「地球防衛軍サイド」

第21話「水戸目院、暴走!!」

『防衛軍サイド』



第二十一話

「水戸目院、暴走!!」




 地球防衛軍関東支部司令室。

 水戸目院関東支部長の怒号が室内に響き渡った。

「全員、何かに掴まれ! 机の下に隠れるのだ! 机の無い者はガラスから離れてしゃがみ、何かで頭を覆え! これは大きぞ!」


 直径10キロの大地と一緒に魔界から転移してきた魔王城はとてつもない質量であり、その質量の物質が20センチ上からズドンと落ちたので、その衝撃は計り知れない物となり、大地震を引き起こした。

 通常大地が乗っているプレートはじわじわじわじわ動いているのだが、そのプレートが何かに引っ掛かって止まり、引っ掛かりが取れて5センチ程度一気にズリッと動いただけで大地震だと言うに、魔王城は20センチも上から落ちてきたのだ。


 どどどどどどどどどどどどどどどど


 激しい揺れとガラス系の何かが割れる音・物と物がぶつかり合う衝突音・女性オペレーターたちの悲鳴。

 何かが飛んでいって壁に激突していたが、その何かを見ている余裕はない。


「落ち着け。揺れが収まるまで頭を低くして待つのだ。慌てるな。歩くときはガラスに気をつけろ!」

 支部長の指示は的確だ。


 揺れが収まり、関東支部司令室は機材がゴチャゴチャになってはいるが、ケガ人はいなかった。


「みんな無事か? 落ち着いた者から手分けして各部署の状況をチェック・報告を頼む」

「水戸目院支部長。地球防衛軍本部より緊急通信です。メインモニターに切り替えます」


 通信が切り替えられ、司令室の正面にある巨大スクリーンに防衛軍司令長官の顔が大写しになる。が、その画像にはたくさんの線が入り、音声もブチブチしていて聞き取りにくい。

 司令室の全員がその場で直立不動になり、敬礼をする。


 長官は額からかなりの血を流しており、若い職員に支えられながらでは無いと立っていられないような状況だ。

 長官とその若い職員の向こう側に移る指令本部の景色は、火の手が上がっており、室内はゴチャゴチャを通り越してグチャグチャ。たくさんの職員が右往左往している。 


 スクリーンの中で長官が片手を挙げたのを合図に、全員が敬礼の手を下ろす。


「水戸目院、どうやら無事のようだな。見ての通り、今の地震で本部は壊滅状態だ。現在全職員進めているところだ。そこで一時的に君に地球防衛軍の全指揮権を委ねる。受けてくれるか?」


「分かりました。謹んでお受けいたします。長官殿も早く撤退なされ、一刻も早く病院に行かれることをお勧めいたします」


「君には貧乏くじを引いてもらう形になってしまうが、よろしく頼む。地球を守ってくれ」

 ノイズのたくさん入るスクリーンの向こうで、司令長官は敬礼しながら通信が切れた。


 東京湾の海底に建設された地球防衛軍本部基地は、鉄壁を誇る海底要塞である。

 あらゆる地形効果、想定される地震の影響などをシミュレーションした上で、堅牢強固に造られたこの基地は、敵から発見され難く守り易いスーパー基地だ。


 設計段階からあまりに強固に造られた事と、これまで敵から攻撃らしい攻撃を受けたことが無い事もあって、本部職員の心は絶対安全神話に支配されていた。

 しかし世の中に絶対などありえるわけがなく、『万が一基地に亀裂が入った場合には、最悪本部を放棄して海底から脱出しなければならない』という事態が来ることなど無いと高を括っていたのだ。

 そして今、魔王城着地による想定外の位置からの大地震の波動により、防衛軍本部は最悪の事態を迎え、その権限を関東支部に譲渡したのだった。



 地球防衛軍関東支部では地震の片付け、魔王軍襲来の情報収集、本部の仕事と本部から出動して屋外で活動している各エージェントたちの引き継ぎと状況把握など、てんやわんやの状況だ。


「各人自分の仕事をしながら聞いて欲しい。現住東京は、いや日本は、未曾有の大襲撃を受けている。ヤツらから日本を護るのは我ら地球防衛軍だ。地球のために全力あるのみ! 地下で研究中のアレを出撃させる。忙しいところスマンが、最優先で準備しろ。討って出る!!」


 熱血漢である水戸目院司令長官(仮)の目は燃えていた。


「各エージェントの状況が判りました」


「行方不明や行動不能になっているエージェントはいるか?」


「東京本部・関東支部のエージェントチームあわせて15チーム中、『チーム・ヤマデラ』『チーム・ミナセ』が現在行方不明です。通信はおろかビーコンも隊員カメラも反応ロストです。その他5チームがロスト。引き続き捜索中です。『チーム・フルヤ』は通信に反応はありませんが、ビーコンとカメラは生きているので、場所は特定できます。残り7チーム23名中8名が軽傷・3名が重傷・2名死亡です。活動可能なチームは5チームになります」


