第3話「軍団長たち」

第三話

「軍団長たち」




 軍団長の内で仲が良い者同士は、魔王城の中にあるバーのカウンターで並んで飲んでいた。

 ここは将校以上しか入れないVIP向けのバーだ。


 将校以上になると通常サイズの身長の者はほぼおらず、身長が10メートル・20メートルになってくるのが当たり前なので、彼らが一般住民や一般兵たちと広場で飲むには邪魔すぎるのだ。


「よう、みんな! 今日はここにおわせられるリリーラ様が奢ってくださるそうだ! 存分に飲め!」


「「「「「おおおおお! リリーラ様ごっつぁんです!! かんぱぁぁぁい!」」」」」


 獅子型の魔人で毛むくじゃらの魔獣軍団長【ガウルルム 呀王】が、店中に響く大声で宣言し、店中の客が全員で乾杯をした。


「ちょっと、アンタ! 何でアタシがお前らごときに酒を奢んなきゃイケないワケ?」


 いつも真っ黒いマントに包まっていて、青白い顔をしたツインテール幼女、と言う見た目の死霊軍団長【始祖ヴァンパイア リリーラ】が、毛むくじゃらに食ってかかる。


「おめぇこの戦いで何もしなかっただろ! 酒くれぇ奢りやがれ!」


 リリーラは飲み干したグラスをガン! とカウンターに叩き付けて言った。


「もう一杯おかわりっっ! 『何もしなかった』んじゃ無いわ! 『何もできなかった』のよ! 生け贄として殉死した兵たちをゾンビ化して、再利用するのがアタシの仕事だったのに、あのトカゲときたら死体を骨まで焼き尽くしちゃったのよ! そんなのアリ? って思ったわよ! おかげでアタシの見せ場無かったじゃ無いのよ! おかわりっっ!!」


 リリーラは空になったグラスをガン! と再びカウンターに叩き付けた。


 リリーラは始祖ヴァンパイアと呼ばれる種族で、全てのヴァンパイア種族の元となっている、グクールと同じく神が魔界に来る前から生きている強力な魔物だ。


 このメンツの中ではぶっちぎりで歳上なのだが、見た目はツインテールの幼女なところが怖い。

 身長も12メートルと他の軍団長に比べると小さ目だ。


「リリーラ、もうその辺にしておけ。体に悪いぞ」


 無口で頑強な騎士、亜人軍団長【オルグ・ハイ 貪る者】がぶっきらぼうに言った。


 オルグ・ハイはその昔、サウロンと言う魔術師がトロールに魔術をかけて、品種改良をして出来上がった種族である。


 知恵が高く、裸に棍棒だったトロールとは違い、貪る者は全身甲冑の騎士だ。


 ダークエルフの騎士に感銘を受けて、ダークドワーフに自分専用の武器防具を造らせたのだ。


 【貪る者】は本来、知能をつけたとは言っても野生の力が強いので、本能のままに戦うスタイルの方が彼最大の戦闘力を引き出せる。

 (実は単純な棍棒や大岩投石の方が、より効果的にダメージを与えられると言う残念な結果は、本人の中で封印されている)


 なまじ知能がついてしまったので、騎士の生き様に感銘してしまい、武器で戦う事を信条としていて、

『盾で仲間を庇いつつ戦う姿カッケー』

と思い込んでいるのだ。


「うっさいわ! この木偶の坊! アタシがこれしきの酒で酔うワケがないじゃない。アンタ何? ちょいちょいアタシの保護者面するの止めてくれない? ウザイわ」


 貪る者本人は、『リリーラが好きな事を隠している』つもりなのだが、それはリリーラを含めて誰が見てもバレバレで、見ている周りがヤキモキしている。


「相棒、もっとガツンと行けよ! 俺様的にぁ、あんな性格の悪いロリババアはオススメしねぇが、おめぇみてぇなドM野郎にゃぁ丁度良いかもな。地上に行ってからはこんな時間無いかもしれねぇからよぅ、決めるなら今のうちだぜぇ」


 呀王と貪る者はお互い相性が良く、ペーペーの頃から戦場ではいつも隣合い、お互いの欠点を補い合って戦ってきた。


 だから呀王は、女に興味の無いこの朴念仁の相棒が、(まぁちょっと相手が女と呼べる代物かどうかは置いといて、だって少なく見積もっても3万歳はイッテるんだぜ?)、女に興味を持ったこと自体は大歓迎している。


