第20話「黒金の城」
第二十話
「黒金の城」
「コイツが大地震の現況か? おうおうおう! なんでぇ、なんでぇ、この巨大な城はよう? 一夜にしてこんな物が出来上がるたぁ、一体どう言う了見だぁ?」
「コージー君、私たちはただ偵察に来ただけなのよ。それと異常な磁場か何かの影響で、通信機器やレーダーが全く機能していないわ。下手な行動をして余計な刺激を与えない方がいいと思うの」
二体の人型ロボットが魔王城から5キロメートル離れた山の中、山の木々の影から彼の城を偵察している。
空は魔王が完成させた儀式『黒い太陽』の支配下にあり、大地は魔王城が発する瘴気によって黒ずみ、ドロドロに溶けているヶ所もチラホラと見える。
二体は魔王城から5キロメートル離れている山の中腹にある、林の中に姿を隠している。
実はこの場所のホンの数メートル先は、魔王城着地の衝撃でクレーターとなってえぐれてしまっている。つまりこれ以上は姿を隠すことができず、近づけないのだ。
しかし、5キロメートルも離れている上に空は薄暗いと言うのに、魔王城は遠近法を無視して巨大でクッキリと見える。その異様な大きさがうかがえる。
魔王城が降り立った西多摩郡檜原村から50キロほど西に行った、富士山麓の北側、青木ヶ原樹海の附近にある光子力学研究所から、【モジンガーZ】と【アフロヘアーA】が巨大地震の震源地を調査にやってきていた。
モジンガーZは全長18メートル、富士山麓でのみ採取出来る『ジャパニウム』と言う鉱石を精錬して造られた『超合金Z』で製造されている。なお、超合金Zを精錬する過程で発生するのが、超エネルギー『光子力』であり、モジンガーは光子力で稼働しているスーパーロボットである。
アフロヘアーAは頭部がアフロヘアーになっていて、女性的で官能的なプロポーションを持つロボットだ。
モジンガーもそうだが、腰の部分だけ濃い色でカラーリングされているので、ブルマーを履いている様に見える。これは光子力学研究所製ロボットの特徴的デザインだ。
Aは、元々はジャパニウム採掘用に造られた作業用ロボットであり、戦闘用では無いため、主に敵戦力の分析など、Zのサポーターとして追随している。
そこで彼らが見た物は、三角錐のように尖ったバリア発生装置が特徴的な光子力学研究所よりも高く、広大な敷地を有している中世ヨーロッパの城のような建物だった。
このような建造物が一夜にして出来上がったというのか?
「下手な行動なんてしなくても、どうやら向こうが素直に帰してくれなさそうだぜ?」
上手く木々に隠れていたハズのZとAだが、どうやら偵察に気付かれた様だ。
『ゴゴゴゴゴゴゴ』
城の跳ね上げ式の城門が地響きの様な音を立てて開き、城の周りに掘られている掘りの向こうに橋を渡し、大小様々な恐竜の群れが出てきた。
もっとも掘りを越したその向こうは、暫く行けば神の球体によって、丸く切り取られた魔界の大地と地上にできたクレーターまでの切り立った崖になっているが。
「機械獣? 違うわね。本物の怪獣みたいよ」
アフロヘアーAに搭乗しているさやこが、拡大画像に映る生物を分析してコージーに言った。
「本物の怪獣だとぉ? 上等じゃねぇか。本物の怪獣とモジンガー、どっちが強いか勝負だぁ」
やたら血の気の多いコージーは既にヤル気満々だ。
彼にとっては兎に角『オレとお前、どっちが強いか?』白黒付ける事が重要なのだ。
「どうせ見付かっているんだ、こっちから出てってやるぜ。行くぜモジンガー!」
言うが早いか、『黒鉄の城』と呼ばれるモジンガーは、ズザザザザっとクレーターの崖を滑り降り、ガチョンガチョンガチョンガチョンと盛大な音を立てて走り出した。
「待ってコージー君、城の屋根に別の部隊が出てきたわ!」
「小さいのが何匹出てこようが、モジンガーZの敵じゃないぜ!」
林を飛び出したモジンガーZは、クレーターの中程で足の早い【ヴェラキラプトル】の群れに捕まった。
