第8話「蜘蛛ぉぉぉぉ」

第八話

「蜘蛛ぉぉぉぉ」




 五体のホブゴブリンがその取り巻きゴブリンを引き連れて理科室の前に立ちはだかった。

2メートル50センチある天井スレスレまでの身長を持つホブゴブリンが5体廊下いっぱいに広がると、さながら肉の壁だ。


「この部屋にはボスがいるのかなぁ。」


 A子とB子は決戦場っぽい理科室を前に、3人のライダーの後ろから撮影をしている。

 ズームで取るホブゴブリンの顔は本当に醜悪で、緑色の肌に痘痕のようなボコボコのできものが顔中に噴き出していて、鼻はデロンと長く垂れ下がっていて、ただれているようにも見える。


「ウガァァァァ」


 リーダー格らしい真ん中にいる大型怪人の叫びに合わせて、手下のゴブリンどもが突撃を開始した。 それに合わせてライダーたちも動く。

 左腕のブレスレットからカードをドローしてベルトのバックルに挿す。


「出ました! 左手ガントレットに付いているカードホルダーからカードをドローして、ベルトのカードリーダーにスラッシュしたぞ。ライダーたちはどんなカードを引いたのかな?」


《ホークウイング》《ファイアリザード》《タイガーファング》


 3人のライダーそれぞれのベルトから声が発せられ、ライダーたちはカードに宿されたパワーを得た。


「ライダーソードは《ホークウイング》のカード」


「この狭い廊下で空が飛べるようになってもどうなんでしょう? メリットがあるんでしょうか?」


 背中に翼が生え、低空を滑空しながら片手で持った剣でゴブリンを薙ぎ倒していくソード。


「ライダーアックスは《ファイアリザード》のカード。斧が燃え上がるぞ」


「炎の斧で攻撃できますからね、これは追加効果も合わせてダメージアップです」


 両手持ちの両刃斧を持ったアックスは、その両刃から火が噴き出し、ゴブリンを焼き切っていく。


 持ち前のスピードとアクロバティックな身のこなしを更に強化して、左右両手とも逆手でダガーを持ち、虎のようにジャンプして獲物に襲いかかるライダーダガー。

 獲物に飛びつくやいなや、まるで牙で噛みつくかのように、2本のダガーを相手の体に突き刺していく。


 しかしライダーがゴブリン相手に囲まれているところに、ホブゴブリンがゴブリンもろとも両手持ちした凶悪な棍棒で横殴りをしてきた。

 ホブゴブリンは天井に背が支えているので、縦回転系の攻撃はできない。


「ぐはっっっ!」


 ダガーを抜くのが一瞬遅れたライダーダガーが、刺したゴブリンもろとも窓の方に棍棒で殴り飛ばされ、コンクリートの壁に背中を打ちつける。


「なんと! まともに攻撃を食らってしまったダガー、大丈夫でしょうか? 一方アックスは棍棒をガッチリと受け止め、ガードに成功しているぞ。さっすが重量級」


 ダガーが起き上がったのを確認して実況を続けるA子。


「ボス部屋っぽいと言うのに、メンツを見る限り脅威になりそうな怪人はいなそうですね? B子さん」


「イヤイヤ、そんな事を言ってるとドカーンとボスが出てくるのがパターン・・・」


 ドッカーーーーン!


 ホブゴブリンが守っている(らしい)理科室の天井と壁が、絵に描いたようにドカーンと吹き飛び、超大型の真っ黒い蜘蛛【ジャイアントシュラウドスパイダー】が現れた。

 それに合わせて人間大サイズの子供の蜘蛛【ブラックウィドウ】【ヒュージサンドスパイダー】も『蜘蛛の子を散らす』様に放射状にワラワラ走り出した。

 もう、ぶわぁぁぁぁぁって感じで蜘蛛の子たちが広がっていく。決して気持ちの良い光景では無い。


「うわぁぁぁぁ、また蜘蛛だぁ。しかもめっちゃデカいしたくさんだしぃぃぃぃ!!」


 巨大蜘蛛とその子供たちの危険度もさることながら、あまりの気持ち悪さに生理的嫌悪感が先立ち、A子とB子は走ってその場を逃げ出した。


 走りながら左腕にはめている腕時計型通信機のスイッチを入れ、アンテナを伸ばす英子。

 通信が「ON」になり、地球防衛軍関東支部の司令室に繋がり、水戸目院関東支部長の上半身がホログラムで浮き上がった。


「緊急通信! 理科室から巨大蜘蛛と人間サイズの子蜘蛛が泉が湧き出るように大量発生中! 至急増援をお願いいたします!」


「うむ、こちらでも確認している。要求承認! 直ちに増援部隊を派遣しよう! しかぁし、地球防衛隊員がスーパーヒーローを置いて現場を離れるとは何事か! 即刻戻って配信を続けたまえ!」


