第5話「地上世界殴り込み作戦開始」

第五話

「地上世界殴り込み作戦開始」





 魔王統一が宣言されてから一月が経ち、魔王城の広場には再び全軍50万の魔物が整列していた。


 【地上世界殴り込み軍団】壮観な眺めだ。


 グクール率いるドラゴン軍団は魔王城の屋根に集結している。


 ゴウラは片手を上げ、皆に平静を求めた。


「諸君、いよいよ出立のときである。地上世界には我らが神の御力を借り、全軍一気に移動する。ハデデス様の神格が上がって使えるようになった、初めての御業である。少しでも我らが神のご負担を軽減できるよう、皆一心不乱に祈りを捧げてほしい」


「「「「「「おぉぉおぉぉぉぉ」」」」」」


全軍気合十分だ。


「出立の儀式を始める。祭壇を用意しろ!」


 魔王城から広場に飛び出している演説用ステージに立っている魔王の横から、控えていた魔術軍団の分隊長【イドゥー】の指揮の下、15メートルを超す力持ちのウッドマンたちが、6体掛かりで魔王用の祭壇をステージまで運び出す。


 ゴウラは両掌を合わせて、祭壇に祈りを捧げる。

 

 それに合わせて広場の兵たちも両掌を合わせて、広場を埋め尽くしている兵士たちもお祈りを捧げ始めた。


 お祈りが始まって30分ほど経っただろうか、魔王の手が金色に光り出し、ハデデス神に力がみなぎったことが判る。

 

 お祈りの儀式が始まったと同時に神は魔界中に出現した。


 コボルド・ホブゴブリン・ジャイアントシュラウドスパイダー・ワーウルフ・大ナメクジ・キラーラット・・・・今まで魔王が攻め込んでいった数々の地で、ハデデス神の力に魅了されて信者になった魔物たちに対し、ハデデス神はその者たちに同時に・そしてそれぞれに、直接語りかけて魅了を掛けた。


 彼らは一心不乱に心酔するハデデス神に祈りを捧げた。


 そして自ら命を絶った。


 彼らは次元転移魔法のために生け贄になったのだ。


 神自身の神力・魔王の精神力・祭壇による儀式・信者の祈り・そして生贄の命をもって時空間移動魔法は発動した。


 魔王城を中心に半径5キロの土地に、まん丸くぐるりと光が走り光の輪が描かれた。


 結界だ。


 光の輪から、金色の光の壁が立ち上がり、ドーム型に覆われて、完全な球体に包まれた。


 こうなっては結界の外には出られない。逆に入ってくることも叶わない。


 準備期間中に国を去らなかった者は、全て連れていく。


「今、全てが整った。もう後には引けぬ! 皆! 祈れ! いざ、地上へ!」


 DOOOOOOOOOM!!


 光の壁で区切られた区画は、大地も空もお構いなしに閉じ込めて、丸ごと垂直に飛び上がった。


 魔王の術行使の合図と共に飛び上がった球体は、光の球体の中全てに、加速度による強烈な重力が掛かった。


 立っていられる者の数は少ない。


 皆座り込むどころか、寝そべって潰され掛けている。


「「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」


 球体が上下左右に回り始め、あまつさえ球体自体がネジ曲がり始めた。


 大地も空も魔王城も、球体に閉じ込められた物全てがぐちゃぐちゃになった。


 雑巾絞りのようにギュウギュウに絞られた直径10キロ近くの球体は、グルグル回りながら、やがてドリルのような形状になった。


 そしてその先端が時空間に穴を開け、光球はグリグリと異次元に巨体をねじ込んでいく。


 やがてそれは全て時空間の向こう側に入っていき、魔界から消え去った。





 


 夏、上空に太陽がキラキラと輝き、澄んだ山の空気と川のせせらぎが気持ちの良い音を立てている。


 ここはここは東京都西多摩郡檜原村にある神戸岩の渓流。


 岩の壁で挟まれている川を、サラサラと流れている渓流で、壁の一部から拳大の岩がボコッと壊れ、川にボチャンと水飛沫をあげて剥がれ落ちた。


 岩が剥がれたところは岩では無く、靄が掛った黒い何か、虚空がポッカリと開いていた。


 虚空からはタールの様な真っ黒でねっとりとした闇が、ドロドロと流れ出てきた。


 その穴から垂れた闇は、拳大の出口をみるみる侵食してジワジワと出口を広げながら、ドロドロ・ベチャベチャと溢れ出ていて、止まる気配が無い。


 闇がボチャボチャと落ちた川底は、川石も砂も次第に真っ黒になっていき、闇の領域はどんどん広がっていく。


 陽の光をキラキラと反射する透き通った川の水は、闇の上を通ると汚染され、黒い水となって下流に流れていき、魚や昆虫や植物など、川で暮らしている生き物たちの命を奪っていった。


 穴は直径20センチほどに成長し、中からネズミ程の大きさのある蟻が這い出してきた。


 魔界の蟻【ジャイアントアント】だ。

 魔界の生き物はどれも大きい。


 穴からはワラワラワラワラ蟻どもが這い出てきて、穴の周り這い出た岩肌、降り立った川の周りを食べ始め、闇の範囲を広げていく。


 ジャイアントアントのあとはスライムワーム・ジャイアントサンドスパイダー・スティームウィービルなど、魔獣軍団の尖兵たち4万体が神戸岩 を魔界に変え始めた。


 魔王城周辺の土地ごとくり抜いた光の球体は、未だ異次元の狭間にあるが、ゆっくりと地上世界殴り込み作戦は開始された。


 闇が神戸岩の渓谷を覆い尽くすのは時間の問題であろう。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る