第13話「亜人軍団上陸」
第十三話
「亜人軍団上陸」
東京都赤梅ゴルフ倶楽部の片隅に、落ち葉が体積した池がある。
池は四畳半程の大きさがあるのだが、池を埋め尽くす程の落ち葉で、陸と池の境界線は全く判らないので、稀にOBしたゴルフボールを探しに来た人が池にハマることがある、天然の落とし穴的な池だ。
その池から泡がブクブクと湧き上がってきている。
泡は割れると黒い霧を吐き出す。
魔界の瘴気だ。
池の周辺では、たくさんのジャイアントアントが蠢いていた。
魔界の瘴気は池の中の生物に死を与えた。
池に棲む魚や昆虫は、タールのようにドロドロになってしまった水は生き物たちの呼吸を止めるには十分過ぎる。
浮き上がった魚たちの死骸からも瘴気は生み出され、池の淵に生えている草花にも影響を与え始めた。
やがて池の水は全てドロドロになり、タールの池は加速度的にその大きさを広げていくのだ。
半日も経ったであろうか、周りの木々はすっかり枯れ果て、池からはブクブクと瘴気が泡立ち、辺りは黒い靄に覆われていた。
ちゃぽんと音を立てて、池の中から緑色の手が出た。
1匹・2匹・4匹・8匹・16匹・32匹・64匹・・・・
身長1メートル20センチ前後の子供のような背丈をした、全身緑色の醜悪な生き物、『ゴブリン』だ。
200匹は居るだろうか?
彼らは魔界に似た空気のここが気に入った。活動がしやすいからだ。
最初に出てきたゴブリンたちは手をつなぎ、大きく池を取り囲むように丸くなった。
最後にゴブリンシャーマンが10匹出てきた。
手に木の枝や骨、藁・水晶など、ゴブリンシャーマンたちは何かしらの呪術的なアイテムを持っている。
彼らもまた池を取り囲むようにそれぞれが分かれて、儀式は始まった。
池の周りを取り囲んでいるゴブリンは儀式が始まるとその場に座り込み、腰の錆びたダガーを抜いて両手で頭の上に掲げて「わぎゃぎゃ!」と何事か叫んで掲げたダガーを地面に置いた。
「ぎゃっぎゃぎゃぎぃ、ぎゅるぎゅるるるるるじゃばじゃ、らうらるあらうら」
10匹のシャーマンが声を揃えて詠唱を始めた。
「ぎゃっっ、はっっ、・・・じゃっっは」
ゴブリンシャーマンの詠唱に合わせてゴブリンたちは一斉に手を、脚を、身体を自ら叩き、リズムを取りながら合いの手を入れる。
異様な声の詠唱とリズムが10分以上続いた頃、詠唱の疲れと熱気でトランス状態になったゴブリンたちが、
「ぎゃぎゃぎゃぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
と天を仰いで叫び、足下に置いておいたダガーを両手でしっかり握りしめ、一気に自分の胸に突き立てた。
「ヴがぁぁぁぁぁぁぁぁ」
断末魔の声を上げてゴブリンは絶命し、池の中に倒れ込んでいった。
「ギュウるギャリがぁぁぁ、ぎゃっぎゃっぎゃ」
ゴブリンシャーマンの詠唱は続いている。
200匹のゴブリンの死体が一斉に池に落ちた所為なのか、池の黒い水が盛り上がってきた。
そして、
黒い水は噴火するように空高く3メートルほども噴き上がったではないか。
噴き上がった黒い水はべちゃべちゃと池の周辺に振りまかれ、大地は魔王城に繋がるゲートと化していく。
ゲートからは待ってましたとばかりに亜人軍団の突撃部隊が湧き出てきた。
ゴブリン部隊を筆頭にコボルト・オーク・リザードマン・バードマン・キャットピープルなど、雑多な人型モンスターが次々と池から出てくる。
およそ250体ほどのデミヒューマンモンスターが出てきて、彼らの放つ瘴気の所為で、池周辺の瘴気濃度は爆上がりだ。
池周辺の草木も加速度的に枯れていき、黒と茶色の世界に塗り替えられた。
ゲートは益々大きくなり、ついに亜人軍団中隊長クラスのジャイアントが20体、池の中からぬるっと現れた。
その身長は優に5メートルはある。人間の倍以上だ。
ついに亜人軍団による地上侵攻作戦が始まった。
ゴブリン・コボルトを始めとする小型のデミヒューマンたち250体は、一つの生き物のように動き、ゴルフ場を超え、近くの葺き上小学校・葺き上中学校の建物を破壊しながら縦断し、よりシュショックーが多く生息している赤梅市役所方面に向かって南下していった。
赤梅市の人々は逃げ惑うことしかできな。
山の方から突如として現れた怪物たちの軍勢は、街の通りを幾本も埋め尽くしている。
姿形も見たことが無いような異様な生き物ばかりだ。
彼らは手に手に武器を持ち、デモ行進のように密集して進んでくる。
