第4話「邪龍と邪神と魔王」

第四話

「邪龍と邪神と魔王」



 身長30メートルを誇る魔王ゴウラが住まう魔王城は、何もかもが規格外にデカい。


 天井は40メートルほどあるし、魔王謁見の間は一般的な人間サイズの生物が魔王様の居る場所まで到達するために、1時間近くは歩くことになるだろう。


 その広すぎる謁見の間に、近衛兵も含めて人払いをした魔王が、件のドラゴンと一対一で対峙して居た。


 正確には、魔龍グクールは魔王と対峙していたのではない。


 魔王の向こう側に居る『神』と話しをする為に、ここに来たのだ。


(神よ。古龍が話しをしたいそうだ。《光の柱》を使うぞ。直接対話をしてくれ。)

 【神】と言う『存在』は、同時に全ての場所に存在するが、単独の場所に現れる事は出来ない。


 たくさんの信者を抱えている神ならば、自身の神力を使って現世に顕現する事もできるが、それはひと握りの上級神だけだ。


 一般的には『術者(使徒・巫女)の精神力』・『儀式』・『信者の祈り』などのエネルギーを消費して、《コールゴッド》の大奇跡を発動しなければ、現世に『存在』を固定する事が出来ない。


 だから通常時に神と会話する為には、使徒・巫女クラスの信者を通さなければならない。


 魔王ゴウラが心静かに祈りを捧げると、目の前に《光の柱》が立ち、そこから声が聞こえた。


 本来なら神の言葉を魔王の口から伝える《神託》で会話をするのだが、単独で《コールゴッド》を行使できるゴウラの精神力をもってすれば、神の声だけを顕現させる《光の柱》くらいのサービスは朝飯前だ。


「グクールよ、こうしてお前と話しができる日が来るとは思ってもみなかったぞ」


 【深淵の神 ハデデス】の声は深く落ち着いている声で、とても邪神とは思えない神々しいモノだ。


 聞いているモノ全てを魅了する怪しい力も秘めている。


「全くだ、ハデデス。よもや貴様と、たとえ一時であっても和平を結ぶことになるとは、儂も夢にも考えなかったわい」


 魔王と同じ30メートルの身長を持つエンシャントブラックドラゴンは、苦々しい顔で続けた。


「貴様のことは今でもこの場で殺したいほど憎んでおるがの、貴様の地上送りを見届けてやるわい」


「龍よ、お前とは数々の死闘を繰り返してきたな。そんなお前がこの遠征に力を貸してくれることに感謝する」


「やめろっっっっ! 貴様と馴れ合いをするつもりは無い。虫唾が走るわいっっ! 良いか、遠征に失敗したからと言って、こちらの世界に帰って来られると思うな! 失敗した時は儂が貴様に引導を渡してやるからな。二度とこの地には戻って来させんからそう思え!」


 漆黒の龍はガバッと翼を広げ、激しく羽ばたき、ぶわっと宙に浮いた。


 そのまま直上に登っていく。


「邪魔だ!」


 軽く噴いたブレスで天上をぶち破って出て行った。




 邪竜グクールが天井に大穴を開けて出ていったあと、ハデデス神が彼の忠実な使徒に声をかけてきた。


「息子よ。此度はよう働いてくれた。その功績をたたえ、この指輪を授けよう」


 光りの柱の中から金色の指輪が一つ、魔王の手の中に落ちてきた。


「一度だけ神級の奇跡を起こす指輪だ。何が起こるかは我も知らん。幸運な何かが起こるという言い伝えだ」


「ありがたく頂戴いたします。肌身離さず身につけておくことを誓います。して神よ、我らが戦う地上の神々とはどのようなの者たちなのですか?」


「神々との付き合いも絶えて久しいのでな、ほとんど覚えておらぬわ。ただ我をここに落とし込めた【太陽神 ソル】だけは忘れておらぬ。彼奴め、地上世界で会ったら片羽を引きちぎって堕天に引きずり落としてくれるわ。そうそう、あの戦いで【大地母神 ガイア】を我の使途が殺したときは痛快だった。ガイアが愛でていた森を魔の森に変えさせ、あの女神の力を根こそぎ奪ってやった。ガイアは力尽きて死によったわ。ひーっひっひっひっひっひ」


 魔王ゴウラはうっかり聞いた自分がバカだったと反省した。


 この狂った神が地上世界の最新情報を仕入れるような用意周到な神では無いことくらい、イヤというほど知っているはずなのに、話のネタにふと振ってしまった。


 【大地母神 ガイア】の使途【ドルイド サリュー】が、命と引き換えに《コールゴッド》で呼び出されたハデデス様を、樹木結界によって押さえつけ、そこへ【太陽神 ソル】の使徒【勇者 タイラー】が《太陽の剣》で壊滅的なダメージを与えて、奈落の底に突き落とされた。


 と言うストーリーなのだが、ソルとガイアの話しは今までに何千回聞いたことか。


 正直『耳たこ』だ。


 しかも長ぇーんだよ。


 まいったなぁ、話し進まねぇ。


 あぁ、我のバカ。


 などと思っても、神の契約(呪い)によってそれを態度に表わす事はできない。


 神の使徒となった身であるから、強力な奇跡が使えるようにはなったが、神に対してほんの少しの不敬も働けないのだ。


 グレーターデーモンキングとして、魔族を率いていくために、ゴウラは力を求めた。


 魔族の世界は力こそが全て。


 他の魔族の追随を許さないほどの力を望み、渇望した結果、彼は狂った魔界の神に取り憑かれた。


 悪魔の力と神の力が使える、最強の悪魔に彼は成った。


 ゴウラが力を得た当時は、絶大な『神』と『神の力』に取り憑かれ、妄信的に魔界を制圧した。


 神は邪神と呼ぶに相応しい、復讐に取り憑かれた狂った神だ。


 それ故に自分の欲求を満たすことに容赦がなく、強い。


 ハデデス神は純粋に我に力を与えてくれた。

 我はその恩に応えなければならない。


「地上の神とその使徒共がどんなに強かろうが、これだけの戦力がそうそう敗れることはないでしょう」


「我もそう思うぞ。よくぞこれだけの戦力を集めてくれた。ソルの奴めの泣きっ面が目に浮かぶわ。はーはっはっはっはっはっ」


 神と魔王は出会った時からお互いがお互いを必要としていたのだった。


「さて、鬼が出るか蛇が出るか・・・」




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


〈あとがき〉


 


 ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。


 宜しければ、


 ♡で応援。


 ★★★で応援をよろしくお願いいたします。


 みなさまの暖かい応援をお待ちしております。


 応援して頂けますと頑張れます。



 応援してくださいました方、さらに重ねて御礼申し上げあげます。


 誠にありがとうございます。


 感謝しております。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


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