶とは違う映像が流れ始めた。
よろけて尻もちをついた鎧モンスターは直ぐに立ち上がり、ガンダムーンの横を堂々とスっと歩いて抜け、背後に回り込んで剣を構えたのだ。
その時ガンダムーンは何も無い四菱ビルにビームサーベルで斬りかかっている。
そしてその映像にはもう一つ異質な物が映っていた。
黒い際どい水着を着た金髪ツインテールで大きな黒い羽を羽ばたかせているコスプレ少女が、ガンダムーンの頭上近くでホバリングしている。
コスプレで空が飛べるわけ無いので、たぶん人間では無い。見た目とサイズは人間の少女だが・・・。
彼女は両手を広げガンダムーン2体と私たちに向かって光を放っているように見える。
何だコレは?
ガンダムーンは今、一方的に攻撃を受けている。
敵の攻撃は当たるのに、こちらの攻撃は当たらないのだ。
ビームサーベルで斬っている筈なのに、斬ったそれは残像で、少しズレた場所から攻撃を食らうと言う事の繰り返しをしている。
伝説のパイロットもその違和感に苦戦している様だ。
B子は映像内でコスプレ少女が中空に浮いている場所を、何も映っていないことを確認しながらカメラで映す。
暫く映したあと、巻き戻して画像を確認する。
やはり居た!
映像には、光を放ち続ける少女が宙に浮いている。
その映像を確認したA子とB子は、アイコンタクトをして頷く。
「正体見たり! 外道焼身霊波光線じゃぁん!」
「あんたそのネタ解る人居ないと思うわよ!」
二人は阿吽の呼吸でサブマシンガン型光線銃を何も無い空に撃ちまくった。
「ギャャャァァ」
光線銃で撃たれた少女が突然虚空に現れ、落ちてくる。
それは貪る者の肩に乗っていた死霊軍団長のリリーラだった。
彼女がこの辺り一帯に魔法で幻覚を見せていたのだ。
彼女の幻覚は脳に直接作用するから、現実もカメラの画面もその時リリーラを見ている筈なのだが、脳がその情報を消しているから見えないのだ。
脳が認識しているという事は、匂いも感じるし熱も感じる。
事実、火傷をしてなくても『火傷をした!』と脳が認識すると、火傷したと思い込んでいる箇所がケロイドになったという事例もある。
例えばカレーを食べる幻覚を見せられたとする。
匂い・熱さ・味・食感など、海馬が記憶しているカレーについての情報を脳が引き出し、体にフィードバックするので、本人にとっては幻覚では無く現実なのだ。
脳を支配されるということは、それ程までに恐ろしいことだ。
「下等生物がァァ、アタシの幻覚を破るとは許さぁぁぁん!! 未来永劫呪ってやるからなぁ」
その可愛らしい顔と体からは想像もできないほどのどす黒い声と言葉で、サブマシンガン型光線銃で撃たれて血だらけのリリーラは、A子とB子に呪いの言葉を吐いた。
「おまえたちぃ、そこの小生意気な下等生物を八つ裂きにしておしまい!」
血まみれのリリーラが叫ぶと、日本刀と拳銃を持ったヤクザな皆様と一緒に、多数の警察官がビルの陰からワラワラと湧き出てきた。
みな既に人間では無くなっている。
「いっぱい出てきたじゃん。みんなあーしのファンかしら? ちょっとヤバげなんだけど」
「彼らは既に死んでるっぽいから、どう殺せば良いか解らないわ。そんな時は・・・」
「「逃げるのみ!!」」
とりあえず二人はその場からダッシュで逃げ出した!
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
〈あとがき〉
この話しに出てくる『黄金の爪』は某『銅鑼食え 参』の最後の方に出てくる格闘家用のドロップアイテムなのですが、装備するとめちゃ強くなるんです。
呪われてる(敵とのエンカウント率がめちゃめちゃUPする呪い)とも知らずに大喜びで付けてたら、数歩進む毎に敵と遭遇してなかなか前に進めなかった。
でも、「めんどくさいなぁ」と思うだけでそのまま最後のダンジョンに突入して、ダンジョンの中盤に来てやっとエンカウントの呪いだったことに気付いたという、淡い思い出がある品なので、つい呀王に着けちゃいました。
『黄金の爪』外したら進む進むwww
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。
宜しければ、♡で応援。
★★★で応援をよろしくお願いいたします。
みなさまの暖かい応援をお待ちしております。
応援して頂けますと頑張れます。
応援してくださいました方、さらに重ねて御礼申し上げあげます。
誠にありがとうございます。
感謝しております。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
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