「魔王軍サイド」
第18話「出現! 魔王城」
「魔王軍サイド」
第十八話
「出現! 魔王城」
東京都西多魔郡檜原村。
檜原村は本州内の東京都における唯一の村だが、面積は東京都の市区町村で3番目に広い。
檜原村は半径5キロメートルのコンパスで円を描いた様に、国道20号・139号・411号がグルリと取り巻かれていて、その中心には村役場があるのだが、村役場のあるこの辺一帯は働き者のジャイアントアントのおかげで、瘴気に満ち満ちた魔界の大地へと変貌しつつあった。
ほんの2週間ほど前まではたくさんの命を育む、自然溢れる緑の大地だったのに、今は真っ黒で、一息吸えば喉の奥に灼け付く様な痛みが走るほどの悪臭が漂うタールの池に変貌してしまった。
川も岩も丘も草も瘴気を放つ池は、一時も休まずにみるみる同心円状に広がっていった。
真っ黒く粘度の高い液体は、時より「ゴボゴボボコン」と音を立てて悪臭を放つ腐ったガスを大気中に撒き散らしている。
その悪臭を放つガスは空気を汚し、風に乗って更に広がっていく。
タールの池の中心では、すでに瘴気の濃度が危険なまでに充満しており、大気を汚し、木の葉を枯らせ、飛んでいる虫も鳥も、上空を通過すると落ちてタールの池に飲み込まれていく有様だ。
真っ黒い池からはこの世のモノならざる生物たちが這い出してきて、人間の里に下りていったり、ジャイアントアントの女王蟻を離れた地へ運んだりした。
モンスターという割りにはかなり勤勉に・組織的に作戦行動をしていた彼らの努力の結果、それは大地を突き破って現れた。
GOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGOGO!!!
魔王城とその城下町を包んだ金色に輝くカプセルの先端が、真っ黒なタールの池を通じて、ついにその先端を地上界に現した。
GAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGA!!
出現した神のカプセルは、カプセルにとって小指の爪の先程度でしか無く、残りは気合いで時空をねじ曲げて出てきた。
ビシッッッッッッ!
一瞬世界が止まったような衝撃波が大地に・大気に・全ての方向に走った。
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ
一瞬の後、耳をつんざく爆音が鳴り響き、タールの池を中心に四方八方に亀裂が入った。
山を2つ3つ超えるほどの距離のある亀裂が何本も走って、ケーキ入刀したかのような断面を見せた幾つもの山が、奈落の底に落ちていった。
同時に大気も音を立てて割れた。(正確には次元が引き裂かれた)
空間だったモノが、ガラスの様に割れてヒラヒラと落ちながら粒子と成って消えていった。
ついに大地と空間の割れ目から、大地震を引き起こしつつ、その本体をこの地上に姿を見せた。
偉大なる死の神『深淵の神 ハデデス』の御力によって、『魔王城とその城下町ごと魔界から地上に転移をする』と言う馬鹿げたスケールの神魔法が発動され、直径10キロメートルの金色に輝くカプセルは時空を破ってついに地上に顕現した。
カプセルの全てが出た後、20㎝ほど浮いていたカプセルはズシンと着地した。
檜原村一帯の大地は全て下敷きとなり、魔王城を運んできたカプセルに取って代わられてしまった。
着陸した振動は衝撃波となって大地に伝わり、新たな地震となって東京を、日本を襲ったのだった。
やがて魔法が解け、金色のカプセルが光の粒子となって消えていくと、カプセルの中に封じ込められていた真っ黒い瘴気が汚れていた大気を更に汚し、あたかも魔界そのものが引っ越ししてきたかのようだ。
身長30メートルの魔王【ゴウラ】は玉座から立ち上がり、玉座の間に集まっている軍団長を始めとする幹部たちに向かって言い放った。
「この世界に我が神の祝福を与える。屋上に祭壇を設置せよ。儀式の準備だ」
ゴウラはやる気に満ち満ちていた。
魔王に取り憑いている深淵の神【ハデデス】も、普段より多目に頭の中に語りかけてくる。
『この世界には太陽が燦々と輝いておる。捕らえた地上の生物は『神は居ない』と言っておるようだが、必ず居る。【太陽神】という形では無いのかも知れん。息子よ、一刻も早くヤツを探し出せ。ヤツとヤツの仲間に復習するのだ』
ハデデスの呪いの言葉が魔王を突き動かす。
「各軍団、思う存分に暴れてくるが良い。儀式を終えたら我も参戦しようぞ」
「「「「おおぉぉぉぉ」」」」
血の気の多い呀王・貪る者・ウルトラレックスが吼えて応え、それぞれの準備に取り掛かっていった。
ハデデス神の使徒である魔王ゴウラは、新しく来たこの世界の為に祈りを捧げるべく、屋上に祭壇を設置させていた。
