第23話「浅草炎上」

第二十三話

「浅草炎上」





 大地震のパワーによって関東一円は大混乱に陥っている。


 関東周辺一帯で至る所から火の手が上がっており、黒い太陽に影響されて薄暗くなった世界で、赤い炎はなお一層ハッキリと赤い光を煌々と燃えがらせていて、黒炎を上空に黙々と立ち上げている。

 熱せられた空気は火災旋風となり、住宅やビルなどは短時間であっという間に焼き尽くしてしまう。


 大田区と荒川によって水が入り込みやすい江戸川区・葛飾区・足立区などは、津波によって水没しているという情報が入っている。

 逆に超都心は治水対策がしっかりしているようだ。

 古いビルは地面の液状化現象によって沈み、傾いているものもあるという。


 東京中の道路は車で埋まっていて、全く動かない。

 その横を徒歩の人々が我先にと押し合いながら避難している。

 人々は逃げることしかできない。

 兎に角都心を離れて郊外へ、郊外へと人の列は続いていく。


 このしばらく後、【二千年女王】が『練馬区大泉町の地下にある、直径40キロメートル高さ2キロメートルに及ぶ原始環境が保たれている大空洞帯にある大団地を、一時的な避難民受け入れ先として提供する』と言う発表をした。


 時を同じくして、芦ノ湖北岸(神奈川県足柄下郡箱根町仙石原付近)の地下深くに建設された第二新東京市でも、【特務機関ネルブ】が一時的な避難民受け入れを表明した。

 


 こんな時頼りになるのは正義のスーパーヒーローたちだ!


 必殺技で燃え上がる火の手を消し飛ばし、局地的に雨を降らせ、高いビルに取り残された人々を飛行メカで救出し、道を塞いでいる瓦礫を怪力で持ち上げ、避難している人たちをひたすらに助けている。


 レンジャー隊の巨大ロボも、人々が避難している大通りに倒れそうになっているビルを支えたり、倒壊した高架道路の撤去作業をしたり、火災旋風の被害が広がらないように隣接しているビル群をミサイルで吹き飛ばしたりしている。

 いつもはやむをえず町を破壊している巨大ロボだが、今日は計画的に壊しているぞ!


 イヤしかし、普段から町に全く被害を出さない優秀なロボも居るぞ。

 勇者ロボ【ガガガガオガイガー】だ!

 今日も必殺、空間湾曲『ディバイディングマイナスドライバー』で空間をねじ曲げ、町の中に巨大異空間を作り出して、そこに避難民たちを一時的に避難させている。


 その様子は地球防衛軍の隊員たちによってLIVEで全世界に放送されている。


 すでにアメリカの【アドベンジャーズ】やイギリスの【国際救援隊】が東京に向かっているという話しだ。



 こんな未曾有宇の大災害の中、モンスターどもは東京都内で暴れまくっているのだ。




 東京都台東区浅草。


 キーィィィィンと金属的なエンジン音を響かせながら流星行が飛んできた。


「ハイ! みんな。地球防衛軍の実況A子と解説B子じゃん! 浅草上空に来た! 久々に流星号に乗って上空からLIVEをスタートするよ! 今日はB子がパイロットやってるから、あーしが手カメラで回しながらの放送じゃん。お見苦しいところがあるのは勘弁してよね」

 

 流星号は浅草警察署上空をゆっくりと旋回しながら中継を開始した。


 目に付くのは警察署の建物を盾に、道路を挟んで銃撃戦を繰り広げている、2機の月光戦士ガンダムーンと真っ黒い4頭のケルベロスだ。

 ケルベロスは頭が三つある神話級の幻獣だ。

 毛並みは真っ黒で、とてつもなく獰猛。唾液は猛毒だ。

 三つの首はそれぞれ独立していて、火と氷と雷のブレスを吐いてガンダムーンを攻撃している。


 戦闘は膠着状態気味で、地球防衛軍期待のスーパーロボット2機は、完全に足止めされてしまっている。


「みんな見える? お台場に展示されていたガンダムーンとツインコーンガンダムーンが闘ってるじゃん。相手は頭が三つあるワンちゃんだよ。アイツらあんな怖い顔してるから、絶対ノラ犬じゃん?」

