第33話
・・・・・・。・・・・・・・・~。!!・・・!!
少し前から、通路の脇には消えかけの小さな光が点灯するようになっていた。
その頃から、体を酷く痛めつけられているはずのブルーカラーの娘は背中から降りて自分で歩くと言った。受けた傷を時々気遣いながら彼女はヨナよりも少し早い歩調で通路の中を進んでいった。故郷に帰るという事はきっとこういう事なのかもしれない。
そのまましばらく進んで消えかけの小さな光の中でブルーカラーの娘が振り向いた。暗闇の帳の向こうの表情は何かに特に小さな失敗に気づいた時に見せるもののように思えた。ブルーカラーの娘が小走りでヨナへと駆け寄る。
「ヨナ・・・ごめんね。なんだかとても、はやく会いたくなったの」
「いいんだ。君の体は、どこか痛まないか?」
「痛いけど、大丈夫。あなたは?ヨナ」
「どこも痛まない」
「そう・・・ねえこっちよヨナ」
通路はいつの間にか人間に向けて調節された広さになり歩行の妨げになっていた金属の轍は無くなり靴の底はしっかりと通路の表面を捕えていた。
順番に点滅する小さな光を頼りにヨナはなだらかな傾斜を進んでいった。
「ついた。ここよヨナ」
ブルーカラーが立ち止まりそう言ったので、ヨナは暗闇に目を凝らした。すると、人間の手の形に合わせた取っ手が二つ通路の床から伸びている。その先には金属の轍の通路が見えていた。
入念に取っ手の周りを観察してみれば、それを囲うように四角い溝が通路に掘られているのが見える。
蓋だ。
「ヨナ、一人じゃ重いから。あなたはそっちを持ち上げて」
「わかった」
ブルーカラーの娘がそう言い、片方の取っ手を両手て掴んで腰を落としたのでヨナももう一方の側の取っ手を持ち合図を待った。
「せーの・・・・・・ん!」
ブルーカラーの娘が小さく唸り体を力ませたので、ヨナも彼女と同じ向きに力を込めた。すると、蓋は簡単に持ち上がった。
通路の床と蓋との間に出来た隙間から黄色い光と気体が漏れ出して音を立てた。
それと共に金属を叩き、靴の踵を鳴らし、人間が人間を呼ぶ音があふれ出す。
ヨナが長い長い暗闇と閉鎖空間が自分へもたらす狂いの一つだと思っていた不思議な音の正体は彼等の生活音だったのだ。
持ち上がった蓋は地上の物よりもずっと頑丈で分厚く、付いた取っ手からも分かるように大変に効率化されていた。蓋は2本の補助具によって固定され、必要最低限の動作のみを保障されるデザインを施されていた。一度持ち上げられた蓋はすっかり重さを失い滑らかに動いてほとんど勝手にもう一方の終着地点へと居場所を落ち着かせた。
光が溢れる四角い穴からは、非常に彼等らしい居住区が一面になおかつ立体的に広がっていた。
「よかった。みんな元気そう」
ブルーカラーの娘は不器用な体を無理やり俊敏に動かして、寄せ集めた建材の束、今では通路になっている物の上へと降り立った。その瞬間、ヨナの目には彼女に突然色が塗られたかように見えた。それは長時間の暗闇が自分に見せた錯誤に違いない。
「ヨナ?どうしたの?」
「なにがだ?」
「あなたほうけてるわ」
「今が特別なわけじゃない」
「良く分からないわ・・・そうだ、誰かがあなたに手伝いをお願いすると思うけど・・・」
「手伝い?」
「そう。絶対に引き受けてはダメよ?絶対よ」
ブルーカラーの娘は伝統的な教訓を言いつけるようにそうに言った。
「わかった」
「よかった。さあ足元に気を付けて、ここには平らな地面なんてどこにもないの」
「わかった」
四角い枠から見えているブルーカラーが体を一歩引いて、丁度一人分のスペースを作ったのでヨナは足場との中継地点で一度足をついて蓋を閉めた。
天井擦れ擦れの位置から望む彼らの住処は壮大で不規則で非常に複雑極まりない物で奇妙な事に地上のビル群よりもずっと遠くまで見渡せるような気がした。
ヨナが足場に着地すると彼女の言う通りに靴底は不安定に歪み、踏みつけられた足場は音を立てて僅かにずれた。
ブルーカラーの娘は彼を一度気遣い、細い通路を進んでいった。
ヨナが後を追うと、彼女は前を向いたまま言う。
「さっきの事だけど、断る時はわたしに言われたって言わないでね」
「わかった」
「・・・・とても心配だわ。だって、あなたは・・・」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます