第22話「あひる野市内の攻防」
第二十二話
「あひる野市内の攻防」
突如の巨大地震発生にトキオサマー島は壊滅状態になっていた。
英子と備井子が居た駐車場は大きく割れ、一部が50センチほど隆起していたり、ぎっしりと並んでいた自家用車や観光バスは箒で掃き溜めたように隆起した土地を中心に寄せ集められ、中には爆発炎上している車もある。
もっとも爆発炎上している車のほとんどは巨大蜘蛛とアカベコボイジャーが暴れた結果なのだが。
駐車場ではまだモンスターどもとギュウレンジャー・アカベコボイジャーの戦いが続いている。
そんな中にあって、英子たちが乗ってきた地球防衛軍のバン型パトロールカー『流星号』は、無傷だった。
車内には急遽別の指令によって東京まで行かなければならなくなった、英子と備井子が慌ただしく流星号発進の準備を整えていた。
「英子、BGMプリーズ」
「OK、『ポチッとな』じゃん」
わんだばだばだばだば、わんだばだばだばだば、わんだばだばだばだば。
わんだばだばだばだば、わんだばだばだばだば、わんだばだばだばだば。
男声コーラスとトランペット・ティパニーの勇壮なマーチテンポの音楽が車内に流れる。
この曲が掛かると備井子の気分は否応なしに上がるのだ!
運転席の備井子が流星号のエンジンスタートボタンを押す。
わんだばだばだばだば、わんだばだばだばだば、わんだばだばだばだば。
「スタンドオン。主翼尾翼展開」
備井子が喋りながら、天井にずらりと並んでいるいくつかスイッチをパチパチとオンにする。
車体底面・タイヤハウスの内側から4本のスタンドが迫り出して、流星号を持ち上げる。
車体側面からは三角形の主翼が展開され、天井後方で尾翼が立ち上がった。
4個のタイヤが車内に格納され、代わりにジェットエンジンが出てきた。
わんだばだばだばだば、わんだばだばだばだば、わんだばだばだばだば。
「グリルカバー開け!」
「グリルカバー開くじゃん」
栄子が復唱しながら、助手席側グローブボックス下にある引っ張りレバーを『ガッ』と引くと、流星号全面のシャッター式になっているグリルカバーが左右にガラガラと開く。
カバーが開くと過給機口が『ゴンッッ』と音を立てて、頭を飛び出させた。
きゅぃぃぃぃぃぃぃぃん
過給機のファンが回り出し、周囲の空気を取り込み始める。
エンジンが回るほど取り込む空気量が多くなり、多くなるほどパワーが上がる。
キィィィィィィィン
やがて音は金属系の甲高い音になり、車体がガタガタと揺れだしたと思ったら、ゆっくりと上昇を始めた。スタンドが格納される。
そう、流星号は飛べるのだ!
ある程度上昇した流星号は、ジェットエンジンの角度を変え、水平飛行に移行する。
あひる野市内はすぐ隣りだ。
航空機なら道路が壊滅していても関係無い。
ちなみに操縦は車の時のハンドルとペダルのままで動かせるぞ!動かせるったら動かせる!
ザブソグルだってハンドルでロボット操縦してただろ?飛行機くらい大丈夫だ。
ほどなくあひる野市上空に入り、市内を旋回しながら様子を見る。
市内にはあちこちで火の手が上がっており、倒壊している建物は少ないが、傾いていたり崩れている建物は多い。
住民は兎に角、市外に向かって急いで歩いてる。
車は使えない。
市内では大地震を生き残った亜人軍団のモンスターが、生死に関わらず人間に食らいついていて、見るに堪えない光景も見られた。
怪人軍団の中にはゾンビの群体も混じっている。ゾンビの多くは身体の一部を損壊しており、五体満足(?)なゾンビは少ない。
動きは遅いのだが、ゴキブリのように頭を潰さないといつまでも動き続ける。どうやって対処して良いのか解らない。
しかしほとんどのモンスターはセーラー服JK戦士と、パートレンジャーとノレパンレンジャーが各所で戦っていて、敵本隊が町を蹂躙するのを食い止めているようだ。
下でエージェント仲間の『チーム・ミヤノ』が手を振っている。
チーム・ミヤノはセーラー服戦士の追っかけに近いチームで、現在はセーラー服ジュピター・セーラー服マーズ・セーラー服ウラヌスの戦いを中継している。
チーム・ミヤノが中継する動画は、女性系戦士たちをエロ格好良く撮影することで定評がある。
流星号が上空を軽く旋回しているとき、セーラー服マーズがゾンビをまとめて『炎の鳥』で焼き尽くしていたのを見た。
「オペレーター、どうやらゾンビっちは火炎攻撃が有効っぽい。他のチームにも教えて欲しいじゃん」
「了解です、田中隊員。情報を共有します。そのまま東京に向かってください」
あひる野市内上空に差し掛かった。
建物が群集しているが、学校や大型スーパーなど以外は目立って背の高い建物が無いあひる野市にとって、2階建ての住宅とほぼ同じ大きさの5メートル級のモンスターが暴れる姿は、とてつもない脅威に映っている。
そんな怪物の足下で人の子供サイズのモンスターどもがうようよ這い回っている。
市内は大地震の影響で電信柱が倒れ、半壊している建物が多い。
そんな建物に緑色の小鬼たちが集団で入り込み、隠れている人間を臭いで探し出す。
運悪く見つけ出された市民は、ゴブリンどもが持っている棍棒でめった殴りに殴られて絶命し、小鬼も塊に我先にと食らいつかれて無残な最期を遂げる。
青いプロペラ戦闘機と緑色のヘリコプターが飛んできた。
ブルーダイヤファイターとサイクロンダイヤファイターだ。
青い戦闘機『ブルーダイヤファイター』の背中にある羅針盤の数字を、青いダイヤが回転して指し示す。
『2・6・0』
「ブ・ブ・ブ・ブルー!」
マシンから奇妙な声が聞こえ、ブルーダイヤファイターの尾翼が胴体から下におれまがり、が、ノーマルモードからアタックモードに変形する。
アタックモードでは折れた機体後部が反り返り5銃身のガトリング砲が展開する。
ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
5本の銃身がグルグル回り、地上で暴れている5メートル級のサイクロプスやフロストジャイアントを銃撃する。
大量の薬莢が地面にバラバラと降り注ぐ。
口径20ミリの弾丸は当たれば10センチ近い大穴が空く大砲だ。
フォレストジャイアントの身体はみるみる細かい肉片になって千切れ飛んでいく。
それに対してジャイアントや大型魔獣のヒュージベアやデザートジャイアントなどが 、落ちている瓦礫などを投げ付けて投石攻撃をしているが、上空に居るアドバンテージはとても高く、全長10メートル有る機体ではあるが、そうそう当たるものでは無い。
しかし、サイクロプスの目から放たれる怪光線は機体を掠めていってヤバかった。
『サイクロンダイヤファイター』は、メインローター部に2つのヒンジレスハブと、埋め込み式のテイルローターを持つヘリコプターである。
背中にある羅針盤の数字を、緑色のダイヤが回転して指し、アタックモードに変形だ!
