「地球防衛軍サイド」
第15話「トキオサマー島壊滅事件」
「地球防衛軍サイド」
第十五話
「トキオサマー島壊滅事件」
「やっと休暇だよー。今回はマジ死ぬかと思ったよねー」
田中英子と佐藤備井子は先の『あひる野市立中学ひよこ村分校怪事件』での労を労って久しぶりに休暇を貰ったのだ。
それにしても、休暇になっても一緒に居るって、この二人そうとう仲が良い。
本当はここに詩衣子も来るハズだったのだが、朝一でドタキャンの連絡が入った。
彼女に関してはいつもの事なので、二人とも諦めている。
ここはひよこ分校にほど近い場所にある、一年中たくさんのプールで泳いで遊べる『トキオサマー島』だ。
二人は休暇中であるにも関わらず、無断で地球防衛軍のパトロールカーに乗ってここまで遊びに来ていた。
休暇中と言えどもいつ何が起こるか分からないので、地球防衛軍隊員は常にジャケットを着用していることが規約で決められているので、私服の上からジャケットを羽織っている。
だからこそ背中のでっかい流星マークは女子に不人気なのだが、上層部は全く解ってくれない。
曰く、「昔からウルトラ警〇隊のマークは流星だろう? こんなにカッコイイマークの何処が気に入らないんだ? これだから最近の若いもんは・・・」と激高するばかり。
・・・・・これだから昭和のジジイどもは!
しかもあーしらウルトラ警〇隊じゃねーし。
「英子、あんたこんな楽しそうな場所良く知ってたじゃないの」
「この前こっち来たじゃん? その時見つけちゃってー、どーしても来たかったのよー」
「つい数日前にあんな事あったのに良くココに来ようと思ったわね?」
「アレとコレとは関係ないじゃん?」
「あんたのそう言う雑な所は、良い所でも悪い所でもあるわよね。感心するわ」
更衣室で水着に着替えながら、備井子が半ば呆れながら感心しているが、それに付き合う備井子もそうとうなものだ。
「備井子早く、早くぅ」
「ちょっと英子、そんなに引っ張ったら転んじゃうじゃない」
水着に着替えた英子は、備井子の手を取って人で溢れているプールにグイグイ引っ張っていく。
金髪ベリーショートでなおかつ後頭部を刈り上げていると言う、攻撃的なヘアスタイルの英子は、スレンダーな体型だが真っ赤なビキニの上下で、とても健康的な肌を露出している。
対する備井子は、仕事の日はいつも引っ詰め髪でメガネをしていて、地味で目立たない様にしているのだが、今日は髪を解いて腰まであるロングストレートになっている。
備井子は水着の上からTシャツを着て、腰にはパレオを巻き、ここでもやはり体型を隠そうとしているのだが、彼女の隠しきれない巨乳は、仕事着であろうが水着であろうが、男性の視線を集めてしまう。
備井子を引っ張ったままプールに飛び込もうとする英子を振り払って、ロングストレートの彼女はプールサイドで準備運動を始める。
手を振りほどかれた英子だが、気にせず「キャッホー」と歓声を上げながらプールに飛び込んだ。
「ピピピピピィィィィィーーーッッ! そこ! 飛び込みは禁止です!」
けたたましいホイッスルが鳴って、監視塔からライフセーバーのお兄さんが、英子をビシッと指さした。
「はーい。すんませーん」
怒られてしょぼくれる英子。
そこに備井子が追い討ちを掛ける。
「もう英子ったら、プール入る前には準備運動しなきゃダメでしょ」
「そんなの要らないわよ。ジジイじゃないんだから。それよりほら、ココの流れるプールも楽しそうだけど、アッチのデッカイ波が来るプールや、向こうのお城のウォータースライダーが気になるじゃん。ココはアイツがケチ付けたからヤダ!」
ビシッとライフセーバーのお兄さんを指さし返す英子。
「ちょっと止めなさいよ。さっきのは100パーあんたが悪いんだから、恥ずかしいことしないの!」
二人がギャーギャー言いながら波のプールに向かい始めた時だ。
『トキオサマー島』北面の遥か天井まである大きなガラス群が、
『ドンドンッッッ! ビシッ』
『ガッシャーン』
と粉々に砕けて降ってきた。
窓際に居たたくさんの人々に鋭利なガラスが降り注ぎ、彼らの手や足や身体や顔を斬り裂いた。