彼らは1000体から成る愚連隊で、自分よりも遥かに大きい恐竜にさえ、臆することなく戦闘を挑み、ズタズタに斬り裂いて食い漁るならず者の集団として 、魔界では恐れられているのだ。
ヴェラキラプトルは全長2メートルほどで、丁度ダチョウの様な大きさと立ち姿だ。
前脚は鉤爪(シックルクロー)になっていて、大型の恐竜を斬撃攻撃で狩る為に使われている。
身長18メートルのモジンガーZからしてみれば、2メートルのラプトルはモジンガーの足首にしか及ばない。
しかしラプトルは躊躇せずに襲いかかった。
体当たり攻撃・切り裂き攻撃・噛みつき攻撃、1000体の群れが一斉にモジンガーZに飛びかかる。
もちろん、超合金Zがそんなモノで傷付くはずも無く、ラプトルの軍団は一蹴りで為す術も無く宙を舞っていった。
ラプトルの攻撃に遭わせて上空から【プテラノドン】の群れが急降下・体当たりを仕掛けてきた。
モモンガのように皮膚を発達させて翼にしているプテラノドンは、翼を広げると最大8メートルにも成るわりに、体重は空を飛ぶために17キロ前後しかない。
シルエット的にはアホウドリに近かったとされている。
薄暗い空を更に真っ黒く埋め尽くす2000体ものプテラノドンの群れの体当たりは、壮観の一語に尽きるが、ラプトルと同じく超合金Zがそんなモノで傷付くはずも無い。
「ルルストハリケーン!」
モジンガーZの口から風がゴウっと吹き出し、空を黒く占める翼竜の塊に酸を浴びせる。
酸の風で敵を攻撃するという、他に類を見ない独特な武器でプテラノドンをまとめて攻撃しているモジンガー。
ヴェラキラプトルもプテラノドンも魔王ゴウラの『黒い太陽』によって恐怖心を取り払われているので、死を恐れない集団と化している。そして彼らは死ぬことによって神に召され、その使命を完成させるのだ。
だから彼らは死を恐るどころか、喜んでモジンガーの行く手に立ち塞がり死んでいく。
恐竜軍団の本隊が到着するまでの時間を稼いでいるだ。
「コージー君、危ない! ミサイル発射!」
モジンガーの様子を後ろから見てきたさやこも、隠れていた林から飛び出し、胸に装備している通称『おっぱいミサイル』を2発発射する。誰がどう見てもおっぱいミサイルだが、正式名称は『光子力学ミサイル』だ。
元は作業用ロボットだったアフロヘアーAとは言え、無理やり大型ミサイル兵装を付けた結果、機体中央に信管剥き出しの大型ミサイルを2基も装備すると言う、正気を疑う設計である。が、乳が飛んでいって爆発するインパクトは絶大である!
アフロヘアーAが発射したミサイルは、モジンガーZに群がって視界を塞いでいるプテラノドンを、まとめて吹き飛ばす。が、その数は全く減らない。
小型恐竜とは言え、何百体もの生き物に囲まれていては視界も悪く身動きも取りにくい為、コージーは気づかなかった。魔王城から猛烈な勢いで迫ってくる超巨大怪獣とその他の山のような軍勢にだ。
「あいヅ、強い。だがオデ、もっと強い!」
足の速い先鋒隊が群れをなしてモジンガーZにまとわりつく中、Zよりもデカい、全長25メートルの恐竜軍団 軍団長 【ウルトラレックス種のガリガリム】と20メートル級の副官 【ギガニノトプス種のアンギャ】が、なんと身長40メートル・体重77トンのパタゴティタンに乗って迫っていた!
「コージー君、もの凄い数の軍勢が迫っているわ。その中には超大型怪獣も居る。ココは一旦引きましょう」
「クッソ、全然見えねぇ。ロケット式パァァンチ」
手の横からカッターの刃と兼用で付いている推進安定翼がガチャンと飛び出し、肘から手首がロケット推進で爆煙を吐きながら飛んでいく。
ガガガガガガガガガ!
ロケット噴射で飛行するロケット式パンチは、プテラノドンの群れに突撃し、根こそぎ薙ぎ倒していく。
ロケット式パンチはひとしきりプテラノドンを倒して帰ってきて、自動で左右それぞれの腕に戻り、何事も無かったかのようにくっつく。ル○バも真っ青な帰巣機能だ。
やっと視界が開けた。
恐竜軍団の数、約3万!