屋上には真っ赤な絨毯が敷かれ、ステージが組まれ、ハデデス神の像が据えられた。
ステージの周りを仕切る結界・ステージに登るための階段・篝火・祈祷台全てが身長30メートルの魔王サイズなので、設置するジャイアント系・恐竜系の大型モンスターたちですら、小さく見える大規模建造物だ。
300体を超える悪魔神官が祈りを捧げながら祈祷台を取り囲み、儀式の為に繁殖させられた憐れなボーパルバニー1000体が、100体のデーモンによって次々と殺され、死の神への供物として祈祷台に設置された大皿に投げ込まれた。
大皿の中はボーパルバニーの血と死骸で満たされた。
儀式の準備ができたのを見計らって、屋上に転移ゲートが出現し、魔王ゴウラが現れた。
神官帽を被り、魔王の為に造られた、ゴウラの背丈よりも長い、35メートルにもなる魔王専用武器『天魔撃滅の錫杖』を左手に持ち、右手に分厚い経典を持っている。
厳つい顔を更に厳つくして、普段はマントで隠している4枚の羽を広げたその姿は、正に魔王としか言い様の無い、禍々しい気に満ち溢れている。
ゴウラはゆっくりと歩を進め、祭壇への階段を登った。
魔王は祈祷台の前で一礼して止まり、持っていた錫杖をブンブン振り回し、柄で床をダンッと叩く。
錫杖の頭に付いている4つの金属の輪が、『シャーンッッ』と金属音を響かせた。
錫杖を床に置き、経典をぶわっと広げて祈祷台に捧げる。
ボーパルバニーの血で一杯になった大皿を片手で持ち上げ(彼にとっては杯サイズだ)、一気に飲み干す。
その場で片膝をついてお祈りのポーズを取り、一心不乱に祈りを捧げ始めた。
周りの悪魔神官たちも更に声のボリュームを大きくし、魔王の祈りに同調する。
「我が神ハデデスよ。どうか我の願いを聞き入れて、この哀れなる世界に祝福を与えたまえ」
ゴウラの身体から真っ黒い光りの柱が立ち上がり、天を突いた。
彼が信仰する死の神は、神が手塩に掛けて育てた使徒の願いを聞き入れ、神の奇跡を発動させた。
空が急に暗くなり、雲を割って巨大な真っ黒い光を放つ球が降りてきて魔王城の遙か上空に停滞した。
日中であるにもかかわらず、空は先ほどまでのカンカン照りとは打って変わって薄暗くなり、元々の太陽の周辺だけが赤くぼおっと輝いていて、まるで白夜のようだ。
空から降りてきた黒い光球は、太陽にしては小型ながらも、さながら『黒い太陽』だった。
黒い太陽はこれから三日三晩そこに居続ける。
この太陽の光を受けつつ死んだ者の魂は、等しく【深淵の神】への供物として捧げられるのだ。
それが死の神の『祝福(呪い)』だ。
ゴウラは立ち上がり怒鳴った。
「死ね! 殺せ!」
どこかに居るはずの地上の神を倒すための第一の布石が投げられた。
地上を魔界に変える作戦が開始されたのだ。
ドラゴン族の若い龍が10体、魔王城から飛び立ち、四方八方に飛び立っていった。
彼らは現地生物に気取られないように、高高度を飛行して地上世界の情報収集をしていた。
若い龍と言っても、全高10メートル(3階建ての家より高い)、羽根を広げた横幅は20メートルという巨大生物が、レーダーに引っかからないはずがないのだが、たった今東京を大地震が襲った所だ。
自衛隊は飛行場がクリアになっておらず、スクランブルもままならない。
日本政府は魔王城の出現・同時に引き起こされた東京を中心とする大地震・未確認飛行物体の大量発生と、パニック状態だった。
そして地球防衛軍は・・・東京湾の海底深くに建設された地球防衛軍本部基地が地割れの直撃を受け、壊滅状態だった。
地球防衛軍の指揮権は【地球防衛軍関東支部】の【水戸目院関東支部長】に委ねられることになった。
関東支部は殆どの仕事を優秀な本部が受け持ってくれるので、あまりやる事が無く、かなり緩い組織なのだが、果たして大丈夫なのか?
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
〈あとがき〉
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。
宜しければ、♡で応援。
★★★で応援をよろしくお願いいたします。
みなさまの暖かい応援をお待ちしております。
応援して頂けますと頑張れます。
応援してくださいました方、さらに重ねて御礼申し上げあげます。
誠にありがとうございます。
感謝しております。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
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