山を降り、敷地を区切る塀を乗り越えて、魔獣軍団の第一から第五小隊のジャイアントスパイダー・スライムワーム・ジャイアントスコーピオン・ヒットバイパーなど、大型の蜘蛛や蛇が、分厚いガラス窓を叩き割って侵入してきた。
北面のガラスが音を立てて何枚も割れた時点で、プール施設に居る殆どの人が異変に気付いた。
北面からは悲鳴が聞こえ、走って逃げて来る人が、更にたくさんの人の恐怖を煽り、館内はあっという間に逃げ惑う人々で溢れ返った。
トキオサマー島館内にけたたましいサイレンが鳴り響き、そこかしこで回転灯が赤い光を発し、避難誘導の放送が「落ち着いて行動してください」と虚しく響いている。
「英子! この前の連中よ! 今度は蜘蛛だけじゃなくて、蛇みたいのも居るわ」
魔獣の群れは 、英子と備井子のすぐ近くに迫っていた。
逃げ遅れた人たちは、男も女も子供も、まるで波に飲み込まれるように、文字通り蟲どもに食われていった。
どうすることもできない。
無秩序に破壊しながら進んでくる死の軍団は、プールサイドに建っていたスナックスタンドに襲い掛かり、爆発炎上をさせた。
「逃げるわよ! 先ずは更衣室に行かなきゃ。どの道出入口から逃げるのは当分ムリめね」
「おっけー備井子。今ならまだ更衣室には行く余裕あるじゃん」
人々が我先にと逃げ惑っている中、英子と備井子は手近にあった木製の丸テーブルを、地面に投げ付けて脚を叩き折り、即席の棍棒とした。
同様に木製イスも脚を叩き折り、二人で2本づつ持った。
流石にこの手の状況に慣れているのが伺える。
辺りには悲鳴と怒号が渦巻いており、作業をしている二人の横を何人もの人が駆け抜けて行った。
彼らの後を追うように人間大に拡大された、毛穴までクッキリ見えるジャイアントバット1匹とジャイアントスコーピオン1匹が現れ、明らかに二人にロックオンしたようだ。
「うわぁキモっっ。何このデカいコウモリとサソリ!」
「前回の蜘蛛の次はコウモリとサソリ? まさか!? 初代お面ライダーの放送順に出て来てるの? って誰が解るかそんなモン!」
解説ありがとう。備井子!
英子が壊れたイスをコウモリに投げ付ける。
その英子の足元を狙ってジャイアントスコーピオンが突進して来て右のハサミを繰り出してきた。
備井子は咄嗟に転がっている壊れた丸テーブルをひっくり返しつつサソリの上に被せ、更にその上に乗り上げてジャイアントスコーピオンの上半身を無力化する。
しかし尻尾が毒針攻撃を仕掛けてくる。
盲攻撃ではあるが、意外に鋭い所を突いてくる。
それに対して備井子は持っている棍棒で尻尾を横殴りにぶっ叩き、イスの脚だった細い棍棒の、折った側のトゲトゲ面をテーブルの隙間から見えているサソリの体に突き刺した。
ジャイアントスコーピオンの体から、クリーム色のねっとりしたモノが飛び散った。
イスを投げ付けられたコウモリは、様子を見るように一旦上昇した。
「備井子、今じゃん」
二人はこれ以上モンスターが増える前にダッシュで逃げ出した。
突如として地獄絵図になったトキオサマー島。
小高い山から溢れ出したモンスターどもはあっという間に施設の中も外も埋めつくし、脆弱な人間と言う食料を存分にハンティングしていた。
怪物たちは噛みつき、蜘蛛の糸で絡みつけ、毒針で麻痺をさせ、顎で食いちぎり、手当り次第に人間を殺していったのだ。
二人が目指している女子更衣室は、施設の出入口からは少し外れているため、人にもモンスターにもほとんど会わずに着いた。
二人とも更衣室のロッカーには地球防衛軍のジャケットと光線銃が置いてある。
取り急ぎ水着の上からジャケットを着る。
これで防御力も攻撃力も少しはマシになった。
更衣室内を漁っていた英子が、掃除用具のロッカーから殺虫スプレーを発見し、無断で拝借をした。
人間の匂いを嗅ぎつけたのか、通気口に潜り込んでいたジャイアントスコーピオン・ヒットバイパー・ジャイアントスパイダーが通気口の網を壊してボタボタと落ちてきた。
「英子!」
「おうさ!」
『チュインチュインチュインチュインチュイン』
阿吽の呼吸で二人の光線銃が火を噴き、自由落下してくる蟲どもが、床に到達するする前にゴミに変える。