山が土砂崩れを起こしたかの様な黒い塊が土煙を上げながら突進してくる。
「さやこ、逃げろ! ココは俺が食い止めてみせるぜ」
「私一人だけ逃げるなんてイヤよ! 今ならきっと逃げ切れるわ」
「バカ言ってんな! あんな連中がオレたちを簡単に逃がすわきゃねぇじゃねぇか。オレとモジンガーを信じろ! 日本中のスーパーロボットは各地で戦っているはずだが、誰でも良い! 助けを呼んでくるんだ!」
「そんな・・・解ったわ。きっと救援を連れて帰ってくる。それまで持たせて!」
「任せろ! モジンパワー!!」
コージーの叫びと共にモジンガーのパワーが一時的に一気に増幅される機能が作動した。
モジンパワー作動中は何故か武器の攻撃力も上がる! 未知のエネルギーは伊達じゃ無いぜ!
「凍結光線!! ドリル付きミサイル! ミサイル型パンチ! 光子力学ビーィィィィィィムッッッ!!!」
耳辺りに付いているアンテナ(?)から発射される零下180℃の光線! 原理は全く解らない!
腕を折り曲げると二の腕の中から発射される無数のミサイル! 先端にはドリルが付いてる。漢だったらドリルだぜ!
へその辺りから発射される大型ミサイル! どう見ても普通のミサイルだが、パンチと言い張る根拠は?
目から怪光線! これは必須だ!
モジンガーは全身武器庫なのだ!
もの凄い量の武器を搭載している割りにはとてもスリムで、ボウ博士の天才的な設計力がうかがえる。
大小居るとは言え、3万の軍勢相手に一歩も引けを取らないモジンガーZ。
流石は歴戦の勇者である。
モジンガーの直上に突如として赤黒い光の魔方陣が発生した。
直径500メートルほどはあろうか? 見たこともない文字と図形が、Zの上空30メートルほどの所でゆっくりと回転している。
「何だ?」
コージーが呟くのと魔術が発動したのと、どちらが早かっただろうか?
魔法陣から直径5メートルもある巨大な火球が無数にモジンガーを狙って降ってきた。
10秒間ほど降り続いたその火球は、モジンガーの機体に何発も命中・爆発した。
外れた火球も近くの大地に着弾・爆発し、無数に群がる恐竜ごと爆し、焼き尽くした。
無限かと思われるほどに続いた衝突・爆発・炎上の繰り返しに、モジンガーは大打撃を受けてしまった。
左腕が肩から千切れ、顔面も半分欠けている。
「また、ナンシーか? あいづオデを殺そうとしてとしか思えねぇ! クゾッ、オデが何をしたっでんだァ?」
モジンガーと一緒にたくさんの部下を目の前で失ったウガルルムは、超大型恐竜パタゴティタンの上で呟いた。
それを聞いていた副官のアンギャが即座に答えた。
「アンタが酔って味見させろって言って、ナンシー様の左腕を喰おうとしたからだよ! それ以来戦闘の度に『支援』と称して『私怨』を晴らしに来てんだよ、あの御方は。つまり、アンタをあわよくば戦場で屠ろうとしてるんですよ。いい加減気づけよ」
「なにぃぃぃ? まだぞんな昔のこどを根に持っていやがるのか! 左腕の一本くらい直ぐ生えてくどぅのに、げちげちすんなよ、あの女ァ!」
「直ぐ生えてくるバケモノはアンタとトロールぐらいなもんだよ。おかげでこっちはいい迷惑だ」
「チッ、外したか。お前たち、次の詠唱の準備よ。今度こそあのトカゲを仕留めるわ」
魔王城の屋上で大型魔法陣を組み、たくさんの部下と共に呪文詠唱を行っている魔術軍団軍団長、【マスターリッチ ナンシー】は、一人舌打ちをしていた。
今では身長12メートルもある彼女だが、元は魔術研究にのめり込んでいた人間だったという変わり種だ。
「あのトカゲ、絶対殺す。ごく自然にね。フフ」
1万年以上を生きる死体は、珍しく笑った。
片腕を無くしたモジンガーに、死を恐れないゴリ押しの恐竜軍団ウガルルムと、無差別攻撃の魔術軍団ナンシーが襲いかかる。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
〈あとがき〉
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。
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★★★で応援をよろしくお願いいたします。
みなさまの暖かい応援をお待ちしております。
応援して頂けますと頑張れます。
応援してくださいました方、さらに重ねて御礼申し上げあげます。
誠にありがとうございます。
感謝しております。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
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