第25話

『この階だ!急げ!!エクスプロイターのセーフティーを解除!』


先頭を行く平和贈呈局員の一人が階段を上り切って通路の角を曲がったのと、ヨナが彼に気が付いたのは殆ど同時だった。

仲間の血で濡れた姿に、その背中に背負った仲間から暴いたであろう装備の数々。

彼の視界はエクスプロイターの有効射程内にいる人物へ吸い込まれるようにフォーカスされた。


いたぞっ!


先頭を行く平和贈呈局員は今ちょうど手にしてたエクスプロイターのセーフティーを解除しふところから抜いて構えた。


「い・・・!!!」


どっ!!!!!!


存在を語る者すら居ない、はるか彼方にある地平線から朝日が昇る少し前この巨大な街は暗かった。燻る様に光を放つ警告灯の中で、地上の平和贈呈局員たちはこの日何度目かにもなるエクスプロイターの発光を見上げていた。



ヨナが投げつけた空調パイプだった物は鋭利な投げ槍へと姿を変えて、真っ先に姿を現した平和贈呈局員の男の右肩を貫いた。

男はスローモーションのようにゆっくりと後ろに倒れながら引き金を2度引いた。

一発は天井に命中し、もう一発は5階通路の手すりを乗り越えて隣の建物の建材を融解させた。


「ったぞ!!!」

「どうした!」

「仲間が負傷!!仲間が負傷!!」


状況不明のままのこのこと現れた2名の意識の外でヨナは散々通い慣れた古アパートの通路を滑るように移動して一気に距離を詰めた。


「・・・ぐ!こいつ!」

『なんだと?!』


環境の変化についていけない者はすべからく死ぬのだ。今までも、そしてこれからも。


一瞬の放心状態すら許されないこの状況下で仲間の二人はまるで頼りにならない様子だった。男は仲間に支えらえながらパイプの刺さった方の手に持ったエクスプロイターを必死の思いで持ち上げて構えた。しかし。


「・・・ああ゛っ!!あああ!!!」


肩に刺さっていたパイプは男が思っていたよりもずっと長かった。

男の目論見よりも一瞬早くヨナがパイプの先端にたどり着いてパイプの尖端を練り潰すように操作すると平和贈呈局の男は恐ろしい悲鳴を上げて再び引き金を2度引いた。放出された二つの熱エネルギーは、彼等のすぐ隣の壁で炸裂して通路の壁を容易く溶かし通り抜けて路上に集結していた仲間たちの頭上で拡散した。


即座に向けられる新たな銃口に対して、ヨナは素早く引き抜いたパイプを起点にして彼等の頭上に躱すことにした。二人の平和贈呈局員はすぐさま反応して眼球と銃口でヨナの姿を追った。だが、通路の照明が僅かに眩しくそれが気になったせいだ。

彼等の放った弾は一発も彼に当たらなかった。

それと相反して、自分とそしてブルーカラーの娘二人分のウエイトを乗せたヨナの蹴りは的確に男たちの脳を骨格の内側に叩きつけていた。


ヨナは着地するまでの間にパイプを体中に這わすように振り回して、丁度いい位置にそれが収まると両足の着地と同時に元通りの位置に納めて再び尖端を練り潰すように操作した。

男は悲鳴を上げるマリオネットさながら絶叫し急な階段を仲間たち諸共転げ落ちた。





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