床には10数体の魔獣が転がっている。
備井子はジャケットのポケットから、腕時計型通信機を取り出して左手につけた。
ボタンを押してアンテナを伸ばすと、直ぐに地球防衛軍関東支部のオペレーターのお姉さんがホログラム映像で浮かび上がり、話し始めた。
「緊急通信! あひる野市トキオサマー島にモンスターが大量発生! 至急ヒーローの派遣を要請します!」
「佐藤隊員! 現場に居るのですね? トキオサマー島からの緊急事態発生の連絡はこちらでも確認しています。既にヒーローは派遣済みです。もう暫くの辛抱ですよ。あ、支部長からお二人にお話しがあるそうですので、交代いたします」
オペレーターが席を立ち、代わりに水戸目院関東支部長のホログラムで浮かび上がった。
「田中隊員、佐藤隊員、休暇中なのにたいへんな目に会ってしまったな。ところで、普段君たちが乗っているパトロールカーが車庫に無いのだが、知らないか?」
支部長が車の話しをし始めたので、英子はヤバっとつぶやき、備井子のカメラ前に割って入った。
「え? ・・・さぁ、知らないっすよ? あーしらの車無いんすか?」
「ちょっと英子横から割り込まないでよ」
「基地の車庫には無いんだが、何故かトキオサマー島の駐車場監視カメラには映っているんだ。理由は知らんか?」
「・・・さーせんっしたァ。あーしらが無断で乗ってきましたぁ」
「あんたねぇ、直ぐにバレる様な嘘つくんじゃないわよ」
「あー、そこでだ、もう直ぐそこにヒーローが到着する。もし君たちがトキオサマー島に仕事で行ったのだとしたら、我々としても多少の事は目を瞑ってやらんでもないが、仕事じゃないなら始末書だ」
「と、当然仕事でやって来ました! さぁ英子、LIVE配信の準備よ!」
「支部長! あーしら仕事がありますので、胸のカメラに切り替えます。サポートお願いしまっす!」
とは言ったものの、事実上二人は更衣室に缶詰め状態だ。
ここから脱出して、駐車場のパトロールカーまで辿り着かないと話しが始まらない。
「何なのこの無茶苦茶な状況? 備井子解説してよ」
「私に聞いても解るわけ無いでしょ?」
「あーしら今日非番なのにさァ、何でこんなの当たっちゃったワケ? 当たるのは宝くじだけで良いッちゅーの」
「ギャーギャー言ってないで 、脱出経路の確保が先でしょ」
「今となってはドタキャンした詩衣子が正解だなんて悔しいじゃん」
「あの子こーゆーの回避するの得意よね」
「で? 詩衣子今日は何で来ないの?」
「この前デートしてた男って妻子持ちで、男がバカだからレストランやホテルの代金をカードで切って奥さんにバレたらしいのよ。それで奥さんが乗り込んできて、今修羅場らしいわ」
「アイツちっこいくせにデカ乳でおじさま好きだから、いつかそう言う目に遭うと思ってたじゃん?」
「それがね、その男は詩衣子の中ではただの『ご飯食べさせてくれる男』らしいから、そんなのに巻き込まれて良い迷惑って言ってたわよ」
「何じゃそりゃ!」
英子と備井子は右手に光線銃を構えている。
特に英子は左手にも殺虫スプレーを持っている。
殺虫スプレーは更衣室に置いてあった物をかっぱら・・・地球防衛軍の公務の為に接収したのだ。
二人は更衣室のドアノブに手をかける。
「良いわね? 行くわよ英子!」
「おっけー備井子!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
〈あとがき〉
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。
宜しければ、♡で応援。
★★★で応援をよろしくお願いいたします。
みなさまの暖かい応援をお待ちしております。
応援して頂けますと頑張れます。
応援してくださいました方、さらに重ねて御礼申し上げあげます。
誠にありがとうございます。
感謝しております。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
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