 【水戸目院関東支部長】。

 スーパーヒーローたちは大変多忙なため、先ずは地球防衛隊員が様子を見て、隊員の胸に付いている常時記録カメラの映像を見ながら、本部が出動するスーパーヒーローを選んで派遣する。

 しかしヒーローの派遣は、最終段階で支部長の承認が無ければ出動が許可されないのだ。

 

「えぇぇぇぇ? 戻るのぉぉぉぉぉ?」

「返事はどうした? 田中隊員!」

「りょうかいしましたぁ。・・・もどりますぅ」


 支部長に緩い敬礼をして、英子と備井子は現場に戻っていった。





 ソードは空を飛んで、果敢に真っ黒な巨大蜘蛛に挑んでいった。


 アックスは2枚目3枚目のカードをドローし、ベルトにスラッシュした。


《ガゼルキック》《ハイパーエナジーチャージ》


 脚だけがアンバランスにぶっとくなり、ハイパーエナジーがチャージされたことによって一時的にもー出チェンジしたアックスは、全身が鎧で覆われてパワーと防御力が大幅にアップされた。


「アックス大回転」


 ライダーアックスが斧を水平に持ち、グルグル回りながら雑魚どもをまとめて薙ぎ倒しつつ移動する。


 アックス会心の大技だったが、ホブゴブリンが棍棒で野球よろしくぶっ叩き、回転が止められてしまった。


 それを待ってましたとばかりに、天井からは子蜘蛛たちが粘着糸をこれでもかと降らせてきて、隙を見て飛びかかって噛みつき、麻痺毒を注入しようとしてくる。

 アックスの全身鎧はブラックウィドウの牙のほとんどを通すことを許さなかったが、四方八方から飛びかかってくる蜘蛛とゴブリンの波状攻撃に、首元などの隙間に噛みつかれた。


(しまった! か、身体が痺れる・・・) 


 ゴキッッ!


 強化スーツの衝撃緩衝力を貫通して首が捻れるほどの衝撃を頭部に受けた。

 一抱えもある棍棒が2.3体のゴブリンを巻き込んでアックスのヘルメットを横殴りした。


「グハッ!」


 ドゴッッ!


 もう一体のホブゴブリンが、棍棒でアックスの腹に渾身の突きを入れる。

 アックスの身体は『くの字』になって後方に吹き飛び、たまらず武器を落として昏倒した。


 すかさず蜘蛛どもが噛みつき、サンドスパイダーやウッドスパイダーの粘着糸で、アックスの身体を拘束し始めた。


 


 ダガーは迫り来るゴブリンと蜘蛛軍団の中、カードをドローした。


《スノーポーラーベア》《ダイヤクイーン》 


《クイーンモード発動!》


 ライダーダガーのバックルが輝き、持っているダガーの1本がロッドに変形した。同時に純白のローブが上から降ってダガーを包む。

 スペシャルスキル、《魔法》が使えるクイーンモードだ。


「ダイヤモンドダスト」


 ロッドから強烈な冷気が吹き出した。

向かってくる蜘蛛と小鬼どもに、氷の礫が襲いかかる。


 前列の魔物たちが凍り付くが、後から後から凍り付いた仲間を乗り越えて迫ってくる。

 こちらも天井から這ってきた蜘蛛の粘着糸がシャワーの様に降ってくる。


 ホブゴブリンが氷で固められたゴブリンと蜘蛛の壁を後ろから生きている雑魚どももまとめて押し、廊下の壁と雑魚の壁でライダーダガーを挟んで閉じ込めた。


「ヌオォォ! も、もの凄い力だぁぁ」


 必死になって押し返すも、ボブゴブリン2体と諸々のゴブリンたちの押し込んでくる力はすさまじく、壁にギュウギュウと挟まれ、身動きが取れないダガー。


 そこにブラックウィドウどもが天井から雨あられと降ってきて噛みつきと粘着糸の攻撃を重ねる。


 蜘蛛の糸での拘束・噛みつきによる麻痺毒攻撃・錆びたナイフや短剣によるめった刺しで、ライダーダガーは血だらけで、立っている力も残されていないが、壁に挟まれていて倒れることも許されない。




《マッスルゴリラ》《ミラージュフロッグ》


「ダブルバイパーソードキック」


 筋力増強とともに重量も増加したソードがミラージュフロッグの能力で分身し、現れた超大型蜘蛛に上空からのライダーキックだ。


 必殺技の二倍攻撃に、例えボス相手でも楽勝かと思われたのだが、ダブルバイパーソードキックは弾き返されてしまった。


 バリヤーだ。


 ボス蜘蛛は自分の周囲に魔法障壁を展開していたのだ。


「いかん! 不思議な力が働いていて攻撃が通じない!」



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