「ありがとう。かなり厳しい状況だな。うちのお転婆娘たちは無事か?」


「『チーム・ABC』は戦闘中ではありましたが、屋外の広い駐車場に居た為、田中・佐藤両名とも無事です。鈴木隊員は元々休暇中のため現在安否は確認できておりません。奇跡的に流星号も無傷と言うことで、現場をギュウレンジャーとレジェンドライダーたちに任せ、『あひる野市内の状況を目視で確認しつつ、防衛軍本部系のエージェントたちを救出・合流を果たすために、東京都心に向かう』任務遂行中です」


 報告を聞いた水戸目院は少しほっとして、

「相変わらず運だけは良いな。頼むぞ二人とも・・・」

 小さく呟いた。


 一息ついた司令長官(仮)が、館内通信機を地下格納庫に繋げる。

「防衛軍司令長官(仮)の水戸院だ。アレの準備はどうか?」


「支部長、まだ開発中のMG-G1勝手に外に出して上から怒られないっスか?」


「今のわたしは支部長では無い。防衛軍司令長官(仮)だ。司令長官(仮)権限でG1を出しても良いと言ってやろう。だから直ぐに出撃させるのだ」


「直ぐにったってムリッスよ。出撃なんて全然想定外だったんッスから、起動の為の充電だけでもあと75分掛かるッス。何せまだ試運転もしてないヤツなんですよ? マトモに動くかどうかも怪しいッス」


 格納庫のメカニックから悲鳴が聞こえてきたが、

「充電については予備電源を含めて、ありったけの電力を優先的に使っても構わない。司令長官(仮)が許す! MG-G1が最優先だ。ここで動かさずしていつ起動させるのだ? 我ら関東支部の力を見せる時じゃないか! 我々が日本を救うのだ!」

 泣き言を言っているチーフメカニックに、涙を流しながら熱く語る水戸目院。


 その熱い涙に感動したチーフはもらい泣きをしながら、

「支部長! オレ感動したッス。関東支部の力、見せつけてやりましょう! 聞いたかみんな、基地中の電力かき集めてこいッス! 一刻も早くMG-G1を起動させるッス」

「うむ。頼んだぞメカニックの諸君。そしてわたしは今、支部長では無く司令長官(仮)だ」


 熱い思いをチーフメカニックに伝えて通信を切った。


「いつもに増して燃えてるわね支部長」

「一時的とは言え、念願の防衛軍司令長官だものね」

「あの地下の実験機も持ち出すなんて好き放題ね」

「あの人アレ動かしたくて仕方ないのよ。何せ昭和だから」


「うるさいぞ君たち! 仕事に集中しなさい!」

 オペレーターたちがひそひそ話す声に水戸目院が雷を落とした。


「活動可能なヒーローの報告を頼む。全てのヒーローと全てのヒーローメカも 出動承認だ!! えーいこの際だ、地球防衛軍に所属していないところにも打診してみようじゃないか。司令長官(仮)権限で行けるはずだ。駿河湾に停泊している恒星間移動要塞兼移民基地【キング・BR】と【サンバット3】、箱根の地下深くに造られた第二新東京市にある特務機関ネルブとか、いっぱいあるじゃないか。片っ端から救援要請を入れてみてくれたまえ」

 司令長官(仮)になった水戸目院はノリノリだ!

 本物の司令長官は巨大な人選ミスをした!


「ほとんどのヒーローが壊滅した東京で、救助活動や敵モンスター軍団と戦闘中です。大型のモンスターも出現が確認されていますが、レンジャーの合体ロボはそれより遙かに大きいため使用を控えています」

「各エージェントからの報告が揃い始めました。主にライダーたちが敵と戦闘をし、レンジャーたちが救助をメインに活動していようです。宇宙刑事は主に5メートル級の敵を相手にしています」

「震源地に向かった『チーム・ハヤシバラ』の報告が入りました。映像切り舞えます。この映像は現地の電波状況が著しく悪く、ライブ映像ではありません。およそ30分前の録画映像です」



 映像は暗雲が画面を支配していて、暗かった。

 正面には大地の上に半円の大地が乗っており、その上に巨大な西洋の城のような建物が建っている。

 東京の山の中にこんな物は無かったはずだ。


 その城の手前で小さな爆発が起きている。

 画面が爆発に向かってズームアップされると、それはモジンガーZが恐竜軍団と戦っている様子だった。


 この映像にはおかしな点がある。

 手前に映る小さなモジンガーと、どう見ても奥に映っている様に見えるのに、何故か画面いっぱいに映っている城。そしてモジンガーを囲んでいる生物の中に、ゆうにモジンガーZの倍はある首長竜も何体か混じっている。


