第2話「凱旋」

第二話

「凱旋」




 魔界統一の知らせに、魔王城は魔界の住民たちであふれかえっていた。


 そこに魔王軍が凱旋してきたのである。

 一行は大歓声を持って迎えられた。

 兵士たちの中でも一際大きな身体を持つ、各軍団長も大人気である。


 魔獣軍団長【ウガルルム 呀王】

 亜人軍団長【オルグ・ハイ 貪る者】

 死霊軍団長【始祖ヴァンパイア リリーラ】

 恐竜軍団長【ウルトラレックス ガリガリム】

 魔術軍団長【マスターリッチ ナンシー】


 どの軍団長も魔界最強クラスの猛者たちだ。



「「「「「「「ゴウラッッ! ゴウラッッ! ゴウラッッ! ゴウラッッ! 」」」」」」」


「「「「「「「魔王様万歳! 魔王様万歳! 魔王様万歳! 魔王様万歳!」」」」」」」


 魔王城は身の丈30メートルにもなる魔王ゴウラが住まう居城なので、平屋だが兎に角デカい。

 建物で例えるなら13階建て相当、実に40メートルもある平屋一戸建てだ。


 そんな中、薄暗い魔界の空がチラチラと暗くなったり薄明るくなったりしたので、住民たちが上空を見上げて息をのんだ。


 やばい! ドラゴンだ!!


 それもたくさんのドラゴンが上空を旋回している。


 報復か?


 住民たちの声は次第に小さくなり、固唾をのんでその状況を見守っていた。


 上空を旋回しているドラゴンの中から一体が舞い降りてきた。


 舞い降りてくる龍の影はどんどん大きくなり、魔界の住民たちが今までに見たどの龍よりも遙かに大きい、非常識なサイズになってくると彼らはパニックになりそうだった。


 しかしエンシャントブラックドラゴンのグクールはそれを許さない。

 一般の住民や兵士などは、彼の龍のあまり大きな威圧力だけで腰が抜け、身動きができなくなってしまうのだ。


 ボスモンスターからは逃げられない!


 グクールはそのままゆっくりと降下し、平屋の城の屋根に着地した。ここで彼が『ガオー』っと一声吠えれば、ここに居る者のほとんどは失神してしまうだろう。

 もちろんそんな事はしない。龍たちは報復に来たのでは無いのだ。


 屋根に魔王が転移してきた。

 龍と同じ山のようなサイズだ。

 40メートルの建物の上に30メートルの生物が立っている。

 コイツらが暴れ出したら一溜りもない。


 ゴウラは住民たちが居る広場の方に両手を広げてゆっくりと振り返った。

 魔王は普段から恐ろしい顔をしているので、その怖い表情が国民を落ち着かせようとして、むしろ笑っているのだという事実は、残念ながら伝わらなかった。


「親愛なるゴウラシティの諸君、紹介しよう。魔界の主、魔龍王グクールだ。今回の地上侵攻作戦において、志を同じくする同志として、我らに力を貸してくれることとなった」


「「「「「「・・・・」」」」」」


「「「「「「お、おおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」」


 広場の住民たちは、目の前で起きている事実を理解するのに一瞬を要し、その後、先ほどまでの大歓声よりも更に大きな大歓声を持って魔龍の参戦を歓迎した。


 味方であるならこんなに頼もしい味方はまず居ないだろう。

 こちらには『神』も『魔王』も『古のドラゴン』までもが居るのだ。

 地上の神が何ほどの者ぞ。


 大歓声に迎えられて、残りの龍たちが降り立ち始めた。


 深淵の神ハデデスの名の下に【グレーターデーモンキング ゴウラ】を魔王とし、五大軍団長が集まった。

 そこにあの邪龍にして最強のエンシャントブラックドラゴンのグクールと、30体のもドラゴンが加わるなど、まさにドリームチームだ。


 その石造りの城の平屋根は、新たなる軍団【ドラゴン軍団】30体が降り立っても、まだまだ面積に余裕があった。

 そんな巨大建築物前の広場は、人間サイズで考えれば果てしなくデカい。

 その広場が【魔都 ゴウラシティ】の住民たちと、先の戦いで目減りしたとは言え40万の兵士たちが集合したために、魔族たちで埋め尽くされていた。


 広場を埋め尽くした兵士・住民たちが歓喜をもって魔王軍団長を迎え、皆思い思いの咆哮を上げているため、音圧で今にも魔王城の壁が崩れるのでは無いかと思えるほどだった。


 DAM! DAM! DAM! DAM! DAM!