「ケルベロスよ。地獄の番犬とも呼ばれているわ。顔に似合わず甘い物が好きらしいわ」


 備井子の説明中にガンダムーンが動いた。

「膠着状態を嫌ったガンダムーンが浅草警察署の影から飛び出したじゃん! 赤白のヒーターシールドを構えて、右手にはガンダムーンハンマーを持ってる。いつ見てもシビれるぅ、あのスパイク鉄球!」


 カメラには鉄球をブンブン振り回しながら、ジャンプで警察署を飛び越したガンダムーンが映されている。

 空かさず4頭のケルベロス、計12の頭から火・氷・雷のブレスが一斉に発射される。


 ジャンプ降下中はほぼ方向転換出来ないので、シールドの陰に機体を隠して突っ込むのが精一杯だ。

 この際多少のダメージは仕方が無い。


 隠れているビルの陰からケルベロスが一斉に首を出した所を狙い、ツインコーンのビームマグナムが炸裂する。

 ビームマグナムのビームは、ビーム軌道周辺にも紫電がバチバチと走っており、その紫電に掠っただけでも多大な被害を受ける超兵器だ。


 ビームバズーカ並みの威力を持つマグナム弾が、ケルベロスの頭を4つを道連れに、道向かいのビル5棟を貫通して大穴を開ける。


「ビームマグナムきたぁぁぁ。威力デカすぎでしょ。あのビームのキラキラが強力なのよね?」

「そうよ。あれは紫電って言って、紫電に触れただけでもかなりのダメージがあるわ。ちなみにあのビームマグナムは専用エネルギーパックを5基装填していて、パックの容量は普通のビームガンと同じ容量だけど、1射で1基使い切ってしまうの。だからビームバズーカ並みの威力とビームライフル並みの速射性能を併せ持っているのよ」


 そのビームで大穴の開いたビルの屋上に、飛んできたガンダムーンが着地しつつハンマーを振りかぶる。

 壊れたビルはガンダムーンの体重を支えきれずに天井部分を壊しながら倒れていく。

 ガンダムーンは体勢を崩しながらも残りの2頭のケルベロスにハンマーを叩き込む。

 鉄球の表面に付いているスパイクがザックリとケルベロスの胴体に入り込み、周囲のビルを巻き込んでドウと地面に倒れ込んだ。


 そこに10メートル級の大型イノシシのようなモンスター5頭が走り込んできた。

 それぞれのイノシシの背中には10体ほどのゴブリンとホブゴブリンの混成チームが乗っている。

 イノシシは一直線に突撃してきて、ビルごとガンダムーンに体当たりをする。

 背中のゴブリンどもはイノシシが体当たりする前に、周囲のビルに飛び降りて散り散りに離れていく。

 イノシシが突撃し、よろけたところにゴブリンどもが棍棒や投石で殴りかかるのだ。

 直接戦闘では分が悪いと思ったのか、ゲリラ戦法に変えてきたのだ。


 腕の一振り、足の一振りで吹き飛ばされるゴブリンどもだが、圧倒的に数が多い。

 イノシシに乗った第一陣の後も、何処かに湧き出る泉があるかのように、後から後からゴブリンどもは湧いてくる。

 振り払った腕や脚に運良く取り付いて、機体に張り付かれたら手の施しようが無い。


 ガンダムーンの劣勢を見て飛び出したツインコーンだが、頭部60ミリバルカンにしろ、ビームガトリングにしろ、武器が強力すぎて使用できない。

 ガンダムーンの頭部に取り付いたホブゴブリンが、スパイク棍棒でメインカメラを叩き壊している。

 彼らからしてみれば、目潰しをしている感覚だろう。


 小さいデミヒューマンのゲリラ戦法に足止めされているところに、全高12メートルを超えるミノタウロス5体1チームとしたミノタウロス部隊が3チーム参戦してきた。

 ミノタウロスは頭が牛、身体は筋骨隆々たる裸の人間と言うバケモノだ。見た目通り兎に角パワー押しのモンスターだが、モンスターランクはかなり高く侮れない。手に手に見るからに重そうな両刃のウォーアックスを持っていて、それを軽々と振り回している。