 モジンガーは18メートルもあると言うのに、映像に映っている物のサイズ感が明らかにおかしい。


 モジンガーは彼の周辺を埋め尽くすほどの恐竜の群れと孤軍奮闘しているが、いくら何でも多勢に無勢だ。


 すでに片腕片足がもげ、胸に付いている特徴的な赤い放熱板も右側が折れてしまっている。

 その折れた放熱板から3万℃の真っ赤な熱光線が走り、彼を取り囲む恐竜軍団の内、正面の恐竜が一塊溶けて無くなった。

 必殺『バストファイヤー』だ。


 例の首長竜に騎乗していたティラノサウルスに似た巨大な恐竜が、乗っていた竜から降り、モジンガーZと対峙した。

 その恐竜、恐竜軍団 軍団長 【ウルトラレックス種のガリガリム】はモジンガーZを見下ろす身長25メートルの大怪獣だ。


 Zの頭越しにガルガリムが大きく口を開く。


 そしてガルガリムは、おもむろにZを頭から喰らいついた。


 映像のみで音声は出ていないが、観ている者全員『ガブリッ』と幻聴が聞こえたほど、見事なかぶりつきっぷりだった。


 モジンガーZを中心に地面がオレンジ色に光った。


 魔法陣だ。


 それも一つでは無い。

 不思議な模様の描かれている魔法陣がたくさん、モジンガー周辺に現れてグルグル回っている。


 その刹那、魔法陣から一斉にマグマが噴き上がり、モジンガー諸共ガルガリムもマグマに飲み込まれてしまった。


「映像はここまでです。この後『チーム・ハヤシバラ』はモジンガー救出要請の為に、電波干渉地帯を抜けるべく、現場を離れたようです。駿河湾にある内村コネクションのコンウォリアーVと、大鳥島ビッグホーク基地のボルテッカVに応援を要請してあります」


「うむ。ありがとう。君たちも良くやってくれている。誇りに思うぞ」


「『チーム・ミヤノ』『チーム・タカハシ』があひる野市からライブ放送を再開しました。怪人などを含むモンスター軍団とゾンビ化したヤクザと警察官・一部住民の混成部隊になっているようです。こちらも倒壊したビルなど瓦礫が多く、住民たちの避難が困難になっています。その上一部のモンスターが住民をゾンビ化しているようで、あひる野市ではゾンビが増えています。あひる野市でモンスターと戦っているのは、高校の授業がなくなったので駆け付けてくれたセーラー服JK戦士と、警察官戦隊パートレンジャー・泥棒戦隊ノレパンレンジャーです。私が引き続き情報収集とサポートを行っていきます。同時にパートレンジャーの10メートル級ロボ、ブルーダイヤファイターとサイクロンダイヤファイターが瓦礫の撤去と、5メートル級モンスターと交戦中です」


 うむうむとうなづいていた三戸目院司令長官(仮)だが、ふと、あることを思い出した。


「そうだ、極秘裏に防衛軍茨城支部で建設されている例のマシンを出撃させろと要請したまえ! 先日完成したはずだ!」

「うちの他にもまだそんなのが有るんですか?」

「私の情報網を舐めてもらっては困るな。ふははははははは」 


 そこへ地下格納庫から待ちに待っていた連絡が来た!

「MG-G1出撃準備完了しました」


 水戸目院の目は燃え上がった!

「よし。わたしが行こう!!」


 本部長席から立ち上がり地下格納庫へ行こうとする水戸目院を見て、ビックリした周りの男性職員たちが彼にしがみついて止めに掛かる。


「お止めください。支部ち・・・司令長官(仮)!」


 身動きの取れなくなった司令長官(仮)は、その場でじたばたと暴れたが、流石に男性職員4人相手ではやはり身動きが取れない。


「やはり我慢できん! MG-G1にはわたしが乗る!」

「もうパイロット乗ってますから、無理ですよ」

「大丈夫だ。わたしは司令長官(仮)だぞ! わたしが一言『代われ!』と命令すれば叶うハズだ!」

「叶わねーよ」


 職員に突っ込まれ、やっと落ち着いてきた。

「悔しい、悔しいが諦めよう。『チーム・キトウ』出撃準備良いか?」


「「「準備OKです」」」


「それでは東京を頼む。MG-G1、出動承認!!」水戸水戸目院司令長官(仮)が、懐から認め印型キーを取り出し、コンソールパネルに押し当てる。


『ビーッッ、ビーッッ、ビーッッ、ビーッッ』

 格納庫に警報がけたたましく鳴り響き、赤い回転灯がグルグル回り出した。


「メガガッジーラ1号、発進!!」


 総重量4万トン・全高50メートルの二本足で直立するメカメカしいロボ怪獣が、たくさんのスポットライトによって『ガンッッ』と照らし出される。


 メガガッジーラの目に黄緑色の光が入り、エレベーターによって地上にゆっくりと上昇していった。





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


〈あとがき〉

 以上、権力に溺れた駄々っ子水戸目院関東支部長でした。


 権力持った年寄りってワガママで見苦しいっすよね~

 


 ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。


 宜しければ、♡で応援。


 ★★★で応援をよろしくお願いいたします。


 みなさまの暖かい応援をお待ちしております。


 応援して頂けますと頑張れます。



 応援してくださいました方、さらに重ねて御礼申し上げあげます。


 誠にありがとうございます。


 感謝しております。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆








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