第31話「小梅通り西交差点にて」

第三十一話「小梅通り西交差点にて」




 ゴゴーーーン! バリバリッ! ギャオーーーす!

 暗くなった空に赤や黄色紫緑、様々な色の光が爆発音や轟音、怪獣の咆哮と共に発せられている。

 上空にも大小様々なモンスターやゴッドパワーメカが飛び回って、ミサイルや光線や怪音波を発している。

 

 ここはギャオレンジャーが敵本隊を迎え撃っている【小梅通り西】交差点の直ぐ後ろ、先ほどまでゴッドパワーメカたちが演出のために身をかがめてビルの陰に隠れていた【曳船川通り】に建っているマンションの屋上だ。

 

「ハイ! みんな。地球防衛軍の実況A子と解説B子じゃん! 東京ソラツリーからのライブ配信、始まるよ。みんな見える? ソラツリーの周りはモンスターがすし詰め状態じゃん」


 流星号は西から進撃してくるモンスター大軍団を迂回して、比較的安全なギャオレンジャーの後ろに回り込んで飛んできた。

 そこで一旦東京ソラツリーの北側にある【ミニスタッフ業平橋店】の西隣に建っている、12階建てのマンションの屋上に着陸した。

 VTOL機だから着陸場所は選ばない。


 ハーフメットを被り、ライブ配信用のマスカレードマスクを着け、アサルト光線銃とサブマシンガン型光線銃を肩から吊り下げた、突撃取材スタイルのA子とB子は、その12階建てマンションの屋上から、津波のように押し寄せて来る魔王軍の様子を撮影していた。


「6人のギャオレンジャーと26体のゴッドパワーメカはありったけの火力で応戦してるけど、どう見ても押され気味じゃん? ってかモンスター多すぎ! ヤバいじゃん」


 A子はB子が持つカメラの前で、マイク片手にビルの向こうで戦っているギャオレンジャーたちを指さしながら実況をしている。


「ところで、あーしらまだ水着に防衛軍ジャケット羽織った格好のままじゃん。今回はチョーサービスで、B子の水着ショットを映しちゃうよん!」


 そう言ってA子がB子からパッとカメラを奪い、足先から上に向かって舐めるようにカメラでB子を映す。


「あんた急に何してくれるのよ!」

 B子がカメラを奪い返す。


「隠れ巨乳のB子ファンに、サービスサービスぅ」


 憤慨しながらもカメラを回すB子に向かって、

「ここであーしら死ぬかもだから、最後に綺麗なB子を映してあげたかったじゃん」

 ニカッと笑うA子。

「なにを・・・もう!」



「それじゃB子、あそこに突撃取材に行きますか!」


 A子は再び轟音や炸裂音を響かせている戦場を指さして、流星号に乗り込んだ。


「ここからはB子が流星号を運転するから、あーしのヘルメットカメラに切り替えて配信するじゃん」


 マンションの屋上を飛び出した流星号は、大地震でクラックが入りまくっている【曵舟川通り】に、車モードに変形しながら降り立つ。


 ここから戦場には、航空機で近づくには危険過ぎる。


 ガガン、ガン。


 乱暴な着陸で車体が何度かバウンドする。


「いやっほーーーー! ノッてるじゃんB子ぉ。行っけぇぇ、吶喊!」

「「おーーーー!」」

 A子の号令で、二人とも右手を突き上げて叫ぶ。二人とも気合い入りまくりだ。


 流星号も瓦礫とクラックだらけの道を、車体をガックンガックン揺らしながらカッ飛んで行く。

 ここにはまだかろうじてモンスターが来てはいないので、ビルの影や建物の中、崩れ落ちている大きな瓦礫の陰など、そこかしこに逃げ遅れた人や逃げる事を諦めて座り込んでしまっている人が見える。

 

 とは言え戦場は、ほんの数十メートル先にある五叉路の【とうきょうソラツリー駅北】交差点を北に曲がったところが最前線だ。轟音や熱風・振動・衝撃波など、いつ隠れている建物が爆発してもおかしくない状況だ。

 

 とうきょうソラツリー駅北交差点に差し掛かった。

 

「お! 第一村人発見じゃぁん」

「そのネタもうやったでしょ?」

「でも今回は、いきなり撃っちゃうじゃん!」


 チュチュチュン、チュチュチュン、チュチュチュン

 助手席の窓から上半身を乗り出し、ハコノリ状態になったA子が、アサルト光線銃をバーストモードで撃ちまくる。


 敵はあまりにも数が多いので、ギャオレンジャーだけでは間に合っておらず、溢れ出てきたグレムリンやリザードマンが隠れている人間を求めて徘徊していた。

 まるで蜂の巣をつついたように、2・3体倒したらその後にドワッとグレムリン・レプラコーン・ケットシー・リザードマンなどが一斉に顔を出して向かってきた。

 しかし、そんな雑魚に構っている時間は無い。

 