『3・1・9』
「サ・サ・サ・サイクロン!」
サイクロンダイヤファイターもアタックモードに変形し、メインローターが左右に展開、複雑な風と気流を操って、空を我が物顔で飛んでいるケツアルコアトル・マンティコア・ヒッポグリフ・グリフォンなど、空の敵を攻撃している。
「くっっ、何なの? せっかくアタシが元手を掛けずに自分の軍団を準備していたのに、地震でぐちゃぐちゃってあり得ない!」
数日前から単独であひる野市に潜伏し、6人に分離してこの辺りのヤクザや警察をゾンビに変えまくっていた、死霊軍団長【始祖ヴァンパイア リリーラ】(身長12メートル)が、人間サイズ(身長1.5メートル)の8人で集まって悪態をついていた。
6人のリリーラがヤンキー座りで車座になって、崩れたコンビニの駐車場で井戸端会議を開いている。
手には倒壊したコンビニから盗んできた500ミリリットルの『缶ビール』と、こっちに来て覚えた『さきいか』を持っている。
さきいかをこれまたコンビニからくすねたライターで炙って、カミカミしながら愚痴りまくりだ。
「あーもう、すっかりヤル気無くなったわ」
「グクール戦の時もそう、あのトカゲが兵隊を骨まで焼き尽くさなきゃアタシの大活躍だったのに、アイツ許せん!」
「もう今日は帰ろっか?」
「帰ろ帰ろ、ダルいわ」
彼女らの周りには、リリーラ'sに噛み付かれて【マスターゾンビ】にされた【さいたま十人衆】の親分'sが、周りで大人しく待機している。
リリーラは始祖の能力として、対象の相手から血を吸う代わりに、【ヴァンパイア】【レッサーヴァンパイア】【マスターゾンビ】に変質させる毒を注入して、自分の意のままに操る事が出来る。
3種類の毒はリリーラの思うままに出す事ができ、主にマスターゾンビの毒を使う。
マスターゾンビはいわゆる使い捨てで、数日で肉体が粉になって消滅してしまうので、どうでもいい相手に使うのだ。
大量生産用の程度の低いモンスターであるマスターゾンビではあるが、それでも対象の能力が飛躍的に上がり、異常に感染力の強いゾンビウィルスを撒き散らして、ゾンビを大量に作成すると言う、強力で迷惑な怪物であることは間違いない。
※ちなみに普通の【ゾンビ】は魔法で大量に作ることが出来る。
対エンシャントブラックドラゴン戦で使う予定だった。
が、この魔法は異常に面倒臭いので、リリーラはあまり使いたがらない。マスターゾンビを数体作って、勝手にゾンビを増やさせる方がラクなので、リリーラはこっちの手法を好んで使う。
始祖ヴァンパイアの吸血法は一般に知られているそれとはかなり違う。
先ずカミソリの様に鋭い前歯で、対象の首筋をスパッと小さく切る。
鋭すぎるので痛みは全く無い。例え痛かったとしても完全に魅了されている状態なので、何をされても痛く感じない。
魅了されている対象は首筋から血をダラダラと流してはいるが、ウットリとして夢見心地である。
リリーラは対象をそっと抱いて、流れ出る血を長い舌でチロチロと舐めるのだ。
舌は血を舐め取ると同時に、血が凝固しない成分の体液と3種類の毒のいづれかを流し込むので、対象はリリーラの手の中でゆっくりと化け物に変わっていく。
始祖ヴァンパイアはゆっくりと時間を掛けるのが好きなのだ。
一気にやるのは美しくない。
あひる野市内で亜人軍団のモンスターどもと、派手に暴れながらゾンビを増やしていったマスターゾンビのさいたま十人衆は、今は大人しくリリーラ'sの後ろに控えているが、大活躍だった。
彼らは自分たちの子分に噛み付き、ねずみ算式に増えていくゾンビは街を大混乱に陥れたのだ。
しかし魔王城出現時の予期せぬ大地震のために、マスターゾンビ以外の動きの悪いゾンビはかなりの量を失ったのだ。
そこでリリーラのヤル気メーターがダダ下がりになり、リリーラ's集合となったのだ。
「それじゃ帰ろっか」
「アンタたち、好きにして良いわよ」
一人のリリーラが親分'sに向かって手を『シッシッ』と振る。
「おやすみなさい、リリーラちゃん」
左腕を肩から無くし、左側の腹に大穴が空いているあひる組の厳十郎ゾンビ親分が、抜き身の日本刀を右手に持ったまま『さよなら』とブンブン手を振った。
リリーラ'sはボボボボボンと一斉に爆ぜて煙になり、煙の中から大量の小さなコウモリが飛び去って行った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
〈あとがき〉
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。
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★★★で応援をよろしくお願いいたします。
みなさまの暖かい応援をお待ちしております。
応援して頂けますと頑張れます。
応援してくださいました方、さらに重ねて御礼申し上げあげます。
誠にありがとうございます。
感謝しております。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
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