第34話
ブルーカラーの娘は街の騒音にかき消されそうに小さくそう呟いて言葉を止めた。
この時彼女は、もしかしたらヨナが街の誰かを手伝ってしまうかも知れないという懸念よりも、生まれ育った故郷よりも重要なものとの再会を果たそうとしていた。
「・・・・ぁ!」
手すりもない凹凸の集合体とも言える高所の足場から彼女が乗り出して大きな声を出した。ヨナは色の塗られたこのブルーカラーに対してすっかり関心が高まっていた。ヨナは落下したブルーカラーの娘の服をいつでも引き上げられるように準備をしつつも彼女の目線の先を確認せずにはいられなかった。
塵色の物で埋め尽くされた住居の僅かな隙間にひしめき合う者らと薬品を詰めた金属製の容器そして空いている空間に押し詰められた室内装飾用の織物の山がそこにはあった。
手際よく、作業を続ける者の一人がいち早く気が付いてすぐ隣にいた者に声をかけてこちらを指さす。
それを見たブルーカラーの娘は素早く一度呼吸した。一連の動作には明らかに見て取れる気迫のような物が込められているような気がした。ヨナの予想が適当だったと証明されたのはそのすぐ後の事だった。
「ロジカっ!!!」
突然の大声に準備が出来ないなかったヨナはその衝撃をもろに食らった。足元がおぼつかなくなって平衡感覚が失われる様子は相手の殴打技に後れを取ったときによく似ている。
眼下に見えているロジカと思わしき人物はこの娘を見つけるや否や両手を振って何やら叫んでいる。
それを見たブルーカラーの娘は喉の奥で小さく鳴いたかと思えば痛みも忘れて細く、不安定で、ガタつく通路を全力で蹴った。ヨナもそれを追い、眼下では集団から一人抜け出したロジカが体を不器用に左右に揺らして物で埋め尽くされた集落を縫って駆けているのが見えていた。
大量の物資で形成された迷路のような住居を二人は駆け抜けて、ちょうど開けた僅かな空間で衝突した。
「ロジカっ!よかった元気そう・・・また大きくなったね」
「え!え?そうかなぁ?でもよかった。街へ上ったら帰ってこれないってみんなが言うから・・・」
「みんなは元気?」
「男はみんな、いろんな回収場所に行っちゃって、この辺りに残ってるのはタップだけ・・・女は私とジーナちゃんだけ・・・」
表情を曇らせたロジカの目から涙が一つこぼれた。悲しい過去を思い出したのかもしれない。
「・・・そう」
「でも!でも!エリスちゃん聞いて!あれからまた沢山仲間が増えたの!紹介しなくちゃ!あとあと!街の事たくさん聞かせて!私も知っておかないと!」
ロジカは一転して快活に振舞い、ようやくエリスの細い体を身に纏う薄着から離して、頭部に付けた滑らかな金属製の髪飾りにクルードの黄色い光を当てた。
「ロジカ?それ」
「うん。私、お世話に選ばれたの!」
「お世話様に?ロジカおめでとう!」
エリスは再びロジカの身体に両手を回して締め付けた。彼女もそれに答えた。
「ありがとうエリスちゃん!私、みんなの分までいっぱい食べる・・・」
ロジカはもう一度、涙をこぼして、物が折り重なる山の片隅へと視線を向けた。
「そこ、その建物の隅・・・ウェンディさんが死んだ場所・・・マイカもヨフもキョイももらった食べ物を急いで運んできたのに・・・間に合わなくて」
「そう・・・ウェンディさんが?あの人はとても立派だったわロジカあなたもよ」
二人はもう一度抱き合った。その間もここクルードの騒々しさは鳴りを潜めることは無かった。
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