第39話
『ハーネスを締めろおおお!!英雄になる準備はいいか!!』
巨大な柱の周りに集まったブルーカラー達の労働はひとまず鳴りを潜めて、その場の誰もが数十名からなる男たちの集団を固唾を飲んで見守っていた。
これより回収が始まる。
あの巨大な街で不要となった資源の多くは一度地下の処理装置に送られ、分解されてから地上へと送り返され再利用される、回収とは処理装置にたどり着く前の資源を彼等がかすめ取る行為の事だ。
柱が溶けて出来た穴の周りに集まった男たち一人一人を統率者と思われる人物が素早く見回して穴のすぐ手前に立った。
その様子を少し離れた所から眺めていたヨナは身体が異常に熱を帯びている事に気が付いて、その発熱が自分ではなく彼等を見守る幼い子供たちや女たち、最も近くにいたロジカから発せられるものだと気が付いた。
居合わせた者たちが何かのきっかけで今にも叫びだして、もしそうなっていたのならそれは大層爆発的な光景だったに違いない。誰もが押し黙るその場所で一番初めに鳴り響いたのは小さな金属が落ちてきて何かにぶつかって弾けた音だった。
クルードの天井が今にも落ちてきそうな程激しく音を立てて揺れて、それから、シャワーの水圧を最大にした時の何百倍も酷い勢いで、柱の穴の中を大量の資源が通り過ぎていくのが見えた。小さなものは食材を閉じ込めておく容器の蓋から、大きなものは車両や崩れ落ちた建材に至るまで、ありとあらゆる役目を終えた物たちが互いに激しく体をぶつけあいながら、弾けて、飲み込まれ、永遠と永遠と暗い穴底へと情け容赦なく際限なく落ちて行った。酷い臭いと恐怖を熱に変換したものがあたりを包んで、少し遅れて同等かそれ以上の騒音がクルードの各地から鳴り響いた。
ロジカも、エリスも、ジーナでさえ顔を青くしている。
無理だ。
『いくぞおおおおおお!!!!!』
彼等の生命力が宿った鬨の声が響き渡り、数十名のブルーカラー達は一斉に落ちて来る得体の知れない物の嵐の中へと飛び込んでいった。
丸められた彼らの生命線とも言えるケーブルはあまりにも頼りなく、何度も何度も行使されて来たそれらは擦り切れていた。
人数分用意されていたケーブルの山がどんどん小さくなってそれらが最後まで送り出されると同時にその内のいくつかが切れて穴へと吸い込まれていった。
『・・・!!!』『・・・・・・!!!!!!!!!!』
誰かがそう叫んで、それは名前のようだった。
なかには待機していた者が切れたケーブルにすぐに気が付いて、落下を免れた者もあった。
『引き上げるぞ!!』
地上から降り注ぐ濁流は止まない。
そんななか待機していた者たちによって最初のケーブルが引き上げられた。
縁まで上がってきたブルーカラーの男が両脇に抱えていたのは沢山の衣服、美しい装飾が施された家具、そして、小さな果実だった。
今なお仲間の誰かの命を奪い続けている騒音の中で彼等は大いなる運命の
回収された物資はすぐに手渡されて先程のコンテナに積み込まれた。
帰ってきたばかりの男は、何か偉業を成し遂げたかのように爽やかな笑顔を仲間に見せて、再び濁流の中へ身を投げた。
つぎつぎと、彼等は引き上げられまた濁流へ身を投げた。
柱から天井を伝って地鳴りとなる騒音がいっそう激しくなろうとも彼等はやめない、2度目の頃にはハーネスの先に誰もいない事すらあったというのに。
ヨナはいよいよ魂に満ちた不快感に耐えきれなくなりだして、誰とも言わずなすり付けたくなる言葉を抑えることが出来なくなっていた。
「こんな事」
彼女たちの視線が静かにヨナへと引き寄せられて、今日初めて三度引き上げられた者が両手に抱えた回収品を掲げて歓声に包まれていた。
エリス、ロジカ、そして、ジーナは時々歓声を上げるたりもしたがその顔色は相変らず蒼白であった。
「無駄死に以外の何物でもない・・・・!」
その時、荒々しい男の声が響き渡った。
『こちらアラヤ自警団ヴィンセント!許可なくこの地に足を踏み入れたよそ者よ!出てまいれ!!』
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