第17話「トキオサマー島壊滅事件。その三」

第十七話

「トキオサマー島壊滅事件。その三」





 ホルスタインのおかげでパトロールカーまで無事にたどり着いた。

 彼女はLIVEの準備が整うまで引き続き護衛を引き受けてくれた。


「なんなの? あのデカい蜘蛛! あんなのが暴れてるとココの駐車場ヤバいじゃん」

「前見た一番デカいヤツがあの蜘蛛の取り巻きになってるわ。しかも3匹も居る。ここ最近出てくる怪人は、今までとは全く違う敵みたいね。数も大きさも異常だわ。スーパーヒーローが足りないわね」


「本部、こっちにはとんでもなくデカい蜘蛛が暴れています。もう、怪獣です! 至急増援のヒーローを手配してください」

 英子は準備をしながら、腕時計型通信機をonにして、アンテナを伸ばして本部に緊急通信を行った。

 

「田中隊員、実はモンスターが同時多発的にその地区周辺の各地で出現していて、それに便乗したのか、ヤクザの大部隊が交番や警察署を襲撃している状態です。各地でヒーローの派遣要請を受けていて、パニック状態です」

「えー? それってバリヤバいじゃん」

「そちらの超大型蜘蛛もサマー島の監視カメラで確認していますが、もう暫くお待ちください」

「・・・厳しいなぁ」 


「準備できたわよ」

「こっちもおっけー」

 サブマシンガンタイプの光線銃二丁と、バッテリーのマガジンベルトを腰に巻き終えた英子が、最後に被っているハーフヘルメットの上から目元だけを隠すマスカレードマスクを装着して、LIVE配信のスタンバイをした。


「いいわね? 5・4・3・・配信スタート」

 ヘルメットに装着したカメラで英子を捉えた備井子の合図で、LIVEが始まった。


「東京サマー島から緊急生LIVE! 地球防衛軍の実況A子と解説&カメラのB子じゃん! 今モンスターの大軍団が攻め込んできていて、大パニック。ここ東京サマー島ではたくさんの人が怪物どもに蹂躙されていて、現場は凄惨な状況じゃん。あひる野地区周辺に住んでいる人は、大至急避難してください。他の地区の人は決して近づかないでください」


 画面の端でホルスタインホワイトがジャイアントワーム・ジャイアントスコーピオン・ヒットバイパーを薙ぎ倒している。


「そして見て!」

 A子が指差す方向にB子がカメラを向けると駐車場の中央で一際巨大な蜘蛛が5人のギュウレンジャーを相手に戦っている。

 

 駐車場では全高5メートルのアクロマンチュラのマディソンが、部下のジャイアントシュラウトスパイダーを3匹引き連れてギュウレンジャーと爆闘中だ。


 マディソンの脚の一振りで周辺に駐車してある自動車が、紙のオモチャのように吹き飛んでいく。

 アカベコレッド・ワギュウブラック・タンカクブラウン・ジャージーゴールド・ブラーマンシルバー5人のレンジャーが全力で戦っているが、明らかに劣勢だ。


「ギュウレンジャーを助けるために、みんなで『いいねボタン』を押すじゃん!」


 A子のその言葉を合図に、画面のいいねカウンターがギューーーーンって回り、『いいねポイント』がグッと増えた。


 両手のサブマシンガンを撃ちまくりながら、アカベコレッドたちが居る主戦闘場の近くまで突貫するA子とB子。

 走りながら通信機のアンテナを伸ばして、左手首を口元に持ってくる。

 通信が「ON」になり、地球防衛軍関東支部の司令室に繋がり、水戸目院関東支部長の上半身がホログラムで浮き上がった。


「水戸目院支部長、いいねポイントが貯まったよ。あのデカい蜘蛛に対抗するため、街中だけどボイジャーマシンの使用を要請するじゃん」


 A子が更なる武器の使用許可を求めて支部長に掛け合うと、

「うむ。条件は満たしているようだな。ボイジャーマシンの出動を承認する! アカベコボイジャー射出!」

 ホログラムの水戸目院関東支部長が、懐から取り出した『認め印型承認キー』をディスプレイで点滅している『承認ボタン』に押しつける。


「アカベコボイジャー射出承認確認!」

「アカベコボイジャー射出!」

 支部長の承認を確認して、関東基地のオペレーターたちが射出の手順を行う。


 あまりにもたくさん居るヒーローたちがそれぞれの巨大兵器を勝手に使うと、日本が大変なことになってしまうので、巨大兵器の使用には地球防衛軍の支部長クラスが承認を行わないと、使用することができないように取り決められているのだ。