 臣民たちはその場で足を踏みならし、手を叩き、酒を浴びて魔王軍の勝利を祝った。


 ゴウラは広場前にある魔王城の演説場に立ち、広場を埋め尽くしている魔族を始め、魔王を我が君主とする魔界の住民たちを、満足げに眺めていた。


 魔王は彼らの賞賛を存分に浴び、ゆっくりと片手を挙げて観衆を鎮めた。


「今日は特別な日だ。この歴史的勝利を我等が神と共に喜び合おうぞ」


 ゴウラの目は半眼に閉じ、両掌をゆっくりと胸の前で組み、その場に片膝をついて天を見上げた。


 魔王のその姿を見て観衆たちも天を見上げると、そこには彼らの神である深淵の神ハデデスの髭面が空一面に映し出されていた。


「「「「おぉぉぉ、神よ!」」」」


 そこかしこで神を賞賛する感嘆の声が上がる。


「我の可愛い子供たちよ。時は満ちた。お前たちが捧げてくれた命によって、我は完全なる力取り戻した。今こそ、三万年前の恨みを晴らす時が来た」


 神々しいまでの神の声が、その場に居る全員の頭の中に響き魅了した。


「我と共に地上世界を征服に征こうではないか」


 おそらくは神の力の所為であろう。

 大したことを言っている訳では無いのだが、その言葉を聴いた者の大半が感動で涙を流して聴いていた。


 魔獣軍団長ガウルルムの呀王は神の言葉に心酔し、わんわん泣き始めた。


 ガウルルムは獅子の魔人で、強烈な熱を発することができる。

 百獣の王にふさわしく、キマイラなどの合成魔獣も彼の言うことはすんなり聞く。

 豪快なヤツだ。


 呀王が泣いている横で、亜人軍団長オルグ・ハイの貪る者は、呀王の背中をポンポンと叩いている。

 しかしその光景は20メートルを超す巨体の二人が公衆の面前でやっているので、ちょっとコミカルに見える。


 オルグ・ハイという種族はトロールと言う種族の進化系である。

 元々トロールは計り知れないパワーを持ち、皮膚も強靱な上に傷の再生能力が異常に強い、とても強い種族だ。


 しかしトロールには致命的な欠点がある。

 その欠点とは、知能がとても低い事だ。


 彼らは作戦を理解して遂行する能力に欠けるので、作戦行動を行う上では戦力に組み込み難いのだ。あれだけの戦闘力を持っていながら、宝の持ち腐れである。


 その欠点を無くしたのが、オルグ・ハイなのだ。

 オルグ・ハイはある狂信的な魔術師が、強靱で力は強いが知能の低いトロールに魔法を掛け、強制的に知能が高く更に強靱に進化・改造された戦闘用のトロール種族なのだ。

 

 【オルグ・ハイ】は武器防具を自在に操り、会話もできるスーパートロールなのだ。



 神の出現によって住民たちのボルテージは一気に高まり、今すぐにでも地上に乗り込まんとする意気だ。


 再び魔王が片手を挙げ、皆に静粛を求めた。


「これより一ヶ月の期間をおき、魔王軍全軍を持って地上に攻め入ることとする。かつて地上に行って戻ってきた者の話しを、我は知らない。地上の世界というモノがどんな場所なのか、どのような敵が生息しているのかは、全く解らない。命の保証も無い。それでも我に付いてきてくれる者はこの国に残って欲しい。地上に行きたくない者はこの国を去るが良い。咎めはしない。ともかく、今日は無礼講だ。皆、存分に楽しむが良い」


 魔王のこの言葉で儀式は終わり、この日は国を挙げてのお祭りになった。


 魔王城も開放され、たくさんの酔っ払いがそこかしこでゲロまみれで倒れていた。

 普段ならこのような無礼な行いは万死に値するが、今日は気分が良いし、自分が「無礼講である」と宣言しているので、笑って許してやることにした。


 魔王の足下に言い寄ってくる一般人の酔っぱらいを近衛兵が追い払おうとしたが、ゴウラはそれを手で制した。

 酔っ払いが何を言っているのかはサッパリ解らなかったが、どうやら魔王を褒め称えているようだ。


 ゴウラはその様子をにっこり笑って眺めていたつもりだったのだが、周りの近衛兵には、憤怒の表情で酔っぱらいを見つめる魔王様に、酔っぱらいが殺されないだろうかと心配を掛けさせていた。

 

 周りにはそんな風に見えているのだと言う事実を知らず、こんな事ができる日は、今後一生来ないかもしれないのだと、優しい(つもり)の目を向ける魔王だった。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


〈あとがき〉


 


 ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。


 宜しければ、


 ♡で応援。


 ★★★で応援をよろしくお願いいたします。


 みなさまの暖かい応援をお待ちしております。


 応援して頂けますと頑張れます。



 応援してくださいました方、さらに重ねて御礼申し上げあげます。


 誠にありがとうございます。


 感謝しております。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


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