そしてその集団の最後には建物の二階屋と同じ高さの、上半身裸の人(?)が両手で持った(おそらく山に生えていたであろう)樹木を持って、建物・電柱・人間・車、手粗利次第に壊しながら進んで来る。
中には空を飛んでいるモンスターも居る。
モンスター軍団は手当たり次第に建物を破壊し、手近に居た人間を殺し、時には食べていく。
ブタ鼻のオークなどは、走って逃げる人間を強靱な力で捕まえ、そのまま荒々しくかぶり付いている。
一部の警官隊がパトカーでバリケードを作って非常線を張り、先頭のゴブリンやコボルトに発砲したが、数匹を倒せたのみだ。
警官隊とパトカーの非常線は、死んだコボルトを盾に構え、突進・体当たりを仕掛けてきたきたオークチームによって排除された。
中でもジャイアントの暴れっぷりは凄かった。
道に乗り捨ててある自動車は、「通行の邪魔だ」と言って軽々と蹴り飛ばし、ウェイトリフティングよろしく両手で担ぎ上げた自動車を、通り沿いにあったパン屋めがけて投げつけたりしている。
赤梅市の誰もが、「モンスターの軍団を止められる者は居ないのか?」と疑問を持ち始めたその時、一台のパトカーとその後ろから特殊4WD車が、赤色灯を回し、サイレンを鳴らしながら怪物の行進を止めるように、割って入ってきた。
「ウガァァァァァ」
モンスターたちは五月蠅いサイレンを鳴らしながら突っ込んできたパトカーに苛立ち、得物を振りかざして囲みに行った。
パトカーの助手席から赤縁のメガネをかけて蝶ネクタイをした男が身を乗り出して、箱乗りでFN ブローニングM1910を撃ちまくりだした。
後ろ特殊4WD車では、天井のサンルーフを開けて、後部座席に乗るふたりの刑事が、天井に付いている2門の放水中で、迫り来るオークやゴブリンを狙い撃ち、奴らを近づけさせないようにしている。
その横をハーレーに乗ったリーゼントの漢が、バイクのハンドルを持たずにコルト・ローマン2インチを両手に持って、二丁拳銃で撃ちまくっている!
アレは! 『西部劇警察』の方々だ!
パトカーを運転していた刑事がカセットテープを『ガシャン』とセットして、再生ボタンを『がっちょん』と押す。
ちゃーちゃーちゃーん、ちゃーちゃんちゃ・ちゃちゃちゃーーん、ちゃーんちゃーんちゃーん、(ぱららららっ、ぱららららっ、ぱらら)ちゃーちゃちゃーん、ちゃちゃっちゃちゃーーーん!・・・・
パトカーのスピーカーから例のテーマ曲が流れ始める。
なぜか道路脇に置いてあったドラム缶が爆発して、10匹ほどのモンスターを倒した。
ガソリン爆破だから派手な火柱が立つ!
ちなみに一般的なガソリン爆破は200ミリリットル程度で、ドラム缶サイズで爆破をしたらとんでもなく巨大な火柱と爆発が起きるので、良い子はマネしちゃダメだぞ!
ガソリン爆破の後は、えぐれた地面が降ってくるから気をつけろ!
その後も移動する度に道路に不自然に土を盛った所があり、敵が近くに来ると爆発が起き火柱が立つ。
ちなみに彼らは地球防衛軍では無い。
あくまでも警察官だ。
そして!
1台のヘリコプターがビルの影を縫って、モンスターに対して太陽を背に、ビルの影からヌッと現れた。
ヘリコからはサングラスをした角刈りの漢が、ソードオフ・ショットガン(散弾が広範囲に飛び散るように銃身を短くした改造散弾銃のこと)に改造した、レミントンM31改を構えている。
西部劇署の隊長だ。渋いぜ。
隊長はヘリコの横のスライドドアを開け、身長5メートルもあるデカい人型モンスター(ジャイアント)に散弾銃を喰らわせている。
ジャイアントもヘリコに対して、手に持っている樹木を振り回し、投げ付けて応戦してくる。
警察隊も善戦しているが、いまいち決め手に欠けている。
地球防衛軍はまだなのか!?
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
〈あとがき〉
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。
宜しければ、
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★★★で応援をよろしくお願いいたします。
みなさまの暖かい応援をお待ちしております。
応援して頂けますと頑張れます。
応援してくださいました方、さらに重ねて御礼申し上げあげます。
誠にありがとうございます。
感謝しております。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
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