 WWWWWOOOOOOOOOOOOOOOOOON

 WWWWWOOOOOOOOOOOOOOOOOON

 WWWWWOOOOOOOOOOOOOOOOOON


 ミノタウロスのうちの何頭かが大きな口を開け、天に向かって雄叫びを上げた。

 ウォークライだ!

 雄叫びと同時に赤・青・黄色に輝くの球体が、3チームそれぞれを包んで弾けて消えた。

 魔法的に身体強化をしたのだろう。ただでさえ筋骨隆々でヤル気満々だったミノタウロスたちの眼が真っ赤に充血し、身体の筋肉は更にパンプアップして紅潮し、体中から汗を噴き出させている。

 眼は血走り、口は憎々しげに開いて歯をむき出しにし、大きな鼻の穴からはもの凄い勢いで鼻息が排出されている。


 VVVVUUUGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!


 隊長のかけ声で一斉に走り出す15頭のミノタウロス。

 正面を塞ぐ瓦礫は斧で吹き飛ばし、倒れたビルは飛び越えて、およそその巨体からは考えられないスピードであっという間に距離を詰めてきた。


「これはどう言う事だぁ? 何か牛がいっぱい出てきたじゃん?」

「ミノタウロスね。正式にはミーノータウロスと呼ぶそうよ。これも神話級のモンスターね」


 上空から土煙を上げながら、しかも良く統率が取れている3チームの巨大牛人間が突進してくる様子を撮りながらA子が実況を続けている。

 ガンダムーンの防衛戦が破られたら、歴史的に大変価値のある神社仏閣がたくさん破壊されてしまうかもしれない。


 牛の突撃にビームサーベル・ビームトンファーを抜いて迎え撃つガンダムーンチーム。


「ガンダムーン2機じゃヤバげじゃん? 流星号にロケット砲とか積んでないの? あーしが一発ぶちかましてやるわ!」

「そんなモノあるわけ無いじゃ無い! 流星号はあくまでパトロールカーなのよ? 積んでるのはマシンガンタイプの光線銃だけよ。放送機材やら変形機構やらでパンパンなの知ってるでしょ?」


 林立しているビルと比べると7階建てに相当する、全高18メートルのガンダムーンと20メートルのツインコーンガンダムーンと比べると、大人と子供くらいの身長差がある4階建てビルに相当する全高12メートルのミノタウロスだが、ガンダムーン1機に対して5頭1チームで挑むミノタウロス小隊。隙を突いてイノシシも突進してきて、チャージアタックを噛ましてくる。

 かなり分が悪いか?


 身体強化魔法でエンチャントされたミノタウロスの、ダブルアックス渾身の両手持ちフルスイングはツインコーンガンダムーンのシールドごと機体を吹き飛ばす。

 横に弾き飛ばされたツインコーンは近くのビルに埋め込まれるように激突し、守らなければならないビルを破壊してしまう。

 ビルを極力破壊しないように白兵戦を仕掛けたのだが、どうやら敵の戦力を見誤っていたようだ。


 2機のガンダムーンは示し合わせたようにスラスタージャンプで上空に飛ながらながら、それぞれ背中に背負っているビームバズーカとビームマグナムを構えて、浅草警察署周辺を建物ごと焼き払った。


 これ以上モンスターを南下させないための苦渋の決断だった。



 



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


〈あとがき〉


 


 ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。


 宜しければ、♡で応援。


 ★★★で応援をよろしくお願いいたします。


 みなさまの暖かい応援をお待ちしております。


 応援して頂けますと頑張れます。



 応援してくださいました方、さらに重ねて御礼申し上げあげます。


 誠にありがとうございます。


 感謝しております。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


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