「ガーンとアタックして、バーンと砕けてこい! それも経験だ」


 呀王は貪る者の背中をバンバン叩いて鼓舞しつつ、願わくばさっさと砕けて別の女に興味を持って欲しいと願っていた。

 もし万が一上手くいったら・・・相棒の運命はどうなることか?・・・考えたくもねぇ。怖っ。




「オデの肉はまだかぁ? 代わりにお前を食ってやろうか?」


 恐竜軍団長【ウルトラレックス ガリガリム】が副官【ギガニノトプス アンギャ】にガブリと噛みついた。


「いてててててて、肉はもうすぐ来ますから、もうちょっと我慢してください。ここは会場からちょっと離れているんです。誰かさんが毎回暴れるからですよ」


 ここは魔王城から少し離れた森の広場。


 恐竜軍団たちは毎回軍団長のガリガリムが、酔っ払って手当たり次第に色々な物に噛みつくから、会場からは少し離れた場所に行かされる。

 

 体長25メートルの大怪獣が、酔っ払うとその辺の樹木・城の城壁・部下の恐竜たちと、手当たり次第に噛みつきまくるのである。


 一般兵士たちなどが近くに居ようものなら

「OH! SNACK!」

 と言って酒のつまみにボリボリ食われてしまうのだ。たまったモノでは無い。


「ったく! 誰だよアイツにこんな早くから酒飲ましたの! ・・・お前らかぁぁぁ!」


 アンギャは近くの木の陰で、ガリガリム軍団長が酔って暴れる様を見てゲラゲラ笑っていた連中を見つけた。


 体長5メートルほどの小型恐竜【ケトラプター】だ。

 こいつらはいつも群れで行動して、かなりのいたずら者たちだ。


「やべ、逃げろ!」


 ケトラプターたちはあっという間に四散していった。


「アイツらぁぁぁ、覚えてろよぉぉ」


 体長20メートルもある副官アンギャは、苦労人なのである。





 魔術軍団長【マスターリッチ ナンシー】は自分の研究室に閉じこもって、魔術の研究に勤しんでいた。


 ナンシーは【リッチゾンビ】と言うゾンビに族に分類される上級アンデッドで、生前から魔術を極める事だけを生きがいにして生きていた魔術師ナンシーの成れの果てだ。


 彼女は死体だが、とてもグラマラスなボディをしており、ホルマリンクリームなどでお肌のお手入れにも気を遣っている。


 一生を魔術の研究に費やしたナンシーだったが、目指した程の研究成果が出なかった為、魔術に対する未練が彼女を魔界に誘い込み、めくるめく魔の世界に捕らわれ、死後も研究が続けられるようにリッチゾンビに成る魔術を自分自身に掛け、未だに究極の魔法を追い続けているのである。


 全ての軍団長の中でナンシーは、魔王に対する忠誠度が一番高い。


 魔術軍団長の魔王ゴウラを見る目は、敬愛と羨望に満ちている。

 愛していると言っても良い。


 それはゴウラが彼女に真似のできない神魔法を使うことができるからだ。

 要するに『魔王を愛している』のではなく『魔王が使う神魔法を愛している』ワケなのだが、特に魔王は気にしていない。


 神魔法はある意味彼女が追い求めてやまない『究極の魔法』の一つだ。


 1万年以上魔術の研究に費やしてきた彼女を持ってしても、神魔法は全く理解できない。


 理論や常識など全く通じない。ただ『神の力が存在する』と言うことを信じるしか無いのだ。

 

 それ故に、悔しくも羨ましくもある。魔王に恋い焦がれてしまうほどに。


「べーリンガー、《魔道眼球》はどこまで出来たの?」


 べーリンガーは魔術軍団の副団長で【魔導具開発隊長】でもある。


「モノは完成しましたが、これを装着して行動するにはかなりの訓練が必要になるので、まだ実用段階ではありません」


「ならさっさと適合者を選出して使えるモノにしようね。ゼリア、オオツカ、あなたたちの研究成果も期待してるわよ。すっごいの造って魔王様を喜ばせるんだから」


 彼女のそれは完全に恋する乙女だ。





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


〈あとがき〉


 


 ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。


 宜しければ、


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 ★★★で応援をよろしくお願いいたします。


 みなさまの暖かい応援をお待ちしております。


 応援して頂けますと頑張れます。



 応援してくださいました方、さらに重ねて御礼申し上げあげます。


 誠にありがとうございます。


 感謝しております。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




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