第12話「ナンシーの報告」

第十二話

「ナンシーの報告」




 魔王ゴウラの私室。


 ゴウラは魔術軍団長ナンシーと甘い夜を過ごしていた。


 マスターリッチゾンビのナンシーは、普段はずっと変わり映えしないシャツとボロいジーンズを履き、その上から白衣を羽織っていると言う服装を繰り返し着ていて、髪もボサボサでオシャレなどは全く考えていない腐女子だ。


 しかし、ゴウラの前に居る彼女は髪をまとめて、胸元が開き気味で背中が大きく開いているドレスを着ている。

蒼白い顔は化粧で見事に消え、生前の様に血色の良い顔になっている。


 身長17メートルのナンシーに対して、魔王は30メートルもあるので、身長差だけで見ると大人と子供の関係の様だ。


 ふかふかでゆったりとした椅子に深く腰掛けたゴウラは、魔王の膝に抱っこ状態で座ってウットリとしているナンシーの頭を、優しく撫でている。


 ナンシーがサイドテーブルからワイングラスを手に取り、一口飲んだ。

 二口目は口に含んだまま後ろに振り向き、両手をゴウラの顔に添え、口移しで魔王にワインを飲ませる。


 暫くその状態が続き、真っ赤な唇を離すと、つっとワインが一雫落ちた。


 部下に対して恐ろしかったナンシーは何処にも居ない。


「魔王様・・・」


 普段の怒気のこもった声とは全く違う、熱気のこもった甘い声だ。


「捕らえた現地生物は食べても安全だと言う事が判りましたわ。奴らはそこそこ良いものを食している様で、肉は臭みも無く、良質である事も判明いたしました」

「そうか。よく調べてくれたナンシー。魔王城の備蓄だけでは長くは保たんからな」

「近くに現地生物の大きなコロニーも発見しておりますわ。数も豊富で栄養価も高く、その上とても弱い存在ですので、我らの主食となるべく存在しているような下等生物ですわ。ですので親しみを込めて『シュショックー』と名付けました」

「シュショックーか。良いでは無いか」


 魔術軍団長の報告を聞いて魔王はご満悦だ。


「でもここからが本番ですわ」

「何だ?」

「シュショックーには言語を使う知能がありましたので、奴らをゾンビ化して奴らの文化などについて話し意を聞いたところ、興味深いことを話していました」

「ほう。話してみよ」


 自分の話に愛するゴウラが食いついたことに優越感を得たナンシーは「ふふふ」と笑って話し始めた。


「どうやらこの世界に太陽神ソルを始めとする、我々の世界の神々は居ないようですわ」

「何? それはどう言う事だ?」

「シュショックーの中にも神を信奉する者は居るのですが、どんなに神に信仰心を捧げても、この世界の神は一切奇跡を起こしてはもらえないそうなのです」

「この世界の神とはどんなやつなのだ?」

「『デューダスクライスト・スーパースター』や『メッキマウス』と呼ばれている神は信者が多いようです」

「ほう。・・・・・・」


 ゴウラは少しの間思考が止まったかのように動きが止まり、暫くしてからまた動きだした。


「我らが神ハデデス様もその名の神は知らぬとおっしゃっておる」

「まぁ、ハデデス様! ぜひご尊顔を拝見したいですわ」

「ハデデス様はお前の信仰を喜んでいるぞ」

「嬉しいですわ。時間がある時にじっくりと神魔法の研究をしたいですわ」


 魔王は少し考えた。

 太陽神ソルや大地母神ガイアらによって、大部分の力を剥奪され、地上世界から追放されたハデデス様。

 それを3万年と言う途方も無い年月を掛けて力を取り戻したのは、始祖の神々に復讐する為だ。

しかしその神々はここには居ない。


 3万年の間に神は潰えたのか? それとも我らが想定していた場所とは違う地上に出たのか?


 始祖の神々が居ないのであれば、ハデデス様の積年の恨みを晴らす事ができない。

 とは言え魔界に帰るにしてもたくさんの生け贄が必要であろうから、一旦この世界を征服してからの話しだな。

 ハデデス様には申し訳ないが、今少し待っていただく他は無いであろう。

 なぁに、3万年も待ったのだ。それが少し伸びただけの話しだ。


 それよりもこちらの神が気になる。

 神は強欲で自分勝手で横暴だ。

 そんな神が何もしないなどあるのだろうか?

 わがままだからこそ『神』なのではないのだろうか? 少し興味が湧いた。


「魔王様、大丈夫ですか?」


魔王の膝の上で、ナンシーが心配そうにゴウラの顔を覗き込んでいた。


「あぁ、すまん。少し考え事をしていた」

「魔王様、もう一つ報告があります」

「ふむ、なんだ?」

「シュショックーを捕獲した小さなコロニーに設置した前線基地は、現地生物の戦闘種族によって壊滅いたしました」

「そやつらのサンプルは捕獲できたのか?」

「残念ながら捕獲は間に合いませんでしたわ」


 ナンシーはとても残念そうに言った。

 ゴウラの期待に応えられなかった自分を悔いているのだ。


「そう気にしなくても良いぞ。敵が居なくてはつまらんからな。間もなく魔王城が地上に出現できるであろうから、その時我を楽しませる程の敵が居ることを、むしろ望むぞ。久しぶりに思いっきり暴れてみたいものだ」


 ゴウラはそう言ってハッハッハと笑った。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


〈あとがき〉


 


 ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。


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 みなさまの暖かい応援をお待ちしております。


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 応援してくださいました方、さらに重ねて御礼申し上げあげます。


 誠にありがとうございます。


 感謝しております。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



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