「A子、中に入って窓閉めて!」


 迫り来る怪物軍団に、即座にハコノリを止めて車内に戻るA子。


「いっくぞぉぉぉ!」 


 ドカッ グチョッッ ベチャ バキッ ドカッ メシッッ

「「うひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。スプラッターーーーーー!!」」


 流星号はバンタイプの車なので、車体にはノーズが無く、フロントガラスから真下に垂直になっている。

 ノーズの無いタイプの車は人をひき殺すにはとても有効なのだ。

 当たった物体がノーズで弾き飛ばされずに、下に潜り込んでいく可能性が高いからだ。


 次々とモンスターに突っ込んでく流星号。

 フロントガラスは体当たりで潰れたモンスターの体液にまみれ、車体はベコベコだ。

 

 ウォッシャー液とワイパーで、モンスターの血や何か特定したくない色々な物を洗い流しながら、ギャオレンジャーが戦っている現場に到着した。

 ここで流星号から降りた二人は、小梅通り西交差点に敵が入り込まないように、ビルを使ってダムのように敵を押しとどめているギャオレンジャーと合流した。


 A子はマイク・B子はカメラを持って、左の腰だめでアサルト光線銃を撃ちまくりながら群がる雑魚を蹴散らして疾走する二人。

 左腕には「報道=PRESS=」の腕章をしている。


 少しでも良い画角を狙おうと、乗り捨てられている4台軽自動車を積んだカーキャリーの屋根に上る。


「見て! ギャオレンジャーはこの交差点を使ってモンスターを堰き止めて迎撃してるじゃん。考えてるね。横道や向こうにある三叉路の交差点でモンスターが漏れているのは愛嬌じゃん」


 カーキャリーの屋根の上で戦場を背にB子カメラに向かって実況を始めたA子。


「あっと、カメラさん、アレを映してください! この辺にある3階から15階くらいのビル群を遥かに凌ぐ高さで立っている巨人が、県道319号を跨いで、橋や川を渡ってくる敵を削っているじゃん。アレは百動物戦隊ギャオレンジャーの【ギャ王キング】じゃん。王の後にキングって付けるのはどうかと思うけどね」


 明らかに見えていたであろうギャ王キングを、さも今見付けた風で紹介するA子。


「ギャ王キングは全高60メートル。ギャオライオン・ギャオイーグル・ギャオシャーク・ギャオバイソンの五体合体による巨大ロボよ。ちなみに今回はギャオエレファントの鼻と下半身が剣に、鼻以外の顔と上半身が盾に変形すると言う大胆な変形合体をした、【ギャ王キングソード&シールド】バージョンよ。攻撃力と防御力が飛躍的に上がっているのよ」


 B子の細かい解説が入る。


 遠くに居てもハッキリと肉眼でも見えるギャ王キングは、足元に居るモンスターに蹴りを噛ましているが、まるで砂場で砂を蹴り上げているかの様に、10メートル級までのモンスターが盛大に宙を舞っている。


 他のゴッドパワーメカもそこここでモンスター軍団と戦っている。


 全長80メートルのギャオリゲーターがそのバカでかい口でモンスター軍団を丸呑みしている。

 ちなみにギャオリゲーターは時速200キロで走ることができるらしい。


 全長12メートルのギャオマジロは道路を転がってモンスターを引き潰し、全高30メートルのギャオパンダは笹の葉を食っている。



 正面で戦っているギャオレンジャーチームから動きがあった。


「百動物ギャ王剣!」

 

 ギャオレンジャーの5人それぞれの銃剣を合体させて一つの巨大な銃剣を創り上げ、それをレッドが持ち上げる。ギャオレッドを中心にギャオイエロー・ギャオブルー・ギャオブラック・ギャオホワイトがサポートをして放つギャオレンジャーの必殺技体制だ。


「邪悪滅殺!!」

 

 ギャオレッドは百動物ギャ王剣をブンブンと横に振ってエネルギーを溜め、頭上から地面を叩き付けるように振り下ろした一撃は、道路いっぱいに広がる大モンスター軍団を、光の刃となって一閃する。


「出ぇたぁぁぁ! いきなりの必殺技「邪悪滅殺」だぁ! ところてん方式で押し出されて来る怪物の先頭一列ザックリ削られたじゃん」


 二人が配信をしているすぐ横に、緑色の魔法光線が流れてきて、隣の乗用車を貫通・粉砕する。

 ドカーーーーーーン!

