第16話「トキオサマー島壊滅事件。その二」

第十六話

「トキオサマー島壊滅事件。その二」





 意を決して通路に出た二人。


 プールでは化け物どもが、出口を求めて逃げ惑う人間たちに群がって、ジャイアントオウルが爪で切り裂き、ヒットバイパーが噛み付き、ジャイアントスコーピオンが毒針を突き刺して殺しまくっていた。

 その横で働きアリが、人間だった物をその強靭なアゴで噛み砕き、せっせと肉団子を作る。

 出来上がった肉団子は、別のジャイアントアントが列をなしてゲートまで運んでいく。

 実に機能的だ。


 通路には人間が居らず、スライムワームとヒットバイパーが数体彷徨いていた。


 魔物が居ることは判っていた。

 英子と備井子は更衣室から出た瞬間、ローリングしながら光線銃を撃ち、スライムと蛇に風穴を開けていく。


 こう見えて二人とも立派な戦士の訓練を受けているので、数体程の戦闘員(魔物)くらいなら問題ない。


 二人がホッとしたスキをついて天井からジャイアントスパイダーが栄子の後ろに降りてきた。


「英子後ろ!」

 備井子の声で振り向くと、首に噛み付こうとしていたクモが口を開けていた。

「うわぁ、出た蜘蛛っっ !」

 咄嗟に左手に持っていた殺虫剤を、蜘蛛の口の中にぶちかます。

 蜘蛛は思わぬ反撃に驚いたのか、あまりの口の不味さに驚いたのか、慌てて蜘蛛の糸を手繰って天井に戻った。


 しばらくした後、ジャイアントスパイダーは苦しみ出し、床にボタッと落ちた。

 苦しみ藻掻き、走り出して壁に頭を激突させている蜘蛛。

 そこを空かさず光線銃で蜘蛛の頭を撃ち抜く英子。


「殺虫剤効いたの!? 口の中に直接だったから良かったのかしら?」

「効くに決まってるじゃん? クモにも効くって書いてあるもん」

「わたしたちが相手にしているクモと、その辺に這っているクモとは体重が違うでしょ? 毒やクスリは体重によって効きが違うのよ。だからあのサイズになったら、その程度の毒じゃ効かないと思ったのよ」

「もう備井子は細かいわねぇ、だいたいのことは何とかなるモノじゃん」

「そーね。アンタはそーゆー人だわ」


 短い通路を走ってプールに出た。

 たくさんの悲鳴と蟲の吠え声と断末魔の叫び声が、館内に反響している。


 虫どもがうようよ居る。

 いくら広いトキオサマー島と言っても、この量はあり得ない。

 光線銃一丁で戦うなど、いくらなんでも無謀過ぎる。


 通路を出て右手が出入り口、左手が南面の大きな窓ガラスだ。

 モンスターは北面のガラスをブチ割って侵入してきたので、南面はまだ少ない方だ。

 何体かの蟲どもが二人に気づき、「キシャー」と声を出しながら寄ってきた。


 二人は目を見合わせて小さくうなずき、出口の無い南面に走り出した。

 走りながら直ぐ正面の視界いっぱいに広がるガラス窓に向かって、右斜め前方に光線銃を乱射する。


 光線銃とは、銃内部に仕込まれている超小型粒子加速器の中で、乱反射している『フォトン粒子』という物質を、一方向のみの運動方向にして、『ビーム』という光の束にしたモノを撃ち出す銃だ。

 自然状態では常に乱反射している光子(フォトン粒子)という物質は、通常は当たっても害は無いが、ビーム状に束ねた光子をぶつけられると熱も持つし、それなりの質量も持つので、ビームが当たった対象物の表面は熱と光子の質量によって変形してしまうのだ。


 光は反射するのでガラスに向かって正面に討つことは自殺行為だが、もう一つ気をつけなければならない事がある。

 それは自分に跳ね返ってこないように斜めに撃ったとしても、ビームが当たったガラス面は多少なりとも変形してしまうので、入射角と反射角が変わっている。

 だから、一発目と二発目は同じように撃っても、同じようには反射しない。

 どう変形するかは判らないので、同じ所に撃つとまかり間違って自分に返ってくるかもしれないのだ。


 反射したビームは、奥に居た運の悪い何体かのモンスターに当たった。

 撃てば当たるような状態だ。何処に撃っても当たる。

 逃げ遅れた人間にも当たっているかもしれないが、居なかったと信じよう!


 二人は走りながらこれでもかってくらい光線銃を撃ちまくり、半分以上はガラスを透過して外の木々を焼き、残りは蟲どもに当たった。

 狙ったわけではないので、蟲どもに致命傷はあまり与えられなかった。

 分厚いガラスが熱を持ち、赤く爛れているので、手近にあったイスを投げつけガラスに風穴を開ける予定だったけど、厚さに阻まれて跳ね返ってきた。


『ギュウウーン』『ガシャーン!』


 英子たちのほど近く、南面のガラス窓をバイクごと体当たりしてぶち破り、4台のバイクが飛び込んできた。


「アレは! 初代お面ライダー1号・2号・Vスリャーとライダーウーマンも居るわ! レジェンドの登場よ!」

「初代ってかなりの年寄りじゃん? 大丈夫?」

「大丈夫よ。レジェンドはめっちゃ強いんだから!」

「それにライダーウーマンってお面付けてるだけで下が生身じゃん? あーしらの方が強くね?」

「うるさいわねぇ。レジェンドは無敵なのよ!!! さっさと車に行ってLIVE配信よ」




 建物の外側を回って駐車場に出ると、広大な駐車場も阿鼻叫喚の修羅場と化していた。


 所々がドロドロに溶けているアスファルトの駐車場。

 爆発炎上している車も何台かある。

 駐車している車をひっくり返しながら、たくさんのジャイアントワームがにょきにょき生えて、逃げ惑う人間を捕食している。

 蟲どもは、燃えさかる車は避けてはいるが、炎からある程度離れたところで残虐行為にいそしんでいる。

 

 そして、一際目立っているのは二階建ての建物のような巨大な蜘蛛。

 ヤツは魔獣軍団・第一中隊長、アクロマンチュラのマディソンだ。

 もう中隊長が出てこられるだけのゲートが完成してしまっていたのだ。


 アクロマンチュラは脚を入れると高さ5メートル近くにも成る巨大な蜘蛛で、八本の脚と八つ黒い眼を持ち、硬い黒い毛で覆われている。

 知能が高く、八本の脚とは別に顎の下に二本の強力な鋏が付いた小型の腕を持っており、興奮すると鋏をガチガチと鳴らす習性がある。


 そして今まさにマディソンは興奮し、上半身をのけぞり気味にして鋏をガチガチ鳴らしている。 

 足下には踏み潰された車がへしゃげている。



「ヨッシャラッキー! ココ一番の大物が相手だぜ、モー!」


 駐車場には9人組の猛牛戦隊『ギュウレンジャー』が到着していて、戦闘態勢に入っていた。



 中隊長マディソンのあまりのデカさに、アカベコレッドはかつてない興奮を覚え、右足で地面をガシュガシュ削った。


「ブラックサンダー!」


 ワギュウブラックがセオリーを無視して、いきなり必殺技を叩き込む。


 しかし、彼の必殺技は左前脚であっさりと弾かれてしまった。

 ブラックよ、最初に放つ必殺技は効かないと言うのがセオリーだぞ。



「あちゃー、こっちにはギュウレンジャーが来てるわ。英子急がないと!」

「解ってるけど!」

『チュインチュインチュイン』『ゲシッッ』

 群がってくる蟲どもに光線を食らわしつつ、手近なモンスターに得意の蹴りを入れる英子。

 ビーチサンダルじゃ威力半減だ。

「何? この数。車まで遠いじゃん」


 備井子のすぐ側で二人の子供を連れた親子が、アスファルトを食い破って出現したジャイアントワームに、丸呑みされようとしている。


 人の身長よりも若干高い、1.8メートルほどの上半身を地上から突き出して、ウネウネしているジャイアントワーム。

その体表から分泌され続ける粘液が滴り落ち、駐車場をジュウジュウと音を立てて溶かしている。


 なんの脈絡もなく出現したワームに、驚き、転んでしまった子供を庇うように覆いかぶさっている親子に狙いを定めたミミズの怪物。

 ジャイアントワームの口は、4枚の花びらをグワッと開いた様に大きく裂け、そのおぞましい頭部を、獲物である親子を威圧する様に、上空からゆっくりと近づけていく。


 ミミズの首から、身体から落ちる硫酸が、地面を灼きながら親子らに迫る。


「危ない!」

 備井子の光線銃が火を吹き、ジュジュっと音を立ててジャイアントワームの頭に穴が開いた。


 ドウッッッとその場に崩れ落ちるジャイアントワーム。

 体液が飛び散ったが、親子には当たらなかった様だ。


「早く、こっちへ」


 ワームを一匹倒した所で、焼け石に水だ。

 備井子たちが来た建物の南側の方が、今のところモンスターの数は少ない。


 地球防衛軍のジャケットを見た母親は、安堵して首をガクガク縦に振り、二人の子供の手を取って走ってきた。


 親子が英子と備井子の下に辿り着いた時、空から黒ぶちパターンの入ったホルスタインホワイトと、全身青いスーツで胸から腹に掛けて白地の『X』が描かれているアンガスブルーが参上した。

 アンガス種はスコットランドが原産なので、スコットランドの国旗を模してデザインされているのだ。


「大丈夫ですか?」

 ホワイトは着地のポーズをシュタッと決め、コクコクと2回頷きながら声を掛けてきた。

 ホルスタインホワイトはいつ見ても乳が重そうで、英子は嫉妬を禁じ得ない。


「ありがとう、ホルスタインホワイト・アンガスブルー。この辺りは比較的モンスターが居ないので、ここに人々を集めた方が良いと思うの」


「了解した。君たちの指示に従おう」

 備井子の言葉に、アンガスブルーは胸にビシッと手を当て、大きく頷いて見せた。


「もう一つお願いがあるわ。向こうに防衛軍のパトロールカーがあるから、あそこまで連れて行って欲しいの。LIVE配信が始められないわ」

「まだLIVEが始まっていないのか? それは我々にとっても大変だ。ホワイト、ここは俺に任せて、彼女たちの配信を手伝ってくれ」

「OKブルー」

 大きく頷きながら、ホワイトがピッと親指を立てた。





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


〈あとがき〉


 


 ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。


 宜しければ、♡で応援。


 ★★★で応援をよろしくお願いいたします。


 みなさまの暖かい応援をお待ちしております。


 応援して頂けますと頑張れます。



 応援してくださいました方、さらに重ねて御礼申し上げあげます。


 誠にありがとうございます。


 感謝しております。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


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