 しかし大型兵器等を使用する場合には間違いなく緊急事態なので、いちいち会議などは通さず、許可の判断は全て支部長クラスに一存されている。

 その時、視聴者の『いいね』も重要な判断材料になるのだ。

 



 宇宙から射出されたアカベコボイジャーだが、なぜか大地を蹴って土煙を上げながら全高7メートルの巨大な赤い牛ロボットが走ってきた。

「ヴもぉぉぉぉぉ」

 アカベコボイジャーは雄叫びを上げながら一匹のジャイアントシュラウトスパーを踏み潰し、そのままの勢いでアクロマンチュラのマディソンに体当たりをした。


 マディソンは突然の横からの強襲に対処できず、ドウッッっとその巨体を横倒しにしてしまう。

 体格ではアカベコボイジャーが有利だ。

 マディソンの転倒した先にトキオサマー島の入場ゲートがあり、ゲートは粉々に潰れてしまった。


「搭乗! アカベコボイジャー」

 アカベコレッドが持っている剣を振り回し、空に大きく掲げて大声で宣言すると、アカベコボイジャーからトラクタービームが発せられて、レッドをコクピットに転送した。


 アカベコボイジャーは右前脚でガリガリと地面を掻き、起き上がろうとしているアクロマンチュラに追い討ちの体当たりを噛ます。

 駐車場は見る影も無いくぐちゃぐちゃになっているが、一般人に被害は無い。無いハズだ。無ければいいな。


 しかしマディソンも伊達に魔獣軍団の中隊長をやっている訳ではない。

 素早く体勢を立て直し、橋の橋脚の様なぶっとい前脚二本と顎の下に生えている強力なハサミが付いた小型の腕の二本を共に十文字ブロックの形にして、自分よりも巨体を持つアカベコボイジャーの体当たりを受け止めてみせた。


 受け止めて更に挟みの腕で突き刺し攻撃を仕掛けてくる。

 挟みはアカベコボイジャーの立派な角に阻まれて、マディソンはイライラしてハサミをガチガチと鳴らした。


 レッドはコクピットで両手を前に突き出し、叫ぶ。

「変形! アカベコファイター!」


 アカベコレッドの声に反応してボイジャーが後脚二本で立ち上がり、牛の顔が胸に移動し、背中からロボの顔がガシャンと起き上がり、アカベコボイジャーは人型のアカベコファイターに変形した。


「完成! アカベコファイター! いくぞ怪物ぅぅ、闘気全開、ラッシュラッシュパンチッッ」


 四つん這いから立ち上がる事によって、更に2メートル高くなった猛牛マシンで殴り掛かる。


「何とか間に合った! 今よ備井子、アカベコファイターの顔アップ!」

「解ってるわ英子」

 アカベコファイターの顔ドアップを撮って、武装チェンジのタイミングでバストアップまで引く。引くとファイターの両手には手のサイズに比べて異様にデカいナックルガードが装着されていた。


「いくぞ怪物ぅぅ、闘気全開、ラッシュラッシュパンチだ、モー!!」

「ヴモォォォォ」

 レッドの気迫に応えてファイターが雄叫びをあげ、腕が何本にも見える程の高速連打で醜い蜘蛛の顔面をボコボコにする。


「説明しよう。ボイジャーマシンはコクピットにたくさんのボタンや計器パネルや操縦桿があるのに、実は叫び声とポーズと気合いで動いてしまうと言う、凄い性能を持つマシンなのだ」

ヘルメットのカメラでアカベコファイターを撮りながら、ボイジャーマシンの解説を入れる備井子。


「みんなありがとう。みんなが応援してくれたお陰で、アカベコファイターが来てくれたよ。もう安心だね。いつも戦ってる巨大化怪人よりも全然小さいから安心じゃん」


「ワギュウインパクトッッ」

「ブラーマンインパクトッッ」


 英子の中継の後ろで、ワギュウブラックとブラーマンシルバーが民間人を守りつつ、必殺技で蟲どもを駆逐している。


「ボス戦中継に間に合ったよ。四方八方何処を向いても敵だらけのトキオサマー島駐車場から、地球防衛軍突撃リポーターのA子とB子がLIVE配信してるじゃん」

 A子はマイクで喋りながら寄ってきたジャイアントスコーピオンを蹴り上げる。

 別に蹴り上げなくてもサブマシンガンのバースト1連射で十分なのだが、視聴者にサービスショットを忘れない。普段はミニスカにTバックだが、今日は水着だ。


 他のレンジャーたちも必殺技を混じえつつ、それぞれが闘っている。

「ギュウレンジャーは全員がスーパーヒーローと言う設定で作られた戦隊ヒーローなので、9人はそれぞれがとても強いのよ」

 他のレンジャーの活躍をカメラに収めつつ、備井子が喋る。


「アカベコビッグホーン」

 ラッシュラッシュパンチを喰らってラリっているアクロマンチュラのマディソンを見て、必殺技準備の為、胸に移動している牛の顔から角を2つ掴み、引き抜いた。


「出たぁぁ、アカベコファイターの必殺技『 ダブルビッグホーン・クロススラッシュ』の構えだぞ!」


 胸の前で十字に構えられたビッグホーンソードの刀身が真っ赤に光り、剣にエネルギーが注ぎ込められていく。


「ダブルビッグホーン・クロスクラッッッッッシュ!!」

 コックピットで剣を抜き、上から下に振り降ろしながら叫ぶレッド。

 アカベコファイターは右足でガリガリガリと地面を掻いたあと、剣を胸の前でクロスしたままダッシュでマディソンとの距離を詰め、体当たりと同時に剣をスラッシュさせる。


 真っ赤な牛の巨人は蜘蛛に体当りした勢いでそのまま駆け抜け、敵に背を向けたまま剣をブンブン振って胸の定位置に戻した。


 マディソンの体には大きなバッテンの切り傷が残り、体中にビカビカと稲妻が走ったあと爆散した。

「マ・・・マタ、ライシュウ!」

 魔獣軍団中隊長は日本語にしか聞こえない魔獣語で、断末魔を叫びながら散っていった。


「決まったァァァ! また来週って言った気がするけど、気にしない! あとは雑魚を倒すのみじゃん」


「モー!」

 アカベコレッドがアカベコファイターから飛び降りてきて、残党の掃討に参加した。


「ここはギュウレンジャーに任せて、あーしらはレジェンドライダーの活躍を見に行くじゃん」

 A子がマディソンの爆散と共に半壊したサマー島の入り口を指差してカメラを促す。


 その時、

 GOGOGOGOGOGOGOGOGO!!!

 大地震が発生し、駐車場もサマー島の建物もビキビキと爆音を立てながら割れていった。

 同時に大気全てを震わせながら轟音と振動が響き続けている。


 サマー島のガラスは大気を揺るがす振動波によって全て割れ落ち、半壊状態だった建物は崩れ落ちた。


「なに!? なんなの!? 地震じゃん! それもハンパない揺れ! 地面割れてっし!」

 A子はとてつもない揺れに揺られながら、それでもバランスを保ちながらマイクを離さずカメラ目線で実況を続ける。

 B子もバランスを保ちながらA子をカメラで補足し続ける。

 普段から訓練しているだけあって、流石の体幹とプロ根性だ。


「ヤバイよA子、一旦中継を止めて流星号(パトロールカー)に戻ろう!」

「OK、B子。みんなごめんね。一旦中継を止めるじゃん。準備が出来次第直ぐにこの状況を伝えるから、チョット待ってて欲しいじゃん」


 プチッッ


 中継はここで一旦途切れた。





 トキオサマー島から山2つ越えた東京都西多魔郡檜原村。

 山と山に挟まれた曲がりくねった道を登ってきてたどり着けるこの山間の村は、今は見る影もない。


 それどころか山と山との間にあった物全てが無くなり、山間には直径10キロメートルの途方も無く大きな光の球体が埋め尽くしている。


 ついに魔王城が、ヒカリの球体に包まれた魔王城周辺の土地とともに顕現したのだ。


 その時、時空震が起き、10キロメートルの球体が着地した振動は、巨大地震を伴ったのだ。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


〈あとがき〉


 


 ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。


 宜しければ、♡で応援。


 ★★★で応援をよろしくお願いいたします。


 みなさまの暖かい応援をお待ちしております。


 応援して頂けますと頑張れます。



 応援してくださいました方、さらに重ねて御礼申し上げあげます。


 誠にありがとうございます。


 感謝しております。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る