 乗用車のガソリンに火が回り、炎が噴き上がる。

 どうやらこの乗用車のガソリンタンクはガソリンが満タンに入っていたようだ。爆発力が弱い。

 大迫力の爆発を起こしたかったら、ガソリンはタンクに4分1が良いらしいぞ。みんなもお家の自動車で実験してみよう!!

 もちろん、ガソリン爆破をするときは「消防署」や「警察署」に届け出を出してからじゃないとダメだぞ! 約束だ!

 

「ちょっちヤバかったじゃん」


 燃え広がる乗用車を横目に、二人ともカーキャリーの天井で身を低くして伏せていたが、どうやら無事のようなので、ゆっくり起き上がる。

 しかしそこに5メートル級の虎柄の毛皮を纏った筋肉隆々なバケモノが、よじ登ったビルから二人に向かって飛びかかってきた。

 

 GaGyaaaaO

 魔界で小隊長に出世して巨大化したワータイガーだ。


「うわ! デカっ! ちょっと!」

 焦ったA子は襲い来るライカンスロープに対して必死に腕章をアピールする。

「あーしら報道だから、PRESS!! ほら、解る?」

 解るわけが無い。 


 牙をむき出し、A子やB子の頭なら軽く丸かぶりできそうな大口を開け、1本1本がスコップかとも思える大きさの爪が5本も並んだ前脚を振りかぶって、3階建てのビルから飛んで来る獣人。


 GaSSyaaaaaaaaaannn


 ついさっきまで二人が立っていたキャリーカーの天井が、ワータイガーの大きくて鋭い爪によって切り飛ばされる。


 辛うじてジャンプしてキャリーカーから飛び降りた。

「ヤバいヤバいヤバい」 


 UGyaaaaaaaaaOoo!


 一目散に逃げる二人の後ろでキャリーカーが爆発する。

 およそ二階建ての建物ほどの身長があるワータイガーが、逃げられた腹いせにカーキャリーを蹴り飛ばしたのだ。


 A子とB子を狙って、その身にトラの毛皮を生やした大男は四足歩行スタイルになり、全速力で追いかけて来る。その巨体からは想像もつかないもの凄い瞬発力だ。


 ワータイガーはアスファルトを物ともせずに爪を突き立て、推進力を爆発させる。

 

「ダメ。早すぎるわ。逃げ切れない。A子!」 

「おっけー」


 二人は足を止め、振り返りざまサブマシンガン型光線銃で応戦する。息ピッタリだ。

 的がデカいからかなりの数の光線を叩き込んだはずなのに、ライカンスロープの勢いは止まらない。


 SMAAAAAAAAAAASH!!


 ワータイガーの口が二人に届く瞬間、虎男の身体はグシャッと音を立てて『くの字』に曲がったまま横に吹っ飛んで行った。

 全高5メートルのワータイガーは同じ大きさのスパイク鉄球に入れ替わっている。

 これは、ガンダムーンハンマーだ!




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


〈あとがき〉

 この話しを書いていて解ったことがある。

 ガソリン爆破のくだりで「ガソリン満タンの車は思ったような爆発はしない」と書いたが、それはディ〇カバリーチャンネルでやっていたアメリカの人が言っていた言葉です。


 しかしよくよく思い出してみると、むか~しむかしN〇Kでやっていたある番組の中で、ガソリン爆破の方法を詳しく教えてくれていた番組があった。

 そこでは日本の撮影で使うガソリン爆破は、250ミリリットルのジュースの缶にガソリンを詰めて爆破させるのだが、「ある一手間を加えないと、そのままでは爆発しない」と言っていた。(その一手間も教えてくれていたが、それは言わない)


 つまりガソリンタンク満タンの車に、その一手間を加えていなかったのでは無いのだろうか? と気付いた。

 もちろんその筋の人だから「そんな事とっくにやっとるわい!」とおこられるかもしれないが、検証する術は無い。


 昔の戦隊ものでよく見たガソリン爆破の、あの巨大火柱が250ミリリットル缶なので、何十リットルも入る満タンタンクのガソリンを爆発させたら、とんでもないことになっていたと思う。


 そこはアメリカだから大丈夫なのか(笑)

 


 ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。


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 みなさまの暖かい応援をお待ちしております。


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 応援してくださいました方、さらに重ねて御礼申し上げあげます。


 誠にありがとうございます。


 感謝しております。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


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